第8話 ファントム・アイン
アカネ姉さんが俺そっくりの男にさらわれてから、
ファントムさんにその事情を説明した。
どうやらアカネ姉さんをさらったのはファントム・アインと名前のつけられた
俺を作り出す時に失敗した一番目のコピーらしい。
ロディに協力を求めたが、次いつオリハルコンに共和国がまた攻め込んでくるかわからないため
今は手が離せない状況とのこと。
俺はファントムさんと一緒にアカネ姉さんが誘拐された場所にやってきた。
ファントム
「……だめですね、魔石ではどこへアカネ君を連れ去ったのか特定できません」
魔石、魔法を使う上で必要な道具。
その魔石の力を上回るのが魔水晶とよばれる魔法の道具。
俺はあの時、医者から譲ってもらった魔水晶の欠片を取り出すと、誘拐された現場で
それを握りしめて、目を閉じて、アカネ姉さんを想う。
古い建物、白い古城……
その中へ、アカネ姉さんがアインに連れていかれる風景が見えた。
ファントムさんに今見た光景を説明すると、
オリハルコンの街の南側のはずれに白い古城がある場所を教えてもらった。
俺たち二人は、アカネ姉さんを奪還するために
街を出て、古城を目指す。
途中、深い森があった。
その森を今、突き進んでいる。
ヒロト
「ファントムさん、なんで一人目のその……アインは失敗だったんだ?」
ファントム
「彼には愛情という感情が欠如していました。
劣等感と独占欲があまりにも強かったのです」
独占欲と劣等感。
マイナスの感情、マイナスの思考だ。
ファントム
「それに気づいた私は、彼が目を覚ます前に
魔石を使って削除しました……しかし」
まさか生きていたなんて、と続けるファントムさん。
もし一歩間違えれば、俺も削除されていたんだろう。
だが、アインが選ばれなかった理由が愛情なら
俺にはアカネ姉さんへの愛情があるということになる。
俺のこの想いは作られた物なのか、それとも俺の愛なのか……。
そもそも愛情という感情は作られるものなのか……。
判断基準がわからない。
ファントム
「ヒロト君……」
ヒロト
「あぁ、気づいているよ。囲まれてる」
カタナを脇に、居合の構えをとるファントムさんと
背中に背負っている剣を構える俺。
周囲の茂みから見える赤い視線。
その茂みからぞろぞろと野犬の群れが出てくる。
ただの野犬じゃない、体にトゲが大量に生えた黒い魔物だ。
ファントム
「ヒロト君、私の動きをよく見ていてください」
ファントムさんはカタナを抜くと、右斜め下に構える。
一斉にとびかかってくる10数匹ほどの魔物の群れ
それに対し、俺は身構えたままファントムさんの動きを見ていた。
一瞬の出来事だった。常人には見えない速度で無駄のない動きをするファントムさんは
カタナを右斜め下から上段に切り上げ左斜め下に切り下げ、そして最後に真横にカタナを構え
回転切りの薙ぎ払いを行った。
その一閃の一撃が俺の方にも飛んでくる。瞬時にその一撃を剣で受け止める。
よく見てるかどうか試したのか、俺ごと切るつもりだったのか……。
ファントム
「スラッシュ……ブレイカー!」
斬撃をした空間に切れ目が入り、衝撃波が発生する。
周囲のとびかかってきた魔物たちが一瞬でバラバラになり、血しぶきすらあげない。
俺はその衝撃波を剣で防ぎながら足を踏ん張った。
魔物の群れはほぼ全滅した。
残った二匹の魔物が悲鳴をあげながら逃げ去っていっただけだった。
ヒロト
「ファントムさん、今のは……?」
ファントム
「私の得意技です、貴方に受け継いでもらいたい大切な奥義ですよ」
カタナで血を払い、納刀するとファントムさんはメガネの中心をスッとあげて
振り向いた。
ファントム
「あなたなら、この技を工夫してアレンジすることも可能なはずです」
ヒロト
「……」
空間を斜め下の下段から上段に、上段から再び斜め下段に振り下ろして
最後に回転斬り。魔法を使った一撃で空間ごと相手を吹き飛ばす大技か。
