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ユグドラシルストーリー  作者: 森のうさぎ
6/19

第6話 奇襲する巨人


オリハルコンの街、ホワイトガーディアンズ本部での夜。

あの時と同じく部屋を貸してもらった俺たちは

ゆっくりとつかの間の平和を堪能たんのうしていた。


俺はカードキーとやらで部屋の扉を開け、ソファーに腰かける。


今回は俺が207号室。アカネ姉さんは208号室。ファントムさんは209号室だ。


俺がこうしている間にも、ロディは作戦会議をしてるんだろう。

緊急の作戦会議と言っていた。なんとなく、嫌な予感がする。


俺が第一に心配するのはアカネ姉さんのことだ。

今は落ち着いてるとはいえ、いつクロユリを名乗るアカネ姉さんに変身するかわからない。


気になった俺は、アカネ姉さんのいる208号室に足を運んだ。


扉をノックして声をかける。


ヒロト

「アカネ姉さん、いるか?」


扉の向こうからアカネ姉さんの声がする。


アカネ

「はーい、いま出るね」


扉が左右に音を立てて開くと、元気そうなアカネ姉さんが顔を出した。


アカネ

「どうしたの、急に?」


ヒロト

「いや、どうしてるかなって思ってさ」


アカネ

「そうなんだ。あ、よかったら入って

 お茶いれるから」


アカネ姉さんのおもてなしを受けることにした俺は

部屋へと入った。


入った奥の正面に洗面所、左側に扉……おそらく風呂場だろう。

右にまがればソファーとテーブル。そして大き目のベッド。


壁にはウィーアー・ザ・ファミリーと書かれている。


アカネ

「まぁまぁ、座って座って!」


言われるままにソファーに腰かける俺。

アカネ姉さんが暖かい緑茶をコップに注ぐ。


アカネ

「すぐ飲むとやけどするかもだから、少し冷ましてから飲んでね。


ヒロト

「ああ、ありがとう」


ニコニコと笑うアカネ姉さん。


アカネ

「さぁて、お客さん。ご用件はなんですか?」


別に用事があったわけじゃない。

もっとも、心配しているということが用事になるなら話は別だが。


向かい側のソファーに腰かけるアカネ姉さん。

ふと、疑問に思ったことを聞いてみる。


ヒロト

「アカネ姉さんは、医者から多重人格だって診断されたが

 自分で覚えはないのか?」


アカネ

「……うーん、自分でもよくわからないけど

 もしその話が本当だったら、私が昔の記憶がないことに辻褄つじつまがあうよね」


そうだ、そうだった。

アカネ姉さんは盗賊に襲われたところをファントムさんに助けられたらしいが

それ以前のことを覚えてないといっていた。


仮説として、もし盗賊に襲われる前のアカネさんがいて、

その後に助けられた後、ショックか何かで記憶を失っていたならたしかに合点がてんがいく。


ヒロト

「黒髪のアカネ姉さんに、俺は会ったことがある」


アカネ

「……?」


ヒロト

「片方はとても臆病な性格で、もう片方はとても好戦的なアカネ姉さんだ」


アカネ

「なにを言ってるの?」


ヒロト

「俺はもう、三人ものアカネ姉さんに会ってるんだよ」


二人は黒髪だった、でもなぜ今俺の目の前にいるアカネ姉さんは赤い髪をしているんだ?

