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5 校長室に連行

「待ってお母さん! 待って!」


 水色の髪の少女は母親らしき人物の背中を追いかけていた。


 しかしその人物は振り返ってくれない。


「お願い待って!」


 少女は泣き叫びながら母親に言う。

 でもどんなに走っても母親には追い付かなかった。


 どんなに走っても。どんなに走っても。どんなに走っても。どんなに走っても。どんなに走っても。どんなに走っても。どんなに走っても。どんなに走っても。


 母親は少女から離れていく。

 追いつくことができない。


「お母さんッ!」


 母親の足がぴたりと止まる。そしてその金色に光る長い髪を風になびかせて少女に振り返った。


 そしてただ一言。


「ごめんね」


 そう言う母親の瞳は涙で濡れていた。



                ※



「ハッ!」


 ミレイアは布団から飛び起きた。そして自分がなぜか寝ているということに気づく。


「あ。起きた?」


 いきなり清らかな女性の声。

 その声がした方向を見るとそこには白衣を着た長い銀髪の女性がいた。


「調子はどう?」

「大丈夫です」


 ミレイアが答えるとその女性はよかった~、と息をついた。


「ああ、自己紹介をしていなかったわね。私はアネット=クラーク。保健室の先生をやってるの。よろしくね」


 そう言うとアネットは握手を求めてきた。その手をミレイアは握る。


「はじめまして。1年A組のミレイア=スぺキオサです」

「知ってるわ。あの子から教えてもらったの」


 アネットはミレイアが寝ていたベッドの左側を指さす。そこには足を床につけてベッドにうつ伏せで寝ているリーリヤがいた。


「後でその子にお礼言ったほうがいいわよ。その子、泣きながら保健室来たのよ。友達を助けてくださいって。結局、ただ魔力を多く使いすぎたことによる貧血だったんだけど」


 よく見てみるとリーリヤの頬には涙の跡があった。


 魔力を使いすぎたことによる貧血はかなり気になったが、それよりも自分の魔力がその程度だったということにミレイアは驚いていた。


 これでは防衛省(エクスシア)に入れない。もっと特訓をしなければ。

 ミレイアはそのことを痛恨し強く唇を噛む。


 その時、ガラガラと保健室の扉が開いた。


 リーリヤも思わず驚いて目を覚ます。


「静かにしてください。寝ている人もいるんですよ」


 誰かに怒るアネットの声。その相手は男のようだ。


「失礼する」

「ちょっと!」


 男そう言ってミレイアたちがいるベッドがあるスペースのカーテンを開いた。


「ミレイア=スぺキオサだな? それとリーリヤ=スミスも」


 強面の男だった。


「はい」


 ミレイアがそう言うとリーリヤは頷いた。


「話がある。ついてこい」


 男はただ一言そう言った。


「先生、私もう動いていいですよね」

「え、ええ……」

「わかりました。ありがとうございます」


 ミレイアはかばんを持つとその男の後ろをついていった。


 男は終始無言だった。しかしむやみに話しかけるような人はいなかっただろう。なぜなら彼は背が高くて筋肉モリモリで――つまり怖いということだ。話しかける勇気が出てこない。


 よく考えたらあの保健室の先生、この人と真っ向から喋ってたな。すご、とミレイアは思い出す。


 そんなことを考えているうちに二人はひとつの部屋に辿り着いた。そこは職員室――ではなく校長室だった。


 筋肉マッチョがドアをノックする。


「失礼します」

『はい、どうぞ』


 扉の奥から年寄りのような男の声が聞こえる。

 その返事を聞いて筋肉マッチョが扉を開いた。


「お疲れ様。下がっていいよ」


 正面に座っているお爺さんが筋肉マッチョに指示する。すると筋肉マッチョは歩いてどこかへと行ってしまった。


 校長室は簡素なかんじで奥に机があるのと壁に本棚があること以外ないも物がなかった。


「やぁ、君たち。いきなり連れてきてしまってごめんね。怖かったろう。すまんな。あいつはあれでもいい奴なんじゃが……」

「それで何の用ですか? はやく帰りたいのですが」

「ちょっとミレイアさん」


 小声でリーリヤがミレイアに注意する。


「おぉ、話に聞いていただけのことはある。さすがサンドラの孫だ」


 ミレイアの眉がぴくりと上がる。


「……祖母を、ご存じなんですか?」

「ああ、昔から仲が良くってな。いまでもよく連絡を取っておる。サンドラもかつては君のように気が強かった」

「…………」


 校長が睨むようにミレイアの瞳を見る。それに対してミレイアも睨み返した。


 二人の異様な空気を感じ取ってリーリヤが慌てているが二人はそのことには気づかなかった。


「それで二人にここに来てもらったわけなんじゃが……」

「はい」

「ついさっき、野球部の者たちがここに来てな。君たちのことを散々言って帰っていった。しかし眠り姫はともかく、君の評価は悪いどころか良い。さて、なんでこんなに野球部は君のことを言うのかと思うてな」


 校長はリーリヤに身を乗り出すように聞く。それにリーリヤは毅然とした態度で答えた。


「それはたぶん……私がミレイアさんと仲良くしてるからだと思います。ミレイアさんはただでさえ反感を買いやすいので近くにいる私も酷く言われるんだと思います」

「ならば距離を取ればよかろう。それなのになぜ距離を取らん」

「……たしかにミレイアさんは面倒くさがり屋で、人のことを考えなくて、反感を買いやすいかもしれないです。でも悪い子じゃないんです。それと私がいないとなんか心配でついつい傍にいちゃうんです」

「ふむ……」


 校長がしばらく黙る。そして長い溜息をついたあとに二人に言った。


「今日は呼んで悪かった。もう帰ってよろしい」

「はい、失礼します」「失礼します」


 そう言って二人は校長室を出ていった。

 

 バタン、と扉が閉まる音が校長室に響く。


「ふっ、あの()はお前に似ておるの。サンドラ」


 校長はひとり窓の外を見た。そこにはただ青い空が広がるだけであった。

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