見知らぬ人に言われたくない現実を叩きつけられました。
一話早々にエタリましたが再びモチベが上がったので投稿です。
「あら、わかったのね。そうよ、あなたは死んだのよ。」
その一言で俺はここに来る直前までの記憶を思い出した。
春の陽気とは言えない寒さの続く3月中旬のこと。俺は大学受験を無事に乗り越え、漸く勉強地獄から解放されることとなり、抑圧された日々を取り戻すように自堕落に過ごしていた。
その日は卒業祝いに親戚から貰ったお小遣いで友人と近頃公開されたアニメ映画を見るために待ち合わせの駅へと向かっていた。
「そ、そして…最寄り駅の…ホームで…足下に落としたスマホを…拾おうとした時…急に浮いた感じがして…うぅっ…」
気付いた時には線路上に落ちて電車に轢かれたんだ。圧倒的質量の鉄の塊に俺の体は引きちぎられ潰されて。永遠とも思えるような痛みに苦しみながら暗転する視界に身を任せたら…。
「それで目が覚めたらここにいたのよね。よくある小説のテンプレートのような死に方じゃない。ここに来る人間は大半がトラックか電車に轢かれるかして来るわ。あなたもその中の一人という事ね。」
「いくらなんでもそんな言葉で片付けるのはおかしいじゃないですか。」
現に人が死んでるのにも関わらず彼女はさも当然のことだと言わんばかり態度だった。
「あなたが人にいえたことかしら。あなたが普段読んでいるWeb小説かなんかだって物語の導入の最初の1ページで主人公が死ぬのに当たり前のように読み飛ばすじゃない。」
「それはあくまでフィクションの中の話ですよね。現実の話と混同しないでください。」
滅茶苦茶な人だ、人が死んでいるのにどうでもいいのだろうか。
「私にとってはあなたの死に方なんて業務上なんの必要性もないの。重要なのはあなたが送るべき人間かどうかだけよ。」
送る、口ぶりからすると俺は異世界に飛ばされるのだろうか。地球よりも科学文明が進んでいない分、魔法技術が発達した世界。期待が膨らむに決まっている。受験勉強中どれだけ現実逃避で異世界に行きたいと思ったか。
俺が異世界に対する妄想をしていたらその間に目の前にいる女性はどこからともなく取り出したファイルに目を通していた。
「駄目ね、あなたは送ることはできないわ。とてもじゃないけど才能がないわ。送られても対して何も出来ずに一生を終えるわね。これじゃあ無駄にリソースを使ってしまうだけね。」
ああ、何ということだ。目の前の女性は散々言いたいことを言った上、挙句の果てに才能がないと言っている。俺は一体何をしたというのだろうか。前世でとんでもないことでもやらかしたのかもしれない。
「残念ながらあなたには絶望的に異世界で生きていく才能がないだけよ。魔法を使うための必要な魔力が壊滅的になかったり、武器を扱う才能がないのよ。ここまで酷い人間は見たことがないわ。驚いたわ。」
「じゃあどうしろっていうんですか。死んでしまったんですから地球にも戻れないですよね。モブでもいいから行けませんか。」
「無理よ、向こうの世界との協定で送れる人材には制限がかかっているの。モブなんかのために枠を使えないわ。これ以上手間取らせるのなら来世を刺胞動物門にしてもいいのよ。」
来世をイソギンチャクにされてしまうのはとてもではないが避けたい。だが、だとすると私の存在はいったいどうなってしまうのだろうか。
「そこは心配いらないわ。私があなたを雇うことにする、良かったわね。これで晴れて公務員の仲間入りよ。」
え…公務員…。