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炎の断捨離8

今日は2話アップします。

三人称ですが、視点を絞ってと言うのが目標で、この回はうつります。


オタクシリーズは一人称なので、気楽に読んでいただければ幸いです。

         ※


 久し振りに戻ったラーディオヌ一族総帥の館、ラーディオヌ邸はしばらく戻らぬうちに様変わりしていた。

 ラーディオヌ一族の民は別名夜の民と言われ、夕刻から活動するものが多い。しかし夜の明かりは低級精霊を捕縛した呪術による灯りか、蝋燭に灯した炎くらいのもので、ラーディア一族がもたらす電気というものをほとんど取り入れてこなかったのだ。


 それを総帥アセスはラーディオヌ邸にまず取り入れて数カ月経過し、アセスを真似るように貴族街のキコアイン街道は明るい電気が引かれていた。

「ボスがやったの?」

 自分という側近がいない間に、なぜだか自分の元ボス、所謂ラーディオヌ一族の裏社会を仕切るヨースケ・ワキがラーディオヌ邸に出入りし、アセスの側に入り浸っている。


「おまえほんと失礼だよな。私は何もしやしないって。全部アセスがやったんだよ」

 ヨースケを問い詰めたい案件は山ほどあり、ナンスは小動物が敵を威嚇して全身の毛を逆立てるようにし、小さい体が少しでも大きく見えるように肩を上げる。


「少年、やめろって。そんなことしても全く怖くないから」

 ヨースケはセンスを持ってヒラヒラして、ラーディオヌ邸のアセスの執務室で寛いでいる。


「アセス様が不在の時に来るなよ」

 そして我が物のようにラーディオヌ邸でお茶を飲むな。

「そんなふうに客人を睨むなんて、アセスも従者の教育が行き届いていないな」

 元々あんたの従者だったから、貴族の側近として行き届いていないんだよ。


 心の中で毒づく自分がいるが、ヨースケは得体が知れず、その支配的存在感は圧倒的なものがあり、不服を眼光で訴えるしか方法がない。


「執務室の調度品が変わっているんですが……」

 品位のある王族の装飾品を施した伝統的な作りの椅子とテーブルが隅に追いやられ、ヨースケが寝転びそうな勢いで足を組んで座っているのは、柔らかで毛足の長いビロードという生地で作られた布性のソファだ。


「ここ、あなたの部屋じゃないですよね!?」

「だってさぁ、あんな硬い木製で作られたやたらとクラシックな華奢な足の椅子なんかじゃ、くつろげないでしょ? 棉入っててもめちゃくちゃ硬いし、あんなんじゃ仮眠すら出来ないからねぇ」


 だからって、主人不在の間になんてものを運び込んでいるのか。

 王族の品位が問われるかも知れない。

 彼の趣味は独特で、ビロードの生地は深い紫色で、それに似合うように部屋の中央に、おそらくこれもヨースケが生けたのだろう、青と紫の配色で背丈ほどの生花が飾られ、かすみ草という小さな白い花が、星のように少しだけ混じり合っている。


「ここ、あなたの部屋ではないはずですが……!」

「いや、だから総帥殿の殺風景な仕事部屋を少しでも華やかにしてやろうとインテリアコーディネートしてやったんだって。あいつ、不在にしてること多いし。」

 憮然といってくる元ボスにも、少し変化があるように感じる。


 元ボスとこんなふうに会話することなんて今までなくて、ちょっとナンスはめんくらっていた。

「あなた、こんなに喋るんですね……」

「それお前、総帥と比べてってことだろう? 私もねぇ、あいつと出会ってあいつがあんまり無口なものだから、必然的に自分から話し掛ける機会が増えて、ーー進化した」


 んんんん……。

 元ボスの言うことはまさにその通りで、主人である総帥アセスのコミュニケーションの低さを上回るものなんて、そう存在しない。

 アルス大陸一の美姫の忘れ形見と言われる、色白で細面の表情がないその顔は、人に対しての愛想というものを一ミリも感じさせない人形のようで、クリスタルドールという言い得て妙な異名は誰が付けたものなのか。


「だいたいアセス様、ーー総帥はなんで下町に入り浸っているんですか? それにあのお髪……、あのようなお姿を晒されるなんて、いったいどういうことなんですか!?」

 語気が荒ぶるのは、ラーディオヌ一族の宝玉とも言われる絶世の美男子の表徴でもある、濡れたようなぬばたまの髪が、短く切られてしまっていたことである。


「ボス! これってラーディオヌ一族の、ーーいやアルス大陸の宝の損失っていうくらいの大事件だんですけど!」

 呪術者は髪を長く伸ばす。

 この時代術者でない貴族も髪を短くはしなかったが、呪術を重んじるラーディオヌ一族にあっては、生活習慣のようなものだ。


 そしてアセスは美しく、地位も王族のトップに立つ総帥ーーつまり帝王で、実力ではティス級天道士の称号を与えられた人だ。

 昨今では彼に焦がれて呪術の腕を磨こうとする若者が後を絶たない有名人である。


「私だって勿体無いと思っているさ……」

 自然と責める口調になってしまう自分にそっぽを向いて、元ボスであるヨースケは回答した。

 ぶつぶつ言う言葉の中に「現世だったらあいつ、男版……だし」と訳のわからないことを聞いた。


「あなたが原因なんじゃ?」

「それはそうかもな。総帥なのにあいつ残念なことにラーディオヌ一族の民のこと、何にも知らないから。だから底辺にいなきゃ底辺のことなんてわからないんじゃないかってことを言った」

 やっぱり原因はあなたじゃないですか!?

 ナンスは机に手をついて、反省ザルのように俯いて立ちすくむ。


「でもナンス、それが本質だろ? お前は兄ちゃんからその血を引いて、よぉくこの世の不条理をわかっていると思いますよ」

 自分もヨースケも、アセスに近づいた目的は同じだと言ってこられ、その一部分を否定できないとナンスは拳を硬くした。


「けれどボス! 私はあの不器用すぎるほど、幼児ほどのコミュニケーション能力を持たない、今の総帥アセスが好きなんです。お味方したいと心の底から思っているんです」

 だから同じじゃない、と断言するように睨むと、ヨースケは口の端をあげた。


「同じだよ。ーー私もこの世の最後に彼の生き様を見てみたいと思うくらいの狂信者ではいる」

 

 偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

シリーズの7‘作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」

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