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ペンドラゴンの傭兵  作者: にゃっくす
序章 龍に呼ばれた男
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序章-4

 締め上げられる首の痛みに八坂の意識が霞む。

 腰を思い切り浮かせて腹に乗った相手の重心を崩し、体を左によじる。


 一連の動きで敵と自分の体勢を入れ替え、彼が上になった。

 体を起こすために片方の腕で地面を押し、相手が腹に回した足の片方を抱き寄せる。


 そのまま背中の筋肉を最大限に反らして抱えた足の関節を固める。

 だが、すぐに足を掴まれ地面へ倒されてしまう。


 地面を転がり飛び上がると、既に男は間合いを詰めて右腕を振りかぶっていた。

 体の腰と重心が乗った一撃を受け止めるわけにはいかず、外側にかわし肘をつかんで打撃を内側へと逸らす。


 そして、そのまま手のひらで相手の顎を押しのける。

 首を急に後ろに伸ばされよろめく男の脛を蹴る。


 流れるように服の袖口を掴み足を払おうとした。

 だが、逆に肘の外側上部から腕を回され体を引き寄せられてしまう。


 体を丸められてしまい、八坂の顔めがけて膝蹴りが襲ってくる。

 なんとか両手で受け止めたが、そのまま力任せに投げ飛ばされてしまった。


 しかし距離が離れた事で立ち上がりながら腰の拳銃を抜くことができた。

 走り込んできた相手の足元の地面を撃って動きを止める。


「これ以上は戦いたくない、投降しろっ!」


 銃口を向けるが相手に怯える様子はない。

 動きが止まったのは大きな破裂音がしたからだろう。


 相手は銃という存在を知らないかもしれない。

 このまま闇雲に突っ込まれたら拳銃弾で確実に仕留める事ができるとは保証はない。


「先ほど倒された奴らはその奇妙な道具で倒されたというわけか?」

「そうだ、刃物よりも間合いは長く殺傷力も高いぞ」


 睨み合ったまま双方動かない。

 それは恐怖からではなく、お互いが腹の中で感じていたものがあるからだ。


「なぜ私を最初に殺さなかった? その道具は遠くからでも届くのだろう?

 お前ほどの手練れなら誰が戦えるかくらいは見分けがつくはずだ」


「こちらこそ聞きたい。なぜ不意打ちの瞬間に私を突き飛ばし組み伏せた?

