第15話 ヴァイスフローラ
俺とアカネ姉さんがスイーパーズの依頼で
競売所を破壊してから次の日、当然テレビではニュースになっていた。
ナッシュ
「まったく、派手にやらかしたものだな」
ブラウン管のテレビを見ながら、ナッシュがつぶやく。
ヒロト
「……」
アカネ
「……?」
不思議そうに思ったアカネ姉さんがテレビを見ると
そこでは競売主催者が殺されたことと、強盗事件という名目で
地元の警察が捜査しているという話が飛び込んでくる。
まずいな、これではカルコスにうかつに入れない。
誰の所為だ。アカネ姉さんの所為だ。
それはわかっている。だがあの状況でもし、
アカネ姉さんが見て見ぬふりをしたら軽蔑していたかもしれない。
アカネ
「これって、昨日の……」
ヒロト
「アカネ姉さん、静かに」
ナッシュ
「……」
どうやら気づかれているらしい。
プリム
「どうしたの、パパ……顔、怖い」
ヒロト
「あ、あぁいや、何でもないんだよプリム」
俺はその場はごまかして、アカネ姉さんをつれて
カルコスの街に行くことにした、こうなったらカルコスの街を敵に回すしかない。
アカネ
「ヒロト、これって私の所為だよね?」
ヒロト
「自分のしたことに責任を持てないのか、姉さんは」
アカネ
「えっ?」
ヒロト
「あの場でアカネ姉さんが見て見ぬふりをしたら、俺は軽蔑してた。
姉さんの判断は正しかったんだよ」
アカネ
「でも、その所為でヒロトに迷惑が……」
ヒロト
「乗り越えようって約束しただろ?」
俺たちがカルコスの街についたころだ、後ろから数人の男たちが
ついてくる。不意打ちを狙ってる。
ヒロト
「アカネ姉さん、伏せて」
そう叫ぶと、アカネ姉さんはしゃがみ込んだ。
刹那、俺は剣で振り返りながら切り払った。
後方にいた男たちの首が宙を舞う。
アカネ
「どう、して?」
ヒロト
「アカネ姉さん、これが昨日の代償だ」
まだ二人ほどいる。
殺気からするに、なかなか手間取りそうだ。
ヒロト
「アカネ姉さん、刀を抜け」
黙って刀を抜くアカネ姉さん。
それでいい。
スイーパーA
「死ね!」
銃を撃つスイーパーの男、その一撃を剣で弾き
懐に飛び込むと、俺は剣を薙ぎ払ったが
すんでのところで回避された。
ヒロト
「チッ!」
スイーパーB
「もらった!」
こいつら、俺を先に殺すつもりか。
スイーパーの二人目の男が後ろから銃を構えた。
だが、その銃弾が発射される前に
アカネ姉さんがスイーパーの男を切り殺していた。
アカネ
「……」
叫び声とともに、スイーパーの男が倒れる。
もう一人のスイーパーは、懐からナイフを出すと
アカネ姉さんにむかって投げた、
その一撃を俺は剣で叩き落すと、風で剣を念じて召喚し
相手にむかって飛ばした。串刺しになるスイーパーの男。
ヒロト
「動きからみて、スイーパーで間違いなさそうだな」
アカネ
「私の、責任……」
ヒロト
「アカネ姉さん、行くぞスイーパーズに」
@@@
スイーパーズの事務所に押し掛けた俺たちを待っていたのは
ラッセルだった。
ラッセル
「……いらっしゃい」
ヒロト
「俺たちに賞金をかけたやつがいるだろ」
ラッセル
「ええ、かかっていますね」
ヒロト
「誰だ?」
ラッセル
「それはお答えできま……」
俺は窓口に手を入れて、ラッセルの胸倉をつかみあげた。
ヒロト
「言え!」
アカネ姉さんは怯えた表情でこちらを見ている。
ラッセル
「そ、そうですね……この依頼を受けてくれたら