それがどうしても疑問でしかたない。

人格が変わると髪の色まで変わるなんて。

まるで魔法だ。


ヒロト

「臆病なアカネ姉さんのことはよくわからないが、

 好戦的な方のアカネ姉さんは自分のことをクロユリと名乗ってた」


アカネ

「……」


ヒロト

「凄まじい強さだった、ミスターKすらしのぐほどの……」


アカネ

「ねぇ、その話 やめない?」


ヒロト

「どうして?」


アカネ

「私が聞きたくないから……それじゃ理由にならない?」


ヒロト

「アカネ姉さん、多少辛いかもしれないけれど

 自分と向き合わないとダメだよ。

 逃げることも大事かもしれないけれど、自分からは逃げられないから」


アカネ

「やだな……なんか、ヒロ君。ちょっと怖い」


ヒロト

「俺だってこんなことは言いたくないよ。でも、それだけ重要な話だよ」


アカネ

「私だって、怖いよ。

 私が目の前の現実から逃げようとしたら、_臆病者_って誰かの声が聞こえてくるんだ」


やっぱり、そうか。


アカネ

「それから、気が付いたらベッドで寝てたり、よく覚えてなかったり……

 自分で何をしたのかわからないのが怖いよ」


_あれが、貴方に全てを託す理由です_


あの声は、きっとファントムさんの声だったんだろう。

俺はあの殺人現場にいた、それをファントムさんがこっそり助け出したんだろう。

あくまで仮説にすぎないが……。


ヒロト

「共和国の兵士をバラバラにした

 黒髪の赤い目をしたアカネ姉さんを、俺は目撃してる」


アカネ

「!?」


ヒロト

「俺は、アカネ姉さんを守りたい。

 どんな敵、誰が敵であろうと……。

 そのためには、アカネ姉さんのことをもっと知りたいんだ」


アカネ姉さんがいれてくれた緑茶に手を伸ばし、少しだけ飲むと

俺はお茶を受け皿に置いた。


あの時、ファントムさんに真実を知る覚悟を問われた

もしかしたら、アカネ姉さんを守る覚悟のことを問われていたのかもしれない。


アカネ

「私は、私だよ?」


ヒロト

「あぁ、それはわかってる」


アカネ

「もし、その黒髪の赤い目の私が本当に私だとしたら

 私は人殺しっていうことになるんだけど……そういうことなのかな?」


ヒロト

「……あぁ」


アカネ

「アダマントの街でロディさんたちに迷惑をかけたのも私ってことになるよね?」


ヒロト

「……」


アカネ

「そっか、私の所為なんだ……」


ヒロト

「別にアカネ姉さんを責めてる訳じゃない、そんなことはどうでもいいんだ」


アカネ

「よくないよ! だってそれじゃあ、私がみんなを振り回してることになる!

 迷惑をかけてることに、なるよ……」


ヒロト

「それを承知しょうちの上で、俺はアカネ姉さんを守りたいんだ!!

 危険から遠ざけるんじゃない、アカネ姉さんに強くなってもらいたい……

 その時、自分にできることをしてほしいんだ!」


アカネ

「私に、できること……」


ヒロト

「だから、そのために俺はきっと……」


ドンッ、と大きな音と共に部屋全体が振動する音が聞こえた。


驚いた俺とアカネ姉さんは響き渡る警報音に耳を傾けた。


「緊急警報、緊急警報、共和国の大部隊がオリハルコンに接近中。

 ホワイトガーディアンズ団員は至急出撃されたし、繰り返す……」


ヒロト

「共和国!?」


アカネ

「大部隊が接近って……」


ヒロト

「俺、剣をとってくる。アカネ姉さんも市民の避難誘導を!!」


アカネ

「う、うん!」


アカネ姉さんの部屋の扉を開けるとファントムさんが迎えに来ていた


ファントム

「ヒロト君、アカネ君も一緒でしたか!」


ヒロト

「ファントムさん、俺はヴィントカイザーで出る!

