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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年前期編
98/376

3‐24

2023/06/05 改稿しました。

ハインドフットは自分を呼びに来た精霊の後をついて行った。彼女のことはよく知っている、彼女が仕えたがっていた少年が彼女のことを認識できなかったころから知っている。そんな彼女の主である少年は、ハインドフットが来るまで魔物、それもドラゴンの傍で過ごしていたようだ。


ここ最近は特に、魔物の大量発生やらなんやらでハインドフットたちの手が空いていなかったのだが、精霊の拙い説明をできる限り理解しようと努めた結果、どうやら、見回りが疎かになったグリフォンの巣の掛けられた森に侵入者があったようだ。


立て続けに魔物関係で問題が起きており、その処理にハインドフットが追われているのは致し方ない。ハインドフットはほとんど知られていないものの、魔物学の道では誰もが尊敬する第一人者であった。


若い頃は魔物の調査に奔走し、ギルドで用いているランク付けを種族基準と個体基準の2段階に分けたのも彼だ。リガルディアにおいては貴族が出撃するレベルか否かを分けるものと、どの貴族が出撃するかを大まかに決めるものの2つの判断を王家が行っていた。王家の要請に合わせてギルドが動くといった具合だったのだが、それではいくら何でも遅すぎるということで改善が求められた。


その時に最前線にいたのがハインドフットだったのだが、そのことを国内できちんと知っているのはギルド本部長以外には先王フィリップ陛下くらいだと思っていたのだ。


ロキがなぜハインドフットを指定してきたのか。単純に授業の担当だからとかいう理由ではないだろう。何故精霊にまで頼んでハインドフットなのかという話になってくる。ともすれば、恐らくロキはハインドフットの専門分野を知っていた可能性がある。




ロキが知っていたのはなぜだろうかとも思いつつ、特に用件も告げられることなく待っていた風の大精霊に運ばれれば目の前に見たこともない鋼竜と思しきドラゴンが横たわっており、ロキたちが時間になっても戻ってこなかった理由を理解した。


地面に広がった血。

このドラゴンは傷を負っており、放置できなかったためこうなった、または、このドラゴンを心配した何かに導かれるままここへ辿り着いた。

周囲を見渡しても特に何もなかったが、ゼロの左手の小指が僅かに石化しており、コカトリスが出て討伐に走ったものと判断し、今は咎めずおこうと考えてドラゴンの様子を見てロキに運ばせたのが1週間前。


夏休み前日、ロキたちは今頃前期終業パーティで注目の的となっているであろう。

ハインドフットは夏休みの間中グリフォンの卵泥棒の件と今回の鋼竜あらため、剣竜についての資料をまとめ、奏上せねばならなくなった。


特にグリフォンの方は急務である。

グリフォンは軍馬になる。特に、プライドが高く、恐れをおくびにも出さない。死徒と組むには丁度よく、リガルディアで貴族の乗っている軍馬で最も相性がいいのがグリフォンやヒポグリフとなるのだが、数が少ない。そのため密猟が禁じられた種でもあった。


第一、浮島に在った巣を狙ったところに悪意しか感じない、とハインドフットは思った。

もしもコウが衛兵や騎士の言いつけを守って森に侵入しなければ、コウを連れてロキたちが平島へ向かわなければ、今頃男らによって卵は国外へと持ち出されていた可能性が高い。


また、ロキの周りの転生者たちがどれもこれも一級品のポテンシャルを引っ提げているのだから驚きである。彼女らのおかげで今回のことは穏便に治まったといっていい。


ちなみに、報告書を書かされたロキたちは説明が非常に拙かった。ロキに関しては“脳筋”の息子であることが考慮され、仕方ないと言われる始末である。ロキがここに居たならばきっと「母上は一体この学校で何をしていったのだ」と疑問を抱くこと間違いなしの案件であろう。


ロキは非常に戦闘面に関しては頭も働くし人の機微にも聡い方であるのだが、いかんせん先祖返り過ぎる。半転身できている時点で人間にほぼ同化してしまった今のリガルディア貴族の中ではかなり異質な方に相当し、考え方が極端である。

全て事後承諾になるのも時間の問題であろう。


もっとも、ロキのこの説明の拙さは報告書ということで、転生者であるとか世界回帰の件とかいろいろなことを伏せて説明したために変な説明になっているだけなので、フォローをどこかにぶん投げたのは間違いない。