 その腰の短剣で首を跳ねたらお終わりだったはず」


 この問いで何を思っていたかは通じ合う事ができた。

 両者とも相手を殺さず屈服させる事が狙いだったのだ。


「その剣を抜かないでくれそうか?」

「そちらこそ、その黒い道具を手放す気はないか?」


 意思は通じ合えた、しかし分かり合えない。

 僅かな瞬間沈黙が流れ、背中に鈍い音が響いた。


 倒れ、虫の息だった襲撃者の一人が手に持つ斧を八坂に投げつけたのだ。

 防刃繊維のベストが貫通を防ぎ、死に際の力では骨を折るほどではなかったが注意がそれてしまう。


 目を戻した時には男に間合いを詰められ、下腹部に体重を乗せた重い前蹴りを受けてしまった。

 背中から地面に蹴飛ばされ、腹の下からこみ上げる吐き気に肺の空気が押し出される。


 痛みと息ができない苦しさに彼の視界から色が褪せていく。

 相手が鞘ごと剣を構え、見下ろしている。


「しばらく眠ってもらう」


 振り下ろされる手に目が閉じ体がすくむ。

 次にやってくる体を走る痛みに身構え動けなくなる。


 だが、その瞬間はやってこなかった。

 恐る恐る目を開けると、何か大きな塊がこちらに覆いかぶさっていた。


「……ウル?」


 砦とは反対方向の森へと敵を誘導していたはずのウルが目の前に居た。


「あの槍を持った男がいないことに途中で気づき戻ってまいりました」


 痛む体をさすりながら立ち上がり辺りを見渡す。

 先ほどの男は木にもたれかかって意識を失っている。


「体当たりでもしたのですか?」

「はい、八坂殿に剣が振り下ろされそうだったので全力でぶつかりました」


 ウルは立ち上がった自分よりもさらに大きい、体重も相当あるはずだ。

 それが猛突進したとなれば並みの体では無事では済まないだろう。


 だが、男を後ろ手に縛りつつ外傷などを確認しても骨折してはいない。

 よほど丈夫な体躯を持っていたのだろう。


「上空の烏から知らせです。私を追っていた者たちと砦にいた者たちの双方がここに戻って来ているそうです」

「わかりました、近い集団の方へと攻撃を仕掛けましょう。どちらが近いですか?」

「私を追いかけていた者たちは直ぐ側にまで接近しているそうです」


 敵集団の頭と主戦力を奪った後の戦いは滞りなく進める事ができた。

 そこから2時間も経たないうちに辺りに静寂が訪れてくれた。




 砦の近くの地面に大きめの穴を掘らせ、骸骨の魔物に死体の運搬を命じ、気絶した男は牢の寝床に幽閉した。

 周囲に脅威がないことを確認し、龍の祠へと報告に赴く。


「ほお、其方ら二人に目立った傷もなく敵を退けたか。

 ご苦労であった、我も寝床に邪魔が入らず大変心地が良い」


 ようやく一息つけたことで余裕が生まれ、八坂も龍の話に耳を傾ける事ができるようになっていた。

 どこから出て来たかはわからないが、薄暗い洞窟には不釣り合いな椅子に腰掛け暖かい紅茶を啜っている。


「これも全部魔法で用意したんですか?」

「似たようなところだな、そこのゴーレムに用意させた。

 口に合うようで何よりだ」


 ふと目線を横にずらすと背筋を伸ばし人間みたいに美しい姿勢の土でできた人形が立っていた。

 先ほどの戦いに連れて行った泥でできた大きくて無骨なものとは似ても似つかない。


「便利なものですね魔法って言うのは、土で人形を作れて、死体を操れるとは。

 これじゃあ、死者に安眠なんて言葉ないでしょうね」

「先ほどの骨の従者が気に食わなかったのか?」


 龍が体をのそりと動かしこちらを見つめる。

 たった少しの動きでも手に持つ紅茶の水面が揺れるほどだ。


「あまり気持ちのいいものでは無いですね」

「わかった、では今度から代わりにゴーレム達を用意しておこう、配慮が足りなくて済まんな」


 八坂は話していてあることに気がついた。

 それは巣を守ることを引き受けてからは龍の対応が若干和らいだことだ。

 こちらの質問に誠実に答え、精神的な面などを気にしている様子が感じられる。


「八坂よ、此度は非常に良い働きだった。何か望む報酬はあるか?」

「とりあえず報酬については後でいいですか? 色々と聞いて確認したい事があるのです」

「ほう、それもそうだな。こちらに呼び出したばかりでまだ右も左もわからんか」


 それからこの世界のことについてある程度のことを聞いた。

 大体の質問には龍もウルも答えてくれ、ある程度のことを理解できた。

 けれども何故、違う世界の住民である自分が呼ばれたかだけは答えてくれなかった。


「いずれ教える、それまでは待っておいてくれぬか?」


 ただそう答えるだけで、怒ることもなく受け流されてしまう。

 これ以上は暖簾に腕押しだと問いかけをやめた。


 元の世界から自分とともに呼び出されたキャンピングカーへ向かう。

 車内はほとんどに武器弾薬が置かれ、狭い部分に一人分の仮眠スペースが確保されている。


 眠りにつく前に、明日からどうするかをぼんやり考えたがまとまることはなかった。

 しばらくすると疲れからが瞼が重たくなり目が閉じていく。


 目が覚めたらいつもの光景が広がっているかもしれない。

 そんな事を考えながら彼は眠りについた。


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