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炎の断捨離62

こんばんは。

平日は、徒然なるままに。

誤字脱字ご容赦を。

        ※


 ヨースケ・ワキ、そしてラーディア一族からやってきたリトウ・モリから、顕著に批判されていることを理解する。


 食べるもの。

 アセスにとっては、単なる生命維持に必要な必要最低限あればいいものであり、嗜好に合わないものには見向きもしなかった。

 栄養素?

 考えたこともない。


 髪の毛。

 生まれてからずっと、奴隷のような女官達が風呂に同行して自分の髪を洗ってきた。

 風呂に入る前の数十分前から髪が艶やかになるように栄養剤を含ませた洗い流さなくてもいい油を染み込ませにきて、丹念に体を洗われているうちに洗い流す栄養剤を入れられた。髪を洗った後は、同じ工程を踏んで乾かされ、自分の髪はいつも艶やかだった。

 今思えばそれだけ手入れされてきているのだから、艶々になって当たり前だった。


 けれどサナレスは一人で湯浴みすると聞き、それから女人に髪や体を洗われていることが自分の恥になった。リンフィーナの常識もサナレスと同じだったからだ。

 だから自分は、女官達を遠ざけたのだが、何が悪かったというのだろう?


 そういった経緯を話すと、ヨースケとリトウは顔を見合わせて笑い出した。

「な、こいつ面白いだろう?」

「ん……、確かに」


 至極真面目な話をしているのに二人が笑うので、アセスは首を傾げた。

「そう笑うな。髪を短くしたことで、女官が髪を洗わなくなっても髪がもつぼれなくなって都合がいいのです」

 女官を入浴に立ち合わせなくなったことで、長い髪を持て余していたのだ。貧民街に行くことで短く切ってしまい正解だったと納得していたというのに、ヨースケは苦笑する。


「もったいない、と言っただろう?」

「似合っていますけどね、短い髪も」

「いや、うちの総帥は手入れって意味をわかっていないね。そこがそっちのサナレス殿下とは違う」


 急に引き合いに出された名前がサナレスで、アセスは一瞬息を呑んで眉を寄せた。

「なるほど。そこらへんの無頓着さはワキ君並みだよね」

「ああ」

「サナレス殿下にはあり得ないことだもんね」

「あっちはちょっと潔癖症なくらいだ」

 二人は愉しそうに自分とサナレスを照らし合わせている。


 サナレスと比較されていることは思いの外自分の気持ちを揺さぶってきて、アセスは額を軽くかいた。

「だからどうだというのです?」


「ーーはっきり言いますね。生きるために体調を整えることも、顔色を良くすることも、髪に張り艶を出すことも、全部自分で考えて自分で行わなけれならないということです。総帥としてその立場から得てきたものは甚大だ。貴方はそれを惜しげもなく手放して、付き従うものを拒むのであれば、全て自ら自分の身体を管理しなければならない」

 サナレスはこれを実行しているんです、とリトウは言った。


 おどおどした様子の印象が残る男であるのに、言い切るときは妙にはっきりと言葉にしてくる。

「まぁ成人したら当たり前のことなんだけれどね」

「俺らの世界じゃ成人したら出来ないとやばい奴くらいの扱いをされていたけれど、ーーいやぁこれがなかなか難しくて、僕は時々、未だに食べることと寝ることを忘れてしまうよ。前は家族に食べささなきゃって思っていたから、食事を作らなきゃって意識したけど、一人じゃ作る気もしない」

 ははは、とリトウは乾いた笑いを漏らす。


「そうだろうな。樫木に言わせれば、お前も俺と大差ないほど怠惰らしい」

 ヨースケはいつの間にか運び込んでいるソファで完全にくつろいでいる。自分がこの世に戻ってくるまで、二人が張り詰めていたという反動なのだろうか、酒もすすんでいるらしく、ヨースケとリトウは饒舌だった。


 そんな二人の話によるところでは、衣食住を自分一人で賄えること、ーーそれを自立というらしい。


「サナレス殿下は若くして一族を捨てたかったから、王族でありながら王族を拒絶して、早くに自立しようとしていたように思う」

「いやぁ、自立しようとしていなくてもあの人潔癖でしょ? 他人に世話を焼かれたいタイプには見えないから、必然だったんじゃない? どんな人が世話焼いても不満だったと思うわ」

 ヨースケは大きな口を開けて豪快に笑っていた。


「あんな変人は稀に見るよな」

「それは失礼だと思うよ」

「お前だって没頭するタイプだからあの人の変人振りをわかっていないんだよ。あんな人、うちの学校にいた?」

 リトウは閉口して首を振った。


 二人の会話を聞いていて、アセスは率直な気持ちを口にした。

「サナレスーー、あなた達が口にするサナレスは、私が思う印象とずいぶん違う事ばかりなのですね」


「それはそうでしょ、あの人は自分を演出する人だから」

「仕方ないよね、自分を作ってしまう人だもの」

 言い方すら違えど、ヨースケとリトウは共鳴するように矢継ぎ早に言ってきた。


 二人は百年前からサナレスに面識があり、自分の知らないサナレスを知っているのだと理解した。


 けれどサナレスが繊細ーー?

 汚れた馬の毛を自ら梳かし、糞くさい馬小屋に平気で出入りするような人なのに。


 公式な面会という手順をすっ飛ばして、ラーディオヌ一族の王族の館を簡単に訪ねてくるような人なのに。


 どこが!?

 繊細の定義を疑りたくなる。


 でも彼のその態度が、計算づくめの上の行動で、単なる演出?

 そう思うとどこまでも掴みどころがないのは道理だった。リンフィーナを自分の婚約者にと言ってきた彼との対話も、サナレスの中では決して軽い気持ちではなかったことを、今の自分は知っているのだ。


 嫉妬するほど大切な姫を自分にと言ってきたサナレス。

 それは呪術に才のない彼が、呪術力で一族を繁栄させる自分に、ーーいやラーディオヌ一族に彼女を護らせたかったからだと独白された時に知った。

 掴み所のない彼を、やっと追いかけようと必死になっている自分がいる。


「私は凡人」

 容姿はアルス大陸に讃えられる美姫の遺伝子を受け継いだが、所詮凡人で、努力しなければ何一つサナレスに叶うことはないのだと、ずっとコンプレックスに思っていることを思い知るいい機会だった。


「サナレスに匹敵するために努力しかないのであれば、それがどれほどの手間であろうと、私はやり遂げるつもりです。肌の艶、髪の光沢、そんなものがサナレスに対峙する武器になるのであれば、私は全てを努力で補って、天才に肩を並べるつもりでいる」


 呪術も武芸も、お飾りのラーディオヌ一族の総帥、クリスタルドールには必要がないものと何も期待されないでいた。

 それでも自分は、書庫に籠って本から武術の型を学び、天道士になるために寝る間を削って呪術の階級を上げた。


 凡人だから習慣を大切にして、出来ない人間でいることを許さずに生きてきた。

「私には天才と言われる要素は何もない」

 おそらくは天が与えた呪しき美女の祝福という美貌だけが自分の才で、あとは血を吐くような努力を積み重ねてきた。


「天才なんてこの世には存在しないと思う。ーーサナレスが自分達凡人の頭ひとつ抜けているのであれば、それはサナレスだって経験則に従って、努力を怠らなかったのだと思います。それが、ーー彼の潔癖さだと私は思うのです」

 偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

シリーズの7‘作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」

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