弟子だった王子に求婚されて……逃げれそうにないんですが!?
サーシャ・シルベストは予想外の相手によって窮地に立たされていた。まさか自分の弟子にここまで追いつめられるなんて。
(いや、どうしてこうなった……)
サーシャは冷静に自分を追い詰めている、相手の青年を観察する。
シルクのように輝いた銀髪をショートカットに、整った目鼻立ちはまるで王子様のようだ。
……いや、本当にこの国の王子なんだけど。
とても自身に満ちあふれたオーラを振りまく彼は、自信満々にこう言い放った。
「師匠……いや、サーシャ。この勝負に僕が勝ったら、君と僕は……」
「そういうことは勝ってから言ってください……シオン王子」
「そうだね。勝ってから、改めて僕のお願いを言おうかな!」
本当にどうしてこうなったのー!!
※※
サーシャとシオン・オルタンシアの出会いは。
5年前のサーシャ17歳、シオンが12歳の冬のことである。
当時冒険者として最高のランクであるSSに昇格したサーシャに家庭教師の依頼が出された。なんとその相手は次期国王になるだろうシオン・オルタンシア、内容は剣術の特訓をして欲しいということだった。
一瞬悩んだサーシャだったが……3か月間王宮に来賓として住み込みで生活を送ることができ、尚且つ給料が普段の10倍以上だったということもあり、その場ですぐに家庭教師の仕事を引き受けることを決めた。
まだ12歳だったシオン様はとても可愛らしく、クマのぬいぐるみが似合いそうな少年だった。あまりにも可憐すぎて開いてはいけない扉を開くところだった……危ない危ない。
「シオン様、剣はこのように握ると良いですよ♪」
「うん!分かったよ!」
そんな可愛いシオン様に夢中になった私は、剣の握り方からカウンター攻撃のやり方など、手取り足取りスキンシップを取りながら教えていった。
……スキンシップを取るのは剣術の修行の必要不可欠な要素だったんだよ(・_・;)
私がシオン様に剣術を教える最終日。突然シオン様がサーシャと私の名前を呼びながら、こんなことを言いだした。
「僕ね、強くなりたいんだ!」
「はい。何故強くなりたいのですか?」
「欲しいものがあるからだよ」
「それを得るのに力が必要なんですか?」
「うん……男なら欲しいものは自分の力で奪いとりたいからね」
「では、そのためには強くならないといけませんね!」
とシオン様に言うと、少し考えたようなそぶりを見せた後にこう言った。
「ねぇ、サーシャ……僕が将来サーシャに勝ったら、何でも言うことを聞いてくれる?」
「まぁ、無理でしょうが――万が一私に勝つようなことがあったらいいですよ?」
「ほんと!約束だよ!」
「はい、勝てば何でもシオン様の言うことを聞いてあげますよー!」
「将来サーシャに言うこと聞かせるの楽しみだね!!」
可愛らしい顔でずいぶん怖い発言をするなーと、当時はシオン様の話を聞いていた。
あらから五年――シオン様は物凄く強くなり、近隣諸国にまで武勇を轟かせていた。
--伝説のドラゴンを仲間にした
--樹海の奥深くに住む1000年生きた巨大な蛇を倒した
――攻めてきた敵国の兵士の半分以上を一人で倒した
……あれ!?シオン様強くなりすぎじゃない?
っていうかドラゴンを仲間にしたって何?
あのクマのぬいぐるみが似合いそうな、可愛いシオン様はどこに行ったんだろ(笑)
とシオン様の武勇伝を聞いていた私に一通の手紙が届いた。
「どうしたのかな?――どれどれ?」
封筒を雑にビリっと破り中を確認する。どうやらシオン様が近隣諸国を征服した記念にパーティーを開くらしい。近隣諸国を征服って何??
もう色々ぶっ飛んでいるシオン様だが、お世話になったお礼として、是非私にもパーティーに出席してほしいという内容だった。
そして美味しい料理や酒を求めて、パーティーにノコノコと出席した私。
シャキッとした野菜のサラダや肉厚なステーキを堪能していると、何故か広い会場の真ん中に呼ばれた。なんか変だなと??思いつつも行ってみると
「師匠……いやサーシャ!僕と結婚してください!」
――何故かシオン様にプロポーズされた。
え!?と戸惑っている間に観客から計ったようにあふれんばかり拍手が……
「ちょ、ちょっと待って!」
「うん?僕と結婚してくれるんでしょう?」
いや……まだ返事してないんですけど!?
「「「……」」」
周りの無言の圧力がすごい……あれ?プロポーズってこんな感じでするものだっけ?
「その身分が……」
「そんなの気にしないよ、そんなことを言う奴は僕が排除するから大丈夫だよ」
いきなり言い訳が……っていうか排除って怖っ!
「じゃあ、デュエルで決めよっか?」
「デュエル……なんでそんなことに?」
「昔約束したよね?」
「約束?」
何か約束なんかしたっけ?
「ほら……僕が勝ったら何でも言うことを聞くってやつ」
「…………」
約束してたー!!やばっ、今思い出した。
可愛いシオン様お願いされて、そんな約束を軽い気持ちでしたわ。
嘘!?今のシオン様ってドラゴン仲間にしてるんだよね!
あはは…………私って今のシオン様に勝てるのかな??(´・ω・)
※※
そんなこんなで物語は冒頭に戻る
サーシャは剣を構え、シオンの隙を探っていた。しかし、シオンから隙を見つけることが出来ない。
シオン様隙が全然ない……っていうか流れてるオーラが半端ないんですけど!?
え~?マジでどうしよう……
「じゃあ、デュエルを始めよっか!」
「くっ……」
まだ冒険者としての自由な生活を謳歌したいサーシャ。
サーシャを手に入れたいシオン。
サーシャはシオンから逃げきることが出来るのか、サーシャの運命を掛けた勝負が今ここに始まった。