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ユグドラシルストーリー  作者: 森のうさぎ
5/19

第5話 夢の中で


ここは、どこだろう?

真っ暗な闇の中、闇の海に沈んでいく。


俺はどこにいるんだ?

闇の海の底が見えた。そしてその場に着地する。


体が思うように動かない。

何倍もの重力がかかっているようだ。


ぼんやりと、目の前に三つの扉が現れる。

これは夢の中なのか?

あまりにも唐突とうとつすぎる。


あぁ、そうか。

おそらく、これはアカネ姉さんの夢の中だ。

夢というよりは意識の中という表現が正しいのかもしれない。


左の扉から『20』『7』『13』と書かれている。


『20』の扉はかなり古ぼけていて真っ黒だ。


『7』は兎の絵の描かれた白い扉


『13』は兎の絵の描かれた青い扉


左の『20』と書かれた扉を開けてみるか、と思い

開けようとするが、カギがかかっているのか開かない。


仕方なく断念した俺は、『7』と書かれた中央の扉を開いてみた。


そこには赤い髪の小さな女の子がいた

服装は白いワンピースに、頭には麦わら帽子をかぶっていて部屋の中は花畑になっている。


赤い髪の女の子

「あっ、ヒロ君だ!」


ヒロト

「……え?」


アカネ?

「さっきはびっくりしたね

 あの子が出てくるなんて」


ヒロト

「あの子?」


アカネ

「ほら、カギのかかってる部屋の子」


『20』と書かれたあの部屋か。


ヒロト

「君は、アカネ姉さんなのか?」


アカネ

「もー、何言ってるのいまさらぁ~」


おかしい、俺の知っているアカネ姉さんは

こんなに子供じゃない、どう見ても年齢が7歳ぐらいの……。


7……『7』


言葉に詰まる。

このアカネ姉さんは7歳のアカネ姉さんなのか?


…………!?


ふと気づくと、俺は扉の前まで戻されていた。

今のは幻覚? 目の前にはやはり三つの扉が仁王立ちしていた。


『20』『7』『13』


番号の割り振られた扉が、再び俺の前に立ちふさがる。

『7』の扉には入ったはずだ、今度は『13』の扉を開けようと

扉の前に立った。


すると、_助けて_とつぶやく声が扉の中から聞こえてくる。

だが、扉はまるで俺を拒むように開かない。


アカネ

「無理だよ、ヒロ君だけじゃその扉は開かない」


ヒロト

「どうすればいいんだ?」


アカネ

「私が声をかけてみるね。

 おーい、聞こえるかな? 『アカネ』ちゃん!

 私だよ~」


ヒロト

「アカネ……?」


どういうことだ? 目の前にいるのはアカネ姉さんのはず

なのにこの扉の中にいるのもアカネ姉さん?


赤髪のアカネが青い兎の絵が描かれた扉の前で叫ぶと

扉はひとりでにギギッと音を立てて開いた。


アカネ

「ヒロ君、行こ」


小さい赤髪のアカネ姉さんに手を繋がれ、部屋に入った。


その部屋の中は、ブラウン管のテレビが白黒のノイズを出したまま放置され

周囲には本や教科書など、様々な本が散乱している。

その中央には膝を抱えて座り込んでいる黒い髪のポニーテールの少女がいた。


黒髪のアカネ

「その人、誰……?」


赤髪のアカネ

「この人は私たちの弟のヒロ君だよ」


黒髪のアカネ

「ヒロ、君?」


ヒロト

「アカネ姉さん、なのか……?」


その黒髪のポニーテールの少女がこちらをじっと見る。

その瞳は茶色の瞳だった、そう、

あの時、助けを求めてきたあの目と同じだった。

13歳ぐらいだろうか、薄汚れたセーラー服を着ている。


黒髪のアカネ

「弟なんて知らない、友達なんていらない……」


先ほど開いた扉がギギッと音を立てて閉まる。


赤髪のアカネ

「そんなことないでしょ? アカネちゃんは寂しがりだから」


ヒロト

「アカネ姉さ……」


そう名前を呼びかけようとした瞬間に、ドンドンと扉を強く叩く音が聞こえる。

ガチャガチャと、こじ開けようとしている音も響いた。


黒髪のアカネ

「ひっ……」


ヒロト

「なんだ?」


???

