炎の断捨離2
『魔女裁判後の日常』では、主人公意識混迷のために転々と視点が移り変わり、微妙な出来に。
てことで、今回は三人称でもなるべく視点を動かさないように進めたい。
出来うる限り。
シリーズも段々と回を重ねています。
でもまだまだ書けていないので、お付き合い頂いている方々に感謝です。
感想なども真摯に受け止めていきます。
ちなみに自動読み上げ機能を使うことを前提にして書いているので、文字を目で追うのが辛い方は、iPadやiPhone にアレクサ入れて自動音声で読んでいただけると楽になります。
ーー筆者も自分のアルコール混じりの文章を次の日に読むのが億劫なので、自動音声読み上げ機能でチェックしています。
※
長旅を終えた自分たちは、ラーディア一族の帰路に着こうとベミシロードを急いでいた。
星光の神殿付近に差しかかった頃、サナレスが表情を変えたのを自分は忘れることはできなかった。
『ダイナグラムが燃えている』
そう言って表情を険しくしたサナレスは、見たこともないほど余裕がない様子で、今も鮮明に忘れることができない。
兄サナレスという人は、神として百年以上を生き、常に感情を露見しない人だ。たまに怒っている姿を見るが、自分が心配をかけた時、説教として声を荒げられたり、或いは冷たい態度になったりするだけで、一族の存亡が関わる政治の世界では決してその感情は揺らぐことはなく、泰然としていた人だ。
その人が一族の一大事に、ーー否アルス大陸の一大事に感情を泡立てたので、リンフィーナは怖くなった。
『何があったの?』
『ジウスが結界を張った』
ダイナグラムが炎上したのは、敵からの侵入を許したということだった。都市ダイナグラムは一千万人を超える大都市で、その三分の一を超えるような火事の被害は、人の暮らしを脅かした。
ラーディア一族は、人間との関わりを重んじる一族で、故意に神の能力である呪術を禁じ手としてきた一族、そして金髪で呪術の才のないサナレスが時代の総帥として科学文化を築いてから、人は人としての武器である知力を最大限に活かそうと努力してきた一族だった。
だが、長らく使われることがなかった呪術を、ラーディアの現総帥であるジウスが使った。
それは、外敵がジウスにそうさせるほど脅威だったということで、炎上するダイナグラムを痛み、ジウスは護るために繭を貼るようにラーディア一族に結界を張った。
『とういうことで、入いれないんだよ……』
帰還して、無事だという報告がてら勝手を詫びようとしていたサナレスは、ダイナグラムの鼻先で遮断されたのだと言った。
『幸い、水月の宮は一族の外れに位置していたから、ジウスの厳戒態勢の外側に位置して、戻ることが出来たんだけどな』
大丈夫。
ラーディア一族がなくても、おまえの生活は確保する。
そんなふうにサナレスに言われて安心していたのも束の間、まさかの自分の意思とは別に、サナレスと一線を越えるなんてことになるなんて。
最近サナレスは忙しい。
三分の一消失したダイナグラムは、敵の襲撃を避けるために何人も寄り付かせないし、何人もダイナグラムから出そうとしない。完全に鎖国してしまい、打つ手がない状態だった。
ジウスが結界を張る前に、自国を守るためなのか近衛兵を結界の外に出したものだから、サナレスは散り散りになった近衛兵に連絡を取ろうと努めていた。
水月の宮の離れに、連絡が取れた近衛兵を住まわせるように急遽建築物を立て、大工を雇い、彼らの生活と基盤を整えている。
また他国との対応にも追われていた。
ラーディア一族が全てをシャットダウンしたままなので、その公務を代行する形になったサナレスが、一族の状況を伝えなければならなかった。
未だラーディアを襲撃した相手を突き止められず、鎖国という人の出入りをいっさい遮断するという虚構に出たジウスの考えがわからずにいる。
