第4話 ミスターK
ホワイトガーディアンズのアダマント支部。
地下施設の金属でできた長い通路を走る、ロディとアカネと俺とファントム。
走るたびにカンカンと足音が響き渡る。
通路を抜けた先にあったのは、小型の飛空艇の格納庫。
ロディ
「こいつがそうだ」
アカネ
「わぁ……大きい」
ファントム
「よくもまぁ、これだけのものを完成させましたね」
ヒロト
「……」
空を自由自在に飛び回れる飛空艇か。
サイズとしては、ヴィントカイザーが格納されていた巨大な倉庫と
同じぐらいのサイズだ。
ロディ
「元々は移動用に開発したものだが、まさかここで役立つとはな」
アカネ
「何人ぐらい乗せられるんですか?」
ロディ
「魔石の消費の関係で小型のものだが、10人ぐらいは乗せられるな」
ヒロト
「これを使ってどうするんだ?」
まさかこんな小型の飛空艇で共和国と勝負する気じゃないよな……。
あまりに無謀すぎる。
ロディ
「当然、おとりになるんだよ」
アカネ
「……おとり、ですか?」
アカネ姉さんが言葉を発したと同時に、周囲の壁や床全体が振動する。
ロディ
「くそっ、上ではもうおっぱじめやがったな!」
どういう意味だ?
ヒロト
「上では、というのは?」
ロディ
「ガサ入れ、もといホワイトガーディアンズを殲滅する気なんだよ
あいつらは。共和国から見りゃ俺たちはテロリストみたいなもんだからな。
おおかた、無差別砲撃でもやってるだろう」
アカネ
「……」
無差別砲撃……もしそうだとしたら、アダマントの街の市民は……。
ロディ
「被害が少ないうちに、支部の地下通路からここまで来た俺たちが
飛空艇で逃げ出したら、上で暴れてる連中はどうすると思う?」
答えは簡単だ。
ヒロト
「俺たちに標的を変更するわけか」
ロディ
「そういうことだ」
ファントム
「なるほど」
アカネ
「残った団員の人たちはどうなるんですか?」
当然の疑問だ。
俺たちが脱出しても、支部が探される心配はある。
おそらく、見つかれば皆殺しになるだろう。
ロディ
「なんのための隠れ家だと思ってるんだよ、そんなに簡単に見つかるわけないだろ」
再び壁や地面が振動する。
ロディ
「ほら、行くぞ!」
飛空艇の開いてる鉄の扉を開けて、全員で乗り込む。
中は意外と広い。
操縦席のパネルをいじるロディは、懐から魔水晶を取り出すと
それをパネルの下の部分に埋め込んだ。
飛空艇の外側にいる団員の一人が壁にあるレバーを下げると
格納庫の天井が次々に開いていく。
ロディはガラス窓からその団員に親指を立てて合図した。
ロディ
「全員、何かにつかまれよ!」
パネルを操作して、何かのボタンを押した瞬間
飛空艇のプロペラが回転し始めて
浮上する。
格納庫の開いた天井を次々に抜けて、上昇していく飛空艇。
すると、共和国兵士の大きな声が聞こえてくる。
これは拡声器を使った声だろうか?
@@@
共和国兵士
「アダマントに潜伏するテロ組織、ホワイトガーディアンズが
我々に対し虐殺を行ったのは明らかである!
よって、犯人が見つかるまで砲撃を行う!
これはテロ組織の責任であって、決して共和国の責任ではない!
繰り返す……」
浮上した飛空艇のガラス窓から見えたのは
アダマントの街に向けられた無数の固定砲台とアーマーギア数体が街の中を
蹂躙している。
すると、ロディは操作パネルに何かを入力して
近くにヒモでくくりつけられていた拡声器をもって
その場を離れた。
ヒロト
「あ、おい……。操縦はいいのか!?」
ロディは走りながら
「自動操縦だから心配するな」
と叫んだ。
ファントムさんとアカネ姉さんと目が合う。
ロディを追いかけようと、無言の意思疎通ができた。
@@@
すでに上空を飛んでいる飛空艇、その甲板から拡声器をもって
ロディは叫ぶ。
ロディ
「おい、聞こえるか共和国のウジ虫ども!
俺がロディ・ハイドランクだ!」
アダマントの街をうろついていたアーマーギアも、固定砲台も
指揮官らしき人物も飛空艇をにらみつける。
相手の指揮官も拡声器を持ったままで叫ぶ。
共和国兵士
「鋼の猛獣だと!? 今回の犯人はやつか!
よし、全員! 目標を飛空艇にさだめろ!
絶対に逃がすな!」
挑発にのった共和国のアーマーギアや他の部隊が砲弾を撃ったり
弓矢を飛ばしてくる。
ロディ
「よし、このままアダマントから引きはがす!」
甲板にやってきたアカネ姉さんと俺とファントムさん。
そこへ現れたのは太ったピエロのマスクをした男。
???
