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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年前期編
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3-閑話

お久しぶりです。パソコンが壊れてしばらくぶりでございます。すっかり忘れられたやも知れないですが、閑話です。キャラがまだまとまってないですよ!頑張ります。


2023/06/05 改稿しました。全然違う話になってます。キーワードが結構出てきますが読まなくてもその先に影響はありません。

これは、前期終業パーティの前の話だ。


「……つー訳で、うちのご主人様忙しいんでこっちでデザインある程度絞ってあるんで、これで仮縫い進めてもらっていいっスか」

「分かったよ」


シドは馴染みのエルフとロキに着せる衣装について話していた。ロキとは一度顔合わせをしているので、どんな容姿かは分かっている。


「しかし、ロキ様は非常に優れた容姿だね」

「まあ、人刃の中でも特に特殊らしいからなァ。着飾らせるにはこれ以上ないっス」

「そうだね」


シドはエルフの亜麻色の髪を上機嫌に揺れるのを眺めた。どんな衣装にするかはシドと話し合って大体のところを決めてしまっているので縫い進めていくだけだ。


「リューディガー、何日くらいで仮縫い終わるんスか」

「今回は3着だから、全部合わせて1週間もあれば終わると思うよ」

「相変わらず早いっスね」

「シド君はそんな私を買ってくれているんじゃないのかな?」

「仕事が早いだけじゃ話にならないっスよ。仕事の腕が確かだから頼んでるだけっス」


シドがニヤリと笑う。リューディガーと呼ばれたエルフは目の前の金属精霊の言葉に笑みを浮かべた。


「そう言っていただけると嬉しいね」

「そりゃよかった」


王都に住んでいる奇特なエルフとロキも表現したこのリューディガーだが、ヒューマンとの交流を嫌がっていない時点で割と懐っこいことが見て取れる。リガルディア王国において、エルフとヒューマンが激突した記録は残っていないものの、リガルディア王国建国前には森に住むエルフ族と森を開拓したいヒューマンとの衝突が繰り返されていた。


それも2000年以上前とはいえエルフにはその頃の鮮烈な記録を伝え聞いた者も多い。エンシェントエルフと呼ばれる個体は当事者であろうし、エルフたちも寿命は1500年から2000年ほどだ。人刃族は1000年ほどの寿命を持つと言われており、覚えている者は今やほとんど墓の中である。


リューディガーはそんな中でももともとヒューマンと親しくしていた人物で、エルフの里からは出禁扱いを受けているとシドは聞いている。エルフの里で培われた紡績技術と製織技術でとても滑らかな肌触りの布を作るところからやっている。服を作るのに時間はかかるが最高級品を持ってくるということで、リガルディア以外の貴族の顧客もついている。とはいえ本拠地をリガルディアに構えている以上早々手出しできないので、彼にとっては案外リガルディアというのは安息の地だったりするのだ。ロキはヒューマンが多いエリアそのものがあまりよくないのではと懸念を口にしていたが、周りが人刃の様な愚直な性質のモノが多いとヒューマンは欠片の良心によって他の人にも優しくなってくれる場合が多い。


「ロキ様どれを着てくれるかな?」

「俺が着せるしこっちにぶん投げてた自覚を持たせれば文句言わなくなるんで、好きに凝っていいっスよ」

「やった」


見えないところにあれこれ仕込むのも楽しみのひとつだと笑いながら、リューディガーは早速荷物の片付けを始めた。学園に商人が足を踏み入れていい時間は決められているので、タイムオーバーになる前に撤収しなければならない。


「あと、先に頼んでたセーリス嬢たちのドレスの方の進捗は?」

「ソル嬢の2着とルナ嬢の3着はドレス本体は終わってるよ。靴はこの後進捗を確認しに行く。あとはアクセサリーの加工を頼んでる親方のとこには明日行くよ」

「頼んます」


学生になるとなかなか学園を抜け出せないので、とシドは笑った。どうせ外に連絡を取れない訳ではないし大人の使用人だって待機させているはずなので、あくまでもシドが動きやすい範囲の外の事であるため確認しやすい人に頼む、という事だろう。


「残り1ヶ月なんで、しっかりやってくださいよ」

「分かっているとも。しかし、ロキ様の装飾品は銀朱じゃなくていいのかい?」

「あー……」


シドは少し考え込む。


「銀朱は、まだいいんで。銀朱頼むときは、白銀か純白の衣装もセットで頼むことになりますんで」

「分かったよ。まだ彼にフィアンセはいないの?」

「今のところはまだ」

「フフ、楽しみだなぁ」

「楽しみにしといてくださいよ」


シドに近い位置にいるということは、すなわちロキに関係する衣装に関われるという事だ。リューディガーは口元を緩めた。



人刃族というのは、キラキラと光るものを好む傾向がある。烏のようだとか、竜種でも混じったんじゃないかとか、いろいろと言われている部分ではあるが、そもそも人刃族は所謂刀剣の付喪神に近い種族だとされている。よって、刀剣の装飾に使用される宝石や金属、布などを好む傾向が強いのだと説明されて納得されている性質であった。


