第1話 守護者
小説のルールを完全に無視して書かれた作品です。
私自身、小説の枠にとらわれるのが嫌なので
好きなように書きました(笑)
日も落ちかけている薄暗い都会、黒髪の13歳の少女は中学生の学生服を着て自宅への帰路についていた。
雨も降っていないのにその制服はびしょぬれで、頬には殴られたアザがあった。
うつむいたまま、横断歩道を渡る。
瞳からは涙を流し、何度ぬぐっても拭いてもその涙は止まらなかった。
少女
「どうして、私だけ……なんでこんな目に……」
そうつぶやきながら涙をぬぐっていた、少女の目の前に突如出現した異次元空間。
少女は涙をぬぐうのに必死で、前が見えていなかった。
異次元空間の扉の中へと涙を流しながら入っていった。
気が付くと、少女は森の中にいた。
少女
「え? ここ、どこ……?」
後ろを振り返るけれど、そこには先ほどまでの街はない
たくさんの木々が力強く生え、辺りを見渡しても全て草木だらけだ。
学生カバンを地面に落とし、呆然としている。
ふいに、首筋に何かを突き立てられる。
刃物だと気づいた少女は足が震える。
盗賊A
「お嬢ちゃん、迷子かい?」
少女
「ひっ……」
三人組の男たちに取り囲まれていることに気付いた少女は
身の危険を感じていた。
盗賊B
「服装からして、異国か貴族の女だな」
盗賊C
「こりゃ高く売れそうだ」
売られる? 私が売られる?
状況はよくわからないけれど、どうやらこの人たちは強盗か何からしい。
もしかしたら泣いている間に森の中まで来てしまったのかもしれない。
抵抗しようにも、体が震えて動けない。
何より首元にあてられたナイフが怖い。
盗賊A
「へへっ……売る前に味見だけしようぜ。
どうやらこいつキズ物みたいだからな」
ボロボロの制服の首元のリボンをナイフで切られ、少女は押し倒される。
少女
「い、嫌っ! 嫌ぁ……!!」
助けを呼ぼうと声をあげようと思ったけれど、どうせ誰も来ない。
今までこういう目には何度もあってきたけれど、いつも誰も……。
目前の恐怖よりも自分に産まれたときから与えられた現実を考えていた時だった。
一人、そして二人。盗賊の男の首が宙を舞う。
そこには銀髪の男が刀を握りしめて立っていた。
顔にはキズがあり、黒いロングコートがヒラヒラと風と踊っている。
盗賊A
「な、なんだテメェ!」
私を押し倒していた男がそう叫び、ナイフを銀髪の男性に向けたと思ったら
そのナイフを握りしめた腕が刀で綺麗に切り落とされ、
私の目の前で刺殺された。
あまりの異常な光景に、私は言葉を失っていた。
すると、銀髪のロングコートの男は一言
銀髪の男
「……君を、救いに来た」
と、口にした。
それから数年の月日が流れた。
__ユグドラシルストーリー__
@@@
やけに頭が痛い。
ここはどこだろうか、ベッドで寝ていることに気付く俺。
たしか、アカネ姉さんと剣の稽古をしていたような記憶はある。
そこより前のことが、よく思い出せない。
感じるのは布団の重みと誰かの熱い視線。
ムクりと体を起こす。
ヒロト
「う、うぅ……ん」
アカネ
「ひ、ヒロ君! 気が付いた!?」
目を開けると目の前に赤い髪のポニーテールの女性がのぞき込むように俺の顔を見つめていた。
そのポニーテールをピンクのリボンがくくっている。
そうだ、俺はたしかこの女性、ユカリノ・アカネと剣の稽古をして負けたんだった。
アカネ
「ファントムさん、ヒロ君が目を覚ましました!」
その20代前後の女性、アカネは部屋のドアにむかって叫んだ。
そんなに声を出さなくても聞こえるのでは?
そう考えていると、部屋のドアを開けて銀髪の男が歩いてきた。
ファントム
「おや、気が付かれましたかヒロト君」
この人は、誰だ?
アカネ
「ヒロ君、私だよ? アカネだよ?
