炎の断捨離60
こんばんは。
土日は書かないことが多いのですが、今日も徒然なるままに。
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キシル大陸の王族に会うまでは、城下町を散策していてもサナレスは楽しそうだったのに。
ギロダイが厳選した3名の近衛兵と、かなり機嫌を悪くしているハウデス、そして自分の5名は城下町を歩いていた。
「隊長に何があったんでしょうね?」
近衛兵参謀のリュウセイという金色の癖毛の男が、ため息混じりにぼやいている。
「さあな。到底理解するのは難しそうだ」
ギロダイが前を歩いて答えるが、リュウセイは自分の隣にいて、その話をそのままこっちに向けてきた。
「ねぇ、猿姫は何か知らない?」
あーー。ここに来てもその呼び方かと、リンフィーナは項垂れる。
「なんかさぁ、すごく強い光があの大きな黒い球から発せられて、それ以降の記憶がなんか曖昧なんだよな。ーーそれなのに隊長は何かに気づいて、その情報を整理しようとトリップしている」
「トリップ?」
「思いを馳せているって意味かな。簡単に言えば考え込んでいる」
リュウセイという男も、この世界の外来語について精通しているようだった。
けれどリュウセイを含めた臣下である彼らは、自分とサナレスがキシル大陸の王族に謁見したことに気がついていないのだ。わりと長時間、黒い物体の中にいたように感じたのに、時空軸が存在しないあの中の外では一瞬の出来事で、誰も自分達がいなくなったことを認識していないらしい。
しかし直感的に何かおかしいと思っているリュウセイは、遠慮なく自分を探ってきた。
なんと言っていいのかわからずに、リンフィーナは話を逸らす。
「リュウセイさんも兄様が知っている外来語、理解しているのね。それはどうして?」
「質問を質問で返すということは、何かご存知なんですね? 猿姫」
身長も低く、どちらかというと中性的な容姿のリュウセイという男は、サナレスが近衛兵参謀に抜擢した男だけあって油断ならず、話をはぐらかすことを認めなかった。
リンフィーナは諦める。
「会った。私と兄様はキシル大陸の王族に会えた。眩しい光が降りてきた後、多分みんなが少しぼうっとしている間に、私たちは目的を達した。ーーそれで兄様があんな感じなんだけれど……。その時のことについては私は話さないから、兄様に聞いて」
彼のような隙のないタイプには正直に接するのが得策だ。
「承知した、猿姫」
リュウセイはあっさりと納得してくれる。
リュウセイの後ろを歩いているハウデスが、更に表情を厳しくしている。そしてふいにリュウセイの前に回り込んで立ちはだかって、強く言った。
「猿姫じゃない! リンフィーナだ!!」
なんだ!?
顔を真っ赤にして抗議しているハウデスを目にして、リンフィーナはその可愛らしさにぎゅっと抱きしめて頬擦りしたい衝動に駆られる。
「猿とか芋とか、そんな言葉を私の姫につけてもらっては困るんだ。名前はリンフィーナ。お前達臣下は、姫様か皇女様と呼べ……。ーー呼ばなければならないと思う!」
自信があるのかないのかよくわからない無鉄砲さが可愛らしくて、リンフィーナは頭を撫でた。
「良い子!」
「やめろって、こんな往来で」
ハウデスは恥ずかしそうにしながら、それでもリュウセイを睨んでいる。
「これは姫君に対してナイトがついていたとは、ーー失礼したね」
「そうだリュウセイ、お前は上下関係というものをなんだと思っている!?」
もう一人ギロダイが選んできた生真面目そうな男は、サナレスの古くからの知り合いだという。
トーボウという男は、名実ともに近衛兵の優等生と言われる実直な男だとサナレスから聞かされていた。彼がいなければならず組の統率を取ることも難しかっただろうと褒めていたことを思い出す。
生真面目さが服を着ているとような人だ。
