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ユグドラシルストーリー  作者: 森のうさぎ
10/19

第10話 腐敗したもの


ヒロトが運転する車が森の中を走り抜ける。

次々と横切っていく木々と、その隙間から見える景色。

海が見える。どうやらここは海沿いのようだ。


ヒロト

「このまま進むと、共和国の領土からかなり離れるな」


ロディさんは、私たちを共和国の手から引き離したかったんだ。

守るために。

今頃どうしてるだろう、大変なことになってなければいいけれど。

そう思ってるとき、ヒロトが魔石の結晶を握りしめて運転しながら

じっと何かを片手で見ていた。


その片手には魔水晶の欠片が握りしめられていて、そこに映っているのは

赤髪の……私……? 赤髪のアカネだ。


両手を広げて、何か苦しそうに叫んでる。

そして、次に魔水晶の欠片に映り込んだのは黒いハンマーをもったアーマーギア。


バリンッ!

と、音を立てて魔水晶の欠片が砕け散った。


ヒロト

「マナの限界か」


アカネ

「……」


連れていかれたアカネとクロユリはどうしてるだろう……。

私は安全なところにいて、あの二人は危険なところにいる。

こんなことをしていていいのだろうか……。


力があれば、大切な人を守れる力があれば……。


ヒロト

「アカネ姉さん。あんまり気負いすぎるなよ。

 強くなってほしいとは言ったけれど、それじゃ体がもたないよ」


アカネ

「う、うん……。

 ねぇ、ヒロト……」


ヒロト

「どうした?」


アカネ

「車って珍しいのかな?」


ヒロト

「たぶんね、あの倉庫には、これ一台しかなかった」


アカネ

「そうだね、この世界、電車もないもんね……」


ヒロト

「……? 何か思い出したのか?」


アカネ

「う、うん……私がこの世界に飛ばされてきたときの事

 ちょっとだけ」


ヒロト

「そうか……」


彼はそれ以上、私に質問しなかった

気を使ってるみたい。

_PTSD_

お医者さんがそういっていたことを、たぶん気にしてるんだと思う。

あの頃、何があったのかは……やっぱり思い出したくない。

考えたくない。ちょっと思い出しただけで手も足も震える。


海沿いのけものみちの曲がり角を曲がったところだ。

目の前に青い巨人が二体、立ちふさがっていた。


国境検問所と書かれている。


アカネ

「うそ……検問!?」


ヒロト

「チッ!」


ブレーキをかけるヒロト、重力が正面にかかり体が前のめりになる。

シートベルトをしてなかったら危なかった。


共和国兵士

「はい、止まって……」


中をのぞき込もうとした共和国の兵士の両目をヒロトは指でえぐった。

私は反射的に目をそらしてつぶった。

恐怖に耳もふさいだ。


ガチャッと、扉を開ける音がする、ヒロトが降りたようだった。

剣で何かを刺す音がした後、


ヒロト

「ヴィントカイザー!」


と、ヒロトが剣を掲げて大声で叫ぶと、巨大な魔法陣が上空に現れ、

地面に着地する。


ヒロトは剣に吸い込まれると、ヴィントカイザーのコアの中に剣が埋め込まれ

ヴィントカイザーの真っ黒だった瞳が緑色に光る。


ヒロトと同化するために、かがんだ状態から立ち上がろうとするヴィントカイザーに

青い共和国のアーマーギアが剣で斬りかかるが、突風にあおられ体制を崩す。

ヴィントカイザーは地面に両手を付けると、右足でふらついている青いアーマーギアの

足を払った。

地面に10mの巨体が倒れ込む。


倒れた衝撃が私の乗っている車まで伝わってくる。

倒れた青いアーマーギアは起き上がる前に、ヴィントカイザーに右手で首をつかまれ

ギリギリッ……グギッと首をへし折られた。


もう片方の青いアーマーギアが斧を構えると

ヴィントカイザーは立ち上がりながら、絶命して倒れている青いアーマーギアの首をつかんで

片手で検問所にむかって投げつけた。


連絡されないため、だと思う。

ここからではよく見えないけれど、通信機のようなものを手に取ろうとした

共和国兵士の人が青いアーマーギアに押しつぶされた。


ヴィントカイザー

「……行け……!」


風が吹いた。その風の中から小さい剣が現れると、斧をもったアーマーギアの左胸に

刺さった。


青いアーマーギアは左胸に刺さった剣を片手で押さえながら、斧を投げつけてきた。

ヴィントカイザーはその斧を片手で受け止めると、


ヴィントカイザー

「ありがとよ……!」


といって、斧を投げ返すと共和国の青いアーマーギアの頭に当たり半分に割れた。

国境検問所の共和国兵士は全滅したみたいだ。


すると、その検問所の向こう側から紫色のアーマーギアが三体走ってきた。


ヴィントカイザー

「……新手か?」


紫色のアーマーギア

「あれがロディ団長からの……」


私は怖かったけれど、反射的に車から飛び出して叫んだ。


アカネ

「ヒロト、待って! 敵じゃないみたい……」


紫色のアーマーギア

「あんたがヒロトだな?」


ヴィントカイザー

「あぁ、そうだ」



 @@@



そのあと、私たちはその紫色のアーマーギア三体に護衛されながら

ヘシオドースというホワイトガーディアンズの支部に案内された。


小さな村に偽装している支部らしい。


