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第114話 逃げろ畠中と石野谷!!五人の英霊の猛追撃!!

 トリゲート城塞から真南に二十五キロ先にある、ヒデンソル王国の陣地。


 そのど真ん中で、石野谷は、槙島が放ったグングニルを両手で、掴んで止めた。


 グングニルの本来のターゲットであった畠中は、自分に背を向ける石野谷へ尋ねる。

「い、石野谷さん!? 何でここに来ちゃってるんですか……!?」


 石野谷は首だけ後ろへ向けて、二カっと笑って言う。

「空飛んでついてきた。お前が心配でな……なんせ『誰にも言うな』とは言われたが、『ついてくるな』とは言われてなかったからな」


「ああ、そう言えば……」


「石野谷ィッ! 貴様は一体俺を侮辱すれば気が済むんだァ!?」

 槙島はグングニルの推進する強さを高め、石野谷もろとも畠中を抹殺しようとする。


 石野谷は多少苦い顔をしつつも、それを握り、止め続けた。

「今の状況じゃ信じられないのは承知で言う。俺はな、これまでお前にした悪さを全部謝るため、また一年二組の中で安心して過ごせるようにするため、その一心でここまで戦い抜いて来たんだ……けどなぁ!」


 石野谷はグングニルを槙島に投げ返す。刹那、石野谷は背後で腰を抜かしている畠中を一瞥してから、

「槙島! 久門さんや式部さんや俺たちはいいけどよ、自分の友だちにまで手を上げるなんてどういうことだ!

 俺は自分たちが十割悪いつもりでいたってのに……お前は何も悪くないと信じていたってのに……お前、一体どうしてこんな酷いことをするんだ!」


 槙島はグングニルを自分の側に浮遊させて身構えながら、

「……奴は俺の切望をことごとく侮蔑した、それを誅して何が悪い!」


「自分の考えを否定されたくらいで人を殺すか普通ッ!」


「そうだ、槙島さん! 君は僕にさっきあれかけ『真壁や久門みたいな、偉そうにした悪人は皆殺し』と言ってたくせに……こんなこと、目的は違くても、やってることは真壁や久門さんと何ら変わりないじゃないか!」