わかるよね?」
心配そうに語り掛けてくるアカネ姉さん。
もちろん、覚えているさ。
ヒロト
「あぁ、大丈夫だよアカネ姉さん
でも、その人は?」
ファントムと呼ばれた銀髪にメガネ、黒いロングコートに顔にキズのある男に見覚えがない。
50代ぐらいの年齢だろうか。この人は誰だ?
ファントム
「おや? 忘れられてしまいましたか?
そうですね、アカネ君とヒロト君の親代わりといったところでしょうか」
ヒロト
「たしか俺、アカネ姉さんと剣の稽古してて……」
左手でベッドをおさえながら、右手の平を顔につける。
そうだ、俺もアカネ姉さんも村の自警団の人間で
稽古をしていた時、アカネ姉さんの一撃を回避しようとして背後の木に頭から激突したんだ。
アカネ
「本当にごめんね、まさか木にぶつかるなんて思わなくて……」
ヒロト
「いや、大丈夫さ。アカネ姉さんが思うほど俺はヤワじゃないよ」
そういいながら部屋の壁に引っかかっている時計に目をやった
時間は昼の12時。その視線を追うようにファントムさんが時計を見た。
ファントム
「もうお昼です、体に問題がないのであれば
アカネ君と散歩でもしてきてはどうですか?」
相変わらず頭が少し痛いが、体のほうは何ともないみたいだ。
ただ、若干意識がもうろうとする。
まるで何かの夢から覚めたみたいに。
アカネ
「そうだね。お昼ご飯を食べたら、一緒に出掛けよっか!」
花が咲くような笑顔で、アカネ姉さんは俺に微笑みかけてきた。
俺はアカネ姉さんが作ったサンドイッチを食べ終わると
二人でファントムさんに挨拶して家の外へ出た。
ファントム
「……記憶の欠如か」
@@@
そういえば……。
この村は、なんて呼ばれてたっけ。
ヒロト
「アカネ姉さん、この村の名前ってなんだっけ?」
アカネ
「ヘイロウ村だよ……?
どうしたの、自分の村なのに」
ヒロト
「いや、なんかさ。思い出せないんだ」
そう、ぼんやりとしていて記憶があいまいだ。
全然覚えてない。村のこと、さっきの銀髪の男、ファントムさんのこと。
ただ、覚えているのはアカネ姉さんという名前と
この人を大切に想うことだけ。
アカネ
「もしかして、記憶喪失? 冗談、だよね?」
ヒロト
「いや、どうもそうらしい。
アカネ姉さんと稽古した覚えは少しあるけれど、その前がまったく」
アカネ
「もし本当に記憶喪失なら、私のせいだね……。
その、ごめんなさい」
ヒロト
「うーん、でも記憶喪失と決まったわけじゃないし
後で思い出すかもしれないから アカネ姉さんが悪い訳じゃないよ」
俺はこの赤毛のポニーテールの女の子、アカネを姉さんと呼んでるが
実の姉ではないことぐらいは覚えてる。
たしか、物ごころついたころから姉さんと呼んでいた。
いつだったかな……?
アカネ
「何かビックリすることがあれば、思い出すかもしれないね」
そういったアカネ姉さんは、思いついたかのように手のひらを拳でポンッと叩くと
アカネ
「そうだ! 最近見つけた秘密の場所、ヒロ君に紹介するね!
もしかしたらビックリして思い出すかも?」
ヒロト
「秘密の場所?」
@@@
アカネ姉さんに連れてこられたのはヘイロウ村のはずれにある
大きな建物だった。
建物というよりは、そびえたつ箱型の棺桶にも見えなくない。
縦の長さでも30メートルはある。
アカネ
「ここがそうだよ!」
ヒロト
「大きいな、何の倉庫なんだ?」
アカネ
「わからないけど、倉庫というよりビルみたいだよね?」
ヒロト
「ビルってなんだ? アカネ姉さん」
アカネ
「え? ビルっていうのは……うっ」
唐突にアカネ姉さんが頭を抱えてしゃがみ込んだ。
いきなりどうしたんだ!?
