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ユグドラシルストーリー  作者: 森のうさぎ
11/19

第11話 鏡の中と過去の傷


海沿いを抜け、山岳地帯を進むキャンピングカー。

運転するヒロトが、一枚の紙を渡してきた。


ヒロト

「ヘシオドースで地図をいただいてきた。

 この周辺の地図だ」


アカネ

「どこへ行くの?」


ヒロト

「まずは身を隠す必要がある。

 そのカルコスって街の0番街を目指す必要がある」


アカネ

「0番街?」


ヒロト

「世捨て人の街とか呼ばれてるそうだ。

 親切なヘシオドースの団員さんが教えてくれたよ」


アカネ

「……」


ヒロトはニコニコ笑ってるけど、私にはもうわかる

_目が笑ってない_


もしかしてその人を殺したの?

という疑問が出たけれど、怖くて聞けない。


その証拠に、この地図からかすかに血のにおいがする。


山岳地帯を抜けて、草原に出る。


鹿や馬が、そばを走り抜けていく。


ヒロト

「綺麗な景色だな」


アカネ

「そうだね」


その笑顔はさっきとは違って、本物だった。

草原を抜けると、今度はでこぼこした道に出た。


パンクしないか心配だったけれど、

こちらを見るヒロトの笑顔を見ていると、不思議と落ち着いた。


白い霧が濃くなってきた……。

そう思ったとき、目の前に村があった。


ヒロト

「日も暮れてきた、ちょうどいい。あの村に寄ろう」


そういって、車でゆっくりと村に入る。

夜だからか人もそんなに出歩いていない。

道の真ん中を車でゆっくりと進む。


_宿・インザミラー_と書かれた宿の前に車を止めると

ヒロトは私と一緒に魔石の結晶でカギをかけて

降りた。


その瞬間、私は背後に誰かの気配を感じて振り向いたけれど

そこには誰もいなかった。


ヒロト

「アカネ姉さん、どうしたんだ?」


アカネ

「ううん、なんでもない」


宿の扉を開けると正面に受付があった。


店主

「いらっしゃいませ」


ヒロト

「一晩の宿を借りたい

 出来ればスイートルームで」


店主

「二部屋ですか?」


ヒロト

「いや、一部屋でいい」


店主

「かしこまりました」


アカネ

「一部屋……」


しかもスイートルームって。


店主

「こちらがカギになります。チェックアウトは明日の朝8時になります。

 ゆっくりと体の疲れを休めて行ってくださいね」


ヒロト

「ありがとう、料金は?」


店主

「当店は後払いとなっておりますのでご安心を

 お二人で……45000エストになります」


ヒロト

「わかった」


店主からヒロトは鍵を受け取る。

番号は606号室らしい。


ヒロト

「カギを受け取ってきた、アカネ姉さん、行こう」


6階か、階段を上るのはちょっとキツい。

そう思ったら、ヒロトが片手を差し伸べてきた。


ヒロト

「エスコートしましょうか、お姉さん?」


アカネ

「え、えぇ!?」


恥ずかしがりながら、その手を取る。

ヒロトに引っ張られながら階段を上る。

赤いカーペットの敷いてある高級そうな宿だ。


6階までくると、ヒロトはそっと手を離して、

突き当りを右に曲がってその奥に進んで、ついた。


鍵穴にカギを差して、扉を開く。


キッチンに洗面所にお風呂とシャワーに

ふかふかのベッド。

外の景色が一望できる窓。


アカネ

「うわぁ、街の明かりが見えるよ!」


ヒロト

「そうか、よかったな」


ヒロトはさっそく椅子に座り、

背中に背負っている剣を置く。


私は久々のお風呂に我慢できなくなった。


アカネ

「ねぇ、お風呂入ってきてもいい?」


ヒロト

「あぁ、どうぞ。

 俺はちょっと買い出しに行ってくる。

 部屋から出るなよアカネ姉さん」


アカネ

「うん!」


そういうと、ヒロトはきょろきょろと周りを見渡した後に

手を振って部屋から出て行ったカギがガチャリと閉まる音がする。


私はというと、久々のお風呂に大はしゃぎだった。

でも、何かおかしい。


誰かに見られている気がする。

なんとなく不気味に思った私は、浴槽から出て

下着をつけて、服を着て軽装の鎧を着た。


アカネ

「新しい服……ってそんな時間ないか」


お風呂から上がった私は、大きめのベッドに横になる。

ダブルベッドだ……ダブルベッド……。


ということは、ヒロトとこのベッドで二人で寝るんだろうか?

