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ユグドラシルストーリー  作者: 森のうさぎ
7/19

第7話 三人のアカネ


ヴィントカイザーの変身が解けたヒロトは治療のため

医務室に運ばれた。


ファントムはこの事態を重く見ていた。

ロディは防衛が成功したことを喜んだが、内心では良くは思っていなかった。



……俺は、死んだのか?

いや、考えることができるということは死んではいないみたいだ。

ゆっくりと目を開けると、俺の左手を握りしめて少女のように泣いている赤い髪の女性がいる

アカネ姉さんだ。


ヒロト

「アカネ、姉さん……」


アカネ

「ひ、ヒロ君!」


涙をボロボロと流しながら俺の手を握りしめているアカネ姉さん。

なぜ泣く必要がある?


アカネ

「ごめんなさい、ごめんなさい……」


体中が痛い。そうだ、たしか俺はアーマーギアで戦って

クロユリ姉さんにボコボコにされたんだったな。


ヒロト

「アカネ姉さん、泣かないで……大丈夫だから」


アカネ

「大丈夫じゃないよ! こんなになって……」


ふと自分の体を見てみる、包帯だらけで

ところどころに血が付着している。


医者

「お嬢さん、これを使って手伝ってください」


アカネ

「……はい」


医者とアカネ姉さんが魔石をもって傷口にヒールの魔法をかける。

青い光が優しく傷を癒してくれる。

とても、暖かい。

壁にかかった時計を見る。朝の6時だ。


医者

「少し辛いかもしれませんが、そのままの状態でヒールをかけ続けてください」


アカネ

「わかりました」


アカネ姉さんの手の感触、やわらかくて暖かい。

傷があり、出血してるにもかかわらず、俺は痛みを忘れていた。


目を閉じる。


あの時、クロユリ姉さんは泣いていた。

あれはクロユリ姉さんの涙だったのか、それとも黒髪のアカネ姉さんの涙だったのか?


俺にはわからなかったが、今こうして生きているのは確かだ

そしてアカネ姉さんも無事。

それ以上に何を望む?



目を開ける


アカネ姉さんはずっと同じ姿勢のままヒールの魔法をかけ続けている。

時計を見る、昼の12時だ。


まさか、ずっとその姿勢で?


傷口はもう治りかけている。

それよりアカネ姉さんが心配だ。


ヒロト

「アカネ姉さん、もう大丈夫だ ありがとう」


そっとベッドから起き上がる。

まったく痛くないといえば嘘になるが、傷はほとんど治癒されたようだ。


アカネ

「ヒロ君……」


ヒロト

「ほら、そんな悲しい顔しないでくれ。アカネ姉さん。

 もう大丈夫だから」


血で汚れた包帯を自分で外す。

体に外傷はほぼなくなっている。


ヒロト

「アカネ姉さん、俺はそんなにヤワじゃないよ

 前にも言ったろ?」


アカネ

「……私、最低だね」


ヒロト

「なんで?」


アカネ

「大切な人に、こんなことして……」


ヒロト

「自分が何をしたのか覚えてるの?」


アカネ

「ほんの少しだけ……」


ヒロト

「証拠不十分だな」


アカネ

「えっ?」


体の傷より、痛みより

アカネ姉さんの涙を見るのが俺は一番つらい


ヒロト

「俺の傷はアカネ姉さん以外のヤツにつけられた可能性もあるってことさ」


アカネ

「でも…っ!」


ヒロト

「だから、アカネ姉さんは悪くない」


ぎゅっと、アカネ姉さんを抱きしめる。

無言になる俺とアカネ姉さん。


そこへロディが医務室の扉を開けて入ってくる。


ロディ

「ヒロト、けがの具合は……」


俺は慌ててベッドに横になる

アカネは気まずそうに姿勢を正して椅子に座る。


ロディ

「あー、タイミングが悪かったな、すまん」


ヒロト

「いや、いいさ。それよりどうしたんだ?」


ロディ

「今回の防衛戦、二人のおかげで助かった。

 だから礼を言いに来たのさ。

 それに街ではちょっとした噂になっててな」


ヒロト

「噂?」


ロディ

「二人で外に出て見りゃわかるさ」


俺はベッドから起きると、体の調子を確認する。

肩と脇腹が少し痛むぐらいで、他は大したことはない。


緑のロングコートを着ると、アカネ姉さんを連れて

ホワイトガーディアンズの本部から外に出た。


 @@@


外に出た俺とアカネ姉さんを待ち構えていたのは

ホワイトガーディアンズの団員達や市民たちだった。


団員A

「おお、英雄の登場だ!!」


いきなり大勢の団員や市民に取り囲まれる俺とアカネ姉さん。


少年

「黒い霧で共和国のやつらをやっつけてくれたのってお姉ちゃんだろ!?