ヒロト
「大丈夫か、アカネ姉さん!」
アカネ
「え、えへへ……平気だよ。
なんか、頭が……」
笑顔で返事を返すアカネ、その表情は無理に笑顔を作っている感じだった。
そんな俺たちをよそに、村の方角からカンッ!カンッ!と鐘の音がなる。
ヒロト
「なんだ!?」
アカネ
「あれは、村の鐘の音……まさか魔物が!?」
魔物……動物が凶暴化して闇に浸食された存在。
アカネ
「ごめん、ヒロ君! 私行かなくちゃ!」
大急ぎで走り出すアカネ姉さん。
ちょっと待ってくれ、いくらなんでもいきなりすぎる。
ヒロト
「あ、え!? アカネ姉さん! 待ってくれ!」
慌てて俺もアカネ姉さんを追いかけて走り出した。
@@@
村の入り口で熊の姿をした2メートルはある魔物と自警団の団員たちが
戦闘していた。
そこへ駆けつけるアカネ姉さんと俺。
さくの前に剣が一本だけ立てかけられている。
そのそばで自警団の団長が指揮をとっていた。
アカネ
「団長さん、また魔物ですか!?」
団長
「あぁ、しかし今回のはかなり手ごわくて……ケガ人も出てる」
また魔物、ということは今回だけじゃないらしい。
俺は魔物と戦ったことがないと思う。
たぶん一度も……。そうわかっていながら不思議と恐怖は感じない。
アカネ
「団長さん、私戦います!」
そういうと、アカネは立てかけられていた剣に手を伸ばし
鞘を腰に納めて剣を抜いた。
さすがにアカネ姉さんを戦わせておいて俺は何もしないというわけにはいかない。
ヒロト
「団長さん、俺も戦います」
団長
「ヒロト君、気持ちはわかるがもう渡せる剣がない。
団員たちがほとんど剣を持っていっては折られている」
そ、そんなに今回の魔物は強いのか……。
アカネ
「大丈夫、みんなは私が守るから!」
俺の心配をよそに、アカネ姉さんは魔物にむかって駆け出した。
その周囲にはケガをして倒れている団員たちがいる。
アカネはスカートの後ろのポケットから小さい石を取り出すと
それを握りしめて叫んだ。
アカネ
「ヒール!」
周囲に倒れている団員たちの傷がみるみる治癒されていく。
それと同時に、アカネが持っていた石がひび割れて砕け散った。
俺は、武器がない。どうする……?
そんなことを考えていた時、すでにアカネは魔物の正面に
剣を構えて立っていた。
魔物
「グオオオ!」
遠くから見てもわかる、両腕が巨大な鳥の爪のように鋭い、熊の姿をした魔物。
魔物というより、人工的に作られたキメラのようだ。
アカネ
「魔物、というより……キメラなの?」
熊の姿をした魔物が腕を振り回す、それに対してアカネは剣一本で立ち向かっている。
爪の一撃、二撃を何とか回避しているアカネだが、押され気味だ。
その一方で、他の団員はケガ人を魔物から遠ざけている。
俺もなにかしないと……。
そう思った俺は、魔物とアカネにもっとも近いケガをした団員を救助しようとした。
すると魔物は好機とばかりに、ヒロトを。
そう、俺を狙ってきた。アカネが叫ぶ。
アカネ
「だめっ!」
叫んだ瞬間だった。俺はアカネ姉さんが盾になって背中を魔物に切り裂かれるのを見た。
アカネ
「うっ……あぁ……」
俺は団員を助ける手を離し、アカネ姉さんを受け止めた。
背中を切り裂かれ、血が噴き出している。
アカネを受け止めた俺の手が血に染まる。
ドクン、と心臓が飛び跳ねるような感覚を感じた。
ふつふつと湧き上がる怒りを感じた。
魔物はアカネ姉さんにトドメを刺すつもりで爪を大きく振りかぶっている。
ヒロト
「よくもヤッタナ……」
そこで俺の記憶は途切れた……。
@@@
その夜のことだ。少しの時間、意識を失った俺は何があったのかを
アカネ姉さんから聞かされ、緑のロングコートをファントムさんから渡されて
