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僕がヒーローという名の英雄に憧れたのは、神様の起こしたほんの少しの気紛れ、とでもいうような本当に些細な出来事がきっかけだった。
それは誰にでも起こりうる、ちょっとだけ運が悪くて、その連鎖が続いておかしくなってしまった、ただそれだけのこと。
他愛のないことからみんなから仲間はずれにされるようになって、最初は話しかけてくれた子たちも次第に離れて、最後には誰も僕のことを気にしないようになった。声をかけても相手にはしてくれなくて、いつも独りぼっちだった。
寂しかった。苦しかった。切なくて逃げたかった。
そんな僕の悩みを彼は問答無用で切り捨てて、助けてくれたんだ。
「お前は我慢しなくていい。ただ、助けて欲しいって願うだけでいい。答えを出すのはお前だ」
苦しんでいる人が目の前にいて、それを見つけたら颯爽と現れて助けにくる正義の味方。あくまでその人にとっては当たり前に当たり前すぎて、平凡で退屈な日常なんだろうと思う。
けれど、そうやって人に助けられることに対して免疫のなかった僕にとって、それはあまりに巨大すぎる非日常で。いつか僕もああやって、誰かを助けられる存在になりたい、って感じた。
その願いは次第に大きさを増していき、気がつけば心の底からの願いになった。
そして今、自分はようやくにして、その望みを叶える資格を、機会を与えられた。
人とは違う、特別な能力。空を飛ぶことや、時を操ること、ケガをしないようになったり、普通より素早く動ける身体能力を得たり、今までの僕には出来なかったことが出来るようになるということ、それは誰かに認めてもらえること。そうしたら、自分はヒーローになれる。
少しは学んだ。人が一人だけで成せることなんて、たかが知れていて、もっと大きなことをするにはお金やら権力やら、そういったたくさんの物や人の力が必要なんだって。でも、僕はヒーローに憧れた。
その羨望にも似た感情を自分の心象世界の内だけで済ませてしまえるのなら、どれだけ楽だったのか。人に迷惑をかけることもなかったのだろう。
気持ちばかりが先にたって、何も出来なくなることがある。そんな日々の連続。正直、髪が抜けるくらいまで頭をかきむしって、それからコンクリートに身体ごと思いっきりぶつけて一生を終えたくなるような気分になる毎日だった。
それでも決して諦めなかった。今はその時じゃないだけだ。いつか、その時が来るんだって、待ち続けた。機会を得た今、どうやら待ち侘びた甲斐はあったみたいだ。
僕の望みはただのエゴなのかも知れない。でも、それが確かだと分かるまで夢を見るくらい良いじゃないか。誰にそれを否定する権利があるっていうんだ。理解されたい訳じゃない、ただ認めて欲しかった。