「そもそもサナレス殿下だって、隊長だとか呼んでいい身分の方ではない、殿下はラーディア一族、一国を背負われる方で、妹姫様は皇女であり、対等に会話していい方々ではない。こうして肩を並べて、ーーまして一緒に食事に行くなど……」
申し訳ないと、リュウセイの代わりに謝罪された。
「んー。猿姫とか芋姫以外の呼び名をやめてもらえれば、リンフィーナとか妹姫とかは全然いいよ」
「なんで寛大なお言葉」
いや、これ以上ハウデスの機嫌を悪くはしたくなかっただけなので、気恥ずかしくて視線をそらせる。
歩き続けていると次第に、食事が出来る店舗街に辿り着いた。
「いい匂い〜」
リュウセイは先程までの会話を完全に無きものにしてきた。
「猿姫は何食べたいの〜?」
ハウデスやトーボウの言うことなんて右から左へ聞き流している。
怒気を帯びる二人をまぁまぁとなだめて、リンフィーナは吐息をついた。近衛兵の頭脳という男は捉え所がなく、我が道を行くタイプだった。
「ーーなんでも。でも後で兄様に何か持ち帰りたいかな……」
もしホテルの食事処が開いている時間に食欲を訴えてくれなければ、無理矢理にでも何か食べさせたかった。
「ーーそうなんだって、トーボウ」
「承知いたしました。でも副隊長がいらっしゃいますので、質は元より量も必要かと思いますので、考えましょう」
なんだか我が儘な上司二人を連れて、有能な臣下が一人で動いて回る縮図を見ているような切なさを覚えた。
「あの……、魚料理でなければなんでもいいっていうか……」
持ち帰ることなど、どこの店でも大抵は快く許諾される。サナレスは魚が好きではないから、それ以外ならいいのだと訴えた。あ、後粉物も好きではない。
トーボウは可笑しそうにしていた。
「殿下は私の前では、美味しそうに魚を食べられますが、ーー実は苦手なのですね」
兄様が魚を食べる?
不思議な気がしたが、確かに大将が臣下の前で好き嫌いを口にするというのは格好がつかない気もする。
「うん。青魚は栄養価の問題で仕方なく口にすることがあるけれど、あまり好きではないの」
「承知いたしました」
こんなこと臣下に話していいのかどうか、一瞬迷いが生じたけれど、彼らは自分たちの味方に他ならないと思うことができた。兄が信じてきた人達なのだ。
「リンフィーナ様はお酒を飲まれますか?」
トーボウが早速呼び方を変更して質問してきた。
舐める程度にしか飲んだことがなく、リンフィーナは首を振る。
「それはようございました。酒なんて百害あって一理なし。体を乾燥させるし老けさせるし、今後もご法度にするのが良いかと思いますよ」
子供だと馬鹿にされるのかと思いきや、褒められた。
「わたくしは殿下を心の底より尊敬申し上げておりますが、ーー殿下は少しアルコール中毒でいらっしゃいますからね。リンフィーナ様は決してそのところ、殿下を見習わないように」
「おかしなことを言うな、リュウセイ。隊長は中毒じゃない。やめようと思えばすぐにでも意思の力で酒を絶つことぐらいわけないことだ」
「同じく、重度のアルコール中毒の副長、あなたに至ってはまったくーー説得力がない」
副長だというのに、ギロダイはリュウセイにピシャリと言われた。
「アルコールが娯楽や気分転換と言われる時代はもう終わりですよ。かつて葉巻が体に悪い影響があると言われた時代は数百年で過ぎたそうです。ーー殿下も副長もそれをわかっていても尚やめないと言うのは、立派なものですよ」
揶揄するようにリュウセイは頬を歪めた。
「いったいこの世の何を嘆いているのか……。」
まぁ、世界に生を受ければ、嘆くことなんて五万もあるから酒は必要なのかも知れませんがね、とリュウセイは口の端を上げた。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
シリーズの7‘作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」




