表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートコメディ『〇〇くん』

ショートコメディ『傷月くん』

作者: かげる

 ある朝。いや『ある朝』なんて出だしをしたところで、ここがどこなのかは明らかにはしないが。そんな、ある朝。陰気な性格の私は、今日も――


「あ、傷月くんだ!! おはよう!! 今日も、いい小春日和だね!!」


 挨拶をした。そんな朝。彼は、どんな返事をしてくれるだろう。「ういっす!」とか、そんな体育会系な返事をしてくれるだろうか。


 期待しているよ傷月くん!


「ぼくは、深く傷ついている……」


 私の期待を裏切らなかった。項垂うなだれた様子の彼は、常に傷ついている、らしい。そんな言葉をいつも口にしている。耳障りだ。と、クズな私は、心の中でいつも思っているよ。


 死ね、とも。


「そっか! こんな晴れやかな朝に、そんなに傷ついている人がいるんだね! 信じられないなあ」


 全く信じようとしない私。


「う。うぅ……。信じられていない……」


 彼は傷ついているらしかった。よっし。彼の傷つきポイントを貯めてやろう。ポイントが貯まったら、なにか豪華な景品と交換してくれるかな。そんな淡い期待と共に、私は彼を信じないことにした。


「う、傷ついている。ぼくは、深く、傷ついているよ。この日本には、今日も、自殺を考えて実行する人がいるってことに、ぼくは、深く傷ついている……」

「えっと、年間の自殺者は二万人超えだっけ? 三百六十五日で割ったら、日に、五十四人は死んでる計算になるね!」


 私は、屈託のない笑みで彼に教えてあげた。


「う。うぅ……。ぼくは、深く、深く傷ついているよ」


 死ね。


「うーん。どうして、傷月くんが、見知らぬ他人が自殺することに対して、そんなに傷ついているのかがよくわからないなあ」

「そ、そんなの人として当たり前でしょ?」

「当たり前?」

「当たり前だよ。被災した人には、優しい言葉をかけてあげるのが当たり前なように」

「え。その言葉のせいで、自分は傷つかないといけないんだって忖度しちゃう人いない? 大丈夫? 分かり合えてる?」

「とにかくぼくは、深く、傷ついている」

「ねえ。あのさあ」


 彼は傷ついているらしかった。よっし。もっと傷つけ。もっと傷つけ。そして、強靭な心に鍛え上げてやる。心は、筋肉のように、ある程度、負荷を与えてやらないと強くなれない。


 そして、死ね。


「私は、そんなこと言う傷月くんが、嫌いだよ」


 私はにっこりと笑った。


 傷つくだけならまだマシ。しかも、それを軽々しく口に出して言えるくらい鈍感なら……。


「真っ正面から、そんこと言われたの初めてだ……」


 彼は驚いたようだった。傷ついたかな、と期待したけれど、傷月くんは、少し恥じらいだように目をそらして、こう言った。


「ありがと。ぼくのしゃべり方は、好き嫌いが分かれるってよく言われるけど、そんなにはっきりと嫌いって言われて、どうしてかな、悪き気がしないよ」













「ぼくは、そんなことを言ってくれる〇〇さんのこと、嫌いになれない」


 死ね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