二年生の授業
出されたお茶を飲む。
「次は二年生をやってもらうわよ」
とレトが言う。
「それはかまわない。情報をくれるならな」
ラグナは気負うことなく応じる。
「担当しているのはクラリスよ」
「? 彼女は俺を探しに出ていただろう?」
レトの言葉にラグナは疑問を持つ。
「ええ。人探しに適した子だから、授業には代役を立てたの」
「なるほどな」
ラグナは納得する。
現にあっさりと邂逅して彼がここにやってきたのは事実だ。
「二年生で落ちこぼれと言えるのは三名ね」
「少ないな。他の学年も思ったが」
とラグナは感想を口にする。
一学年につき二人か三人だけというのは、他の生徒が優秀なのだろう。
あるいは教師陣のおかげだろうか。
「それだけ入学テストが機能しているってことかしらね。もっとも、ゼロではないのだから自慢にはならないわ」
レトは喜びを見せずに話す。
「相変わらずだな。完璧じゃなければ評価に値しないというわけか」
ラグナは称賛した。
彼女の向上心の高さは好ましい。
「ええ。子どもを預かって人生を左右するほどの立場にあるのよ。完璧を目指さないのは怠慢で無責任だわ」
レトはきっぱりと言う。
「その意気はよし。できるかぎり協力させてもらうぞ」
ラグナは微笑む。
「ありがとう」
レトは表情を崩して礼を述べる。
そして本題に入った。
「二年生の名前はダリア、リーチェ、ミネットよ。彼女たちは魔法使いとして最低ラインには達してるのだけど、いまのままじゃ進級させるのは無理ね」
「ふむ」
ラグナは少し考え、質問を放つ。
「基礎能力はあるが、成績が伸びないということだな?」
「ええ。特異な才能を持っている可能性があった一年と三年たちとは違っていて、単に伸びしろが少なかったかもしれないのよ」
レトは憂いを帯びた顔で言い、そっとため息をつく。
「現行のシステムじゃ伸びしろまでは読み切れないのよね」
「才能の伸びしろというやつを測るのは、容易じゃないからな。俺だって判る範囲しか判らん」
レトの嘆きにラグナは同調する。
「魔法に関して言えばあなたほど頼りになる人はいないけど」
「最善はつくすよ」
ラグナは約束した。
「才能がないならやむを得ないが、すばらしい才能があるのに眠らせたまま腐っていくのは惜しいし、気の毒だからな」
「面倒見がいいのはあいかわらずよね。どれだけ強くなっても変わらないのは素敵なことだわ」
レトはしみじみと言う。
「人間、そんな簡単に変わるものじゃないさ」
ラグナは笑った。
「変わる人は変わるものよ。金と権力を手にすればね」
レトは譲らない。
「むしろ私が見てきた中じゃあなたが例外なだけよ」
「そういうものか?」
ラグナは少し考える。
生きた年数という意味では、エルフに対抗するのはさすがに難しい。
「ええ」
レトはきっぱり返事をする。
「俺も自分を戒めるとしよう」
「あなたには無用の心配でしょうけどね」
忠告を受け止める態度になったラグナに、彼女は笑いかけた。
「そうありたいものだな。ではそろそろクラリスを探すとしよう」
ラグナは立ち上がる。
「クラリスならおそらく職員室でしょうね」
「そうか。建物の内部はまだ覚えていないから、助かるが」
レトの言葉にラグナは答えた。
「誰かに案内をさせましょうか? あなたなら一度で覚えるでしょう」
「放課後にでも頼もうか。……この学院では同好会活動などはあるのか?」
ラグナはふと浮かんだ疑問を投げかける。
「同好会活動?」
レトは小首をかしげた。
「マヌー王国じゃ趣味が合う者たちが放課後に集まって、仲良く楽しむということをやっていたんだが」
ラグナの説明に彼女は理解する。
「ああ。そういうこと。うちの学院ではないわ。放課後まで拘束されたくないという子が多いのよね」
彼女は肩をすくめた。
「へえ? 何か事情がありそうだな。いいところの娘が多いからか?」
「だいたい合ってるわね」
レトはそう言ってから実態を告げる。
「実際のところは判らないけどね。子ども同士で派閥作りでもさせないのかと、私もちょっと疑問に思っているのよ」
ラグナは苦笑した。
「派閥作りに子どもがはげむのは、それはそれでめんどうな案件になりかねないがな」
「否定はできないわね」
レトもつられたように笑う。
笑いをひっこめて彼女は真剣な表情になる。
「報酬の話をしましょうか。実のところ、あまり高い給料を払えないんだけど、どうする?」
「別にかまわんさ。高額報酬を目当てにこの仕事をしてるわけじゃない」
ラグナは即答した。
「相変わらず欲がないわね」
レトは再び苦笑する。
「理解があってありがたいと言うところだけど、なさすぎるのも困るわよ。何かできる範囲で払うわね」
「任せる」
ラグナはそう言って部屋を出る。
レトを信じているから丸投げしたのだ。