「だ……黙れェェェェェェェ!」

 と、槙島は陣一帯にその叫びを轟かせて、


「貴様のような最底辺の人間の戯言なんて聞きたくない! 総軍、あの二人を迅速に奴を討てェェッ!」

 周囲にいた兵士たちを石野谷と畠中一点へ襲わせる。


「や、やっぱりこうなっちゃいましたか……」


「ま、そんなもんだろうと思ったぜ。とにかく一点突破で逃げるぞ、畠中!」


「は、はい!」


 石野谷は畠中を側に置き、まず北の方を向いて矢を一本射る。

「【ダフネ・バースト】!」

 十数メートル先の地面に突き刺さった矢から、大樹のような大きさの火柱が炸裂し、その付近の兵士が巻き込まれて倒れる。


 石野谷は、畠中と協力して全方位へ警戒しつつ、北へ――トリゲート城塞方面へ撤退する。

 次々と襲いかかってくる兵士は、お得意の弓矢と格闘術のハイブリッド戦法で追い払っていく。


「逃すものか! 【凍裁擲槍ミーミル・ジャベリン】!」

 二人の撤退を阻むべく、まず槙島は無数に作り出した氷の槍を石野谷へ射出する。


 石野谷は後ろに畠中を隠してから、弓に矢をまとめて二十本ほど掛けて、

「【ミダス・ラピッド】!」

 黄金の炎を纏わせて一気に放ち、槙島の氷の槍を全て、石野谷との間合いの中間辺りで砕いた。


「【兵霊詔令ミズガルズ・サモン】!」


 次に槙島は、虚空にグングニルを突き立て暗黒のゲートを開く。

 そこから千人もの暗黒で構成された兵士たちが続々と出撃する。


 対して石野谷は片手のひらを空へ向けて、そこに炎の円盤を作り出し、

「【ヒュアキントス・ソーサー】!」

 迫りくる暗黒兵たちに放つ。


 暗黒兵はまるで雑草のように円盤で横に両断され、たちまち消滅した。


 その暗黒兵の裏では、槙島がグングニルを虚空に突き立てていた。


「これで絶望させてくれる……【英霊顕現ヴァルハラ・アドヴェント】ッ!」

 と、槙島が詠唱すると、グングニルにより作り出された黄金のゲートから、五人の【英霊エインヘリャル】が顕現する。


「石野谷さん! なんですかあの英霊みたいなの!?」


「まさしく英霊だよ、畠中! アイツはああやって、いつかのどっかの英雄を呼び出して戦わせるんだよ! ったく、前戦った時は四人だったのに……こういうところでは進歩しやがって……!?」