……二人で。


そう考えると、ちょっと気恥ずかしい気持ちになっていた。

顔が赤らめられるのがわかる。


1時間後……おかしい、一向にヒロトが帰ってこない。


時計を見る。夜の9時だ。


ヒロトが出て行ったのは8時30分ごろ。


アカネ

「この時計、壊れてるのかな?」


時計の隣にある鏡を見る、そこには私が映っている。

映っているんだけれど、その鏡の中の私は

私と同じ動きをしていない!


鏡の中のアカネ?

「アカネ、アカネ……」


アカネ

「だ、誰!?」


鏡の中のアカネ

「私だよ、アカネだ……

 待っているよ お前の過去で……」


とっさにファントムさんの日本刀を握りしめると

鏡から出てきた沢山の腕に鏡の中に引きずり込まれる。


アカネ

「きゃあああ!!」



 @@@



ふと、目を覚ますと私はホテルのベッドで眠っていた。

なんだ、夢か……。安心したのもつかの間、私の手には日本刀が握られている。

いつ握ったんだろう?


起き上がった私は、不気味な感覚を察知して後ろを振り向いた、

鏡があるその鏡の前に_私そっくりの私_が立っている。


アカネ

「あなたは、誰!?」


アカネ?

「私だよ、アカネだ」


アカネ

「アカネは私だよ!」


ゆっくりと近づいてくる目から血を流している私。

怖い……そう思った時、もうすでに体が動いていた。

出入り口の扉を開ける。



 @@@


ここは?

扉を開けた先は、そうここは私の家の私の部屋だ。


目の前で_私_がお父さんに思い切り頬を殴られ

口から血を流して倒れ込んでいる。

その表情は怯えている。


カズオ

「アカネぇ!!」


アカネ

「ごめんなさい! ごめんなさい!」


サクラ

「あなた、もうやめて!」


カズオ

「うるせぇんだよ! ひっこんでろ!」


頬を殴られる_私_。

カズオは顔が真っ赤だ。

そうだ、お父さんはいつもお酒を飲んでパチスロで負けた腹いせに私に暴力をふるっていた。


ガラスでできた灰皿を投げつけられ、それがお腹に当たる。

尻もちをついて怯える_私_


カズオ

「脱げ」


アカネ

「い、いや……!」


カズオ

「親のいうことに逆らうのん?

 いつからそんなに偉くなったんじゃこらぁ!!」


顔面に蹴りをいれられ、馬乗りになったお父さんは

私の顔をひっぱたく。


そして、ビリビリと私の服をやぶる。


アカネ

「やだ……や、やだ!!!

 嫌あああぁぁ!」


大急ぎで扉を閉める私は、後ろから不気味な気配を感じた。


アカネ?

