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ユグドラシルストーリー  作者: 森のうさぎ
9/19

第9話 アカネとヒロト


ピッ、ピッと機械の音がする。

私が学校で保健室でよく聞いた音だ。


ここは学校の保健室? なら、きっとまた……。



ヒロト

「アカネ姉さん?」


誰かの声がする……温かみのある声。

そうだ、私はたしか野犬の怪物に襲われて、そこを誰かに助けられたんだ。


そっと目を開けると、黒髪の緑のロングコートを着た19歳ぐらいの青年が椅子から

身を乗り出して私の顔をのぞき込んでいた。


アカネ

「ヒロ、ト……?」


ヒロト

「はぁ、よかった……無事だったんだね」


そうだ、きっとここは学校の保健室だ

そこに男子生徒が乗り込んできてるということは……。


アカネ

「お願い、叩かないで!……殴らないでっ!

 お願いだから……」


ヒロト

「ちょっ、アカネ姉さん落ち着いて!」


またボコボコに殴られて服を破られる……。

そう思ったら自然と頭を抱えてかがんでいた。


医者

「仕方ありませんね」


そう言った医者が魔石をアカネの顔の前にかざし。


医者

「さぁ、目を開けて……」


アカネ

「いやっ! 殴らないで……お願い……」


怖い、けど一瞬だけ顔を覆った手の指の隙間からその青い光を見てしまう。

綺麗だなと思った瞬間、私はゆっくり体を後ろに倒し

力も抜けていた。


……声が聞こえる。


ヒロト

「お医者さん、これは……」


医者

「PTSDですね、心的外傷ストレス症候群」


ヒロト

「PTSD?」


医者

「トラウマですよ、しかしこの子の場合はかなり症状が重いようです。

 そうとう怖い目に遭わされ続けてきたんでしょう」


天井が見える。真っ白。


ヒロト

「……」


ロディ

「ヒロト、もう大丈夫なのか?」


ヒロト

「あぁ、俺はなんとも……。

 それよりアカネ姉さんの方が心配だ」


ロディ

「感謝しとけよ。あの状況でお前を引きずってたんだからよ。

 女にあそこまでさせたからには、お前も体はれよ?」


ヒロト

「女か男かどうかはともかく、アカネ姉さんは必ず守るさ。

 俺が、絶対に」


時計を見た、昼の12時だ。

椅子に座っているのは、さっきの青年。ヒロトだ。

手に持っているのは、スプーンと、おかゆだ。


ヒロト

「ちゃんと冷ましておいたからね。

 はい、アカネ姉さん。起きて、口をあけて?」


ベッドの毛布を目の下までそっと引き上げ顔を隠して目をそらす。


アカネ

「……乱暴……しない?」


ヒロト

「するわけないだろ、アカネ姉さんに」


アカネ

「じ、じゃあ……」


そっと毛布を下げて顔を出す。

そして体を起こす。


ヒロト

「はい、あーんして?」


ゆっくり口を開ける。

口の中におかゆが注がれる。

おいしい……そう思った瞬間にお腹がぐぅ~と音を立ててなった。


ヒロト

「朝ごはんも何も食べてないからな。仕方ないよな」


少し恥ずかしい……。

いくら相手がヒロトでも……ヒロトでも、何?

混乱していた頭が、おかゆの一口とヒロトの笑顔で整理されていく。




彼、ユカリノ・ヒロトは私の義理の弟という形で

ファントムさんに作られた人造人間。


ファントムさんは昨日、アインという人と一緒に死んでしまった。


私の名前は、モチヅキ・アカネ……。モチヅキ・カズオの娘だ。

今の私は、名前をもらってユカリノ・アカネって名乗ってた。


モチヅキ・カズオである私の実のお父さんはミスターKと名乗っていて……。


_ヒロ君を、お願いね_


赤い髪をしたもう一人の私、偽人格で作られた7歳の私は

20歳のクロユリと一緒にミスターKに連れていかれてしまった。


巫女の結晶と、ミスターKは言っていた。

あれを使って、いったい何をするつもりなんだろう。



ヒロト?

「……さん……アカネ姉さん?」


アカネ

「え?」


ヒロト

「え? じゃないよ、本当に大丈夫?」


アカネ

「だ、大丈夫!」


ヒロト

「……よし、わかった!

 とりあえず、ご飯食べよう!」


アカネ

「う、うん!」


その3時間後、特訓が始まった。

私は、このホワイトガーディアンズ本部の

訓練場を借りて、刀の稽古をすることになった。


ヒロト

「はい」


アカネ

「……ふぇ?」


私の服装は灰色のミニビスチェドレスの上から軽装の鎧。

腰には黒い鞘の刀。

右手には日本刀を握りしめている。


そして、目の前には黒い剣の先が向けられている。

その向こうにヒロトが見える。


アカネ

「うわわわ!」


慌ててカタナを落とし、部屋のすみに逃げる。


ヒロト

「アカネ姉さん、まずは剣を向けられることから逃げないで」


3時間ほど前、ヒロトに今の状態を確かめる必要があるといわれて

連れてこられたのが訓練場だ。

すみっこに逃げて、私はガタガタ震えている。


アカネ

「そんな、戦えって言われても……」


ヒロト

「アカネ姉さん、厳しいようだけど

 俺が姉さんを守れない状況だってあるかもしれない。

 そのために、アカネ姉さんの心を鍛える必要があるんだ」


アカネ

「そんなこと言われても……」


ヒロト

「よし、じゃあまず俺に刀を向けるところから始めよう」


そういうと、ヒロトは剣をかたむけ、防御体勢をとった。

私は恐る恐る、刀を拾う。

ちょっと重いけど、そっとヒロトに向けて構える。


ヒロト

「構え方は覚えてるんだな。_アカネ姉さん_の構えだ」


ここでいう_アカネ姉さん_というのは、おそらく赤髪のアカネのことだ。


そうだ、迎えに行くって約束した。

一方的な約束だったけど、一度した約束は守らなきゃ……。


ヒロト

「さぁ、打ちこんできて!