 すごいぜ!」


アカネ

「え……」


おばあさん

「家が襲われた時、あの黒い霧がなければ、あたしゃとっくにあの世行きだったわ」


アカネ

「ちょっと、待っ……」


団員B

「変身ヒロインっていうのはあなたのことだな!

 俺たちの女神様だぜ!」


フードをかぶった男

「素晴らしい力だ……」


ヒロト

「……」


どうやらみんな、何か勘違いしてるみたいだ

アカネ姉さんは困った顔をしている。その表情は涙すら浮かべ始めた。


団員C

「まさに英雄だな!」


様子がおかしい、アカネ姉さんの目の色が黄色から茶色に変わり始めている。


アカネ

「違う、違うっ! 私は凄い人じゃない! やめて!

 これ以上、もう……いじめないで!!!!」


俺は気が付いたらアカネ姉さんの腕をつかんで引っ張り

集まってきていた大衆の間を蹴散らしながら路地裏へと引っ張り込んでいた。



 @@@


路地裏に到着すると、俺はアカネ姉さんから腕を離した

するとアカネ姉さんの髪の色が黒に染まる。

まさか、クロユリ姉さん……。

振り向いたその目は赤ではなく茶色だった

髪は黒、目は茶色。その瞳には涙を浮かべている。


アカネ

「……」


泣いている。アカネ姉さんが泣いている。


ヒロト

「アカネ姉さん……」


一歩近づくが、その一歩だけで怯えるアカネ姉さん。


アカネ

「嫌……来ないで!! 乱暴しないで……お願い、お願いだから……」


ヒロト

「アカネ姉さん……?」


この感覚どこかで感じたことがある

そう、あの夢の中の『13』の部屋にいたアカネ姉さんにそっくりだ。


頭を両手で抱えて、うずくまって泣くアカネ姉さん。


アカネ

「ごめんなさい……許して、許して……!」


俺の後ろから誰かがゆっくりと歩いてくる、

振り返るとそこにはファントムさんが真剣な表情で立っていた。


ファントム

「やはり、長くは持たないんですね……」


ヒロト

「ファントムさん、これはいったい……」


ゆっくりと近づくファントムさん。


ファントム

「アカネ君、私だよ。覚えているかい?」


アカネ

「……ファントムさ、ん……」


子供のようにファントムさんに抱き着くアカネ。

ファントムさんはアカネの頭をとても優しくなでる。


ファントム

「よしよし、怖かったね……もう大丈夫だよ」


状況が呑み込めない、どうなってるんだ?


ヒロト

「ファントムさん」


アカネ

「……その人、だぁれ?」


えっ……俺を、覚えてないのか?