「いいねぇ、お前の恐怖は今まで食ってきた人間とは違って格別だぁ」


耳元でささやいてきた目から血を流している_アカネ?_を突き飛ばすと

そのアカネ?は姿を変えた。


ソウルイーター

「私はソウルイーター、お前みたいに闇を抱えた美味そうな人間を待っていたんだよ」


黒くて丸い球体にたくさんの目が付いている。


恐怖で言葉が出ない。

ソウルイーターと名乗った魔物の横をすり抜けて、シャワールームに逃げ込む。

扉を開けて入った瞬間、今度は学校に出た。


アカネ

「え……」


そこで目撃したのは学校の教室。


男子生徒A

「お前、成績がいいからって調子のってんじゃねぇぞ」


男子生徒B

「おらぁ!」


学生服を着た男子生徒が_私_を殴りつけた

倒れ込んだ_私_の腹部に蹴りを入れて

倒れた_私_の髪の毛を引っ張る。


その光景を見て女子生徒が数人笑っている。


_アカネ_

「そんなつもりじゃなかったの! 許して、お願いだから許して!」


壁に頭を叩きつけられ、その衝撃で鼻血が出る。

今度は髪の毛を引っ張られ、後ろに引き倒される。

馬乗りになった男子生徒は_私_の顔を何度も殴りつけた後

学生服を脱がし始めた。


_アカネ_

「やめて! 嫌ぁあぁあ!!」


その様子を廊下のドアから見ている担任の女教師。

その教師を目が合う_アカネ_。

女教師はそっと、扉を閉じてその場から立ち去った。


私は後ろを振り向いたが、ドアがない。


ソウルイーター

「そんなに怖がらなくてもいいじゃないか、現実に起きた出来事なんだから

 受け止めなきゃ~……くひひ!」


その場から離れるために、必死に日本刀を握りしめながら

学校の廊下を走る。

息が切れるまで走り続けた。


学校の廊下をかなり走ったはずなのに、場所が変わっていない……。

教室からゲラゲラと男子生徒たちの笑い声と_私_の悲鳴が響き渡る。


アカネ

「見たくない! 思い出したく、ない!

 嫌……怖い、怖いっ……」


廊下の真ん中で膝をついて頭を抱えてしゃがみ込む。


ソウルイーター

「そろそろ食べごろだなぁ……」


球体の魔物が半分に裂けて大きな口となり迫ってくる。

廊下の真ん中でファントムさんの日本刀を握りしめたまま

ガクガクと私は震えることしかできない、涙を流すことしかできない。


アカネ

「もう、許して……誰か……たす、け……」


涙が止まらない、怖い、怖い……。

誰か…誰か……誰かって……誰だろう……?

そうだ、そうだった……助けを呼んでも誰も来ない

いつもそうだった、誰も助けに来ない……来るはずがない。

私は見捨てられる運命なんだ、きっと……。


「……さ、ん……アカネ姉さんどこだ!」


私を呼ぶ声が聞こえる。

後ろの廊下に切れ目が入る。

するとその先から現れたのはヒロトだった。


ヒロトは空間を切り裂いて、その剣をソウルイーターに投げつけた。

黒い球体から目が大量に出ているソウルイーターの目に剣は刺さった。


そしてヒロトは怯えてる私を後ろから抱きしめた。


アカネ

「ヒロ……ト……? どうして?」


ヒロト

「言っただろ、アカネ姉さんを守るって」


ヒロトは私を後ろから抱きしめてる状態のまま、目の前に転がっている日本刀を

両手で握り。


ヒロト

「さぁ、アカネ姉さんもカタナをもって!

 乗り越えよう、二人で!」


恐る恐る、私はカタナをヒロトと一緒に握りしめ。

ゆっくりと引き抜いた。


居合いのように横に薙ぎ払うと、ソウルイーターが横にスパッと切れて

血しぶきをあげながら悲鳴を上げた。


それと同時に空間がズレるように切れて、私とヒロトは

鏡の中から外へ出た。


そして鏡はひびが入り、砕け散った。



 @@@



しゃがみ込んで、泣いている私の涙をヒロトは人差し指で拭って

抱きしめてそっと、頬にキスをした。


アカネ

「……ここは?」


ヒロト

「ここは村じゃない、あの魔物が作り出した幻覚結界の中だったんだ」


周囲を見渡すと、何もなかった。家の一件さえ、

人さえいない、何もない荒地だった。


私を再び抱きしめるヒロト、自分の過去、彼が助けに来てくれたこと

頭の中は混乱していたけれど、私は涙が止まらなかった。

悲しかったのもあったけれど、一番なのは……ヒロトが助けに来てくれたことだ。



 第11話 鏡の中と過去の傷 終

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