 大丈夫、俺には当たらないから」


ヒロトが横に向けている剣に向かって、一撃、二撃と当てる。


ヒロト

「ほら、お腹に力を入れて声も出して!」


アカネ

「え、えいっ!」


カキンと軽い音が出る。


ヒロト

「ほら、遠慮しすぎだよアカネ姉さん」


アカネ

「じ、じゃあ……」


再び一撃、また二撃目の縦斬りを剣に当てる。

困った顔をするヒロト。そんな顔しないでほしい。


ヒロト

「うん、相手に剣を向けれただけでも、まずは合格かな」


アカネ

「ごめんなさい」


ヒロト

「アカネ姉さんは本当は強いんだから、自信をもって」


こんなに弱い私は、どうしたらいいの?

約束を、本当に守れるの?

お父さんを……ミスターKを倒せるの?


そんな疑問が私の頭を駆け回る。


ヒロト

「怖がらないで、どんなに強くても

 気持ちで負けたらダメだからね」


アカネ

「じゃあルールで負けたらどうなるの?」


ヒロト

「……殺し合いにルールなんてないよ」


ヒロトの目がキッと引き締まる。

少し怖い……。


ヒロト

「どんな卑怯な手を使っても相手を倒すか殺したほうの勝ちだ

 そう、どんな手を使っても……」


アカネ

「ひっ……ヒロト……」


ヒロト

「あ、ごめんアカネ姉さん。怯えさせるつもりはなかったんだ

 ただ……心構えを、ね」


私をにらんでるわけではないけれど、

ヒロトの考え方は、やっぱり怖い。

強い人なんだってわかるけど、何かもすべて覚悟してる人のような気がして。


アカネ

「その、ヒロトだったら。

 私が殺されそうになったらどうする?」


ヒロト

「どんな手を使ってもアカネ姉さんを守る」


強い意志、強いまなざしでヒロトは私を見た。

安心感さえ覚えてしまうような、力強さ。


ヒロト

「そして、アカネ姉さんを傷つけた相手を

 _殺す_」


殺気。戦いに慣れていない私でもわかるぐらいの強い殺意を感じた。

この人、ヒロトはもう何もかも覚悟してるみたいだ。

それに比べて私は何の覚悟もできてない。

やっぱりこの人、優しいけど……怖い……。


そんな時に、天井に取り付けられているスピーカーから大きな音が鳴り響いた。


「緊急警報、緊急警報。所属不明のアーマーギア部隊が接近中。

 ホワイトガーディアンズ各員は速やかに出撃されたし。

 繰り返す……」


ヒロト

「チッ、またか……」


アカネ

「ひ、ヒロト……」


走り出そうとしたヒロトは振り返る。


ヒロト

「……なんだい、アカネ姉さん?」


アカネ

「あの……き、気を付けて……いって……」


ロディ

「アカネさん、自分自身に嘘をつくのは

 関心しないなぁ」


ヒロト

「ロディ……こんなところにいていいのか?」


バンダナを巻いた筋肉質の男の人、ロディさんが

腰に手を当てて首を傾けている。


ロディ

「かーっもう、わかりやすいんだよなこういう時の……その、なんつーんだ?

 女心ってのは、よ」


ヒロト

「……?」


ロディ

「ヒロトも気づけよ!」


ヒロト

「なにがだ?」


ロディ

「いいから来い。アカネさん、あんたもだ」


アカネ

「えっ?」


そういって連れていかれたのは、倉庫だった。

倉庫というより、車の置いてある駐車場……。


ロディ

「ほい、これを持っていけ」


ヒロト

「これは、魔石の結晶?」


ロディ

「運転の仕方はそれを握りしめて念じるだけだ。

 お前でもできるだろ。南にある古城を抜けてさらに南に抜けた場所に

 ヘシオドースって支部がある、連絡しとくから……」


何の話をしてるんだろう……。


ヒロト

「おい、ちょっと待て、それはどういう?」


ロディ

「わかんねーかなぁ、アカネさん連れてさっさと逃げろって言ってんだよ!」


アカネ

「私を連れて、ヒロトと?」


ロディ

「俺はファントムとお前らを守る約束をした、それだけは守らなきゃならねぇ。

 これは筋の問題だ、元々共和国と俺らとの戦争にお前たち二人は関係ねぇ」


ヒロト

「しかし……」


ロディ

「くどいなぁ! 女一人守れないやつがミスターK倒せるかよ!

 わかったら早くいけ! あんぽんたん」


私が戦っても、何の役にも立てない

アーマーギアに変身できるわけでもないし、強くないし……。


ヒロト

「なぜだ……いや、わかった!」


ロディ

「あぁ、いってこい!」


魔石の結晶を握りしめたヒロトが、ふっと白いキャンピングカーをにらむと

両サイドの扉が開く。


ヒロト

「アカネ姉さん、乗って!」


アカネ

「うん!」


私は車に乗り込むと、扉を閉めた。


ヒロト

「シートベルトは横にあるみたいだ」


シートベルトをしめるためにかがんでいる間に、正面のシャッターが開いた。

ロディさんが開けてくれたんだ。


ヒロトが念じると車はエンジンがかかり、動き始める。

車が走り出したとき、すれ違うヒロトとロディは挨拶を交わした。


「またな」


白いキャンピングカーは夕方のオリハルコンの街を駆け抜けた。



 第9話 アカネとヒロト 終

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