そんなロキの説明を全て後から補う資料を置いていったのがヴァルノスである。

カイゼル家の血は争えんなあと職員室では普段ほとんどしゃべらないが意外と他の転生者たちのフォローに駆け回っているヴァルノスの評価を上げる教員がちらほら出てきた。


それにしても、とハインドフットは手許の資料から顔を上げた。


ロキは少々、加護が効きすぎていやしないか。

恐らく初等部と今学期までの間に完治した浮草病と晶獄病が関係しているのは間違いない。

魔力量が多くなればなるほど加護はその効力を発揮する。


ロキはあまりにも魔力量が多くなりすぎているのだ。

しかし、同時に想うことはある。


「……人刃が銀髪になるってのは、そういう事なんだよなぁ」



リガルディア王国にある教育施設は基本、学期の節目でパーティを行う。リガルディア王立学園中等部は前期後期の2期制であるため、前期の始業パーティ、前期の終業パーティ、後期の始業パーティ、後期終業パーティ、学年修了パーティの5つがある。


今回は前期終業パーティだ。直前にあった実習でのごたごたやら報告すべきことやらが無事に終わってよかったと内心ほっとしたところで、シドがロキに今日のための衣装を持ってきたのである。サイズ合わせをしただけでロキ自身が放置してしまっていた衣装の問題は無事侍従見習いのシドとゼロの方でうまく処理していたという事だ。


ロキが衣装に見向きもしなかった事により、シドとゼロの独壇場となり、ロキの衣装が素晴らしい出来になったのは間違いない。ロキの前世の感覚がその豪奢さについて行かないだけである。


パーティは学生ばかりなので礼儀に関してはそこまできつく守る必要はないので、ロキはセトとカルの近くに突っ立っていた。


「ロキ、ロキ目当ての令嬢くらい自分で捌いてくれよ」

「そんなご無体な。俺茶会くらいしか参加したことないんだよ、まだ2回目」

「前期の間に、ロキが上手く加護を制御できてるのが分かっているからな」

「そんな掌くるーは要らない」


セトが近くに居るのでセトが最初に対応する。カル目当てとロキ目当て両方を捌くセトは実はなかなか社交の場でも優秀なのではなかろうかとロキは思った。


ロキも一通り練習はしているので、問題はない。問題はないが、相手をしたくないのも事実なのである。とはいえセトがロキ狙いの令嬢たちをロキにそのまま流し始めたので相手をする羽目になったが。


「こんにちはロキ様。本当に素敵なお召し物ですね」

「ありがとう、サマラ嬢。貴女のドレスも、よく似合っている」


フォンブラウ公爵家の一派の令嬢たちが先にやってきたのでロキはそちらの相手をする。見事な紅の髪の令嬢が数人の令嬢を連れてロキにカーテシーをする。ロキもボウ・アンド・スクレープで返した。


「ロキ様が選ばれたんですか?」

「いえ、放置してました」

「ということは、シド君とゼロ君のセンスですね」

「はい」


この令嬢たちは実はロキよりも年上だ。プルトスやフレイ、スカジの傍に上がる予定の令嬢たちで、スカジが生徒会長の仕事をしっかり終わらせたらスカジの方へ向かうだろう。


そのままグループ全体と挨拶を交わして、戻ってきたスカジが視界に入ったのでスカジの方へ足を向けようとしたら、スカジの方から近付いてきた。


「お疲れ様です、スカジ姉上」

「ロキも、お疲れ様、だ。今日はゆっくり楽しんでいくといい」

「ありがとうございます」


ロキの奥に居たカルとセトに気付いたスカジはカルとセトに挨拶をし、ついで令嬢たちがスカジに挨拶をする。そのまま一言二言交わして、スカジについて令嬢たちのグループが移動していった。


「……そういえばロキは生徒会長の弟だったな」

「生徒会という組織があったことすらすっかり忘れてたわ」

「どうせ次の会長カル殿下だろ?」

「いや、カイウスがいるからどうかな」


夏休みが終われば生徒会の引継ぎが発生する。王族がいれば王族が生徒会長になり、王族がいなければ公爵家、居なければ侯爵家、ととりあえず会長は一番階級が上の家の者が選ばれる傾向がある。スカジが今忙しいのは引き継ぎの準備をしているというのもあるだろう。ロキは姉の後姿を見送ってから、辺りを見渡す。年上のグループが終わったら次は同級生たちだ。