「出て来い、臆病者……」


再びドンドンと力強く扉をたたく音が聞こえてくる。


赤髪のアカネ

「あの子だ……」


ヒロト

「まさか、クロユリ……」


クロユリ

「開けろ、開けろ……」


扉には鍵穴があるが、その鍵穴から深紅の瞳が

部屋の中をのぞいているのがわかる。

アカネ姉さんが、三人……?


黒髪のアカネ

「……出て行って」


ヒロト

「……アカネ姉さん」


黒髪のアカネ

「出て行って!!」


また、ふと気づくと扉の前に戻されていた。

目の前には三つの扉が……そして、その『13』と書かれている扉を

何度も殴るように叩いている和服を着たクロユリがいた。


クロユリは俺の方に振り向くと、片手で俺の首をつかんで持ち上げた。


ヒロト

「ぐっ!」


クロユリ

「お前……消えろよ」


ヒロト

「アカネ姉さん……」


クロユリ

「くどい、私はクロユリだ」


ヒロト

「俺にとっては、名前をいつわってもあなたはアカネ姉さんだ。

 だって……そうだろ、君もアカネ姉さんの一部……」


クロユリ

「黙れ」


ぐいぐいと片手で締めあげられる俺の首。

このままだと窒息死させられてしまう。

わかっているけれど、クロユリと名乗っても俺にとっては……


クロユリ

「なぜ、抵抗しない?」


ヒロト

「姉さん……ぐっ!」


クロユリ

「まぁいい、死ね……」


ダメだ、殺される……。

そう思った瞬間、『13』の扉が開いて7歳ぐらいの赤髪のアカネさんが叫んだ。


赤髪のアカネ

「やめてっ!!」


 @@@


ヒロト

「ハッ!」


ベッドのやわらかい感触、握りしめた暖かい手。

薬品の匂いが漂う、ここは、医務室?


アカネ

「……ヒロ君」


体を起こし、赤い髪のアカネ姉さんと目が合う。

どうやら俺は眠っていたみたいだ。

しかし、今見た光景はいったい?


アカネ

「ずっと、付きっ切りで看病してくれてたんだね

 ありがとう、ヒロ君」


ヒロト

「いや、俺の方こそ……助けてくれてありがとう」


アカネ

「え? 何のこと?」


先ほどアカネ姉さんが止めてくれなければ、俺は絞殺されてただろう。

そのはずなのに、どうしてアカネ姉さんは覚えてないんだ?


ヒロト

「いや、なんでもない。それより気が付いて良かった」


医務室のベッドからむくりと起き上がるアカネ。


アカネ

「もー、いつまで手を握ってるの?

 恥ずかしいよ……」


ヒロト

「あ、あぁ……」


顔を赤らめているアカネから、俺は握りしめていたアカネの手を離した。

そんなところに、先ほどの医者が歩いてくる。


医者

「気が付かれましたか?」


アカネ

「お医者様? 私、どうしてベッドで寝てたの?」


ヒロト

「……それは」


医者

「強いストレスによる疲労です。

 しかし、診断の結果、多重人格の症状が出てますね」


アカネ

「……! そうだ、あの時……ヒロ君、あれから私どうなったの!?」


ヒロト

「アカネ姉さんは、ミスターKを追い払ってくれたんだ

 おかげで俺たちは全員無事さ」


アカネ

「……多重人格……」


すると医者は長方形の紙切れを見て、魔石を握りしめていた。

その医者はうなずくと、アカネと紙切れを見比べた。


医者

「どうやら安定しているようですね、精神汚染の兆候ちょうこうもなし」


そう話している医者の後ろから二人の男が扉を開けて入ってきた、

ロディとファントムさんだった。

二人とも真剣なまなざしで、俺とアカネ姉さんをみた。


医者は二人に頭を下げると、机のある椅子に腰かけた。


ロディ

「目が覚めたか、アカネさん」


アカネ

「あ、はい」


ロディ

「ファントムからおおよその事情は聞いた。

 いろいろ大変だったみたいだな」


おおよその事情? どこまで話したんだ、ファントムさんは?