キャンピングカーをヘシオドースの倉庫に隠した後、

私とヒロトは支部長のところに案内された。


支部の中は部屋ごとに番号が振ってある、アダマントやオリハルコンと大違いで

まるで学校みたい……学校……。


タラビン

「俺がここの支部長のタラビンだ。よろしく、ヒロトさん、アカネさん」


ヒロト

「あぁ、よろしく」


アカネ

「さっきは助けに来てくれて、ありがとうございます」


タラビン

「よかったら支部のみんなにも軽く挨拶してくれないか?」


ヒロト

「悪いが多忙でね……」


タラビン

「まぁ、そう言わずに……オリハルコンを守った女神様の話は噂になってるんだからさ」


アカネ

「あの、なんの話ですか?」


タラビン

「とぼけちゃって……」


ヒロト

「気づかいは無用だ、俺とアカネ姉さんは車で寝る」


アカネ

「あっ、ヒロト!」


ささっとその場から去るヒロト、私はタラビンさんに頭を一度下げると

そのあとを追った。


アカネ

「ひ、ヒロト。いくらなんでも失礼すぎない?」


ヒロト

「……アカネ姉さん、相手の目と態度をよく見ろ」


アカネ

「え?」


ヘシオドースの支部の廊下を歩く私とヒロト。

態度って……女神様とかなんとか……。


団員A

「おっ、オリハルコンの女神ってのはあんたかい?」


団員B

「うわぁ、すっげー美人!」


ヒロト

「……」


アカネ

「あ、あの……」


団員二人に道をさえぎられた。

ガラが悪そうだ……。ヒロトに目をやると、無表情だった。


団員A

「お嬢さん、どうよこの後……俺と一発」


そういって、私の手をつかもうとした団員の手を

ヒロトは握りしめた。


団員A

「いててて!」


ヒロト

「悪いがこの人は俺の女なんでね、手出さないでもらえます?」


俺の……女……!?

私が、ヒロトの?


団員A

「す、すいませんでした!」


団員B

「……く、くそっ……」


その場から急いで退散する団員の二人。

404号室にさっきの二人は入っていった。

それをじっと見ているヒロト。


……ヒロトは守ってくれたらしい。

でも、俺の女って……今。


ヒロト

「ん、アカネ姉さん?」


私が、ヒロトの女?


ヒロト

「もしもーし、アカネ姉さん?

 顔が赤いぞ、熱でもあるのか?」


顔を近づけてくるヒロト。


アカネ

「うわっ、な、なんでもない

 なんでもないよーっ!」



 @@@


倉庫のキャンピンクカーで寝る私とヒロト。

扉を開けて入ると、まず正面にトイレ、右に曲がると椅子とテーブルがあり

その隣に二段ベッドがある。


下の段がヒロト用、上の段が私用だそうだ。

今日はここで寝ることになるみたい。


食料は下の段のベッドの横に棚があるので、その中に入っている。

といっても、パンと牛乳しかないけれど

私はそれで十分だった。


そのまま夜になった。

私は目をつむり、かけていた時。

ヒロトが剣をもってどこかへ出かけようとしていた。


アカネ

「ヒロト、どこ行くの?」


ヒロト

「……なに、ちょっと見回りだよ」


暗くて良く見えないが、ヒロトはウィンクしてみせたようだ。

ガチャリと扉が閉まる。


それから数分後に、ヒロトが返ってきた

私はとても眠かったのでうつらうつらとしていたが

かすかに_血のにおい_がした。



次の日の早朝、私が起きたころには

シャッターの開く音が聞こえてきた。


着替えなんて持ってきてないので、そのまま寝ていたのだけれど

起きた私はワゴンから降りようとして扉を開いた。

すると、すぐに大声が聞こえた。


ヒロト

「アカネ姉さん、助手席に乗って!」


アカネ

「ヒロト?」


ヒロト

「早く!」


アカネ

「え、う、うん……」


助手席に乗ると、すぐにキャンピングカーは走り出した。


アカネ

「どこにいくの!?」


ヒロト

「……見ろ」


私が外を見ると、青いアーマーギアの部隊がすぐそこまで

ヘシオドース支部に迫ってきていた。


アカネ

「大変……! た、助けにいかなきゃ」


ヒロト

「嫌だね」


アカネ

「え?」


ヘシオドースの支部が砲弾で攻撃されている。

紫色のアーマーギアが青いアーマーギアと戦っている。


アカネ

「助けないと……」


ヒロト

「なら自分でどうぞ?」


アカネ

「……私の力で……?」


ヒロト

「あぁ。

 アカネ姉さん、厳しい事をいうけど

 甘えていいタイミングとダメなタイミングがあるんだよ」


アカネ

「あの人たちは見捨てるの?」


ヒロト

「俺の目的はあくまでもアカネ姉さんを守ることだ

 そのためにはどんな手でも使う、卑怯な手でもなんでもな」


アカネ

「……こんなに、弱い私は……どうすればいいの……」


ヒロト

「強くなればいい」


アカネ

「えっ?」


ヒロト

「悔しいと思うなら強くなればいい、それだけのことだ」


朝日を背に、ヒロトが運転席からニッと微笑む。

西に向かう車の後ろの方では、沢山の砲弾の爆発音と

敵に切り殺される紫色のアーマーギアが見えた。



 第10話 腐敗したもの 終

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