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「今朝未明、○○県□□市△△にて、四日前より行方不明になっていた○○さんがバラバラ死体になって発見されました。○○さんの遺体の状態から怨恨の線が疑われ、何らかの事件に巻き込まれたものと見て捜査を続けています。また最近、起きた事件との類似性から同一犯の犯行ではないかと――」
僕が力を手にして幾人目かの命を救ったその数日後、周囲では小さな異変が起こり始めていた。近所で行方不明になる人間が続出した。ニュースの中でしか耳にすることのなかった出来事が自宅からほんの数キロ離れただけの場所で、しかも立て続けに起こったのだ。それはあきらかに普通ではなかった。その時になって自分はようやく、非日常が自分にとっての日常になったことを実感した。
事件が起きる前に何も出来なかったことが悔しくて歯を食いしばる。しばらくすると、どこからともなく女性特有の高めの声音が聞こえてきた。
「君はこの事件をどうにかするつもりなのかい?」
「うん……、このままにはしておけないから」
どうやら、声の主はあの鎌を持った少女のものだろう。当然のこと、というように僕が答えると、姿の見えない少女はどこか嘲笑するような雰囲気だった。別に自分のことなんだから関係ないだろ、と心の中で抗議したくなった。
「それにしても、物好きだね。こんな得にもならないことにわざわざ飛び込もうとするなんて。徳が大事ってことなのかな? ……まぁ、いいや。自分のことは自分で決めるがいいよ」
事件を起こした犯人を見つけること自体はとても簡単なことだった。
そこで何があったのか僅かでも残った痕跡を辿ることで、その場所で起きた出来事を脳内で追想することが出来たためだ。それは死神から得た力の一つだった。
力を使おうとする瞬間、夜間の車両からの強烈な光を浴びた時に似た衝撃を受け、続いて身体を揺さぶるような電撃が走った。その時、脳内で再生された映像の断片は驚くべきものだった。
――争う二人の男、もつれ合って取っ組み合いをしている……と、一方が起き上がり何かを呟くように口を動かす――すると、変化が起こる。男が姿を変えたのだ。ボコボコと肉体の表面が泡立つように変化し、生身の状態から重金属のようなガチガチとした体表面になった。そうして気絶したのか起き上がらない、もう一方の男を軽々と抱え上げると、容姿の変わった男はフローリングの床めがけて予備動作なく、思いっきり叩きつけた――。
……思わず、耳を塞ぎ、口をつぐんで目を背けたくなるのを、グッとこらえる。顔をしかめたとしても何も変わらない。ただ我慢して最後まで見続けることにした。それが僕の使命だから。何があったのかを知ることで、次の事件を起こさないようにする責務がある。ただ、そう感じた。
また、事件の当事者を他人事で片付けられない理由の一つに男の容姿が変化したことがあった。
「ねぇ、君はあの変身をどう思う?」
「やっぱり、変身って名付けていいのかなぁ」
死神の問い掛けに、ポツリと独り言のように呟く。あの男の容姿は僕がかつて憧れた、テレビの中で悪をやっつけるヒーローの変身後みたいだった。
「彼はどうやって、変身できるようになったんだろう」
「そりゃ、ヒーローっていったら変身するものでしょうが」
どこか茶化すように、少女は言った。冗談のつもりだろうか。
「あれは、僕の望むヒーローの形じゃない」
「そもそも、ヒーローの定義ってどうつけるんだい?」
「それは――」
返答に困った。ヒーローってなんだろう。
「そうだ、今度君も変身するといいよ」
「えっ?」
「あれ、説明しなかったっけ? 君も出来るんだよ? 変身」
「……本当?」
今となってはどっちでもいい事実だったりする……ような?
そうして僕は単身、残された気配を辿り"変身"した男の元に向かうことにした。