ダリア、リーチェ、ミネット
「よろしくお願いいたします、ラグナ様」
クラリスは緊張しているようだった。
「ああ」
ラグナは短く言う。
他人の緊張をほぐすということが、彼は苦手だと自覚している。
三度目となった闘技場へとやってきた。
「みんな、今日はラグナ様が見てくださるわよ」
整列して待っていた少女たちの顔は喜びで輝いているが、驚きはない。
すっかり彼の存在は広まったようだった。
「ならいいか。ダリア、リーチェ、ミネットの三人は前へ」
とラグナは告げる。
「は、はい」
指名された三人は予期していたように、それでいて緊張した面持ちで前に来た。
ダリアは黒髪ショートヘアに赤い瞳、リーチェは栗色の髪と緑の瞳、ミネットは桃色の髪と青い瞳を持つ少女だ。
「他の人は私の指示に従ってね」
とクラリスは言い、他の生徒たちを集めて離れていく。
残された三名は緊張と淡い期待を込めてラグナを見つめる。
「さっそく魔法を使って見せてみろ。レトが言うには、一応使えなくはないそうだな」
「は、はい」
三人は順番に魔法を使っていく。
どれも下級に位置する魔法たちだ。
「一年ならともかく、二年としては力不足だな」
ラグナの感想に三人はしゅんと落ち込む。
「もっとも筆記を頑張れば進級はできるのかもしれないが」
と彼が言ったのは、アポロニアとシギュンという例を思い浮かべたからだ。
あの二人も実技だけで言えば落第だろう。
進級できたのには他の理由があったに違いないと思うのだ。
「ダリアは魔力の発現量が多く、リーチェは魔力の転換する工程が得意で、ミネットは魔力を射出する作業が得意だな」
とラグナは言う。
彼はひと目で三人のそれぞれの欠点と長所を見抜いたのだ。
「は、はい」
三人はあっさり見抜かれたことに驚きつつ、彼を見つめる。
「しかしお前たちの魔力だが……」
見ていたラグナは考え込む。
三人の魔力はいずれも緑色だ。
「三人とも緑色の魔力ということは、全員緑の神サルトゥースとの親和性があるということだな」
ラグナの言葉に三人はきょとんとする。
「魔力? 色ですか?」
ダリアが代表してたずねた。
「そうだ。どの神と親和性があるか、魔力の色を見ることで判別することができる。お前たちはまだ無理だろうが、熟練すればな」
ラグナは何でもないように答える。
「全員がサルトゥースと親和性があるのなら、『レゾナンス』が向いてるかもしれないな」
「レゾナンス、ですか?」
三人の声がそろう。
「そうだ。魔力の親和性の高いもの同士が魔力をそろえることで発動する、特別な魔法だ。正確に言えば技術だが」
ラグナの説明に三人はぴんとこないようだった。
「一人では魔法の発動が困難でも、三人で作業を分担すれば発動できるようになるかもしれないということだな」
と話すとようやく彼女たちは理解する。
「そ、そんな方法があるのですね」
「存じませんでした」
リーチェとミネットは感心していた。
「当然だろうな。マイナーもいいところの技術だ」
ラグナは応じてから告げる。
「実際にやって見せよう」
「……えっ?」
彼の発言に三人はきょとんとした。
「聞くだけより、見てみるほうが判りやすいはずだ」
彼はそう言って純白の魔力を発現させる。
「俺の魔力の色、判るか?」
ラグナの問いに三人は首を横にふった。
彼女たちでは彼の膨大な魔力を感じるだけで精いっぱいである。
「だろうな。まず魔力を発現させ、次に魔力を魔法へと転換する。詠唱をともなうのが一般的だ。そして最後に魔法を目標にめがけて射出する」
ラグナは復習も兼ねて簡単に説明しながらやってみせた。
「それを分担してやるのがレゾナンスだ」
「魔法って複数の人で使えるものなのですね」
とリーチェが言う。
「自分の魔力を他の人が扱うなんて??」
ミネットはまだ信じがたいという顔である。
「まあ普通は困難だ。魔力の性質、親和性が高い神が違えば反発しやすいからな」
ラグナは当然の反応だと話す。
「ところがお前たちの魔力の性質は似ているし、しかも親和性が他人の魔力と反発しにくいサルトゥースだ。試してみる価値はあると思う」
彼はそう言ってから三人の整った顔を順番に見ていく。
「決めるのはお前たちだが、どうする?」
「やりたいです」
ラグナの問いに即答したのはダリアだった。
そして他の二人をちらりと見る。
「わ、私もやります」
リーチェもすぐに続く。
ミネットは即答せず迷う。
「ミネットちゃん、私たちが落ちこぼれから卒業できるチャンスだと思うよ?」
ダリアが彼女に声をかける。
「ラグナ様の教えを受けられるなんて、もうないチャンスかもしれないよ?」
リーチェはそう言う。
「そうね……」
ミネットは迷いが晴れたまなざしをラグナに向ける。
「よろしくお願いいたします、ラグナ様」
ぺこりと頭を下げた。
「よろしくお願いいたします、ラグナ様」
ダリアとリーチェはあわてて彼女のまねをする。
「よし」
ラグナは微笑で応じた。