ヒロト

「おおよそというのは?」


ロディ

「ミスターKとの関係と、これまでの経由だ」


アカネ

「……」


ロディ

「だが、あの力がなかったら

 俺たちはミスターKに殺されてた。

 助けてくれてありがとな」


アカネ

「そんな、私は何も……」


ヒロト

「アカネ姉さんの力に頼ってばかりじゃ、ダメだと思うんだ」


アカネ

「ヒロ君……」


ファントム

「その通りですね、ただミスターKがいくら強いといえど

 このオリハルコンの街を壊滅させるのは不可能でしょう」


ロディ

「そう、そのための会議だったからな」


そうか、そういえばこの二人はホワイトガーディアンズの会議に出ていたんだったな。


ロディ

「このオリハルコンの街はホワイトガーディアンズの本部がある

 ヤツでもうかつには攻め込めない。

 アーマーギアもしっかり用意してあるからな」


ファントム

「ただ、飛空艇で逃げた方角がミスターKにバレている可能性が高いので

 襲撃に備えなければなりませんけれど」


アカネ

「私、私……なにかできることありませんか!?」


ヒロト

「アカネ姉さん、無理をしなくてもいいんだよ」


ロディ

「体は痛むか? 苦しくもないか?」


アカネ

「はい、大丈夫です」


ベッドから起き上がるアカネ姉さん。


ロディ

「なら、オリハルコンの街を俺が案内する。

 ヒロト、お前も付き合え」


ヒロト

「ん? ……あぁ、わかった」


ファントム

「私は食堂でコーヒーでも飲んで待っていますね」


それでは、と手を軽く振るとファントムさんは医務室から出て行った。

俺とアカネ姉さんはロディに連れられ、医者の承諾しょうだくを得てから医務室から出た。



 @@@


このオリハルコンという街は共和国と縁を切って独立している街らしい

大都会とまではいかないが、それなりに繁栄している街だ。


と、いうのはロディからの情報だが。

ここの住人のほとんど全員がホワイトガーディアンズの団員で

共和国の人間は出入り禁止だそうだ。


ある意味、一つの国のようなもの……というのは俺の感想だ。


立ち並ぶ家々を横目に、周囲を見渡しながら歩く。

赤い屋根の家や青い屋根の家、街の中心部にある女神像が壺を持っていて

その壺から流れ出る水、そして噴水。


ロディ

「どうだ、キレイな街だろ?」


アカネ

「そうですね。アダマントの街よりも広くて空気がおいしい……」


ははっ、とロディは笑った。


ロディ

「俺は、この街の産まれなんだ」


ヒロト

「へぇ……」


通行人A

「あっ、ロディ団長!」


通行人B

「本当だ、ロディ団長だ!」


10代の若者がロディにかけよる。


ロディ

「おう、元気にしてたかお前ら」


そうロディが返事をすると、通行人の二人は

アカネ姉さんを見た途端に無言になった。


通行人A

「……やっべ、すっごく可愛い人!」


通行人B

「もしかして団長、彼女っすか?」


ロディ

「そう、彼女……だったらいいんだけどなぁ」


ヒロト

「……」


アカネ

「あ、あは……」


困った顔でアカネ姉さんは苦笑いする。


通行人B

「そうだよなぁ、団長イケメンなのに彼女作らないんだもんな」


ロディ

「うっるせー、仕方ねーだろ! 俺は多忙なの!」


通行人B

「す、すんません」


そういうと二人の学生風の通行人はそそくさと離れて行った。


ロディ

「ったく、最近の若いのはマセてんなぁー」


ヒロト

「ロディ、あんた恋人はいないのか?」


ロディ

「あー? あぁ、まぁな……」


肩を落として首をふるロディ。


アカネ

「もしかして、ホワイトガーディアンズのためですか?」


少しの間、周囲を静寂が包んだが、ロディがそれを自らやぶった。


ロディ

「……いつ死ぬかもわかんねぇ男に、彼女なんて作らせるわけにはいかねぇだろ」