衣服を着替えた。その後、夕飯のため食卓のテーブルを三人で囲って座る。
テーブルには、パン、ハンバーグ、ポテトサラダがある。
ファントム
「ヒロト君、アカネ君も今日は大変だったみたいですね
今では村で噂になってますよ。
自警団のユカリノ・ヒロトが素手で魔物を撃破って」
ヒロト
「いや、俺にもわからないんです。
なんであんなに戦えたのかとか」
_数時間前_
アカネを瞬時に横に突き飛ばし、魔物の一撃から守る。
俺は素手で魔物のアゴに強烈なアッパーを入れていた。
次に正拳突きを腹に叩き込んだ。
魔物が後方に吹き飛ばされる。
驚いている様子の魔物。
ヒロト
「てめぇ、コロス」
魔物
「グ、グオオ!」
向かってくる魔物の一撃を軽く回避しながら
じわじわと一撃一撃の拳を叩き込んでいく。
ざまぁみろ、アカネ姉さんを傷つけるからだ。
そう、アカネ姉さんを傷つける奴はコロス。
魔物
「グオオオ!」
ヒロト
「息を吸うな、空気が汚れる」
団員
「ヒロトのやつ、あんな相手を素手で……!」
アカネ
「ひ、ヒロ君……」
素手で腕を引きちぎり、ローキックで足の骨を砕き、
ひざまずいた魔物の眉間にひざ蹴りを入れる。
バタリと仰向けに倒れた魔物の左胸に拳をねじ込み
その心臓をつかみ、引きちぎった。
ヒロト
「イイ色ダナ」
そういって俺は魔物の心臓を握りつぶした。
周囲の地面の草を魔物の赤い血が染めていく。
魔物は動かなくなり、絶命したようだ……。
団員や団長、そしてアカネ姉さんからの視線。
それが喜びと恐怖が入り混じっていた気がした。
そこで俺は、意識を失った。
意識を失う瞬間、アカネ姉さんの声が聞こえた気がしたが。
_そして現在_
わからない。何故あんなに力が出せた?
何故憎しみのような感情が沸いてきた?
何故、快感を覚えた?
あれじゃまるで……。
アカネ姉さんを守る名目の、殺人鬼だ。
アカネ
「ヒロ君、すっごく強かったよ!
私も助かっちゃった」
……それより、アカネ姉さんのことが心配だ。
ヒロト
「アカネ姉さん、傷はもういいのか?」
アカネ
「うん、ファントムさんに治療してもらって
傷も残らないみたいだから」
ファントム
「治療には、この魔石を使いました
まだエネルギーは残っています」
ヒロト
「魔石?」
なんだそれは? 覚えがないぞ。
ファントム
「世界樹ユグドラシルの魔石ですよ。
魔法を使う上では欠かせないシロモノです」
俺はアカネ姉さんが石を使って団員たちのケガを治しているのを目撃している。
そうか、あれは魔石の力だったのか。
ファントム
「人間が魔法を使う時には、魔石または魔水晶が絶対必要ですからね?」
様子を見るような目でファントムさんがこちらを見ている。
俺は疑われるような視線にとても居心地が悪かった。
ファントム
「記憶は戻りましたか?」
ヒロト
「いいえ……」
アカネ
「そ、それよりほら。二人とも食べて食べて!」
気を使ってるのか、アカネ姉さんが食事をすすめてくる。
ヒロト
「アカネ姉さんの作った料理、とても美味しいよ」
アカネ
「そう? えへへ……嬉しいな」
小さく笑うアカネ、その手は少し震えていた。
俺のせいなんだろうか……。
だが、その日の夕飯は本当に美味しかった。
@@@
その深夜、俺とアカネ姉さんの部屋は隣同士だ。
部屋のドアの前で二人向き合う。
アカネ
「ヒロ君、今日は大変だったね……」
ヒロト
「あぁ。……なぁ、姉さん」
アカネ
「なぁに?」
ヒロト
「俺は、いったいいつからこの村にいるんだ?」
アカネ
「ヒロ君は、私がファントムさんに助けられた時からいたような
いなかったような……ごめん、思い出せない」
ヒロト
「アカネ姉さんが助けられた?」
どういうことだろうか?