あれだけの衝撃波だ、直撃させればどんな相手でも致命傷だろう。
ミスターK相手に使えるか? いや、ダメだ隙が大きすぎる。
使うなら、動きの遅い相手か、もしくは相手の動けない状態で使うしかない
それよりも
_ファントムさんは魔石を持ってない状態でどうやって今、魔法を使ったんだ?_
ヒロト
「ファントムさん、今の一撃は魔法を使いましたよね?」
ファントム
「はい、魔法を武器に付与した一撃ですからね」
ヒロト
「魔石、使ってませんよね?」
ファントム
「ヒロト君、長い年月を生きて人々は気づきました。
魔石に頼らずとも、人は魔法を使える」
そういうと、ファントムさんは自分の左胸の心臓を親指で指さした。
ファントム
「本当の魔法は、ここで使うのですよ
ははっ……ただ、寿命が縮みますけどね」
ヒロト
「……!? 不吉な事をいわないでください」
ファントム
「さぁ、行きましょうヒロト君。アカネ君を救うために」
そそくさと先に進むファントムさん、額に汗を浮かべている。
なぜそんなに急ぐ? たしかに、アカネ姉さんの安否が気になるのは
俺も同じだが……。
そのまま、どのくらいか森の中を歩くと開けた場所に出た。
時刻は夕方ごろだろうか、日が沈み始めている
その場所の中央には白い廃墟があった。
どうやら古城跡らしい。
すぐ近くからでも見える、壊れた壁、雨をぎりぎり凌げそうな壊れた屋根
もう少し近づくとさらによく見える。
古ぼけた時計、古ぼけたベッド、そのベッドのシミ……真新しいシミ。
そしてそのベッドのそばで服をはだけてしゃがみ込むアカネ姉さんと
黒い衣服をまとった髪型の違う俺そっくりの男。
ファントム・アインだ。
まさか、この男……。
アイン
「遅かったな、オリジナル、それに完成品」
アカネ
「……」
そっと気まずそうに目を背けるアカネ。
勝ち誇ったようにこちらをみて笑うアイン。
ファントム
「アカネ君に、手を出したんですね」
ヒロト
「……」
アイン
「……あぁ、そうさ! これでアカネ姉さんは俺のものってわけだ」
ヒロト
「それで、アカネ姉さんは喜んだのか?」
アカネ
「……ッ」
アイン
「あぁ、可愛い声だったよとても」
ヒロト
「……アカネ姉さん」
ファントムさんと俺、アカネ姉さんとアインがお互いに向き合う。
アカネ姉さんは先ほどから目を合わせようとしない、
ずっと斜め下を向いたままだ。
ヒロト
「……そうか。フッ」
アイン
「何がおかしい?」
ヒロト
「アカネ姉さんは、優しいからな」
アカネ姉さんに向かって満面の笑みを浮かべて見せる俺。
きっとアカネ姉さんは傷ついただろうが、そんな空気を消し去りたかった。
アイン
「きっ、貴様っ!!」
それに、もしこう言えばアインからどんな返答がくるかを試したかった。
結果的には成功だ、俺が余裕だと思って逆上している。
本当に劣等感の塊のようだ。
アカネ
「ヒロ君……」
ファントム
「ヒロト君、下がっていてください」
俺を手で制し、前に出るファントムさん。
ファントム
「アイン君。……私と決闘してください。
賞品は、アカネ君」
その場にいた全員が驚いた、ファントムさんからそんな言葉が出るとは思わなかったからだ
アカネ姉さんが賞品? もの扱い? そんな言葉が……。
ファントム
「もし、あなたが勝てば私たちは手を引きましょう
アカネ君も好きなようにしてかまいません」
ヒロト
「ちょっと待て、ファントムさん!」
振り向かず手で俺を制したまま、ファントムさんはつぶやく。
ファントム
「ヒロト君、アカネ君を頼みましたよ」
ヒロト
「……えっ?」
ファントム
「さぁ、この賭けに乗りますかアイン君。それとも自信がないのかな!?」
アイン
「面白い、やってやろうじゃないか!
アカネ姉さん、さがってて」
すると、ファントムさんは腰に差していたカタナを俺の方に放り投げ、
俺はそれを受け取る。
まさか、素手でやり合うつもりなのか!?
