炎の断捨離12
イラストを描きたい、と考えていて、はや半年近く経過してしまいました。
クリスタをダウンロードしたものの、まだ完全に使いこなせいなくて。
雨の日の午後、少しトライしてみようかな。
※
ラーディオヌ一族の貧民街に仮の居を構えたアセスは、せっかく用意した拠点にほとんど帰らず、下手すれば廃屋になったような風の通る場所で眠る毎日を過ごしていた。
サナレスと約束したこの日は、急遽ラーディオヌ邸に戻って身形を整えたが、星光の神殿から戻ったその足で向かったのは、ラーディオヌ邸でも仮の住まいでもない。貧民街の地下に築かれた地下街、ヨースケ・ワギの元だった。
このところ貴族が築いた街や、栄えた王族のそれが焼かれるという事件は、アルス大陸の内外で頻繁に起こっている。
ーーけれどまさかダイナグラムまでが狙われるとは。
ラーディア一族のダイナグラムが何者かの手によって焼き払われ、大陸を震いあがらせるような事件に驚愕した。
ラーディアの王都が全焼しなかったのは、すんでのところで天道士であるジウスが対処したからだ。
呪術者を疎んじるラーディア一族ではあったが、実際のところはす総帥ジウスの術力は兄弟で、彼の吐息一つで大陸の形を変えるほどの天道士だと言われる。
そして彼の太母であるラァ・アルス・ラーディアは、人類で最初に「神であること」を認めさせた雨乞いの巫女であり、正確な遠見の力を持っている。
ラーディオヌ一族の呪術師会が束になってかかっても、彼ら二人に及ぶのかどうかと定かではないと噂され、その術力は一目置かれており、ラーディオヌ一族の術師は彼らの存在の日陰になって久しい。
エレベータに乗って地下街に降り、賭博場を横目に見ながら、ヨースケの配下の者にヨースケの在宅を確認する。
二人いる見張りは自分の通行を認める主人に代わって、顔を見合わせてすぐに奥の居住区へアセスを通した。
ヨースケが居を構える場所は、とても眩しいところだ。
暗さに慣れたアセスは、久しぶりに訪問したその場所で、少し目を細めて手で明るさを遮ろうとした。
指の隙間から見えるのは、サナレスが考案した人工の光というものだ。
「珍しい。貴方からここを訪ねてくるとは……」
ヨースケは笑いながら、心得ているのか人払いをする。
「ーーそれで?」
と単刀直入に要件を聞こうと耳を傾けた。
「裏の情報に通じているあなたに聞きたいことがあって来たのです」
「これは……、これは、いつになく取り乱した様子ですね。我が一族の総帥、アセス」
薄く笑い、「何を知りたい?」を問う。
アセスは答えた。
「このところ、焼かれた街に出没して、統治者の首をとっている輩がいるのだと耳にしています。ーーその者の情報を知りたい」
ヨースケは「ほう」と一歩引いた姿勢で、愉しそうにアセスの様子を観察している。
「高貴な貴方でも、俗世間に塗れた噂を気にされるようになったというわけだ」
「それは質問の答えではない」
アセスは冷たい表情でヨースケを見て、彼から望むものが得られるかどうかを判じている。
「民は義賊の仕業だと言っている。絶大な力を誇る貴族、王族に反旗を翻す庶民の味方が、新たな世を作ろうとして、炎で都市を焼いている。そんな情報とも言えない噂なら、大陸全土に広まりつつはあるけどな……」
「知りたいのは、焼き払われた後のことです」
アセスが問うと、ヨースケは僅かに首を傾げ、もったいつけるように微笑んだ。
「情報屋に、タダで情報を与えよと?」
駆け引きをしてくるヨースケを、アセスは鼻で笑った。
「今回交換するものは与えませんよ。次に燃えるのは、ラーディオヌ一族の王都かもしれないのですからね」
「焼かれるのは貴族の地だけと聞く。貧民街のこっちの居住区には何の関係もないかと」
「あらゆる薬草や呪術具が取引される白磁の塔が燃えても、あなたの商いには全く影響ないと? ーーおそらくは夜一にも物品は流通しなくなると予想されますが」