アカネ
「実は私もあんまり昔のことを覚えてなくて……。
数年前、盗賊に襲われてるところをファントムさんに助けてもらったんだ。
そこからが私の記憶。それより前のことは覚えてない」
数年前に盗賊……。
アカネ
「ファントムさんは、きっと大変な目にあったんだっていって
私を保護してくれたんだ。
お父さんやお母さんが今どこにいるかとかも、わからない。
生きてるかもわからない……」
俺の家族……。
アカネ
「でも、それでも私は今の生活が好きだよ。
ヒロ君がいて、ファントムさんがいて……。
……ごめんね、答えになってないよね」
ヒロト
「いや、いいんだ無理に聞き出そうとしてこっちこそごめん」
アカネ
「ヒロ君、今日は守ってくれてありがとうね」
そういってアカネ姉さんは部屋のドアを開けて、ドアに隠れながら
小さく手を振って、ゆっくり扉を閉めた。
数年前とはいえアカネ姉さんは顔だちもいいし、スタイルもいい。
ピンクの衣服に白いスカート。そして大人しいけれど勇気のある性格。
普通に美女といっていいだろう。
そんな子が盗賊や危険な連中に狙われないほうがおかしい。
野蛮な人間の側には置いてはいけないタイプの女性だという確信がある。
だとしたら、俺は何だ? 俺は何故ここにいる?
あの時の、アカネ姉さんを傷つけた魔物に対して俺はざまぁみろと思った。
なぜそこまで憎む必要があった? ファントムさんに直接聞いてみるか。
そう思った俺は、部屋には戻らず、ファントムさんの書斎に行ってみた。
@@@
礼儀としてドアをノックする。
ファントム
「おや? どうぞ」
ヒロト
「失礼します」
そっとドアを開け、ファントムさんの書斎に入る。
部屋の奥には本が大量に棚に入っており、左隣にはソファーが向かい合わせに二つと
四角いテーブルが一つ。
ファントム
「こんな時間にどうしました、ヒロト君」
書斎の奥の長方形の机と椅子に腰かけているファントムさん。
俺にはどうしても聞きたいことがある、知りたいことがある。
ヒロト
「ちょっと、ファントムさんにおたずねしたいことがあって……」
ファントム
「ほう、なんでしょうか?」
ヒロト
「俺はいつからここにいるんです?」
俺はどこからきて、どうしてここにいるのかが知りたい。
記憶がないままというわけにはいかない。
ファントム
「あぁ、覚えていないんですね……」
ヒロト
「すみません」
ファントム
「しかし……」
言い淀むファントムさん、何かを隠している様子だ。
ヒロト
「しかし、なんですか?」
しばしの沈黙が書斎を包んだ、だがその沈黙を
ファントムさんが破った。
ファントム
「ヒロト君、貴方には真実を知る覚悟が……ありますか?」
え? 思わず声を漏らす。真実を知る、覚悟?
真実を知る覚悟、ということは今まで嘘をつかれていたという
考え方になるのだが……。
ヒロト
「真実を知るというのは、どういうことですか?」
ファントム
「そのままの意味です、知ったらもう後戻りはできません」
真実を知る覚悟……、覚悟なんてない。
でも真実は知りたい。
ヒロト
「覚悟はありません。でも、今日の出来事といい
アカネ姉さんのことといい。俺にとっては謎だらけです。
もし、何か知っていることがあるなら教えてください」
ファントム
「……」
ヒロト
「ファントムさん!」
ファントム
「わかりました、覚悟がないなら……一部をお話しましょう
そちらのソファーへどうぞ、ヒロト君」
うながされるまま、ソファーへ座る。
すると、ファントムさんは何やら本棚から一冊の書物を取り出し
しおりの挟んであるページを広げて、テーブルの上に置いた後
向かい側のソファーに座った。
ヒロト
「これは?」
そこに描かれていたのは巨大な樹と鎧をまとった騎士と
翼の生えたトカゲの絵だった。
ファントム
「この世界はユグドラシルという巨大な樹が世界の中心にあり
そのバランスを保っています。
ユグドラシルは依代を必要とし、巫女と呼ばれる人々が
支えてきました」
ユグドラシル? 依代? 巫女?