ファントム

「彼はヒロト、君の義理の弟だよ。君を守りに来てくれたんだ」


アカネ

「弟?」


ファントム

「あぁ、そうだ。君のピンチに駆けつけてくれたんだ」


アカネ

「……ひろと?」


ヒロト

「あぁ、俺だよ。アカネ姉さん」


疑心暗鬼なアカネ姉さんは、少しおびえた様子だが

先ほどよりはマシのようだ。

右手をゆっくりと差し伸べてくる。


俺もそれに対して右手をそっと差し伸べ、握手をした。

すると、アカネ姉さんはニッと軽く笑って


アカネ

「ヒロト!」


ヒロト

「……なんだい、アカネ姉さん?」


アカネ

「……ヒロト、ヒロ……ト……ぐぅ」


眠ってしまったようだ。俺は疑問だらけになった。

なぜアカネ姉さんは一つの体に三人も存在するのか

こんなに苦しんでいるのか。

そして、ファントムさんは俺に何か隠し事をしている。


ヒロト

「ファントムさん、説明してもらいましょうか……」


かすかに怒りのこもった口調で言う。


ファントム

「ヒロト君、覚悟はできましたか」


ヒロト

「ああ、とうにできているよ……事と次第によっては」


ファントム

「……見事な覚悟です」


まずは話をする前にアカネ姉さんを部屋に連れて行こうという話になったので

アカネ姉さんの部屋にファントムさんがアカネ姉さんをお姫様抱っこで

抱えて、そっとベッドに寝かせる。アカネ姉さんの髪の色は黒から赤に変わり

俺はファントムさんの部屋に案内された。


ヒロト

「それで、まずアカネ姉さんが三人いる理由を聞かせてほしい」


ファントム

「多重人格であるという説明は、もうされましたね?」


ヒロト

「ああ」


ファントム

「アカネ君は、かなり長期間にわたる虐待を受けていたようです」


ヒロト

「虐待……」


ファントム

「おそらく、ほぼ毎日ですね。私が保護した時もかなり錯乱していました」


ヒロト

「ミスターKか!」


ファントム

「あの男がアカネ君の父親なら、そういうことになります。

 あのままの精神状態なら心が壊れてしまう。そう思った私は

 アカネ君に魔水晶の欠片を使って記憶を封印しました」


ヒロト

「記憶の封印、消すのではなくて?」


ファントム

「記憶というのは、消えることはなく永遠に残り続けるものなのです

 それが上書きされ薄れていくことはあっても……」


ヒロト

「それで……?」


ファントム

「記憶の封印を施したと同時に、新たなアカネ君の人格が副作用で生まれてしまったんです。

 それが、黄色い瞳と赤い髪の_あのアカネ君_なのです」


ヒロト

「…!? じ、じゃあいつものアカネ姉さんは……」


ファントム

「はい、7年前に生まれてしまった偽物の人格です」


赤髪のアカネ姉さんが偽物!?

本物のアカネ姉さんが黒髪の……。


ヒロト

「じゃあクロユリを名乗ってるアカネ姉さんは?」


ファントム

「あれはすべての記憶を持っているアカネ君……_壊れてしまった_アカネ君です」


じゃあ何故、自分の名前を偽る!?


ファントム

「彼女がクロユリと名乗っているのは、おそらく全ての他人への復讐のためでしょう

 花言葉ですね」


ヒロト

「俺に全てを託すといった理由は?」


ファントム

「言葉通りです。アカネ君を救えるのはあなたしかいない。

 私はサクラさんを元の世界に戻そうとしたときに顔に傷を負い

 老化が早くなる不治の呪いにかかりました。

 アカネ君を守り続けることはできないと……。

 そして、私の本当の名前は ユカリノ・ヒロト

 ファントムというのは偽名なのです」


……は?


ヒロト

「ちょっと待ってくれ、ファントムさん

 ユカリノ・ヒロトは 俺のはず……」


ファントム

「ヒロト君、貴方は私がアカネ君を守るために作った二番目のコピーなんですよ」


……どういう、ことだ……。


ファントム

「私はサクラさんを救えなかった時に名前を捨てました。

 だから亡霊<ファントム>と名乗るようにしたのです」


二番目ということは……。


ヒロト

「二番目ということは、一番目のコピーがいるのか?」


ファントム

「一番目のコピーは失敗したので、私がこの手でほうむりました」


ヒロト

「そんな、まるでゴミを処理するように……」


ファントム

「そうせざるを得ませんでした、彼はアカネ君を壊してしまう可能性がありましたから」


そんな話をしていたら、部屋の扉の向こうでガタンと走り去る音がした

俺は反射的に扉を開けて外を見ると、アカネ姉さんがその赤い髪のポニーテールをゆらゆらと

ゆらしながら走り去っていく後ろ姿が見えた。


ヒロト

「アカネ姉さん!!」



 @@@


急いで後を追う俺だった、走って、走り続けた。

アカネ姉さんの姿を見失って、それでも探し続けた。


その時だ、フードをかぶった男とアカネ姉さんが何かを話していた。

そっと隠れて、話を盗み聞きする。


フードをかぶった男

「アカネ姉さんの近くにいるあのヒロト、あれこそが偽物なんだ」


アカネ

「あなたは、誰?」


フードをかぶった男

「俺だよ、姉さん」


男はフードをとると俺そっくりだった。

_一番目のコピーは失敗したので_


まさか……!!


ヒロトコピー

「さぁ、一緒に行こうアカネ姉さん」


アカネ

「……」


隠れていた場所から飛び出す俺は、アカネ姉さんの名前を叫んだ


ヒロト

「アカネ姉さん!」


ヒロトコピー

「ほら、あれが偽物だ」


アカネ

「ヒロ君……」


ヒロトコピー

「さぁ、目を閉じて」


そのコピーは魔水晶の欠片をかざすとアカネ姉さんを連れて

その場から消えた。



 第7話 三人のアカネ 終

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