講義のはずが……
「せっかく呼んだのだから、精霊たちについて王に聞けばいいぞ」
とラグナは言う。
それを聞いた生徒たちは互いの顔を見合わせる。
質問してみたいと思うが勇気が出ない、といったところだろう。
「いきなり精霊王でしたからね。私も何を聞けばいいか、とっさには思いつきません」
セイラが生徒たちの立場によった発言をする。
「ふむ。じゃあそれぞれ相性のよさそうな子を見つくろってくれ」
「僕たちが? おもしろそうだね」
ラグナのとんでもない発言に光の精霊王グランツが笑う。
「どうせそんなことだろうと思った」
とため息をついたのは水の精霊王シャオムだ。
「ラグナだからな」
あきらめたように言ったのは火の精霊王グリューエンである。
彼らを見たセイラが首をかしげた。
「精霊王となれば、意に沿わない要求を断るくらい簡単だと思いますが」
こうして見ていると失念しそうになるが、精霊王は神に匹敵するとも言われる強大な存在である。
「信頼関係の問題だ」
答えたのはラグナだった。
「何も俺だって最初から彼らに無茶ぶりをしてきたわけじゃない」
「なるほど、仲よくなったあとなら多少は大丈夫と。まるで人間関係と同じですね」
セイラは感心する。
「ラグナは無茶ぶりが多いけどね」
とシャオムが言う。
そのわりに不満はうすく、セイラは興味を持つ。
「気に入った人間のためなら、いくらでも骨を折れるってところでしょうか」
「まあそんなものかなあ。あんまり言語化しないでほしいね。僕らの気持ちをさ」
グランツはそう言った。
笑顔のままだが、少しだけ機嫌が悪くなったように感じる。
「し、失礼しました」
相手が精霊王ということで、セイラはあせって詫びた。
「知らないことを知ろうとする、それが人間の好奇心というものだ。だから我々は発展してきた」
ラグナがグランツに話しかける。
「そりゃそうだね」
グランツは肩をすくめた。
セイラはラグナにかばわれたと感じる。
彼が言ったことで、あきらかに精霊王の態度が変わったからだ。
「ラグナ様」
「気にするな」
セイラが礼を言うより先に、ラグナは応じてしまう。
「今回はグランツが悪い」
「え、僕? そうなるのかな?」
ラグナの指摘にグランツは仕方なさそうに非を認める。
「グランツに生徒たちへの講義を頼もう」
「僕がかい? また無茶ぶりだねえ」
彼の発言に生徒たちとセイラは仰天するが、グランツはからからと笑う。
「せ、精霊王が講義、ですか?」
セイラはおそるおそるたずねる。
精霊王が精霊魔法について教えてくれるなど、とんでもないどころの騒ぎではない。
「講義と言うと語弊があるかな」
しかし、グランツは首を横に振る。
「僕らの眷属と相性がよさそうな子を見て、それを教えるというのはどうだろう? そうすれば将来的に精霊魔法の使い手が増えるかもしれないよ」
彼の言葉にセイラはこくこくとうなずいた。
「そ、それだけでも願ってもない幸せです。ねえ?」
彼女は生徒たちに呼びかける。
「は、はい」
生徒たちは喜びと緊張で半々になっていた。
もしかしたら自分も精霊魔法の使い手になれるかもしれない、というのは彼女たちにとっては大きな希望である。
「じゃあグランツ、任せた」
「僕だけなのかい……」
ラグナの指示にグランツはちょっと不満そうだったが、逆らったりしなかった。
「精霊王が不満気味でも従うなんて」
セイラには改めて衝撃が走る。
いったいどれだけ信頼関係を築けば、こうなるのだろうか。
「ラグナ様は精霊魔法使いとしても最強クラスなのですね」
「その言い方は気に入らねえな。間違ってはないけどよ」
セイラの発言にグリューエンが反応する。
「よせ、グリューエン」
ビクッとセイラが震えたところでラグナが制止した。
「我々の間には感覚と見解の相違があって、精霊と触れ合う機会がなければなかなか埋められるものじゃない」
「だったな」
グリューエンはふうっと息を吐き、怒りをおさめる。
「あ、ありがとうございます。そして申し訳ありませんでした」
セイラは助け船を出してもらった礼と、グリューエンを怒らせた詫びを言った。
「気にするな」
ラグナは優しく笑う。
「知らなかったことはどうしようもない。学んでいけばいい」
「は、はい」
セイラはポーっとなりながら彼を見つめる。
「いつものね」
とシャオムが感情のこもらない声で言う。
声が小さかったので誰にも聞こえなかった。
その間、グランツが生徒たちの間を回っている。
「ふむ。君は僕の眷属と相性がよさそうだね。毎日話しかけてごらん」
「ほ、本当ですか⁉ ありがとうごさいます」
グランツに話しかけられた生徒は感激し、そうでない生徒は落胆してしまう。
精霊とは相性が重要なためやむを得ないのだが、差が生まれるのは事実だった。
「ところで、ラグナ? 差が生まれた時のことは考えてるの?」
シャオムが聞く。
「基礎能力の底上げでカバーかな」
ラグナは即答する。
「それが現実的だろうな」
グリューエンとシャオムは納得した。




