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炎の断捨離78

こんばんわ。

ぬるっと続けています。


最近は仕事終わりのこの時間に更新していますが、不定期です。


挿絵も描けていない!!

グッツ作りの絵は描いても、投稿できていないです。


ほぼ日記に成り下がっていますが、評価や意見を頂けましたら、真摯に愚直に!対応いたします。


        ※


 無茶な頼み事をされることになったと、ヨースケは苦笑した。

 おそらくはもうすぐサナレスの兵がこのラーディオヌ邸に乗り込んでくるだろう。


 アセスが頼んだことは二つ。

 ラーディオヌ一族総帥の代理としてヨースケに立てと言ってきたこと。


 ヨースケはコメカミの辺りを指でかく。

 神の氏族の総帥代理なんて、そう簡単に務まるわけがない。

 どれだけ無茶振りかしれない。


 百年以上経ち、異世界に馴染んだ自分は世襲制度や権力争いを嫌というほど目にしてきた。代理をしろと言われて、認められる案件でもない。


 そしてもう一つ言われた無理は、今にも乗り込んでこようとしているサナレスが来る前に、アセスを隠せということだ。


 平然と無理難題を言えるところが、生まれながらの王族だとヨースケは額に手を置いた。

「リトウがいないんだ」

「知っています」

 どこまでも感情を表情に出してこないアセスは、すでに自分と同じ考えに達しているらしく、軽くうなづいた。


 サナレスがアルス大陸に戻って来たとあって、リトウは余程慌てていたのか、幸か不幸か、さっきまでリトウが運び込んできた点滴で仮死状態にする類いの器具一式は、そのままラーディオヌ邸に置かれている。


 アセスはこの器具を使って、彼が死んだことにして欲しい、そして身体を隠せと言っているのだ。


「私はリトウじゃない。命の安全は保証できない。しかもあんたの代理なんてのを引き受けたなら、ラーディア一族にーー、サナレスに拘束されることになって自由に身動き取れなくなるかもしれない」

「大丈夫、サナレスは貴方に監視の眼をつけたりしないでしょう。万が一貴方が動けない時は、側近のナンスに私の肉体を預けてください」


 アセスは口の端を皮肉げに歪めて、時間がないと急かしている。


「ああ、もうっ!」

 仕方なく、ヨースケはアセスの命を掛けた猿芝居に付き合うことを決めた。

 心の中で、リトウがうっかりとこの場に忘れ物をしたことに舌打ちしながら、ヨースケはアセスを寝台に横たわらせた。


 尖った注射針を凝視する。

 刃物を振るう方が、よほど緊張しないな。


 ヨースケはアセスの左腕の、リトウが指していたのと同じ部分に針を刺した。長いこと目覚めないアセスを横で見ていたので、針を刺す深さはこんなもんかと、大体で検討をつけた。


 点滴を落とす速度をコントロールして、サナレスの兵がこの部屋に乗り込んでくるまでに

、アセスを可視状態にして彼の投獄を避けなければならない。


 それが役目だとやけくそで作業する自分の服の端を、不意にアセスが掴んできた。

 ポケットから、一枚の紙切れを出してくる。


 なんだ?