 アカネ姉さんと一緒に避難誘導を頼む!」


ファントム

「いえ、相手はアーマーギアだけではありません歩兵や重装歩兵もいます。

 アカネ君、あなたはこの部屋から出ないように!」


アカネ

「えっ、で……でも!」


ファントム

「あなたに、人を殺すことができますか?」


アカネ

「……それは……」


ファントム

「アカネ君、残念ながら貴方が思っているほど

 世界というのはキレイじゃないんです。

 さぁ、ヒロト君。早く!」


ヒロト

「はい!」


俺は自分の部屋に戻り、あの黒い剣を背中に背負うと

大急ぎで外に出た。



 @@@


すでにオリハルコンの街には敵の歩兵が入り込んでいて

剣や弓で団員と交戦している。

中には魔石で魔法の炎を出して団員を焼き殺している共和国兵もいた。


俺は外に出るなり、黒い鎧を身にまとった共和国兵とすれ違った

その瞬間を逃すはずはない、一歩踏み込んだ状態から剣を横に一閃。

共和国兵士の上半身が宙を舞う。


そして俺はアーマーギア同士がつばぜり合いをしているのを目撃する

片方は紫のホワイトガーディアンズ、もう片方は共和国のあの青いアーマーギアだ。


ヒロト

「ヴィント、カイザー!!」


俺は剣をかざしてその名を叫ぶと、上空に魔法陣が現れ、その中から

緑色のアーマーギア、ヴィントカイザーが召喚されてくる。


俺の体は剣の目に吸い込まれ、ヴィントカイザーのコア部分である胸に入り込んで同化する。

赤いマントをたなびかせながら敵の侵入してきた方角をにらみつける。

左腕に盾を召喚し、竜巻の中から一本の大剣を作り出す。


敵は、共和国のアーマーギアのみ。

そう念じると、周囲にいる青いアーマーギアの姿が赤く点滅するのが見えた。


こちらを見つけた敵の青いアーマーギアが剣で斬りかかってくる。

その斬りかかってきた一撃を、懐に飛び込み盾で受け止め、大剣を持った拳で

アッパーをくらわせる。

勢いよく倒れた青いアーマーギアの腹の部分を踏みつけて、大剣でトドメをさした。


それと同時に雨のように大量に飛んでくる弓。盾で顔面を守りつつ

今、倒した青いアーマーギアを剣で刺したまま、弓を持った青いアーマーギアの一団に

投げつけると、弓を持っていた青いアーマーギアに激突し体制が崩れた。


体に力を感じる……。ヴィントカイザーの動きが、前に変身したときより軽い!

弓の攻撃を盾で防ぎながら敵のアーマーギアに切りかかる。

一体目を剣で両断し、二体目を薙ぎ払いで二分割し、三体目は刺殺する。


四体目のアーマーギアがこちらに弓を構えた瞬間、その弓を構えた腕がコマのように回転してきた

人の姿をした物体に綺麗に斬られた。


その人の姿をした物体は青いアーマーギアの顔に蹴りをいれると、その顔が真っ二つに切れて

絶命した。


その人の姿をした物体は、ロディだった。


ロディ

「お前、ヒロトだろ! 動きでわかるぜ!」


ヴィントカイザー

「ロディ、あんた生身で……」


ロディ

「それより敵の数が多い、気を付けろよ!」


ヴィントカイザー

「あぁ! あんたもな!」


お互いに二手に分かれる俺とロディ。

いたるところで戦火が上がっている。

足元にはもう誰かもわからない団員や共和国兵士の死体も多数転がっている。


そこへ飛んでくる砲弾。

俺の横をすり抜けた場所で爆発する。


正面に居るのは、大筒を構えた茶色のアーマーギア。

雰囲気でわかる、こいつは強い。


ズドン、ズドンと二発の弾丸が大筒から発射され

俺は左肩を相手に向け、足も斜めに構え左右に回避する。


どうやら今ので弾切れらしい、茶色のアーマーギアは大筒を投げつけて

右手の平に持っている魔石の結晶を握りつぶすと

そこから炎に包まれた斧が現れた。


魔法の炎が付与された斧、盾で防げるか?

