炎の断捨離11
おはようございます。
早いもので、気がつけば11回目。
ブログのように小説を書く毎日。
長編ですがお付き合いくださっている方、ありがとうございます。
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完全に日が暮れて、星光の神殿は月灯りのみに照らされるようになった。
「水月の宮に泊まったらどうだ?」
「いえ、今行っても歓迎されないことでしょう」
ーーそれはないと思うがと引き留めてもアセスは軽く首を振り、サナレスは彼が帰るのを見送ることになった。
「馬に乗っているのを初めて見るな。ーーいい馬だ」
「風を切って走るのは気持ちがいいものですね。リンフィーナに教わりました。彼女に乗馬を教えたのはあなたでしょうけど」
アセスは自分と同様に、黒い馬を選んでいた。漆黒のフードを羽織り、騎馬したアセスにサナレスは声をかける。
「今日は無理でも、いつか遠乗りに行くか?」
「ええ、是非」
リンフィーナが望む未来は、自分がいて、アセスがいて、三人一緒に笑っていられることだった。彼女は自分の寿命の不確かさを知って、立場が違って三者三様に思うところが別であっても、側にいることを望んでいた。
「私たち、共に一族を背負う地位でなければ、もっと色々と楽しめたものを……、残念だな」
「それを言うなら、望む女人が同じでなければ、もっと打ち解けられたのですけれど」
揶揄うように返答してくるアセスのこと、やはり好ましく思っている自分がいる。
百年も前に親友を失い、それ以来自分には友と言える者はいなかった。
それなのにどういうわけか気がつけば、アセスという存在の男が自分の隣に肩を並べる。
「遠乗りは色々と決着がついた後にするか」
自分と隣を馬で駆けるのも、その前を走っていいのも、かつての親友であるルカだけだと思っていた。
アセスを誘った言葉から、自らの変化した心境を悟ることになる。
長い髪をバッサリと切ってしまったアセスの決心は、どこか乾いていて清々しく、サナレスは先に行かれたようで苦笑した。
「ええ、必ず。約束しましょう」
アセスの強い言葉に、サナレスはまた見果てぬ未来に夢を抱く。
ーーたぶん、そんな未来は来ないというのに。
次の標的は、ラーディオヌ一族の元老院の重鎮だった。
自分が殺らなければ、ソフィアは義賊と組んで、自分が殺ると言って脅してきた。
『妹が可愛ければ、彼女の手を汚したくなければ、私と組もうサナレス』
魔女ソフィアは、この世界を憎んでいた。
彼女は火炙りの刑に追い込んだ、古い時代の貴族を呪い、全てを炎で焼き尽くす計画を、義賊と共に企むような存在だ。義賊の一端にはシヴァ神ーーシヴァールが控えていて、おそらくはラーディア一族ダイナグラムを狙ったのも、義賊の関与なのだと痛切に感じなければならなかった。
『サナレス、私はおまえが好きだ』
ある夜、魔女であるソフィアは告白してきた。
『滅した世の次の王は、サナレスであって欲しい』
ため息が出るような望みだった。
彼女は自分が、どれほど立場に囚われたくはない人間かと言うことをまるでわかっておらず、リンフィーナを盾に脅してくる。
『おまえはイドゥスの総帥の命を継いで、大陸に幾らかを従わせた。次はラーディア、そしてラーディオヌ、重氏族の重鎮達をきれいさっぱり葬って、新しい時代を築こう』
朗らかな魔女の声は、鈴を転がすように耳に心地いいが、リンフィーナの感情とは別物だ。
リンフィーナは絶対に、自分に我儘を言わない。
寂しいぐらいに、言わない女の子だった。
たった一つ、『お嫁さんにして』とか『一生兄様の側にいる』とか、そんな言葉を口にしても、それは自分を思いやって発する言葉なのだ。
民を、ーー人を憎みながら死んでいった魔女ソフィアとは違う。
サナレスはアセスが立ち去った星光の神殿で、一人考え事に耽っていた。
戦場に出たことがある自分は、人の命を絶つ行為には抵抗がなかったはずだ。
それなのに、キコアイン一族の総帥の命を絶ってその重みを継承し、その後5名の命を奪った。
古き時代の神子である貴族を一掃することが、義賊の望みだ。
かろうじて、アセスの命を狙わずに済んだことだけが、心の救いだった。
命を狙う相手の中には、ラーディア一族のラァ様、そして父であるジウスですら入っていて、サナレスは目眩がした。
千年生きた貴族達は、一体どんな業を背負っているのかと、神というものがいるのならば問いかけたいくらいだった。
地層変動が激化する前に。
この世は、呪術と科学が混在する。
見方によってはどちらの見解からも肯定される史実となる隣合う世界で、サナレスは焦っていた。
義賊が望む神狩りを、一刻も早く終えなければーー。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
シリーズの7‘作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」




