渋い
季節が過ぎ去るのは驚くほど早かった。
二度目の衣替えも、当然のように受け入れる季節になった。
二年生の時の二倍の速さで夏休みが終わったように感じたが、実際問題何もしていない僕が一日、ただ一日と時間を浪費しているだけだった。
「数学めっちゃわからん!もうたすけてーな~」「俺もわかんないよ、ベクトルとか聞いただけ嫌。」
「あぁ、夏休みに戻りたいわ~」「ほんとに、なにしたかすら覚えてないもん」
そんなテンプレートの言葉を、毎年言い合う僕たちは、なんて進歩ないんだろうかと思うも、自称進学校のせいにして逃げていた。
でもその逃げ道も、大学受験という大きい壁に苛まれて、自分を責める以外の逃げ道は、どこにも見つからなかった。
「じゃあ、今日は図書館行こう。どうせ誰もいないっしょ。」「そだね、推薦組羨まし~」
そこから閉館までの三時間、僕らはみっちり勉強した。焦りと後悔に追いかけられながら、そこから必死に逃げながら。
お互い疲れ切った顔を笑いあった後、僕らは図書館を後にした。
一か月後、模試が返却された。
お互いの成績を見比べると、孝介のほうが点数が高かった。それも60点も、、、
「いぇーい、珍しく陽太に勝った~」
僕はその時、何故だかわからなかったけれど、異常に腹が立った。この時同時に、あぁ自分はなんとプライドの高い人間なのかと失望した。
そんな自分よりも点数の高い男と、図書館に足を踏み入れたが、勉強する気がまるで起きず、だらだらと三時間を潰した。
そんな日を幾度となく繰り返し、本腰を入れれぬまま受験は近づいて行った。
当然ながら、自分と孝介の差は開いていくばかりだった。
「まあ、今回は難しかったししょうがないよ。」「そうかなー、まあがんばるよ」
孝介に励まされて、申し訳なさが溢れてきて押しつぶされそうになった。
帰り道、残りの日数の少なさからくる焦燥感と、目標と現実の差に絶望していた。
「もっと勉強すればいいんだよな、、、」
下向いていたら涙がこぼれてきた。止まらなかった。
家族にばれない様に、涙を拭いて家に帰った。
「ただいま~」「おかえり」「俺さぁ、頑張るわ。」「う、うん。頑張れ」
母親は、不思議そうな顔をしてはいたが、深くは聞いてこなかった。そんな母親に感謝していた。
試験の前日、最後の総復習をしていた。
あれから心を入れ替え、必死に頑張ったおかげか、学力はみるみる上がった。
しかし、センター試験の点数的には、まだ足りないのが現状だった。
「っしゃー!やるしかねえな!」
そんな声が部屋に吸収された後、深い眠りについた。