ゆっくりと、お互いの間合いを詰めるファントムさんとアインの二人。
アインも持っていた剣を地面に突き刺し、素手でやりあうつもりだ。
すると、ファントムさんは懐からキラキラと光る魔石の結晶を取り出した。
瞬間、突撃してきたアインがファントムさんの顔面を殴り少しよろけるが、
二段目の拳をファントムさんが受け止めて離さない。
アイン
「チッ……離せっ!!」
そして……。
ファントム
「黒き闇の扉よ、全てを収縮し、世界の幕をおろせ!」
そう叫ぶと、魔石の結晶は砕け散り、粉末がファントムさんとアインの周囲を覆った。
アイン
「これは!?」
注意がそれた! いまだ!
ヒロト
「アカネ姉さん!」
俺はアカネ姉さんに駆け寄ると、アカネ姉さんを立ち上がらせて抱きかかえ、
その場から離れた。
ヒロト
「ファントムさんも、こっちに……!」
ファントムさんとアインを取り囲んだ黒いマユのような粉末は、少しずつ小さくなっていく。
俺はアカネ姉さんを抱きかかえた状態から、そっと地面におろす。
ファントム
「これは収縮結界、魔石と寿命をエネルギーとした座標魔法
その座標魔法はゆっくりと場を縮めながら迫ってきて、最後は術者ともども
目標を飲み込み、圧殺する」
アイン
「お前、汚いぞ!」
ファントム
「アイン君、貴方の今の戦闘力は私やヒロト君を凌駕する。
私たちではあなたに勝てない。しかし、
アカネ君を守るためなら何でもする……どんな手でも使う。
それが私のやり方です。
アイン君、貴方もそうでしょう。そして、ヒロト君も」
その瞬間、アインからの拳の一撃を顔面に受けるファントムさん、
メガネが割れて飛んでいくが、飛んでいったメガネは結界にぶつかり消滅する。
アカネ
「ファントムさん!」
アインの二撃目の拳を受け流すと、ひじ打ちをアインの顔面に決めるファントムさん。
よろけたアインが後ろにさがるが、収縮結界にぶつかる。
ファントム
「アカネ君……強く、なってくださいね」
振り向いたファントムがにっこりと笑った。
その顔は、先ほどの俺の笑顔によく似ていた。
結界が地面を、すべてを飲み込みその空間ごと消滅する。
残されたのは収縮結界に喰われた、地面だけ。
俺はぽっかりと心に穴が開いたような気持になった。
ファントムさんが……死んだ。
そう確信した。
アカネ
「ファントム……さん……?
こんなのやだよ……そんな……」
ヒロト
「アカネ姉さん、しっかりして……!」
アカネ
「私の所為で……私の……」
ヒロト
「そう思うならなおさらしっかりしてくれアカネ姉さん!」
アカネ姉さんの肩をつかんでゆする。
今にも儚く崩れ落ちてしまいそうなアカネ姉さんの心を引き留めるので俺は必死だった。
俺はファントムさんにアカネ姉さんを任された。
その役目だけは必ずまっとうしなければならない。
絶対に絶対、約束だ。
???
「汚ねぇ花火だなぁ、おい?」
ファントムさんたちが消えた方向とは反対側、俺が歩いてきた森の方角から声が聞こえた。
振り向いたそこに立っていたのは……。
ヒロト
「ミスターK!!」
ミスターK
「あっはっは! あのメガネ死によったんか!? なんだかんだで邪魔やったからのぉ
くたばってくれてありがたいわ!」
アカネ
「……」
まさか、さっきからいたのかこいつ。
ミスターK
「まー、いてもワシが殺してたけどな。
それより、アカネちゃぁん……行くぞ」
アカネ
「……」
ミスターK
「ワシが来い言うたらはよ来んかい!!
殴られんとわからんのかこらぁ!」
アカネ?
「黙れ……」
その場の空気が凍るような感覚がした。
アカネ?