「そうはいかへんでぇ~!」
ぶら下がるように、甲板に上り、飛び跳ねて着地する男
そう、ミスターKだ。
ロディ
「ッ! お前は!」
ファントム
「ミスターK!!」
口笛を吹いて背を向け、飛空艇の下を見下ろすミスターK。
ミスターK
「ほっほ~、いい景色やのぉ。
魔水晶やら魔石やらの消費が激しい飛空艇をよくもまぁ……
お前ら金もっとるんやなぁ。欲しいぐらいやわ」
アカネ
「……!!」
ミスターK
「数日ぶりやのぉ、アカネぇ……」
ヒロト
「ミスターK、キサマッ!」
ファントム
「……ミスター……K」
ロディ
「何しに乗り込んできた……って、聞くまでもねーな」
ミスターK
「え、なに? 家族の再会邪魔すんのお前ら?」
家族……家族!?
どういうことだ、ミスターKが家族の再会で乗り込んできた?
動揺してるのか、アカネ姉さんが怯えている。
アカネ
「あ、あなたは……誰なんですか……!?」
ミスターK
「ひどいなぁ、ひどいなぁ~。
実の娘にそんな言い方されると、お父さん傷ついちゃうなぁ……」
娘……!? まさか、アカネ姉さんが!?
ヒロト
「どういうことだ……ファントムさん!」
ファントム
「私は、貴方たちに私は親代わりといいました。
ミスターKは、アカネ君の実の父親……サクラさんの夫です」
アカネ
「!? ……うそ、うそだ!」
叫ぶアカネに対して、ミスターKは怒鳴った。
ミスターK
「親にむかってなんて口の利き方しとるんじゃコラァ!!
お前はなぁ、ワシの所有物なんじゃ!
口の利き方に気を付けろや!!」
許せない……こいつが、アカネ姉さんの父親……
ユグドラシルの巫女、サクラの夫……。
実の娘に対するこの態度……。
アカネ姉さんが口元に手を当て怯えて黙り込んでいる。
衝撃のあまり涙すら浮かべている様子だ。
ミスターK
「さぁ、帰るぞアカネ。
みっちりケツ叩いたるから覚悟しろや!」
ヒロト
「コロス……お前は、コロス!!」
先に剣を抜いたのは俺だった。
ミスターKに斬りかかる。
一撃、二撃。剣での薙ぎ払いを簡単そうに回避し
あの時の蹴りが飛んでくる。
直撃をもらうわけにはいかない、そう思い剣で防いだが
U字型の甲板の壁に勢いよく叩きつけられた。
ヒロト
「ぐはっ!」
続いて、ロディはスライディングで距離をつめ、蹴りを放つが
軽々と受け流される。
ミスターK
「お前、蹴り使いかぁ……でもザコやなぁ」
ロディ
「うるせぇ、娘泣かしてんじゃねーよクソ親父!」
ミスターK
「ガキが生意気いってんじゃねーよ!」
あの強かったロディの蹴りを素手で受け止め、
胸倉をつかみ、ロディに頭突きをするミスターK。
ロディまでもその一撃で吹き飛ばされる。
まるで相手にならない。
その隙をみて、懐に飛び込んだファントムの日本刀での居合切り。
その一撃も、ほんの少し服をかすめただけで
直撃しなかった。
ミスターKはつまらなさそうにファントムに斜め横からの蹴りを入れ
ファントムはその一撃を刀で受け止めた。
一撃が重いのか、反動で後方へ吹き飛ばされる。
ファントム
「くっ……」
ミスターK
「お前らごときが俺に勝てる思うとるん?
バカじゃねーの?」
しゃがみ込み、動けなくなるファントム。
そんな三人をよそに、怯えてるアカネに近づいていくミスターK。
アカネ
「あ……あぁあ……!!」
ミスターK
「あ~私とってもかわいそう、誰か助けて、ってか?
クソガキが、手間取らせやがって」
アカネ
「……」
許せない、アカネ姉さんを追い詰めて苦しめて……。
こいつ、アカネ姉さんの恐怖を楽しんでる。
ヒロト
「アカネ姉さんの前で、その臭い息吐くんじゃねぇよ!!」
ミスターK
「やかましわ、ザコが! ワシに勝ってからいわんかい!!」
そう叫んだミスターKが俺の方を振り向こうとしたとき、
アカネ姉さんから黒い霧が舞い始めた。
それは黒い雪のようにふわふわと漂い
やがてアカネは髪の毛の色が黒に変わり、普段着ていた軽装の服も
和服へと変わり始めた。髪をまとめていたリボンも黒いリボンに変わり
変身していった。
ファントム
「……やはり」
俺は絶句した……。
その姿は見覚えがある、あの時のアカネ姉さんじゃなく……。
_覚えておけ小僧_
アカネ?