ヨースケとアセスは友人でも何でもない。
だから一言一句が取引であり、心理戦だ。
先に観念したのはヨースケだった。
「都が焼き払われた後は、不思議と大雨が振り、燃え盛る豪火を消すらしい。人々が安堵するその隙に、その地の統治者の首が晒される」
「ーーそれのほとんどが、貴族か王族なのですか?」
全てではないけれど、その傾向が強いとヨースケは答えた。
「テロリスト……、この世界では義賊って言うんだよな。明らかにそいつらが活発になってきているようだ」
アセスはヨースケの見解を予想通りだと認め、その上で、先刻まで会っていたサナレスの態度が気に掛かって仕方がなかった。
「ヨースケあなたは、サナレスを知っていると言いましたよね?」
「百年ほど前に面識があるだけなんだけどね」
「ーーサナレスはどんな人なんですか?」
「これはおかしなことを言うーー。親しいのは、自分よりもむしろ総帥アセス、貴方の方だと言うのに」
などと前置きしながら、ヨースケは思い出すように印象を口にした。
「私の人間関係は広く浅い。だからなんて言っていいのかわからないけどね。森がーー、いやリトウ・モリが言っていたな。神経質、天才。だから付き合う人間は厳選されていて、他人を寄せ付けない」
印象が大きく違う。
アセスがサナレスに感じた印象は、大胆不敵、豪傑、器用、いつも人の輪の中心にいる人だ。誰からも慕われるサナレス、そんな彼しか見てきていない。
だからか?
先刻まで会っていたサナレスは、自分が彼に対して持っていた心象とは似ても似つかないほど弱々しかった。違和感が拭いされなかったのだ。
「正直わたしにとってもそうだ。サナレス殿下ほど難しい人はいない」
ヨースケの言葉で、アセスは電撃が走る。
記憶の中でサナレスという人をよく思い出そうとするが、自分の前でのサナレスはいつも世の中を高みの見物でもしているかのように飄々としていた。
「それで昨今巷を騒がす義賊と、サナレスがどう関連する?」
アセスは黙った。
彼の義賊への関与を疑ってしまうなど、自分はどうかしているのだろうか。
けれどもし、この嫌な予感が的中してしまったら、呪術師会の長となった自分は、どうしたらいいのか。
サナレスと敵として対峙しなければならないその日は近いのだろうかと、考えずにはいられない。
ラーディア一族の王都、ダイナグラムを焼いたのがサナレスだとは思えなかった。
けれどサナレスは魔導に落ちた、と告白してきた。あの告白は、何かに気づけと示唆してきたように感じられる。
サナレスが口にすることは一言一句考えられていて、無駄がないのだとしたら、サナレスは一体自分に何を望んだのだろう。
早く力をつけてリンフィーナを手元に置いて守らなければ安心できないと、焦燥感に駆られる。
サナレスと競うのはいい。けれど争うのは避けたいと思う自分がいて、それが愛しい少女のためなのか、自分の願いなのかはもうわからない。
「義賊が活発になる以上に、キシル大陸の民を警戒すべきだと、言っておかなければならないなぁ」
情報屋と言われるヨースケはボソッと呟いた。
「キシルとイドゥスは海を隔てて真逆の位置にありながら、熱帯の猛暑に晒される風土。貴族や王族という制度をいち早く廃止して、唯一民主主義の大統領制をとるキシル大陸の国の動きが最近おかしい」
それを聞いてアセスは首肯した。
「ラーディオヌ邸に戻ろう」
ラーディア一族の力が弱まっている今は、兄弟一族であるラーディオヌがその権威を示さなければ、他国に攻めいられる恐れもある。
「どうするんだ?」
背中にかけられた質問に答えず、アセスは前に歩みを進めた。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
シリーズの7‘作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」




