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脱走、謎の“イタリア人”

ぼちぼち再開。毎日投稿で9話ぐらい投稿します。

 “召喚教皇”の招集に応じた、“五曜司祭”たちに告げられた事実――

 それは、送り出した2人の教団員が、“銀色の召喚士”と呼ばれる男に敗れたという結果であった。

 司祭たちは、一様に落ち込んでいる。あるいは、そんなそぶりを見せていた。


 ――ただ1人、“劫火司祭”アレクシスを除いて。


「ハハハハハッ! やっぱ、俺の言った通りになったな!」


「ぐっ……!」


 アレクシスの言葉に反応したのは、今回の作戦の立案者である“流水司祭”エレインである。

 苦虫を噛み潰したような表情を一瞬だけ見せると、すぐに余裕を取り戻したように振舞いだすエレイン。


「だ、だが……有効な手段であることは証明されたはず! そうでしょう、“召喚教皇”様っ!」


「……」


 エレインは“召喚教皇”に問うが、返事は無い。

 ただ黙って、彼女ら“五曜司祭”たちを見下すのみである。

 その態度が“否定ではない”と決めつけたエレインは、言い訳を重ねるように言葉を続けた。


「そうだ! 今度は3人……いや、5人送り出せば――!」


「……エレインッ!」


 しかし、そんな彼女の言い分を阻む声が響く。

 物音1つが反響する薄暗い空間の中で、その怒声はエレインの度肝を抜いた。


 ――いや、エレインだけではない。

 その声の主以外で動じていないのは、“召喚教皇”ただ1人のみである。

 声を発していたのは、“大地司祭”イワンであった。その表情は、怒りに歪んでいる。


「貴様が送り出したのは、俺の部下たちだ……! この落とし前、どうつけるつもりなのだ!」


「だが、敵の“戦力”を計ることは出来た。この次は失敗しない。それでいいだろう?」


「それを“アイツら”の前で言えるのか! 貴様はっ!」


 エレインはあくまでも冷静に答えたのだが、そんな態度がイワンの怒りの炎に油を注ぐ形となった。

 イワンはさらに激しさを増し、エレインを責め立てる。椅子から立ち上がって、詰め寄る。


 そんな彼を諫めたのは、その場にいる誰もが意外に思う人物であった。


「よせよ、何も解決しねえぜ」


 そう、先ほどまで散々にエレインを煽り立てていた、アレクシスである。

 そこには、ついさっきまでの人を見下した態度はない。哀れむような真顔と、諭すような声音がそれを物語っていた。


「だがこの女は――!」


「第一、アンタにだって責任はある。この俺の“忠告”を無視して、エレインなんぞに人を貸しちまったんだからな」


 そう、確かにアレクシスは、「失敗する」と断言していたのだ。

 それは、“五曜司祭”全員に対する忠告でもあった。

 イワンはそうとは受け取っていなかったのだが、そんな彼にも己の浅はかさを悔いることは出来ていた。


「……貴様の“忠告”とやらはともかく、俺にも落ち度があるのは確かなのかもしれんな」


 冷静になったイワンは、自席へと戻る。

 ドスンと体重をかけて椅子に座ると、頭を抱えて顔をしかめるイワン。

 ひとしきりの後悔を見せた彼は、再び顔を上げて告げる。


「だが、次はない。エレイン……いや、誰であってもだ。次からはもっと綿密な計画を立てない限り、俺は――」


「……もうよい!」


 「力を貸さない」――

 イワンが宣言しようとしたそのとき、それを遮る声があった。

 暗闇の中で良く響くその声は、彼らを高みから見下している存在――すなわち、“召喚教皇”のものである。


「もう、その件で話し合う必要などないのだ。“五曜司祭”たちよ……」


「どういうことなのです、“召喚教皇”様。では、我らをここに集めた理由とは……?」


 エレインは問う。

 “五曜司祭”の中で、最も召喚教皇への忠誠心が厚いと自負している彼女は、この場にいる者を代表するような気持ちで質問する。


「既に、“暴風司祭”ソウジは、知っておろう……」


