炎の断捨離17
魔女裁判後からこっち、物語が動くまでの期間を書いています。
うちの職場にもコロナが出て、今日休業要請を出しました。
今まで考えられなかったことが日常になっている。
日本人は働きすぎだとは思っていたけれど、時代の移り変わりがウィルスって、歴史は繰り返していると思う今日この頃です、
※
ラーディオヌ一族の貴族を招集せよ。
アセスは一族の総帥として伝令を出し、明日貴族会議を行うことを決めた。
「アセス様、貴族会議は半年に一度のはずです。このように緊急で集めなければならないのでしたら、何らかの理由を述べなければなりません」
側近のナンスに耳打ちして、ラーディオヌ一族の悪しき風習を伝えてくるのは、おそらくは元老院レディウス・ハプスブルク・ケイだ。
亡くなった自分の師であるゼンに継ぐ実力を誇るモーガンは、偏屈者で名が通っており、彼に従うものは少ない。
反対にレディウスはアセスの母方であるハプスブルク家の血統で、圧倒的な知力と品位で貴族を束ね、アセスの執政の片腕を担う。本来であれば頼もしい味方であるはずの彼を、アセスは現在一番警戒しなければならない存在だと感じている。
その理由はラーディオヌ一族の呪術師会の長の座には着いたが、古き時代の元老院との折り合いはついていないことだ。貴族会議を開くように指示したのも、若き貴族達を味方につけるためで、石のように凝り固まったラーディオヌの古い時代を一掃するという目的もある。
古き賢者には歴史があり、人を従わせる権威もある。
けれど時代が変わりゆくにつれて、適応力、柔軟性、そして迅速さが求められ、古き世代はどうしても若人にとって変わられる日がやってくる。
それに気付かずに今まで築いてきたものに固着し続けていると、オールドワイズマンもやがて行く手を阻む障害となる。
世襲に囚われた男を前に困り果てたアセスの前に現れたのは意外な人物だった。
力になろう。
そう言ったのは、意外なことに過去には自分の命まで奪おうとしたフィラ家のタケルだ。
ラーディオヌ一族の貴族の権力は3つの家元で成り立っている。
一つはアセスの血筋であり、ラーディアと同じ血を二分するアルス家。アルス大陸に人と神の境目を生んだという太古から健在な神子の氏族である。
他に、ハプスブルク家。
ラーディオヌ一族がラーディア一族から、呪術を疎んじられて迫害された時に、統率力と知力で迷える民を率いた祖先。ラーディアから迫害された王家であるアルス家の臣下であり、ラーディオヌ一族を誕生させた、アセスの母方の血筋である。
そしてフィラ家。
比較的古い慣わしに囚われず、呪術の能力だけを重んじる家督。少し前はアセスに対して総帥の座すら奪おうとしていた、新しい改革を望む血筋の貴族である。
アセスはこれまで、母方の出自であるハプスブルク家に後押しされ、総帥として君臨したが、元老院を敵に回す今、微妙な立場になっていた。
そこに比較的新体制の貴族、フィラ家のタケルが力を貸そうと言ってきたのだ。
「どうした風の吹き回しですか?」
自由奔放で、世の女性全ての心を掴んでいく男性の象徴のようなタケルが、アセスの元を訪ねてきた。彼を見ると、なぜだかサナレスの人格と重なって、アセスはコンプレックスを感じずにはいられず、斜め下を見てしまう。
「相変わらず、姫君のようにお綺麗だ」
自分にとっては決して賞賛ではないからかい半分の言葉に、アセスは微笑みながら唇を噛んだ。
「だが髪型のせいだろうか? ーーいや違うな。少し雰囲気が変わったようだ」
タケルは常に単刀直入で、その真っ直ぐさはアセスの苦手とするところだ。
「どうしてこの度は、アルス家に、ーーいえ、私にお味方していただけたのですか?」
貴族会議を行うにあたって、御三家の二つの同意がなければ会としては成立しない。
アセスが問うと、タケルは少し考え深げに、アセスの執務室で顎に手をやって首を捻った。
彼の妾として身請けされたレヴィーラという女性は、ラーディアの皇女リンフィーナの分身、つまり体神だった。彼はレヴィーラを側室に召し上げて、大切にしていた。
目の前で体神レヴィーラが消えゆくまで、彼が彼女を特別視していたことを、アセスは知っている。
「味方する理由? そんなの決まっている。惚れた女の窮地には身を挺しても成さねばならないことがある」
ーー?
タケルが口にすることがわからずに、アセスは更に首を捻る。
「レヴィーラはこの世にいない。けれど、ラーディア一族のリンフィーナ・アルス・ラーディア、彼女が我が妻レヴィーラの本来の姿なのだろう? 私は彼女に敵対できない。皇女リンフィーナを護らなければならない」
タケルの動機はそこなのかと、アセスは目眩を覚えた。
「たとえ出会いが体神だとしても、我が妻はまだ健在だ」
タケルの真っ直ぐさは羨ましいとは思うが、まさかレヴィーラ恋しさに彼女の本体であるリンフィーナに思いを馳せるなんて、想像もしなかったことだ。
レヴィーラの消失でしばらく沈み込んでいると聞いてはいたが、いつの間にか心の立て直しに、リンフィーナの存在を思い出したらしい。
アセスは頭を抱えたくなった。
「ラーディアの皇女は、私の婚約者なのですが……」
まさかフィラ家のタケルと女の奪い合いになるとは予想できず、アセスは彼の本心を確かめたかった。
「確かアセス殿は、第三公妃の娘であるリンフィーナとは、婚約を解消されたはず。ーーラーディア一族の皇女であればどなたでもかまわないのだろう? 我が姫でなくとも厭わないと、次の婚儀を受け入れられたと聞いている」
フェリシア・アルス・ラーディアとのことを示唆されたのだけれど、アセスは害した気分をどう表現したらいいのか考えあぐねた。
リンフィーナを「我が姫」と口にしたタケルに、殺意すら覚えてしまう。
「大切なのは決めつけではなく、伴侶とする方の真心だと思うのですが」
釘を刺しておくつもりで言った言葉に、タケルは爆笑した。
「若い女は押しが強く、猛々しい男に惹かれるもの。奪う気持ちもない男に、誰がついてくるものか。ーー真心とは核の部分だけで、後は誰が報酬を手にするか。それに尽きると思うが、ーー総帥アセスはお分かりになりませんか?」
敗北感に浸らせられるような言葉だった。
うかうかしていると、リンフィーナはサナレスだけではなく他の者にかっ拐われてしまう。
タケルの言葉が胸に刺さる。
サナレスがリンフィーナと自分を残して二人の元を去ったとき、どうして自分は彼女を奪うことができなかったのか?
手の中にあったリンフィーナの気持ちを第一に考え尊重したつもりだったが、結局タケルがいうように機を逸して、彼女を捕まえられなかった。
それゆえに複雑化する人間関係は、アセスの手中に二度と収まりきらないほど、収束不可能になっている。
世の情勢を動かしていく以上に、人の気持ちを思い通りにすることは難しい。
アセスは新たな後ろ盾を得るとともに、厄介な男を恋敵にしたことに苦悶した。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
シリーズの7‘作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」