「どけ、ヒロト……」
肩に手を置いていた俺が片手で突き飛ばされ転倒した。
強い殺気を感じる、あの黒い霧も集まってきている。
アカネ姉さんの髪は赤い髪から黒い髪に変わり、ポニーテールのリボンも黒く染まり
和服を着たクロユリに変身した。
クロユリ
「誰が、誰を殴るだってぇ……!?」
ミスターK
「ワシが、お前をや……三賢者! 今や、やれ!」
クロユリ姉さんの足元に紫色の六芒星の魔法陣が現れ、その紫の光に包まれる。
それと同時に姿を現す、三角のフードをかぶったローブ姿の三人。
クロユリ
「!?」
三賢者と、ミスターKは言った。聞いたことがある、共和国の側近であるミスターKの
そばにいる正体不明の三人。フードの中にマスクをしていて顔はわからないが、
その中から赤い瞳がちらついている。
ミスターK
「ふへへ! 動けへんやろぉ?」
クロユリ
「きっ、さま……何を……した!」
ミスターK
「ワシもよーわからんが、束縛結界とかいうやつや
せやろ、三賢者」
三賢者
「さぁ、我らが王よ……今のうちに」
ヒロト
「何が狙いだ! なぜ姉さんを襲う!」
俺はミスターKに剣で斬りかかったが、素手ではじき返され
クロユリ姉さんとミスターKから距離が生まれる
ミスターK
「ワシの目的はなぁ……」
紫の光を放つ結界の中に手を入れ、クロユリ姉さんの谷間の中に手を突き刺す
するとそこから白い光がこぼれはじめた。
クロユリ
「やめ、やめろ……!!」
キラキラとした白い結晶が、クロユリ姉さんの中からはぎ取られた。
よくわからないがこの状況は危険だと感じた俺は剣を右斜め下に構えて
魔法陣とミスターKの間にむかって
右斜め下段から上段、上段から左斜め下段に切り落とし、そして一周回転して薙ぎ払った。
ヒロト
「スラッシュブレイカー!!」
ミスターK
「なんやとぉ!?」
衝撃波が発生して空間が切り裂かれる。
@@@
__ここからはアカネの視点となります__
@@@
ここは私の心の中、『20』『7』『13』の扉のある世界。
その扉が黒い穴に吸い込まれていく。
『13』の私は、扉ごと吸い込まれる前に、部屋から出た。
そこでは、『7』の扉の赤い髪のアカネちゃんが待っていた。
赤髪のアカネ
「アカネちゃん! 大丈夫!?」
アカネ
「う、うん……」
赤髪のアカネ
「それより大変なの! クロユリちゃんが出てこないの!」
クロユリ……。私をずっと苦しめてきたあの子だ。
そんなの、放っておけばいいのに、どうしてこの子は助けようとしてるの?
アカネ
「なんで……助ける必要があるの?」
赤髪のアカネ
「だって、あの子も私なんだよ!?
助けないと!」
そんなの、お人よしすぎるよ……。私には怖くてできない、きっとそんなことをしたら……。
そう思っていたら『20』の部屋の扉が開いた。
そこから出てきたのは血まみれの鬼の形相をしたクロユリだった。
赤髪のアカネ
「大丈夫!?」
クロユリ
「お前だ、お前らの所為だ!!
こんな、こんなことしてただで済むと……」
そう叫んだクロユリは、後方から迫ってくる黒い穴に吸い込まれそうになっていた。
赤髪のアカネ
「お父さんは、私たちを生んだお父さんは力を必要としてる
クロユリちゃんは、あなたを必要としてる」
アカネ
「えっ……」
クロユリ
「くっ、こんな……ことなら、お前をもっと早く……取り込んで喰らい潰しておけば!」
赤髪のアカネ
「そんな怖いこと言わないの!」
クロユリ
「どうして私ばかり!!
……アカネ! お前は道連れに!」
血まみれの手で私を引っ張ろうと手を伸ばしてくるクロユリ。
怖い……怖くて足が動かない。
赤髪のアカネ
「ほら、私がついていくから!」
私の黒いポニーテールの髪がバサバサと
黒い穴から吸い込む風に揺れる。
アカネ
「えっ……。あなたがついていくの……?
怖く、ないの?」
赤髪のアカネ
「怖いよ……でも、必ず迎えに来てくれるから」
アカネ
「ちょっと、待っ……」
クロユリの手を握り、抱きしめている7歳の赤髪のアカネに手を伸ばすと
バシッと、その手をはじかれた。
赤髪のアカネ
「ヒロ君を、お願いね。
それから必ず迎えに来てね、信じ……から……」
最後まで言葉を言わずに、クロユリと赤髪のアカネが三つの扉と一緒に
黒い穴に吸い込まれていった。
すると満足したように、黒い穴は閉じて消滅した。
@@@
えっ、何? ここは?