アカネ

「そ、そんな! 不吉なこといわないでください!」


ロディ

「じゃあ、俺と恋愛してみるか?」


アカネ

「えっ……」


ヒロト

「……」


俺は少し、ロディが女神像の噴水を見ている背中に寂しさのようなものを感じた。


ロディ

「ははっ、冗談だよ……。

 ただ、お前がヒロトのものじゃなかったら惚れてたかもな。

 心配してくれてありがとよアカネさん。

 本当に優しいんだな」


アカネ

「わ、私は……」


ヒロト

「アカネ姉さんが、俺のもの?」


ロディ

「お前ら二人の方が、よっぽど恋人同士に見えるぜ?」


そ、そりゃ年も近いと思うし

そう見えるかもしれないが、とアカネの方を見ると顔を赤らめてモジモジしている。

まずいなんだこの空気。


すると、ロディは俺とアカネ姉さんの肩を手でトントンと叩くと


ロディ

「お前ら、幸せになれよ。絶対だからな!」


ヒロト

「大きな世話だ」


アカネ

「あ、ありがとう、ございます」


ゆっくり歩みを進める三人。

途中何度も団員と思われる人々にロディは称賛されては立ち止まっていた。

ロディはこの街では英雄として見られているようだ。


ロディが花束を受け取っている間に、俺は近くの女性にロディについて聞いてみた。


ヒロト

「ロディ団長ってそんなにすごい人なのか?」


通行人の女性

「貴方、旅の人かい? 団長のことを知らないならそれも無理ないかな……。

 ロディ団長はね、10年以上前にホワイトガーディアンズを立ち上げて

 共和国のバカどもを追い出してくれた英雄なんだよ」


アカネ

「そんなにすごい人だったんですか?」


通行人の女性

「えぇ、共和国の連中は市民に重い税金をかけて

 共和国の兵士たちは女をさらったり、殺したり……最低のやつらさ。

 その状況をくつがえしてくれたのがロディ団長たちさ。

 私らも独立のために戦ったさね」


共和国と名乗っているから平和そうに聞こえるが、どうやら中身は

独裁帝国だったみたいだな。


それじゃ、といって通行人の女性はその場から去っていった。

どうやらロディの_強さ_は本物みたいだ。

民衆に取り囲まれてるロディは、こちらに手を振ると

ゆっくり近づいてきた。


ロディ

「ちと寄り道が過ぎたな。わりぃわりぃ」


ヒロト

「いや、いいんだ気にしないでくれ」


アカネ

「そういえば、ロディさんご家族は?」


ロディ

「あー、家族ね……。

 孤児だったからな……いねぇよ」


アカネ

「!? ……ごめんなさい」


ロディ

「謝らなくていいさ、今は団員が俺の家族みたいなもんだからよ。

 ……あの頃はそうだなぁ、強くなることだけを考えてた。

 誰にも負けないぐらいに、強くなることだけをな」


ヒロト

「そうか」


ロディ

「ヒロト、俺はお前との勝負 引き分けだと思ってるからな」


ヒロト

「俺もそう思ってる。……ところでロディはアーマーギアには乗らないのか?

 あんたが乗ったら、きっと相当強いと思うんだが」


ロディ

「……俺は、アーマーギアに乗る才能がねぇんだ

 同化したくてもできねぇ」


ヒロト

「なぜだ?」


ロディ

「さぁな、どのアーマーギアも俺には合わない

 適正がなんとか……なんだとさ」


ヒロト

「残念だな」


もしロディがアーマーギアと同化して戦ったら、かなり強いはずだ。


ロディ

「俺も残念だよ」


そうこう話をしていると、団員らしき人物が走り寄ってきた。


団員

「ロディ団長、緊急の作戦会議の呼び出しです」


ロディ

「緊急? ……わかった。

 ヒロト、アカネさん支部に戻るぞ」


アカネ

「はい、わかりました」


ヒロト

「あぁ」



 第5話 夢の中で 終

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