ナパイア②
「な、何か判りましたでしょうか?」
ナパイアは魔法を中断し、ラグナに上目でたずねる。
「ああ。お前は普通の魔法を使えない体質だな」
「ええ⁉」
ナパイアは驚愕した。
「お、おそれながら」
反射的に言葉をつむぐが、それでも相手がラグナだとは忘れていなかった。
「私、水属性の魔法の適性があるはずでは……⁉」
「それはそのとおりだな」
ラグナはうなずく。
「えっ」
ナパイアはついていけず、困惑を色を顔じゅうに浮かべる。
ラグナは少しずつ説明することにした。
「お前は特殊すぎる加護がついている」
「加護ですか?」
ナパイアはきょとんとする。
加護自体は聞いたことがあった。
「たとえば精霊ですか?」
加護を与える存在の中で最も一般的なのはやはり精霊だろう。
彼女が精霊を連想したのは当然だとラグナも思う。
「精霊じゃないな。守護霊が英霊で、お前を守っている」
「英霊、ですか?」
ナパイアは事態を飲み込めていない。
「英霊とは過去に名をはせた英雄の霊だ。普通死んで霊となれば知性と理性と力を失うんだが、英霊は違う。生前と同様とはいかないが、かなりの力を維持している」
ラグナは大ざっぱに英霊の説明をする。
「そして時として誰かに力を貸す場合がある。いまのお前のようにな。おそらく、お前の祖先に英霊となるほどの人物がいたんだろう」
「私の祖先……水の魔法使い……まさか『蒼嵐のケルミス』様⁉」
ナパイアは一人の人物の名前を思い出した。
「『蒼嵐のケルミス』? たしか連邦誕生の際に活躍した女性魔法使いだな」
ラグナは自分の記憶の底から、その名を引っ張り出す。
「建国の英雄の一人を祖先に持つとは、ナパイアの家は名門なんだな」
という彼の言葉にナパイアは複雑そうな顔になった。
「おっしゃるとおりで……」
「いろいろありそうだな」
それだけでラグナは察する。
名門の生まれというだけでプライドが高い人間は、けっして珍しくはない。
「はい。私は両親の期待に応えられていたとは言えませんから……」
話すナパイアの表情は暗くなる。
「だからわらにもすがる思いで、この学院を受けたのです」
「なるほどな」
ラグナは納得した。
同時に彼女の期待にも応える。
「俺が感じるかぎり、ケルミス殿は相当お前を気に入っている。交信していけば助力を得られることは難しくないはずだ」
「本当ですか⁉」
ラグナの言葉にナパイアは瞳を輝かせた。
そして次に不安そうにたずねる。
「ケルミス様のご助力を得られたら、私はどのようなことができるようになるでしょうか?」
「ケルミス殿が使えた魔法を使えるようになる」
ラグナは即答した。
「ゆくゆくはケルミス殿を召喚して一緒に戦うこともできるだろう。『英霊召喚』は魔法奥義の一つだ」
「魔法奥義……⁉」
彼の説明にナパイアは目を見張る。
魔法奥義とは、すべての魔法使いたちが会得を目標としているものだ。
「ゆくゆくはであって何年かかるか判らないが」
「そ、それでも! それでも希望を持てます」
ナパイアの目から涙がこぼれ落ちる。
彼女がどれだけの心理的なプレッシャーにさらされていたのかを物語っていた。
「……せっかくだ。手ほどきはしておこう」
ラグナはそのことを感じ、いま先に進める決意をする。
「〈我は意思を示し、絆の光をここに掲げる。闇にたゆたう意思よ、この声を聞き、光の糸をたぐりわがもとに来たれ〉」
そして詠唱をはじめた。
「〈英霊召喚〉」
ラグナが魔法名を告げると、ナパイアの体が青く光る。
そして青い髪と緑の瞳を持ち、藍色のローブを着た女性が現れた。
「私とそっくり……?」
ナパイアが目を丸くする。
よく見るとその女性は少し透けていた。
「せっかくだ。ケルミス殿と対話してみたらどうかと思ってな」
ラグナはさらりととんでもないことを言う。
「せっかくで魔法奥義『英霊召喚』を使う男がいるとはね」
ケルミスはあきれた口調だった。
「い、いまのが英霊召喚? そしてこの方がケルミス様?」
「え、英霊召喚?」
生徒たちにも話は広がっているが、英霊召喚のすごさを知っている者はほとんどいなかった。
唯一の例外はセイラで、彼女は絶句して硬直してしまっている。
「まあいいわ。かわいい子孫とこうして話せる機会を得られたことを、まずは喜びましょう。よろしくね、ナパイア?」
「は、はい。よろしくお願いします、ケルミス様」
ナパイアは緊張のあまりガチガチになっていた。
「ふう……まあ仕方ないか」
ケルミスはため息をついたものの、すぐに気を取り直す。
「私はあなたのことをずっと見てきたわ。生まれを誇りに思い、己のふがいなさを嘆きながらも、あきらめずに努力している。とても私ごのみよ」
「あ、ありがとうございます?」
ナパイアは偉大なる祖先に礼を言う。
「必要な魔力は俺が提供しよう。二人でしばらく語り合っていてくれ」
とラグナは言い残し、彼女たちから離れる。
もう一人、イーリスを探しに行ったのだ。