お答えできますよ」
そういってラッセルが出した紙に書かれた依頼は
_カルコスを仕切るマフィア組織の壊滅_だった。
ヒロト
「そうか、マフィアが俺たちを……
ということは、あの競売所もマフィアの管理する施設だったわけか」
ラッセル
「私からは、なんとも……」
アカネ
「……」
ヒロト
「いいだろう、その依頼受けよう」
俺は警戒しつつ、ラッセルから手を離した。
ラッセル
「いいことをお教えします。
ターゲットにされているのは、ヒロトさん
貴方だけですよ」
それは好都合だ、アカネ姉さんはターゲットに入っていない。
なら動きやすい。
ラッセル
「これが、そのマフィアの本部がある場所です。
セカンドカルコスのこの建物です」
この状況、ラッセルもマフィアとグルの可能性もあるが
他に情報がない。仕方なく俺は依頼を受けて地図の入った魔石を受け取って
現地に向かうことにした。
ヒロト
「アカネ姉さん、ターゲットは俺だけらしい。
家に戻っておいてくれ」
アカネ
「で、でも……」
ヒロト
「言う通りにしろ」
アカネ
「……嫌」
ヒロト
「……なら勝手にしろ」
何を焦っている? なぜアカネ姉さんに冷たくする?
嫌な予感がする、もう戻ってこれないかもしれないような
そんな感覚。もしかしたら、これがアカネ姉さんと話せる最後のような
そんな恐怖心が俺にはあった。
魔石の地図はセカンドカルコスの中心部のビルを指示していた。
俺はヴィントカイザーに変身し、足に風の魔法を付与して移動する。
アカネ姉さんを手のひらに乗せて。
灰色のアーマーギア
「こちら警察、そこのアーマーギア 止まりなさい」
おそらく警察もマフィアとグルだ。
剣を念じて、数本飛ばす。
警察のアーマーギアが串刺しになっている間に先に進む。
セカンドカルコスに到着した俺は、アカネ姉さんを
近くの建物の屋上におろすと、座標の建物に剣で斬りかかったが
その一撃は建物を貫くことなく、はじかれた。
シールドがはってある。
一筋縄ではいかないらしい。
ヒロト
「チッ!」
周囲の物陰から、次々とアーマーギアが現れる。
見たところ20体はいる。
すると、マフィアのいる建物の屋上にスーツをきて帽子をかぶった小太りの男が
顔を表す。
ボス
「俺たちの島で好き勝手やってくれたのはお前か」
ヴィントカイザー
「だったらどうする?」
ボス
「俺たちにもメンツがある、お前みたいな命知らずを生かしておくわけにはいかないんでなぁ」
俺の周りにアーマーギアの群れが向かってくる。
ボス
「殺せ!」
まず正面から一体、とさか頭のアーマーギアが槍で襲ってくる。
一撃を回避して、剣で脇腹を切り落とす。
だが、横から割り込んできたアーマーギアの蹴りを
俺はもろに受け、隣の建物にぶつかる。
剣で俺を刺そうとした敵のアーマーギアだったが、
俺は突風を巻き起こし、動きを封じた。
突風にあおられている敵のアーマーギアの首にむかって薙ぎ払いを行い
その首を飛ばす。突風の効果が切れたころ、砲弾が俺にむかって飛んでくる。
別のアーマーギアたちの砲撃だ。
ヴィントカイザー
「ぐぁっ!」
弾丸が盾や胴体に当たり爆発する。
いくらヴィントカイザーが対アーマギア戦闘用だとしても
ダメージは入る。
ボス
「いいぞ、やれ!」
砲弾が次々と飛んでくる、これでは近づけない……。
そんな状況の中、アカネ姉さんの声が
俺の頭に響く。何かをつぶやいている? 何かをささやいている?