 召喚教皇の、フードの下に隠れた瞳が、ソウジを睨んだ。

 そのソウジは、歯ぎしりでもしているのではないかというほどに、強く食いしばって険しい顔をしていた。


 そして召喚教皇は大きく腕を広げ、事の“重大さ”を訴える。


「そう! 我が教団から、多くの“脱走者”が出た!」


「な、なんとっ!?」


 エレインは――いや、エレイン“だけ”が、驚愕の声を上げた。

 アレクシスとイワンは表情を変えずに沈黙し、ソウジは悔しそうに呻いていて、“轟雷司祭”ルチアは居眠りを始めていた。

 そんな中でのエレインの反応は、非常にわざとらしく見えるものになっていた。


「多くの“召喚杖”が流出した! 回収は困難であろう!」


「で、では――!」


「こうなれば、“計画”の発動を前倒しにするほかあるまい! もはや、“銀色の召喚士”などに構っている場合ではない!」


 “計画”――

 それは、召喚教団が“目的”を果たすための道程であり、教団自体の“存在意義”でもある。

 その内容は五曜司祭ですら知らず、把握しているのは召喚教皇ただ1人であった。


 エレイン以外の五曜司祭たちも、その言葉にだけは興味を隠せない。

 関心のなさそうなアレクシスやイワンも視線を移していたし、舟を漕いでいたルチアも目を半開きにしていた。

 全員が耳を傾けたことを悟った“召喚教皇”は、口元に笑みを浮かべる。


「近いうちに仔細を語ろう! “五曜司祭”たちよ、そのつもりでいるのだぞ!」


 それだけを言い残すと、“召喚教皇”は闇へと消えた。

 緊張から生まれる一瞬の沈黙が、“解散”の旨を告げていた。


「……ん。おわった? じゃ、ルチアもどる」


「俺も失礼するが……これだけは言っておく。今回のこと、俺は決して許したわけではないからな」


「ふん。そういうことは召喚教皇様の役に立ってから言うのだな」


 ルチア、イワン、エレインの3人は、一言だけ発するとそれぞれ去っていく。

 アレクシスは動かない。彼にはまだ、この場でやっておきたいことが残っていた。


「……では私も――」


「おっと――ソウジ、アンタは待ってもらおうか」


「何ですか? 私は忙しいのですよ」


 アレクシスの声掛けに対して、ソウジは鬱陶しそうな強い語調で返す。

 それはアレクシスにとって、普段の温厚なソウジの物腰からは、あまり想像できなかった態度であった。

 その様子を“ただ事ではない”と感じたアレクシスは、思わず本来の目的を忘れて問いかけていた。


「へえ、なんかあったのかよ」


「ええ……脱走者たちを率いていたのは、“あの男”なのです」


「ああ……あの“イタリア人(ウォップ)”ね。そりゃ、アイツにご執心なアンタにとっちゃ一大事か……」


 ソウジのいう“男”の存在を、アレクシスは知っている。

 その“男”はアレクシスの興味を惹く人物ではあったが、詳しいことまでは知らなかった。

 知っているのは、顔と名前と国籍と――


 そして、暴風司祭ソウジと、何らかの“因縁”があるという事だけである。


「邪魔して悪かったな。俺の用事は今度頼むわ」


「ええ……そうしていただけると助かります」


 アレクシスは用事を諦めて立ち去った。

 背後からは、ソウジの悔しそうな唸り声が響いている。


(しかし……あのイタリア人(ウォップ)けちまったか……)


 その“男”の脱退を、アレクシスは残念に思っていた。

 話したことこそなかったのだが、アレクシスは確かに興味を抱いていたし、“友達”にすらなりたいと考えていたのだ。

 だが――


(“アイツ”程じゃないが、こりゃ面白そうだぜ……!)


 アレクシスは、それ以上に“喜んで”いた。


 教団の中でも上位の力を持つソウジに、辛酸をなめさせるほどの相手――

 そんな新たなる“強敵”の出現に、アレクシスは胸の高揚を抑えることは出来なかった。


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