防げないことはないだろうが、おそらくダメージは入ってしまうだろう。


茶色のアーマーギアは俺を標的に定めて、向かってくる。

その炎の斧を剣で受け流す。直撃はまずい。


ヴィントカイザー

「こいつ!」


激しい剣戟の中、

茶色いアーマーギアは戦いながら話しかけてきた。


アスタール

「俺の名はアスタール」


ヴィントカイザー

「キサマの名前などどうでもいいんだよ!」


アスタール

「覚えておいてもらわないとこまるねぇ、これからお前は

 このアスタール様に焼き殺されるんだからよぉ!」


アスタールと名乗ったアーマーギアが炎の斧でじりじりと

俺を追い詰めようとしてくる。

普通の闘い方じゃダメだ……どうする……。


そう思った時、あのロディとの戦いを思い出していた。

あのブーツのようなスライディングができれば……。


ヴィントカイザー、またの名を風の帝王……なら

風を操ることもできるはず_風のようになることもできるはず_


アスタール

「死ねぇ!」


アスタールが炎の斧で俺の首を狙ってくるその一撃を

体をのけぞらせて回避する。


アスタール

「なんだぁ、倒れるのかぁ?」


天と地が逆転する、バク転だ。

それだけじゃない、蹴りあげのおまけつきだ。

アスタールはそれに気づかず、アゴに俺の蹴りを受ける。

天と地が再び元に戻った俺はアスタールに対して風をまとった両足でスライディングした。

よろけたアスタールが正面を向いたころには、すでに俺はゼロ距離。

アスタールの左足を払い、転倒させる。

転倒したアスタールが起き上がろうとするが、その上から背中を足で踏みつける。


アスタール

「ま、待て……変身を解く、命だけは……」


ヴィントカイザー

「黙れ、ミスターKの飼い犬ッ!!」


剣でアスタールの背中を貫き地面に串刺しにする。

叫び声と出血とともに、アスタールは絶命した

足でアスタールの死体を蹴り、剣を引き抜く。


まだ戦闘は終わっていない、周囲を見渡す

すると、よく見ればアカネ姉さんがホワイトガーディアンズの支部の出入り口に立っていた。


アカネ

「……私にできること、みんなが戦ってるのに

 苦しんでるのに、安全なところで見てるだけの私……」


ヴィントカイザー

「あ、アカネ姉さん!?」


 _臆病者の仲間はしょせん臆病者_


 _お前には何もできないんだよ_


 _だったら壊してしまおう、あの男の臭いのするものすべて_


 _そして気に入らないあの小僧も_


アカネ

「うぅ……ッ!!

 嫌、私……人殺しなんてしたくない!

 やだ! やだぁああ!!」


その瞬間、凄まじい殺気とアカネの周りを囲む黒い霧。

アカネの髪は赤い色から黒い色に変わり、衣服は黒い着物

リボンも黒いリボンに変わり、姿を変えた。


アカネはその時、クロユリになっていた。

クロユリの背中には黒い翼のように霧が飛び交い

そしてその黒い霧を飛ばすように右手を薙ぎ払い、

そして左手も再び薙ぎ払う。


共和国のアーマーギアだけ、共和国の兵士にだけ黒い霧がまとわりつく。


共和国兵士

「なんだ、この霧は」


クロユリ

「死……ね……」


怒りに満ちた真っ赤な瞳で両手を握りつぶすと

共和国兵士やアーマーギアが、ねじれたタオルのように潰される。

「ぐぎゃぁ!!」と叫び声がいたるところから響き渡った。


たった一瞬、一回の動作で

共和国のアーマーギア部隊と歩兵部隊が全滅した。


ホワイトガーディアンズの人々は何が起こったのか状況が理解できないまま

浮遊している黒い翼の生えたクロユリを見る。


そして、クロユリは俺を見てニヤリと笑った。


クロユリ

「お前は特別だ、私の手で直々に殺してやる!!」


目にも止まらない速度で俺に体当たりしてくるクロユリ

俺は壁まで吹き飛ばされ激突する。


ヴィントカイザー

「がはっ!」


今の一撃で肋骨が折れた。

ただの一撃で、アーマーギアに変身しているにもかかわらず。


クロユリ

「不愉快なやつ……」


黒い霧がクロユリの右手に集まり、長いムチに変化する。

バチンバチンと激しい音を立てて、そのムチで俺はクロユリに殴られる。


ヴィントカイザー

「アカネ姉さん……ッ!」


クロユリ

「私を更生させようなんて、少しでも考えてるところが……」


バチンバチンとまたしなるムチが装甲を傷つけ叩きつけていく。


クロユリ

「むかつくんだよ!!」


ヴィントカイザーの装甲、俺の体がボロボロになっていく。

俺は、反撃する気はない……。


クロユリ

「……なぜ反撃しない」


ヴィントカイザー

「できるわけ、ないだ、ろ」


壁を背に出血しながらしゃがみ込む俺。

ガシャンと音を立てて尻もちをつく。


ヴィントカイザー

「クロユリ、そう名乗ってるけど

 その名前を付けたのもアカネ姉さん本人だろ……

 ならあなたもアカネ姉さんだ」


クロユリ

「減らず口を……!!!」


ムチを振り上げるクロユリ。

だが、その瞳からは涙がこぼれ落ちていた。


クロユリ

「え……なんだ、これは……私は泣いてなど」


ヴィントカイザー

「アカネ姉さん」


クロユリ

「不愉快だ……不愉快だ……っ!」


ゆっくりと地面に降りるクロユリは、スッと消えるようにアカネに戻った。

黒い翼も、ムチも、黒い霧もない。


ただそこにいるのは、膝をついて両手を顔に当てて泣いている赤髪のアカネだった。


重症で動けないヴィントカイザー、泣き崩れるアカネ

沈黙が、静寂が……周囲を包み込んだ。

あの時のように……。



 第6話 奇襲する巨人 終

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