兄がジウスに謁見できないでいることは、サナレスの苛立ちを募らせるようで、頭をかいて舌打ちするのを、リンフィーナも目にしてしまった。
ラーディアの首都ダイナグラムの消失はサナレスにとっても予想外の展開で、近衛兵参謀のリュウセイや隊長のギロダイ伝えに連絡がついた近衛兵から事情聴取を行う他手段がない。
連絡がついたのはまだ数十人の隊員でしかなく、彼らから聞き取った内容では、火を吐く龍が現れたとかなんとか。ーーとても正気には思えない内容の証言ばかりで、サナレスは腕を組んで考え込んでいるようだ。
これが火の鳥だというのなら、シヴァールとの関連性が濃厚だが、今度の一件は火を吹く龍だというのだから、共通点は炎という以外見当たらないでいる。
ラーディア一族から孤立する形になった自分達は、連絡の取れた近衛兵50名程度を住わせる宿舎を建築しつつ、結界の外側からラーディア一族を静観するより道はなかった。
そして自分ができることといったら、更に限られたことだーー。
たった50名程度の近衛兵とはいえ、屈強の男たちの食欲は脅威だった。
「今日は時期的に、この辺に美味しい渡鳥が渡ってくるから」
サナレスが同行を許した者以外の近衛兵を連れて、リンフィーナは食料を調達する狩場に案内する。
ラーディア一族の手形、つまり信用が半減している今では、他国からの流通がままならず、一族の狩場で食料を自給自足することが必須となっている。
一班は長期目的で農作物を育てること。
二班は川での物資(つまり釣りで川魚、海に遠征して海産物)を捕獲すること。
そして三班は自分について、狩猟をすることを生業にしてほしいと陣頭指揮を取っている。
「いも姫様!」
茂みに隠れた三班は、天空高くを飛ぶ十匹未満の鳥の群れを見て興奮して、今にも矢を振るいそうだ。
確かにここのところ、満足な肉類を賄えておらず、彼らが鳥の群れを目にした時、その生き物は焼鳥としか、目に映らないのだろうが。
妹姫、略して「いも姫」と言うな。
リンフィーナは唇を尖らせた。
「まだ! この距離じゃ届かない。もっと引き寄せてから!」
子供の頃から兄に狩猟を教えられて慣れているリンフィーナは、百発百中で獲物を狙えた。兄の風変わりな英才教育は、ここにきてラーディア一族の近衛兵を従わせている。
「猿姫、もう少しでございますか!?」
更にひどい呼称は、姫の上に猿がつくことだ。
木と木の間を飛び移る様子を見せたときに、近衛兵は簡単の声をあげ、自分の身軽さを猿に例えた。
なんでも後ろに姫ってつけていればセーフだと考える、今まで身体能力が第一優先だった男たちにとって、なぜか自分は猿山の対象になっている。
「まだ! じっと堪えて、貯めてから……」
渡鳥が羽を休ませる場所を探すために低空飛行をするのを狙う。
「今っ!」
リンフィーナが合図すると、三班の男たちはしっかりと張った弓を一斉に放った。
ビュッツと言う弓矢が風を切る音と共に、男達の腕力がものを言って渡鳥の群れに突っ込んでいく。風の抵抗で多少予測した通りに直進するわけにはいかないが、弧を描きながらも計算通り見事に群れに命中する。
数羽の渡鳥が食料になるべく地面に落下する。
ん〜ん、今日はシチューかしら。
日増しに増える近衛兵の食いぶちを考え、リンフィーナはカサ増しできる夕食を思い描いていた。
狩の腕はあっても料理の腕はないので、結局厨房を任されたタキが献立を決めるのだけれど。
リンフィーナは落ちた鳥に近づいて合図し、自分を筆頭に矢の回収をし、まだ命のあるモノの命を鮮度を保つために奪っていった。
偽りの神々シリーズ
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
シリーズの6作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」