◆◆◆3
◆◆◆
「我が名はダークネス、暗闇を駆ける夜の支配者」
今は姿を硬質化させた仮面の男は自身のことを、そう名乗った。全身は爬虫類か昆虫のような皮膚に包まれ、首には赤いスカーフを巻いていた。その傍らにはバイクがあり、移動手段として使っていることが分かった。
「こんなことを続けるのはもう止めるんだ!」
「何故?」
僕の制止の言葉に対し、さも、当たり前のことだろう? とでもいうような様子で問い返す男に対して、それを正そうとして更に言葉を投げかける。
「何故って。君のしていることは絶対に人の道から外れているよ、酷いよ……」
「……酷い? 僕は父を母を妹を……家族を殺された。犯され、弄ばれて、その復讐のために僕は力を望んだ。しかし、復讐を果たした今は、むしろ手に入れた力を使うことの方が楽しくなってしまったんだ。善を行うために必要な力は善だけなのか? 悪の力を借りることは間違っているのか? 過程などは重要ではない、その結果が重要なのではないか? たとえ志が高くとも、結果が伴わなければそれは意味がないことではないか? それとも自己満足で十分だというのか?」
「……、」
何か返そうとして口を開けるも、そこから音は何も洩れなかった。目の前にいる仮面の男ダークネスの問い掛けに対する返答を、なんと答えればいいのか、自分には分からなかった。
「答えを出すのはお前だ」
そう、ダークネスは捨て台詞を残すと、バイクにまたがり、颯爽と消えていった。僕はその言葉をかつて誰かから聞いたことがあったな、と緩慢に思いながら膝をついた。空は暗雲たちこめ、ポツリポツリと雨が降り出す。爆ぜて落ちる雨が唇と頬を撫でた。