第17話 エルフの里
草も木も、キラキラと輝く神秘の里。
ハイランディアにノウラに案内されながら進むアカネ姉さんと俺。
こそこそと猫が木の影から出てくる。
ノウラ
「あっ、見てアカネさん。猫だよ!」
アカネ
「……猫……」
アカネ姉さんは難しい顔をして立ち止まった。
ヒロト
「どうしたんだ、アカネ姉さん?」
アカネ
「ううん、なんでもない。
猫ってかわいいよね」
ノウラ
「そうだよねー、私は犬より猫のほうが好き!
でも、猫より……」
そういったノウラはアカネの胸をムニッとつかむ。
アカネ
「ひゃあっ! 何するんですか!?」
ノウラ
「あぁーん、アカネさん可愛いぃー!」
ヒロト
「お前……」
一瞬、イラッとした俺はノウラに視線を向ける。
ノウラ
「おー怖っ。過保護だねぇヒロトってさ」
ヒロト
「アカネ姉さんが嫌がることをしたら
わかってるだろうな?」
ノウラ
「えー、私は合意の上でしかしないよ?
現にアカネさん嫌がってないじゃん」
アカネ
「その、私は……」
顔を赤らめているアカネ姉さん。何を恥ずかしがっているんだ?
アカネ
「ノウラさん、ヒロトの前で変な事するのやめてください」
ノウラ
「じゃあヒロトの前じゃなかったら何してもいいんだー?」
俺は真顔でノウラをにらみつけた。
ヒロト
「死ぬか?」
ノウラ
「や、やめろぉー、死にたくなーい!」
バタバタと走り始めるノウラは先へ先へと進む、そして開けた場所に出ると
ノウラ
「この先がハイランディアの里だよ」
見張り
「誰だ!?」
弓を持った見張りのエルフの男がやぐらからこちらに弓を向けている
とっさにアカネ姉さんの前にでてかばう俺。
ノウラ
「待ってー、私だよ私ー!」
弓をもって構えていた見張りのエルフの男はその弓を下した。
見張り
「なんだ、ノウラか。驚かさないでくれ」
ノウラ
「ただいま!」
見張り
「ん? そっちの二人は?」
ノウラ
「うん、私を助けてくれた人とやっかいも……」
ヒロト
「……」
ノウラ
「い、命の恩人だよー」
見張り
「そっか。ノウラが世話になったみたいで。
大変だったでしょう、この子」
アカネ
「そんなことないですよ、とても心強い人です」
ノウラ
「そうだよ」
ヒロト
「あ、そ」
そのまま、アカネ姉さんと俺は
ノウラにハイランディアの里の長老の家まで案内されることになった。
このハイランディアの里は自然とともに生きる里。
森の奥深くにあり、ノウラの話によれば、外の世界とは関係をほとんど
断っている神聖な場所らしい。
途中、里の人々をみたがみんな耳がトガっている。
アカネ姉さんと俺は、道中で耳のトガった人々にすれ違ったが
そのたび、ノウラが片手で挨拶している。
ヒロト
「どこに向かっているんだ?」
ノウラ
「まずは長老様に報告しないといけないんでねー」
アカネ
「長老様?」
そして、俺たち3人はこの里で一番大きな屋敷の前に立つと
大きな扉が一つあった。
そこでノウラは扉をノックする。
ノウラ
「長老様ぁ~、ただいま戻りました~」
長老
「良く戻った、入るといい」
扉の向こうから声が響いてくる。
そして、扉がギギィと音を立てて開くと、その大きな屋敷は草や木でできていた。
カルコスの街とは大違いだ。
田舎……そう例えるのが一番近い。
大きな扉を抜けて先に進むと、そこには暖炉が中央にある部屋。
おそらく居間に上がり込んだ。
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その居間には白いひげを生やした老人と、科学者の服装をした男ダールがいた。
アカネ
「あなたは……」
ダール
「あぁ、お二人ともまたお会いしましたね」
ノウラ
「ダールさん、もう先に来てたんだ」
ダールはすでに座布団に座り、長老と話し込んでいた。
ダール
「ええ、君のアーマーギアが完成してからすぐにね」
長老
「ノウラ、御客人を立たせたままにするでない」
ノウラ
「あー、ごめん。今、座布団とお茶を用意するからね」
ノウラがそそくさと隣の部屋の扉を開けっ放しでその場から立ち去る。
何を話せばいいのかわからない俺とアカネ姉さんは、その場で
座布団が来るのをまった。
ノウラ