ファントム
「この世界の人間はすべて闇属性の心をもって生まれます。
だから、ユグドラシルは別次元の人間、光の心を持った女性を依代とします。
現在のユグドラシルの依代は、アカネ君の母親サクラさんです」
ヒロト
「なんだって……!?」
ファントム
「そして、私はそのユグドラシルからの声をきくことができ
次の依代になる人を何としても守ってほしい、そして願わくば
依代にしないでほしいと頼まれました」
まさか……それが。そう思って考えている俺の予想があたってしまった。
次にファントムさんが続けた言葉は、そう、アカネ姉さんが依代に選ばれているということだ。
ファントム
「私はすべてのものから守るため、身を隠すためにアカネ君をこの村に連れてきました」
ヒロト
「……この翼の生えたトカゲと騎士は?」
ファントム
「旧大戦時の12体の邪悪なドラゴンと人型兵器アーマーギアです」
ドラゴンとアーマーギア?
ファントム
「別名12の邪竜は旧大戦時に多くのアーマーギアによって9体が倒されました。
そして、率先してドラゴンたちと戦ったノルドと呼ばれる街が国を作り
ノルド共和国となりました」
ヒロト
「俺は、誰なんだ?」
ファントム
「貴方はアカネ君を守るためだけの存在、あなたは……」
話を続けようとしたファントムさんだったが
外が何やら騒がしい、叫び声が聞こえてくる。
外の様子をカーテンを開けて確認するファントムさん。
ファントム
「奴ら、ここに気付いたのか……」
ヒロト
「奴ら?」
俺がアカネ姉さんを守るためだけの存在、というところまではわかったけれど
何を話そうとしたんだ……?
そう思っている俺をよそに、ファントムさんは急ぎ足で部屋から出ていく
あわてて俺もその姿を追いかけた。
@@@
村の中で10メートルほどの巨大な騎士が3体、周囲の家をたたき壊している。
自警団も弓で攻撃するが、その一撃は巨大な鎧の前に歯が立たない。
青い色の甲冑が俺の目に焼き付いた。
その姿はまるで、殺戮を楽しんでいるかのような。
ファントム
「あれは! 共和国のアーマーギア!
……ここがバレてしまったのか」
共和国のアーマーギアとやらがどうしてこの村を!?
俺とアカネ姉さんとそのユグドラシルとで、一体なんの関係がある?
そう考えているうちに、アカネ姉さんが剣を持ち出して
大急ぎで飛び出していった。
ヒロト
「アカネ姉さん!」
引き留めようとするも、すり抜けられてしまった。
今から行けば、まだ止めることもできるかもしれない。
ファントム
「ヒロト君、無駄です……こうなった以上
アカネ君を守るにはアレしか手はありません」
ヒロト
「アレって……?」
ファントム
「ヒロト君、貴方に託したいものがあります。
ついてきてください」
村で悲鳴や叫び声が聞こえる、建築物が潰される音も聞こえる。
アカネ姉さんは大丈夫だろうか……。
そんな心配をしながら、俺はファントムさんについていった。
その先にあったのは、昼間に来たあの巨大な棺桶のような建物。
建物の扉の南京錠のカギを開け、重い扉をファントムさんは開け放った。
中に入ったときに、ファントムさんが魔石を握りしめると
周囲が明かりに照らされた。
大きな倉庫、そのたとえはどうやら正解だったようだ。
建物の中央に黒い剣が一本地面に突き刺さっており
その奥には緑色のフレームで身を包んだ
10メートルほどの巨大な騎士、アーマーギアがあった。
ヒロト
「こ、これは!?」
ファントム
「奴らに対抗するために隠しておいた、しかし
できれば使うことになる状況は避けたかった」
これが、アーマーギア……。
巨大な甲冑、頭部には二本のツノのような部分もあり
ドラゴンを思わせる風体。
ファントム
「ヒロト君、貴方が乗るんです」
ヒロト
「お、俺がですか!?」
ファントム
「私ではできない、貴方にしか……」
ヒロト
「ちょっと待ってください、状況が呑み込めません!」
ファントム
「説明している時間はありません、詳しいことはあとで話しますから!