ロキが聞けば確かに、と一言納得の言葉を零しただろう。ロキたちの前世でも刀剣には宝石を埋め込まれた柄や鞘といった拵えを持つものもあった。ファンタジーな武器として描かれたものはそれこそ宝玉やらなんやらが付いていて絢爛なもの、美麗なものが多かった。


加えて、人刃族はその瞳や魔核が宝飾品としての価値を持っており、それを理由に乱獲された時期もある。乱獲が数百年から千年に一度ほどのスパンで起こっているが、その度に段々と人刃族の宝飾品を好む傾向は強まっており、魔物学者の間では、奪われた同胞の魔核や瞳を取り戻すために光り物を好む傾向が強化されているのではないかという説が流れているくらいだ。


元々金属加工を生業とするドワーフと相性が良かったこともあり、人刃はどれだけ減っても最後には盛り返してきた。ドワーフと共にいる期間が長くなったことも、宝飾品を好む傾向に拍車をかけたといわれているが、リガルディア王国はその辺りがもっともわかりやすいだろう。


何せ、竜種たる王家を支えることを目的として人刃族が集っているのだ。リガルディア王国の竜種もまた、宝飾品を好むことで知られ、宝石質の瞳を持つ人刃とは共生関係にある。


リガルディアの貴族は相手の瞳を宝石に例える。移民などの例外を除いて、貴族階級は基本そうだ。これがまた公爵家の人刃になってくるとよくわからない色の名称を用いだすので大変理解し辛い。


リューディガーは銀朱、とロキの衣装の色について言及したが、銀朱なんて色は、リガルディアではほぼ使われないし、どんな色と聞かれて答えられる者も極めて少ないだろう。朱というから多分赤系の色なんだろうくらいの予想はつくが、知らなければ銀色かと思うものもいるかもしれない。


「……なぁガガラガ」

「なんだ、リューディガー」


馴染みのドワーフの工房に足を運んだリューディガーは、注文していた宝飾品の納品を受けてから、持ってきたエールを開けていた。ドワーフの名はガガラガ。エルフ嫌いが多いドワーフとしては珍しく、エルフであるリューディガーとも仲良くしてくれている変わり者である。


「人刃の王種が生まれてたの知ってる?」

「……知らんかったな。本当か?」

「間違いない。王種の自覚もある」

「どこのガキだ?」

「フォンブラウ公爵家。第四公子だ」

「アーノルドのガキかよ」


リューディガーとガガラガは顔を見合わせて笑う。


「アーノルド君にはいろいろと世話になってるからねえ。宝物は一緒に守っていきたいものだ」

「違えねえ。しかし、人刃たちも水臭ぇな。王種が生まれたなら知らせてくれりゃよかったのに。ネックレスでもピアスでもバングルでもブレスレットでも、何でも作ってやるのに」

「武器は?」

「そこはライオットの領分だろ」

「それもそうか」


ガガラガがエールをあおった。ドワーフにとって、金属生命体もとい武具系の魔物は、手入れを任されることが自らの技術力の証明となる。

王種というもの自体が魔物にとってはとても大切な存在であるため、王種に関われるだけで他種族からは“すごいもの”という認識がなされる。


リューディガーたちエルフは木工と布製品の加工に秀でている。服飾品と、糸や紐で結びつける魔石や宝石の簡単な加工ならばできるが、ドワーフほどの耐熱ステータスがないので、超高温の加工は不可能だ。人刃は宝石や金属以外に布や木も纏うので、リガルディア王国の人刃向けにエルフとドワーフが珍しく手を組んだり、互いの加工品にさらに手を加えたりと様々な試行錯誤がなされている。


「納品した分は人刃関係なかったような?」

「フォンブラウ公爵家が後見してる御令嬢たちの分だね。セーリス男爵家の御令嬢たちだから、もしかするとどっちかはフォンブラウに嫁入りするかもね」

「言われたんか」

「うん、第四公子について聞いてみたけど気が早いみたいなこと言われちゃった。もう少ししたら白銀か純白で頼むってさ」

「おう、神子だったっけか」

「そうそう」


リガルディアに限った話ではないが、旧帝国文化圏には婚約者や恋人の瞳の色の宝石を使った装飾品と、髪の色の服を纏う文化がある。宗教的というより、多種多様な魔物もひっくるめて支配下に置いていた旧帝国のある種の指標のようなものだろう。旧帝国時代に魔物たちもかなり混血化が進んだと言われているので、分かりやすい色での繋がりのようなものを示す文化が受け入れられていったのだろう。