「スーッ、と!」
暖炉の周りに人数分の座布団を、まるでおもちゃで遊ぶように投げる。
長老
「こら、ノウラ!」
ノウラ
「はい、アカネさんはこれね。好きなところに座っていいから」
とても楽しそうに、アカネ姉さんに手渡しで座布団を渡す。
投げた座布団は俺用ってことか。
困った顔でアカネ姉さんは苦笑いすると、控えめに俺の座った座布団の
となりに座布団を置いた。
ノウラは機嫌が悪そうだが、俺の知ったことではない。
ダール
「アーマーギアの量産はこちらで出来そうです」
長老
「そうか、なら今後は安心できそうだ」
ノウラ
「長老様、私からもほーこくー!」
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ノウラがカルコスでの一件をすべて話すと、
長老はしばらく黙り込んだ。
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長老
「やはり、魔水晶の生成が目当てだったか」
ノウラ
「危うくあたしも、その実験材料になりかけたってわけ。
もしくはどこかの変態に売り買いされてた感じね」
長老
「しかし、成り行きとはいえカルコスに大きな被害を与えることができたわけじゃな」
ノウラ
「そーいうこと」
ヒロト
「……」
長老
「ふむ……。ん? そちらのお若いの、そのペンダントは……」
アカネ
「はい? え、これ……ですか?」
長老
「おぬし、それをどこで?」
アカネ
「……? 私のとても大切な子からもらったんです……」
長老
「それは、この世界のどこにいったのかわからなかった代物だ。
よもやこんなところでお目にかかるとは……」
アカネ
「これって、そんなにすごいものなんですか?」
長老
「ヴァイスフローラを召喚するカギだ。
一説には、こう記されている……」
そう言って、座布団に座る俺たちに長老は白いヒゲを触りながら話し始めた。
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かつて、ドラゴンとの戦争があった。
そのドラゴンとの闘いでは生身の人々が何度もドラゴンに挑んでは返り討ちにされ
人間は生贄にされ続けた。
人々はそれに対抗する方法を考えていたある時、
異国の格好をした一人の少女がユグドラシルに導かれたと話し、
「あなた方にドラゴンを倒す加護を」と言い残して
ユグドラシルと一体化した。
最初は人々は疑ったが、
それによって、ユグドラシルは後に魔石と呼ばれるものを実らせて、
それを手に入れた人間たちはドラゴンに対抗するために
魔石と魔水晶を使ってアーマーギアを作り出した。
その最初のアーマーギアがジークフリートと呼ばれていた。
そして、その次に作られたアーマーギアがヴァイスフローラと呼ばれる
選ばれたものしか同化できない最強のアーマーギア。
ジークフリートとヴァイスフローラ、そして数多のアーマーギアと人は協力しあい、
ドラゴンに勝利した。
だが、ジークフリートとヴァイスフローラは魔石だけで作られたわけではなく
魔水晶……人間やエルフの生命力を注ぎ込んだものと合成して作られた。
魔石はユグドラシルから作られ、魔水晶は人々の命を塊として作り出された。
戦いを終えたジークフリートは、その魂ごとアーマーギアに取り込まれ
ヴァイスフローラもまた、同じ運命をたどった。
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ヒロト
「取り込まれる?」
長老
「そう、言葉通り_もう二度と元の姿に戻れなくなった_のだ」
アカネ
「!?」
長老
「ジークフリートがほとんどのドラゴンを討伐し終わったとき
他の人間たちは疲弊したジークフリートを恐怖の対象として見るようになり
遺跡の奥深くへ閉じ込め、封印した」
ヒロト
「なぜだ? そのジークフリートはドラゴンを倒した英雄じゃないのか?」
長老
「元より、ジークフリートはドラゴンを殺すためだけに作られたもの
すべてのドラゴンがいなくなった後は、もはやお払い箱だったのだ」
アカネ
「ひどい、それって裏切りですよね……?」
長老