アカネ君を、私の代わりに守ってください……お願いします」
ヒロト
「……」
ファントム
「貴方しかいないのです、あなただけが……」
アカネ姉さん。
いつも優しくて、時に勇気があって、料理が上手くて……。
自分をかえりみずに人を助けようとするお人よしなところがあって。
俺をかばって痛い想いをして、辛い想いをして……。
でも、そんな姉さんが俺は。
そう心に思って、俺は地面に突き刺さっている剣に手を伸ばした。
ファントム
「そのアーマーギア、ヴィントカイザーという。
その剣をもって、名前を呼んでください」
俺は剣を握りしめて名前を叫んだ。
すると剣の中心に赤い眼玉が現れ、俺はその目玉の中に吸い込まれた。
剣はひとりでにヴィントカイザーの胸のコア部分に吸い込まれると。
アーマーギア、ヴィントカイザーは緑色の瞳を光らせて動き出した。
ヴィントカイザー
「……」
目を開くととても高い位置から下を見下ろしていることに気付く。
どうやらこのアーマーギアという騎士は乗り物ではなく
同化、人間と融合して動くようだ。
左腕を構えると、緑色の盾が召喚され、右腕を前に出すと
竜巻が起こり、その中から一本の剣が召喚されてきた。
その剣を握りしめ、周囲を見渡した。
見える。敵の位置とアカネ姉さんの位置が。
アカネ姉さんは負傷して倒れている、そのアカネ姉さんに
一体のアーマーギアがハンマーで追撃しようとしてるようだ。
間違いなく、あれが当たればアカネ姉さんは死ぬだろう。
急がなければならないと感じた俺は、その巨大な手足で
走り、鋼鉄の扉を体当たりで破壊した。
ファントムさんは風圧で顔をかばっていたが
メガネが飛んでいった。
その容姿はどこか、俺に似ていた。
アカネ姉さんを叩き潰そうとする青いアーマーギアに体当たりをかけて
突き飛ばす。
ヴィントカイザー
「アカネ姉さん、大丈夫か!?」
傷だらけでボロボロのアカネ姉さんはこちらを見ると
驚いた表情でつぶやいた。
アカネ
「……もしかして、ヒロ君?」
村は火の海になり、遠くで残りのアーマーギアが二体好き勝手に暴れている。
まずは目の前の一体のアーマーギアを倒すことが先決だ。
青いアーマーギアは起き上がると、ハンマーを構えようとした
体制が元に戻る前に素早く斬りかかる。
しかし、ハンマーでその一撃を受け止めるがハンマーごと力で
斬り倒した。
敵のアーマーギアが血しぶきをあげながら倒れる。
ヴィントカイザー
「あと、二体……!」
どうやらこのアーマーギアは、対アーマーギアとして作られたようだ
敏感に敵の居所を知らせてくれる。
そう、相手が赤く光って見える。
こちらに気付いた二体のアーマーギアが顔を見合わせた後、
こちらに向かってきた。
片方は片手剣、片方は斧だ。
左右から追い込む作戦だったようだが、
その攻撃を左腕の盾と右腕の剣で受け止めると
同時にはじき返し、片手剣をもったアーマーギアを剣で薙ぎ払った。
上半身が吹き飛び、宙を舞う。
そして、もう片方のアーマーギアが武器を捨てて逃げようと後ろを見せた瞬間を
俺は、ヴィントカイザーは逃さなかった。
ヴィントカイザー
「逃がすかぁ!」
走り込んで、剣を両手でもって兜割を決める。
頭の先端から下まで一気に切り捨てると、相手の青いアーマーギアは血しぶきをあげながら
真っ二つに切れた。
そして、降り注ぐ雨。
そうだ、アカネ姉さんは無事だろうか……。
ゆっくりと、アカネのもとへ向かう俺。
じっと、傷ついたアカネ姉さんを見下ろす。
ヴィントカイザー
「アカネ姉さん……」
アカネ
「ヒロ君……」
雨は降り続け、周囲の炎を消していく。
壊された村、立ち尽くす俺とアカネ姉さん。
辺りを静寂だけが支配していた。
第一話 守護者 終
導入部分となります。
起承転結の起ですが、まだ終わりではありません
次回へ続く……。