「……調子こいてんじゃねぇよ、クソが」
ファントム
「クロユリ……」
_あれが、貴方に全てを託す理由です_
ヒロト
「クロ、ユリ……」
アカネ姉さんに接近していたミスターKが瞬時にその場から飛びのく。
ミスターKが先ほどまでいた場所は黒い霧だらけになっていた。
ミスターK
「おー、会いたかったぞー。ワシの娘」
クロユリ
「……カズオォ! お前は殺す!!」
黒い霧がクロユリの右手に集まり日本刀に変化する。
そしてその刀からの一撃をミスターKが素手で受け止める。
ミスターK
「お父さんやろがぁ!」
素早い一撃、また一撃がぶつかり合う。
クロユリの一撃をミスターKは素手で受け止め、
その拳をクロユリに叩きつけようとするが、ギリギリで回避している。
黒い霧がミスターKを捕縛しようとするが、その攻撃もミスターKは回避しつつ
クロユリに蹴りをいれようとする。
しかし、クロユリは流れるようにその一撃を避け、
ミスターKの素手とクロユリの刀がぶつかり合う。
クロユリ
「お前さえ、お前さえいなければああああぁ!」
ドスの聞いた怒鳴り声でクロユリは斬りかかる。
ミスターK
「ワシがおらんかったらお前は産まれてないんやぞ!
少しは手加減しろや!」
お互いの攻撃がぶつかり合う中、衝撃波が発生して
甲板の床がへこむ。
ミスターK
「あ、あかんわこれ……」
押され気味だったミスターKは、臆して甲板から飛び降りた。
逃げ出したというのが正解だろう。
クロユリ
「待てよクソ親父!!」
まずい、このままだとアカネ姉さんも飛び降りてしまう!
そう思ったら、自然に体が動いていた。
ヒロト
「アカネ姉さん!」
俺はアカネ姉さんの体をぎゅっと抱きしめて
行動を静止させた。
クロユリ
「邪魔をするなぁ!!」
黒い霧からできた日本刀が俺の体を貫こうとした
しかし、その時。クロユリの口から一言、小さな声が聞こえた。
クロユリ
「……たす、けて……」
ボソリとクロユリが赤ではなく茶色い瞳で涙を浮かべたままつぶやくと、
髪の色がだんだんと赤い色に変わり、服装も軽装の鎧に戻った。
目の色は茶色から黄色に変わり……。
黒い霧も消えて行った。
そして、アカネは気を失って倒れた。
そっと抱きかかえる俺。
ミスターKは去っていった、ロディもファントムさんも俺も軽傷で済んだ。
結果的に、俺たちはクロユリに助けられた。
@@@
目的地としていたホワイトガーディアンズの本部のある
オリハルコンの街に到着した。
ロディはその本部の医務室にアカネを案内するようにうながしたので
俺はアカネ姉さんを抱きかかえて運び、医務室のベッドに寝かせた。
医者の話だと、命に別状はないようだ。
ただ、強いストレスが原因で気を失っているとのことで
安静にしたほうがいいらしい。
ファントムさんとロディはホワイトガーディアンズの会議に出るそうだ。
かくいう俺はそんなことには興味がない。
ただ、アカネ姉さんが無事なら、それで……。
そう思い、俺はアカネ姉さんの眠っているベッドの横にある椅子に腰かけ
じっと様子を見ていた。
目を離す瞬間があるとすれば、トイレに行く時ぐらいだ。
@@@
医者
「その娘さんが、そんなに心配なんだね」
ヒロト
「ええ。大切な姉ですから」
ポニーテールのリボンを解いて眠り続けるアカネ姉さん。
俺の手にはそのリボンが握られている。
医者
「そうですか……。
眠りから目が覚めないのは強いストレスが原因ですね
そうとう疲れたのでしょう」
ヒロト
「……」
医者
「もし、その人の心の中に入ることができたら
少しはストレスが軽減されるかもしれませんね」
心の中に? そんなことできるわけがない。
ヒロト
「そんなこと、できるわけ……」
医者
「諦めてはいけませんよ、何事も。
その女性は団長の命の恩人と聞いています。
理由はわかりませんが……。
これ、ここに置いておきますね。
お好きに使ってください」
そういうと医者は机の上に魔水晶の欠片を置いて
医務室から出て行った。
魔法、奇跡を起こすための魔石や魔水晶。
もしかしたら、魔水晶を使ってアカネ姉さんの心の中に入れるかもしれない。
ヒロト
「諦めるな、か」
_……たす、けて……_
あの言葉が忘れられない。
涙を浮かべたクロユリが俺に言った言葉。
それともあれはアカネ姉さんの言葉だったのか?
何時間待っても起きないアカネ姉さん。
少しでも俺の力が役に立つなら、信じてみるのも悪くない。
俺は椅子から立ち上がると、医者が置いていってくれた魔水晶の欠片と
ピンクのリボンを握りしめて、椅子に再び座り直し
アカネ姉さんの手を握りしめた。すると、不思議と眠くなって
俺は深い眠りに落ちて行った。
第4話 ミスターK 終