「そうせざるを得なかったのだ、そのアーマーギア、ジークフリートと同化した
人間はドラゴンだけではなく、他人にも深い恨みをもっていた。
それに恐怖した者たちが決断したのだ」
ダール
「……」
長老
「ヴァイスフローラは、兄であるジークフリートを封印した者たちに激怒し
他のアーマーギアに対して殺戮を行った
ヴァイスフローラは、そのジークフリートの唯一の妹だったからな」
ヒロト
「ヴァイスフローラもまた、封印されたのか?」
長老
「白だったその体を、返り血で真っ赤に染めながら
ヴァイスフローラは遺跡に封印された」
じゃあ、最初に見たときに深紅の色をしていた理由は
返り血だったのか。
ノウラ
「でも、アカネさんは乗りこなしてたよね? フローラ
……しかも白」
アカネ
「え? ま、まぁ……たしかに」
ダール
「普通のアーマーギアは意志を持っていない戦闘兵器です。
しかし、ジークフリートとヴァイスフローラは違う。
取り込まれた人間の心が宿っているんです」
アカネ
「心の宿った、アーマーギア……」
長老
「今も、ジークフリートは遺跡の奥深くで眠りについているだろう」
アカネ
「……プリムちゃん」
一言アカネ姉さんがつぶやくと、胸のペンダントを握りしめていた。
長老
「もし、ジークフリートが目覚めるとすれば
残りの4体のドラゴンと決着をつけるときだろう」
ん? ちょっとまて
ヒロト
「長老さん、今4体っていいました?」
長老
「……? 邪竜は13体だぞ」
ちょっと待ってくれ、邪竜は12体のはずだ
ヒロト
「計算があわない、俺は邪竜は12体と聞いてる」
長老
「邪竜たちを率いる最強最悪のブラックドラゴンキングという恐ろしいドラゴンが
ユグドラシルの結界を強行突破し、消えていったと伝えられている。
そう、人々の間では、キングは存在しないことになっている」
ノウラ
「なんで?」
長老
「ブラックドラゴンキングも他のドラゴンも恐怖を力の源とする。
不安や恐怖を感じれば感じるほど、ドラゴンたちはより強大な力を得てしまう
だから隠しておく必要があったのだ」
恐怖を力に変換するドラゴンか、
たしかにそれなら隠ぺいしておかないといつ襲ってくるかと、不安に思った人々が
よりそのドラゴンたちを強くしてしまうだろう。
他人に深い恨みを持っていたジークフリートを封印したのもそのため、かもしれない。
ヒロト
「13の邪竜、か」
アカネ
「さっき、取り込まれるってお話されてましたけど……
私もいつか取り込まれてしまうんですか?」
長老
「さすがにそこまではワシにもわからん」
ノウラ
「長老様、そこ重要!」
長老
「知らんものは知らん。ワシとて何もかもすべてを知っているわけではない」
ダール
「話は一段落ついたようですね、私は研究に戻らせていただきます。
襲撃に備えて」
アカネ
「襲撃?」
ノウラ
「魔物だよ、ハイランディアの里って最近よく魔物に襲撃されるんだ」
長老
「もともと、ハイランディアの里は結界石という三つの石が守ってくれておった。
しかし、その二つが紛失しての」
ダール
「そのための、エルフ用のアーマーギアってことさ
エルフ族は人間の作ったアーマーギアと同化できないからね」
長老
「今日はここでゆっくり休んでいくといい
ノウラも世話になったようだしな」
アカネ
「お心遣い、ありがとうございます」
ノウラ
「そうと決まれば、アカネさん温泉に一緒に入ろうよ!」
にやけ顔で俺の方を見ている。
……うぜぇ。
アカネ
「温泉があるんですか?」
@@@
その夜、長老の家で過ごすことになった俺は
温泉に入ることになった。
もちろん、男女別だ。
ヒロト
「……」
久々に疲れを癒すか。
そう考えていた時だった、となりの女湯から何やら声がした。
アカネ
「ノウラさん、だめですって!」
ノウラ
「アカネさんって、スタイルいいよね
脱いだらどんな感じなのか、私、気になります!」
アカネ
「わ、私はその……温泉は嬉しいですけど」
ノウラ
「さぁさぁ、脱いで!」
アカネ
「……あんまりじろじろ見ないでくださいね」
随分と騒がしいな……。
ノウラ
「……アカネさん、このすごい量の傷跡、誰にやられたの?」
傷跡? アカネ姉さんの体は傷跡があるのか?