アカネ
「私の所為で……ヒロトが……。
私に、力があれば……
力が欲しい、大切な人を守れる強い力が……!」
なんだこの感覚は、マフィアのボスのいる建物の地下から
強いエネルギー反応をヴィントカイザーは感じ取っている。
俺の体にまで響き渡るほど強い力。
突如、地震が起こる。
砲撃が止んだ。
ボス
「な、なんだ……なにが起こってる!?」
マフィア
「ボス、ここは危険です」
地面を突き破り、血に染まったように真っ赤なシルエットの
アーマーギアが、砲撃していたアーマーギアの一体を地の底に引きずり込んだ。
そして、姿を現す。赤いアーマーギア。
ボス
「ヴぁ、ヴァイスフローラ!!
おい、誰だあれを動かしてるのは!? 貴重な売り物なんだぞ!」
ヴァイス、フローラ……。
アカネ
「呼んでる、私を……このペンダントに反応してるの?」
その真っ赤なアーマーギア、ヴァイスフローラは
アカネ姉さんに一直線に向かっていくと、アカネ姉さんをその手に握った。
ヴィントカイザー
「アカネ姉さん!!」
今にも、その赤いヴァイスフローラはアカネ姉さんを握りつぶしそうだ。
ヴィントカイザー
「その手を離せ!」
アカネ
「待って、ヒロト! 敵じゃない!」
その言葉に驚いた俺は動きを止める。
ヴァイスフローラの放つ光が、周囲を包む。
思わず盾で顔を守る俺。
次に見たときは、その赤いヴァイスフローラは色を変え、白い姿をしていた。
ヴィントカイザー
「アカネ姉さん!?」
白い翼が周囲に舞う。
そのアーマーギア、ヴァイスフローラは再び光を放つと
周囲の20体ものアーマーギアの変身を無理やり解除させた。
マフィア
「そ、そんなばかな!」
ボス
「あれを動かせるヤツがいるのか!?」
ヴァイスフローラ
「……」
ヴァイスフローラが左手を前に出すと、そこには光のカタナが召喚され
鞘から引き抜いた。
鞘はヴァイスフローラの腰に装着され
マフィアのボスの建物を狙う。
ボス
「ま、待て! 何が目当てだ、金か!?」
ヴァイスフローラ
「私の望みは、自分の起こした出来事の責任を果たす事」
そういって、ヴァイスフローラはカタナでシールドのはられた
建物を一刀両断した。
ガラガラと崩れ落ちる建物。
マフィアのボスは崩れ落ちる建物に埋もれていった。
ヴィントカイザー
「アカネ、姉さん……」
ヴァイスフローラ
「……。ごめんね、ヒロト。迷惑かけちゃったね」
ヴィントカイザー
「いや、助かった」
警察のアーマーギア
「そこのアーマーギア、周囲は完全に包囲されている
大人しく投降しろ!」
ヴィントカイザー
「まだ来るのか」
ヴァイスフローラ
「戦う必要はないよ」
再び光が周囲を覆う。
警察のアーマーギアは光に包まれると
その変身を解除した。
ヴァイスフローラ
「さぁ、ヒロト逃げよう!」
ヴァイスフローラが俺の手を握ると、その場から翼を広げて飛び立った。
向かうのは世捨て人の街だ。
だが、俺の嫌な予感は消えていなかった。
何故だろう、胸騒ぎがする。
俺とアカネ姉さんは、世捨て人の街で変身を解いた。
ヒロト
「アカネ姉さん、さっきの力は?」
アカネ
「このペンダントがずっと光り輝いてたの」
プリムがくれたペンダントを手のひらに乗せるアカネ姉さん。
どうやら俺の剣と同様で、ペンダントがあのアーマーギアを動かすキーらしい。
それにしても厄介なことになってしまった。
これではもうこの街にいられない。
プリムをナッシュに押し付けるわけにもいかないだろう。
そんな考えをよそに、
俺たちが家に戻ったときには
そこにあったのは
プリムとナッシュの無惨にも切り刻まれた死体だった。
第15話 ヴァイスフローラ 終