そうなってくると白系の色を使えるのは白い髪の者だけになってくるので、特別な時に着る服が白い者は、相手が白い髪の者になる。白い髪の者そのものが特殊な存在であることが多く、白い服はよく目立つ。白い髪の者で最も有名なのは神子だが、それ以外にも、身体に負担がかかるほどの魔力を誇る個体は髪の色素が薄くなる傾向にある。これ以上ないほどに分かりやすい、高い魔力を持つパートナーの存在証明だ。


「……名前、なんだったっけか」

「ロキだね。ロキ神の加護持ちだ」

「おい、ロキ神って神力がアホほど高い神格じゃなかったか」

「うん。神子だから白いわけじゃないと思うよ、あの髪」


ガガラガの気付きにリューディガーは頷く。リューディガーは思い返す。リューディガーが見たロキ・フォンブラウの姿は、確かに神子の姿だった。


だが、だ。


「人刃って魔力が高くない個体だと黒髪でしょ。黒髪から単に色が抜けただけなら黄色っぽくなったり、緑っぽくなったりする」

「吸血鬼もそんな感じだな」

「彼らはダークブラウンがベースだけどね。でもロキ君の髪はプリズム入ってる」

「うお」


エルフもドワーフもヒューマンに比べると圧倒的な寿命を誇る種族だ。何人か神子を見たことくらいはある。彼らの髪を見て、瞳を見て、似合う宝飾品を作ってきた。髪や瞳に入る魔力による干渉色などの呼び方は、ある程度共有しやすく概ね揃っているのだ。


「プリズム入ってるって言い切るってことは、昼と夜会ったのか」

「ううん、昼だけ。屋内だと髪の影には赤紫から青紫の幅があるけど、毛先がちらちら虹色に見える」

「やっぱりロキ神の影響か?」

「多分、と言いたいところだけれど、純粋に個体の問題だと思う。あ、でも黄色が弱かったから光属性の適性は低いかもね」

「おう、口外するなよそれ、アーノルドに〆られるぞ」

「それもそうだね」


まあそれだけじゃないけれど、とリューディガーが楽し気に口元を緩めた。ガガラガはこれ以上何があるんだと戦々恐々としながらさらに突っ込んで聞いてきた。


「ロキ君、目がアーノルドよりわかりやすくファセット見えるし、青いシラーも結構強烈だよ」

「フォンブラウの特殊個体か?」

「だね、目の色変わるらしいし」

「うわ、何でそんな分かりやすい王種に気付かなかったんだ」

「純血王種だからだね」


純血王種、とガガラガは呟く。


「純血に進化しなきゃ権能が使えねえ欠陥個体だったってことか」

「そうみたい。で、今は純血に進化してる、と」

「進化はいつやったんだこいつら」

「闇属性強めだから、夜やってたら多分わからなかったと思う」


そういうことかぁ、とガガラガは息を吐いた。お前と話すと色んな情報が入ってきていいな、と呟く。リューディガーは、こんなに反応が良いのはドワーフやホビットくらいだと笑って返した。


「アーノルド詰めてみるかぁ」

「普通に聞いても教えてくれるんじゃないかな」

「かねえ。ってか、ライオットまだ学生じゃねぇか。研ぎどうすんだ? 王種の研ぎなんてそれこそライオットくらいしかできねぇぞ」

「え、ライオット学生さんなの?」

「今中等部3年だな」


精霊頑張れ、とここにはいないシドにリューディガーはそっとエールを送る。シドがあれこれと手を回している理由が分かった。ロキは多分自分の世話をシドたちに丸投げしているのだろう。信頼と受け取れるものの、状況によっては重たい、の一言だ。


それを喜ぶ阿呆ばかりなのだろうが。


「ほらガガラガ、もう一杯いっとく?」

「おう、これ美味いな」

「セネルティエ王国からの輸入麦で作りました」

「おー、器用なだけはあるなぁ」


リューディガーはガガラガと自分のジョッキにエールを注いだ。


「んじゃ、これからも頑張っていこー」

「おう!」


一気にエールを飲み干して、互いの泡髭を笑ったところで、リューディガーとガガラガの頭に念話が響いた。


「……え、」

「お、お、そんな依頼受けねえ選択肢はねぇな」


どうやら同じ念話を受け取ったらしい。


「……スケッチ描き出さなきゃ」

「使う材料決まったら教えろ」

「うん」


後にこの2人はフォンブラウ公爵家のお抱えとなるが、それはまた別の話。

面白かったら是非評価をお願いします。

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