炎の断捨離29
お墓を掘った。
喪に服している状態で心に刻む小説シーンを描く。
下手くそながら思うのは、結局小説書く人は、思いを活字にしか込められないんだな。
社会不適合者かもしれない。
※
冥府。
初めて足を踏み入れた異空間は、全ての勝手が違う場所だった。
これまで褒められた行いをしてこなかった自分は、ラーディオヌ一族の書庫に眠る逸話のように、地獄へ落ちるものかと想像しないわけではなかったが、そこはもっと神秘的な空間だった。
幼少の頃から、アセスは精霊に愛される子供だった。
精霊は美しいものを愛する習性があり、自分の中性的な容姿は人からと言うよりもむしろ、精霊達に受け入れられた。
まるで精霊達の国のように静かで、魂だけが漂うようにふわふわと浮遊する感覚がある。
ゆっくりだが、確実にどこかに吸い寄せられていく感覚があり、このまま進むと肉体の終わりとともに魂が次の世に向かうのだろうと、本能的に知っていた。
肉体を手放した時は、まるで急速に宇宙に吸い寄せられるようにとてつもない吸引力を感じたというのに、今は穏やかな気持ちだ。
脳内ドラックという言葉を、リトウ・モリという男が口にしていた。全ては脳なのだという。脳は人が死んでもなお、組織化された電気的活動を行うことが可能で三十秒ほどは意識的思考を示す複数の信号を感じることができるなどと、サナレスが口にしそうなことを言っていた。
簡単に言ってしまえば、激しい幻覚が見えて当然だと、不可思議を脳科学で証明しようとしているようなのだ。
人の魂が電気信号に例えられるのは、サナレスと付き合って原理としては理解していたが、空虚感や胸の痛みは、そうすると単なるバグでしかないのだろうか。そうとは思えず、アセスはバカみたいに持参した手の中に握る砂糖を見る。
薬を飲むとき、アセスは砂糖を握っていたわけではない。単に側に置いていただけだ。
それなのに冥府へ入った瞬間、自分の魂は小さな約束を守るために、手のひらに砂糖を握っていた。
馬鹿みたいな約束を、ーーどうしてリンフィーナともっと積み重ねなかったのかが悔やまれる。魔導士になった時に、なぜ婚約解消などという不義を彼女に告げてしまったのか、悔やんでいた。
もう一度、生まれ変わろう。
すごい勢いで、魂が吸い寄せられていく感覚があった。
本来、さほど生への執着がない自分は、引き寄せられるまま一度、大きく開いた穴に落ち込んでしまった。
意識が途絶える。
なんだーー!?
眩すぎる空間に瞼を閉じても、肉体がない魂はあがらえない引力に引き寄せられる。
2050年、文明社会ーー。
それなのに感染症に汚染され、人類は生命の危機を覚える中で、必死で文化を残そうとしていた。
自分は、シートゥナインという名前の日系ミャンマー人として生きている。
一気に記憶が流れ込み、飲み込まれそうになるのを堪えて冥府に戻ると、その記憶は曖昧位になった。
捉えどころのない空間。
その中でリンフィーナの出自に関わる手がかりを見つけることができるのか。ーーそして砂糖を渡す約束を果たせるのか、アセスは今一度意思の強さを肉体なしに魂に引き寄せる。
何度か穴に吸い寄せられ、意識の限りでは二度落ちた。
これ以上、望むところではないとアセスとしての魂の形を認識する。
『冥府の支配者よ。魔女ソフィアの居所を知りたくはないか?』
取引を持ちかける声は、全精霊が聞き取れるアセスだけが保有する言語だ。
『知りたければ、我が前に姿を現すがいい』
魂が循環する冥府に、アセスの声で、風が、凪いだ。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
シリーズの7‘作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」