周囲には三人の三角のフードをかぶった魔法使い?
それに右側には剣を構えた男の子。
正面には……私の絶望そのものを体現した人がいた。
アカネ
「お父さん……!」
恐怖で足が震える。そんな私をよそに白く光る結晶を握りしめたモチヅキ・カズオがいた。
ミスターK
「うひ、うひっひ! これさえあれば……この巫女の結晶さえ……。
あ? いつまでこっち見てんだよアカネぇ!!」
お父さんのいつもの蹴りが飛んでくる、私にはわかる。
思わず声がもれた私はその一撃を耐えようと目をつぶり歯を食いしばった。
ヒロト
「アカネ姉さんあぶな……」
剣を捨てた男の子が、ヒロトが私をかばって蹴られ
そのまま吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた先にはベッドがあったため、ベットごと壁に激突する。
衝撃はベッドがクッションの役割を果たしてくれたおかげで
私は怪我をしなかった。でも、この目の前の、ヒロトは?
アカネ
「ヒロト……!? ヒロト!」
応答がない、脇腹に思い切り前蹴りを受けたみたいだ。
遠くから声が聞こえてくる。
ミスターK
「もうここに用はない、帰るぞお前ら」
三賢者
「ははっ、我らが王よ」
遠くに見える四人の姿が、一瞬にして消えた。
それより。
アカネ
「ヒロト!」
ヒロト
「大丈夫、だよ……アカネ姉さん。
俺はそんなにヤワじゃ……」
ガクリと首をもたげるヒロト。
アカネ
「な、なんとかしないと……なんとか!!」
夕焼け空がすごく残酷に見える。
この場所、雨や風はしのげるかもしれないけど
獣はしのげないと思う。
このままじゃ、明日が来る前に私たち動物に食べられちゃう!
逃げなきゃ、でもヒロトを置いていくの……?
そんなことできない、だってこの人は……
この人は、何? 義理の、弟?
違う、それはファントムさんが……ファントムさん?
………。
でも、それでも私……。
血のつながりがなによ、関係ないじゃない!
逃げなくちゃ、二人で……早くここから!
ヒロトの体を抱える、すごく重い……。
わかってるけど、わかってるけど……。
アカネ
「わっ……!」
そう思っていたら、足元に落ちている棒状のものに足を引っかけてしまった。
これは、日本刀?
そうだ、ファントムさんが使ってた日本刀だ。
何かの役に立つかもしれない。
刀に巻き付いてる帯を引っ張って
そのまま森の奥に引きずっていった。
@@@
だんだん森の中が暗くなる、けど
無謀だってわかってるけど進むしかない。
もしかしたらヒロトが途中で起きて助けてくれるかもしれない
もしかしたら、もしかしたら……。
そう思っていた時だった、周囲から感じる視線。
野犬だと思う……しかも、かなり多い。
のそのそと茂みから出てくるその野犬だと思っていたモノは
体中にトゲの生えた不気味な魔物だった。
私はその姿を見て、怖くて膝をついた。
じっと、周囲から感じる視線はさらに数を増していく。
アカネ
「た、たす……けて……」
魔物
「グルルルル……」
あ、そうだ……刀がある
刀があるけど、わ、私じゃ使い方もわからない。
気を失ったままバタリと倒れるヒロト。
怖くて動けない私。
次の瞬間、野犬の群れは一斉にむかってきた。
アカネ
「助けて誰かぁっ!!」
魔物
「ガアアアァ!」
両手を交差させ、目を閉じ、絶望を待つしかない。
目を開ければきっと私はもうバラバラに……。
だが、次に目を開けると
悲鳴とともに、魔物たちは逃げて行った。
筋肉質の男の人と、剣や鉄砲を持った人たちがいる。
ロディ
「こんなところでお散歩かい、アカネさん。
ヒロトも、寝てんじゃねぇよ……自分の女ぐらい自分で守れって……」
アカネ
「……」
私は目の前が真っ暗になった、恐怖から解放された気がした。
状況も、何もわからないまま。
第8話 ファントム・アイン 終