……だが、おおよそ見当はつく……。
アカネ
「あ、あはは……秘密、です」
ノウラ
「……そっか」
隣の女湯からバシャリと湯につかる音が二つ聞こえる。
アカネ姉さんとノウラだろう。
ノウラ
「ふー、極楽極楽ー」
アカネ
「はぁ……」
ノウラ
「ねぇ、アカネさん。私さ、里では結構な有名人なんだよね」
アカネ
「そうなんですか?」
ノウラ
「うん、昔のことだけど、私の父親がお母さんを殺して
ハイランディア全体を守る結界石を盗み出してカルコスに売りに行ってね……」
アカネ
「……え?」
ノウラ
「そのお金で贅沢三昧してたのを、私が討ち取ったんだー。
あはは、そのあとは周りの人たちから裏切り者の娘だって
言われ続けてたんだけどね」
何やら重い話のようだな。
盗み聞きしてるみたいで、少し気分が悪い。
ノウラ
「長老様が、私を守ってくれたんだ。
……それ以来、私は周りから裏切り者って言われなくなった。
でもその代わり、私は長老様の命令でお仕事する役割をすることになったんだ」
アカネ
「ノウラさん……」
ノウラ
「それが、せめてもの罪滅ぼしになると思ってるからね」
アカネ
「そんな! ノウラさんは何も悪くないですよ!
悪いことをしたのは、そのお父さんなんでしょ!?」
ノウラ
「あっはは、優しいねアカネさんは。
でも、そんなアカネさんが私は好きだな」
……聞いてはいけない話を聞いてしまった気がする。
女湯から薄暗い空気を感じたが、その空気はすべてノウラによって壊された。
ノウラ
「そーんなことより、アカネさんってやっぱりいい体してんね~!
触っちゃおうかなぁ~」
アカネ
「え、ちょ、やぁんっ! やめ、くすぐったいです」
ノウラ
「ふふふー、可愛いなぁ……」
アカネ
「あ、ちょっ、ぶつかる!」
ガシャンと音を立てて、男湯と女湯の仕切りを
ノウラとアカネ姉さんが突き破ってしまった。
気分が悪い、特にノウラ。
俺はキョトンとこちらを見ているノウラにそばにあった桶を投げつけると
頭に思い切り当たった。
ノウラ
「あいたっ! 何すんのよ!」
男湯のぞくなよ。
アカネ姉さんは……許すが。
俺はその場からそっと立ち上がると男湯から立ち去った。
温泉から出て、少ししたらアカネ姉さんが急いで出てきた。
アカネ
「あ、あの、ヒロト……ごめんなさい」
ヒロト
「気にしてないよ、アカネ姉さん。でも気を付けてね」
アカネ
「ごめんなさい」
ノウラ
「いいじゃん、別に男の裸なんか興味ないし」
ヒロト
「……」
じっとノウラをにらみつける。
ノウラ
「え、えへへ……わ、悪かったよ」
そっぽを向いた俺は、その場から立ち去り
用意してもらった寝床に行った。
寝床で眠ろうとしていた俺は天井を見上げながら、今後のことについて考えていた。
俺も、アカネ姉さんもあの頃とは違う。
アカネ姉さんは十分強くなった、それに俺もヴィントカイザーでの戦いに慣れてきた。
力は十分に手に入れた。後の問題はミスターKと赤髪のアカネ姉さんとクロユリ姉さんだ。
ミスターKの目的は、いまだにわからないが。
ファントムさんの言う『守ること』は十分に果たせたと思う。
ここからは、今のアカネ姉さんと俺次第だ。
頭が冴えてしまって、寝る気が起きない……。
そう考えていたら、外がなにやら騒がしいことに気付いた。
カンカンと鐘の鳴る音が聞こえる。
この感じはおそらく、
敵襲。
第17話 エルフの里 終