炎の断捨離4
シリーズ情報は後書きで確認願います。
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「どうでしたか?」
まるで伝えられる内容を予測していたかのように、リトウがサナレスの食事の場所に姿を表した時、サナレスは眉を上げて一瞬全ての動作を止める。
「君の予想通り、これは工業廃棄物による病気だと思う」
リトウはそう言って、リンフィーナにはわからない世界のことを思い出したように、水俣病とかいう知らない言葉を口にした。
「そうか。呪術結界を難なく徒歩で超えてきた先生なら、そういう結論に至ると思っていたのだけれど、ーーでも適応能力のある子供達もいるんだ」
望まれずに生まれてくる、身体の要所要所に硬い鱗の皮膚と水掻きを持つ子供、ーー彼らは驚くほど成人になる成長速度が早かった。
サナレスが引き取った一人の男の子は、ハウデスとリンフィーナが名付け、忙しい兄の代わりに面倒を見ている。
彼の血液を調べた結果が、病気と言われてリンフィーナも息を呑んだ。
「これは私が科学を推進してきたことのつけなのか?」
サナレスがリトウに問うと、リトウはズリ落ちそうな眼鏡を元に戻しながら眉根を寄せた。
「いやぁ。そんな小さな科学の進化がもたらした病気だったら、本当に良かったんですがねぇ」
至極真面目に目つきを厳しくしているのに、言葉は呑気に困り感を口にしている。
「では先生、原因は何だと考えているのですか?」
サナレスが先生と呼ぶリトウは、サナレスとはずいぶんとテンポが違う男だった。兄を理想とするリンフィーナにとっても、彼のゆっくりした物言いには苛立ちが募り、速さを要求したくなる。
要件をなるべく手短に時間をかけず、というスタンスのサナレスが、この人を唯一の先生にしているなんて、意外でしかない。
サナレスは辛抱強く、リトウの回答を待っていた。
「はい。今回の件は、世の理を超えた事情が関連しているのでしょう。お手上げとは言いません。つまり人類がーー、いや僕が到達する科学の領域を超えたところの事象が絡む案件としか言えないんです」
サナレスは首肯した。
「第3エリアに関連があるっていうことですね」
リトウは肩をすくめて、認めたくないように首を振った。
「この世界では第三エリアという地点が通じるところは、僕たちがいうところの冥府です。僕がそこを通ったのは一度きり。和木は少なくとも三度通った経験があります。病気はどうでしょうね。時空軸で言うと、僕達が繋がっていた世界とだけ繋がっていると考える方が不自然ですし。ーーそうなると、冥府を通して異世界が無数に繋がることを想定するという非現実的な仮説が生まれてしまうので、僕はこれを科学者としては否定したい」
サナレスはふぅっとため息をついた。
「そうですね先生。でも世の不可思議を全て科学だけで説明するには、少々一般的な……人の寿命は短いと思うのです。統計取りきれませんし」
「君の言いたいことはよくわかる。人間の脳を、人が作り出したコンピュータのディープラーニングがイタチごっこを始めた時代に僕は生きていて、その先を見届けないまま一回死んだ」
「ーーつまり、この世界の第三エリアが、その先の未来と繋がっていたら、どんな未来でも不思議でないこという、厄介な理が生まれると言うことですよね」
ラバース能力。
人と人の性行為がなくとも、人一人を生み出すことが生殖を問わずの母体の願いによって叶えられる、呪術の最高位である神の領域の能力。
これも厄介な理の中に人が手にした能力かもしれなかった。
偽りの神々シリーズ
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
シリーズの7‘作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」