 私はそんなもの読んでいる暇はないと睨むと、アセスは自分の顔の前で、書状をひらひらさせてきた。


「後でいいか?」

「ええ。一通は貴方に、そして一通は彼女に渡して欲しい」

 そう言って薄れゆく意識の中でアセスは目を細めていく。


 その安らかな表情は、まるで笑っているようだった。

 こんな顔できるのかと、思わず見惚れてしまうほどに美しく優しい。

「やめとけよ、まるで最後みたいに! 縁起悪いんでない!?」

 自分は微笑みながら後ろに倒れ込むアセスの首に腕を回し、ゆっくりと後頭部を枕に置いた。


 馬鹿みたいに純粋なこいつを、死なせたくない。

 自分がこいつの代理として仮に投獄されることになっても、こいつとサナレスを正々堂々と戦わせてみたい。

 一族の優位をかけてーー。

 ただ一人の少女との恋愛をかけてーー。


「ナンス!」

 かつて自分の部下であったナンスが、自分の組織から足を洗ってまで、アセス・アルス・ラーディオヌに肩入れしてしまったことを、この時初めて理解した。

 待機していたアセスの側近、ナンスが扉を破ってくる。


「兵士が、ラーディア邸の門番を破って、もうそこまで攻め入って来ています! アセス様!」

 自分がナンスの名前を呼ぶのと同時だった。それほど自体は緊迫している。


「アセスは死んだ。ーーナンス、お前何があってもこのご遺体を守れ。そして保管しろ。ーー私の組織の力や財力、全てお前に任せよう」

「えっ? ボスそれって、ーーえ……?」


 イエス・キリストだよ。

 ナンスに問われた時、この世界ではわからない宗教上に存在した人の名前が、ヨースケの胸の中でつぶやかれた。

「アセスは7日後に蘇る。だから彼の代わりに投獄されるのは自分が引き受ける。ーーけれど蘇る彼の遺体を決して焼くな、そして埋めるな、安置しろ。そして腕に刺さる針と管を隠しておけ」


 アセスの生命維持を担う栄養剤を落とすスピードは、一定に設定した。

 今はもうアセスは意識を失い、土気色の顔になり、呼吸が止まっている。

 こいつ、イエス・キリストならぬ勝手なシェウクスピアが描いたジュリエットみたいでもあるぐらいには無責任だった。


 勝手に仮死状態になる毒薬を飲んで、死ぬことでその場を乗り越えようとした、頭沸いている主人公。

 ああ、俺がこの細い首捻ってやりたい。

 それほど迷惑な存在だった。


 ジュリエットってのは家のことと、ロミオのことしか見えていなかったヒロインで、脇役AやBのことなんて、興味すら持たなかったんだろう。


 さながら自分は脇役Aでナンスは脇役Bなんだろうと思うと虚しくなったが、脇役B に聞いてみる。

「あのさ、おまえ私の部下でいることよりこいつを選んだ理由は?」

 ナンスはアセスが死んだと言われて青ざめているが、はっきりと答えてきた。


「……本当に、この人生き返るんですよね?」

「ああ」

「僕はただ……、こんな純粋な人を知らなかったから。純粋で努力家で、ーー誰よりも不器用な人……、そばに居て支えないと思うでしょ?」


 ヨースケはナンスの古傷を抉ることも承知で、さらに問う。

「おまえの兄を死罪にした仇であっても?」

「ああ……。総帥であるアセスにとって裁判は、仕事でしかない。良い悪いを判断する基準は単なる貴族の決め事に乗っ取って行ってしまった。アセス様は、自分が行った裁判を後悔できるぐらい素直な方だ」

 ナンスは見たこともないぐらい必死だった。


「私は、アセス様が兄の仇を討ちたいのであれば好きにすればいいと思っていることを知って、恨みを消した。ーー恨みから裏社会に落ちていった自分に、本来仕事とは仕方なくするのではなく望んでするものだと教えてくれた」

 ナンスはアセスが言ったことをこの時繰り返した。


『私は生まれた時から、縛られた立場で。その役割ゆえの仕事をただひたすらこなしてきた。けれど仕事とはそういうものではないらしい。自分の考えを整理し、どうすれば周囲のものに理解されるのかを考え、大切な者のために行うのが健やかなようだ』

 おまえの仕事が、兄の仇で復習だというのであれば私の命を奪えば良いが、このように未熟な私と共に望む仕事をしていかないか、と提案されたのだと言う。


『魂が満たされること、それが人にとっては最も大切なことだろう?』

 その言葉を聞いて、ナンスは決意を決めたのだという。

 裏社会、つまり自分をボスだと従い、復讐の機会を伺う生活を辞めたいと思ったのだと、はっきりとそう言ってきた。


「承知した。私とおまえの意見は今この時に一致した。ーーなんとしても、アセスをもう一度復活させよう」


 人生の最後に、黒田コウと同等以上に魂を傾けられる相手に出会えたことは、ヨースケの心をくすぐった。そして目の前に、兄の仇と思っていたが今は違うと、自分と同じ想いになっている個人がそこにいるのだ。


「初めて、ラーディオヌ一族に属しているのだと自覚した。ナンス、我が氏族の民として、総帥アセスをなんとしても、お護りするぞ」

 本当に初めて、異世界の民になった。

 おかしな高揚感がヨースケに生まれていた。

 偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

シリーズの7‘作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」

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