 いち早く石野谷と畠中に迫ったのは、まさしく拳法の達人そのままな風体の壮年の男――書文しょぶんの【英霊】だった。


 李書文は携えた三メートルもの長さを誇る槍を仰々しくも軽々と振り回してから、眼前の地面に突き刺す。

 それを棒高跳びの要領で利用し勢いづけて、石野谷へ強烈な蹴りを放つ。


「【ピュートーン・ブレイカー】!」

 これへ石野谷は燃える右拳を繰り出し、相殺する。


 矢継ぎ早に、石野谷は左手にも炎を纏わせ、反撃の左拳を突き出す。


 ところがその直前、二メートル近い図体を誇る力士――雷電らいでん為右衛門ためえもんが、巨体に似合わぬ異様な瞬発力で李書文と石野谷の間に割って入る。

 雷電は石野谷が放ったパンチをただ胴体で受け止め、彼へ突っ張りを繰り出し、玉突き事故のように畠中もろとも突き飛ばした。


 仕方ないことだが、畠中は尻もちをついて倒れた。が、石野谷は友達の友達経由で習っていた受け身を取り、すみやかに体勢を立て直す。


 そこには月のように輝く鎧を纏った美少年の騎士――アストルフォが先回りしていた。


 アストルフォは石野谷の側面から槍を振り下ろす。

 この時、石野谷はまるで五十キロの荷物を背負わされたような重力を感じた。が、彼はそれに屈さず、横へ跳んで槍を避ける。

 そしてすぐに回し蹴りを食らわせて相手をふっ飛ばす。


 すかさず石野谷は弓を構えて、

「【ピュートーン・ブレイカー】!」

 竜を模した炎を帯びる一矢を放つ。


 アストルフォは本を開いて、前に突き出したそれで矢を受ける。

 すると矢は勢いそのままに逆に石野谷へ飛んでいく。


「反射されただ……ウゲェ……」


「ギョェェェ……なんか滅茶苦茶気分が悪い……」


 アストルフォは矢の反射の直後、角笛を吹いていた。

 この音色を聞いた途端、石野谷(と畠中)は謎の不快感に襲われ、力が抜けてしまった。


「……うう……【ミダス・ラピッド】ッ!」

 石野谷は気合を入れ直し、両手から黄金の炎を乱射。反射された矢を打ち消しつつ、アストルフォをのけぞらせる。

 これにて角笛の音色が止み、石野谷と畠中は元気を取り戻した。


「ったく、ヘンな道具ばっか使いやがってあのイケメン騎士め……!」


「た、助かった……って! 石野谷さん、アレ!」


「アレ……ッ!?」


 石野谷は畠中が指さす通り、アストルフォの後ろを見る。

 と、扇状に砲身が並んだマシンガンを両腕それぞれに武装した男――【英霊】レオナルド・ダ・ヴィンチが、自分たちへ狙いを定めていた。


「走れッ、畠中!」


「は、はいッ!」


 石野谷は畠中を庇いつつ、レオナルドが乱射する弾丸から必死に逃れる。


 しかしその先には宝剣クラレントと、王剣のまがい物を持つ二刀流の勇士――【英霊】モードレッドがいた。二人が迫るや否や、奴は双剣を振るい襲いかかった。


「一応の【夜食国よるのおすくにねがい】!」

「【ロクシアース・ノヴァ】!」


 畠中によってほんの僅かに攻撃力が向上した石野谷は、モードレッドめがけ豪炎を一直線に放ち迎撃した。


 その直後、石野谷は左右から、李書文の蹴りと、雷電の平手を受けた。


「い、石野谷さぁん!?」


「こ、こんのやろうーッ!」


 石野谷は両脇に炎を放ち、李書文と雷電を吹き飛ばす。


 そして彼は畠中と共に、自分が五人の英霊と、


「往生際が悪いぞ貴様ら……!」


 槙島と暗黒兵に囲まれていることを確認する。


 さらにその外側には普通のヒデンソル王国の兵士たちが二重に囲っている。

 まさしく、四面楚歌というに相応しい苦境であった。


「クソッ、逃げるくらいならギリ行けると思ったんだがな……!」


「ご、ごめんなさい石野谷さん……僕が槙島さんを説得するっていう無茶をしたばっかりに……」


「縁起でもないこと言うな! お前はちゃんとやれることをやったんだから、むしろ誇れ!」


「ヒィィィ……で、でもどうするんですかこの戦力差……?」


「そ、それは……ちょっと待ってろ! 今ピカッとひらめいてやるから!」


「そんな贅沢な時間を俺が与えてくれる思うな……俺が貴様らにくれてやるのは二つのみ、凄惨たる死と、無謬たる裁きだァァァ!」


 槙島は周囲に無数の氷の槍を生成し、

「【凍裁擲槍ミーミル・ジャベリン】!」

 一斉に、無慈悲に二人へと放つ。


「【田霧たきり威盾いじゅん】ッ!」


 氷の槍は、二人の前に現れた竜巻に巻き込まれ、二人ではなく、周りへとばらまかれる。


 槙島と五人の英霊は氷の槍を難なく防御してから、竜巻を睨む。


 氷の槍を一通り防ぎきった後、竜巻は消えて、

「陽星、畠中さん! 遅くなってごめんなさい!」

 その中心から、有原が姿を現した。


【完】

話末解説(※久々ですが、本筋とはあまり関係なくてすみません)


書文しょぶん

 

 練度の高い格闘技と、全長三メートルの大槍を巧みに操り戦う英霊。

 元ネタは19世紀生まれの中国の武術家。李氏八極拳の創始者にして『神槍』と呼ばれるほどの槍の達人。

 派手で見栄えだけの技を忌み嫌う、大変な実戦主義者で、その傾向は創始した八極拳にも強く反映されている。



雷電らいでん為右衛門ためえもん


 二メートル近い巨体と、それにそぐわぬ瞬発力で敵を叩きのめす相撲取りの英霊。

 元ネタは江戸時代の力士。勝率.962という極めて優れた成績を残した。通称『無類力士』。

 ちなみに当時の制度が未確立であったこと(※諸説あり)から、横綱にはなっていない。



【アストルフォ】


 振ると相手に強い重力をかける槍、飛び道具を跳ね返す本、音色を聞いた相手をジワジワ弱らせる角笛、この三種のアイテムを用いる美少年な騎士の英霊。

 元ネタは14世紀フランスの武勲詩に登場する騎士。

 騎士としての能力は弱いが魔法のアイテムを使って数々の武功を上げたとされる。

 失恋して発狂したオルランド(ローラン)を戻すため月に旅行したという説話もある。女装した説話はない。



【レオナルド・ダ・ヴィンチ】


 マシンガンなどの発明品を駆使して敵を征討する知恵者の英霊。

 元ネタはルネサンス期フィレンツェ共和国(現イタリア)の人物。

 芸術、力学、解剖、etc……などの多岐にわたる分野で業績を残した紛うことなき天才。



【モードレッド】


 宝剣クラレントと偽りの王剣の二刀流で戦う勇士の英霊。

 元ネタはアーサー王物語に登場する、勇猛で狡猾な騎士。

 主君であるアーサー王の甥、もしくは不義の子など、出生には諸説がある。

 アーサー王が進軍のための留守中に反旗を翻した。

 最期はアーサー王との決戦の最中、王に致命傷を残して絶命したとされる。

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