他の貴族子弟顔負けにシドによって着飾らせられたロキは抜群の美しさを誇っていた。

絹糸のような白銀の髪をネイビーに染められたシルクのリボンで留め、清潔感のある白いシャツにラピスラズリのあしらわれたアスコットタイをつけ、黒いスラックス、黒い革のベルト、革のブーツ。上からは端に銀糸の刺繍入りの、襟の立った丈の長いネイビーのジャケットを着せられている。


リガルディアの貴族らしい、割とシンプルなデザインはロキの細身の身体をしなやかに見せるので、周りの視線は割とロキに向いていた。見られていることに気付いているロキはシドにジト目を向けた。


「恨むぞ、シド」

「御主人様を着飾るのは使用人の矜持よ! なあ皆ァ!」

「「「「「応ッ(はいッ)!!」」」」」


セトやカルの侍従までシドと同じ意見らしいのでロキはそれ以上何か言うのを止めた。主人にどんな服を着せるかはその侍従の好みも大きくかかわる。令嬢たちがメイドから全力でおめかしされるのはロキも知っていたが、自分もその対象になるのだとは今回初めて知った。実は化粧も施されている。


「てか、宝飾品無いだけましだと思えよ。お前の感性日本人に寄ってるから身に着けるなら玉より布派だろうけどな」

「分かってるなら反映してほしいな」

「やだね、俺もゼロもキラキラが好きなもんで」


自分で着るわけじゃないから余計目に入れて嬉しいものをロキに着せにかかっているのは察せられる。ゼロも竜種の仲間らしくキラキラしたものが好きだし、文句を言う気はないが。


ロキはシドが皆と打ち解けているようで安心した。使用人というのは主人を着飾らせるのも仕事の内。ゼロは宝飾品をロキに色々つけたがるが、シドは大物をひとつ付けるのが好みで、今回はシドが勝ったらしい。ゼロがコーディネートしていたらギンギラになっていたに違いない。


「……ロキ様のコーディネートに敵わない」

「今回シド君だったか……」

「セト様、申し訳ありません……!!」

「殿下ぁぁすみませんんん」


決してセトやカルの侍従の選んだ服がおかしいわけではないし、ロキからすればセトもカルも十分魅力的に見える服装と宝飾品を身に着けているのだが、使用人たちからは何らかの基準があるのだろう。ロキとカルとセトは顔の系統も違えばカラーリングも違うので一概には言えないと思うのだが、それでもロキが一番という意見に相違ないらしい。


「使用人たちの基準はいまいちわからんな」

「俺はセトに侍従がいる方に驚いた」

「今日のために親父に付けられた」

「騎士団長様の差配かぁ」


カルは金糸の縁取りがされた瑠璃色のジャケットにシトリンのブローチを付けている。中に着ている白いシャツに合わせて首に白いフリルタイを結び、ベルトも白、ズボンはオフホワイトでブーツもオフホワイトだ。


セトは深緑の長い丈のジャケットと白いシャツに紺のスラックスを合わせている。カフスは小振りながら翡翠が使われていた。ベルトはシンプルに黒だ。


「まあ、ロキの髪が一番色々合わせやすいよな」

「色が無いに等しいからね」

「いつの間にうちの侍従まで巻き込んだのやら」


この使用人たちのセンスとプライドをかけた小さな戦いは、被害者も順調に増やしているらしいことを確認し、ロキはセトとカルと肩をすくめ合った。


ロキの衣装を持ってきたのはシドだ。大人顔負けにばっちりキマった服装になったのは、シドの好みと経験上問題ないという服装を選んだためだと理解はできるのだが、これから王宮にでも上がるのかと言いたくなるくらいしっかりした服装だった。


色々あったからといろいろ理由を付けて自分のパーティ用の衣装を用意しなかったロキが悪いのだ。シドは先日の宣言通りエルフの仕立て屋を呼んで、ロキに似合うぴったりな衣装を作ってくれた、しかも、3着も。ジャケットだけでなくシャツとズボン、ベルトにスカーフやアスコットタイまで揃えていたのだから、そう、もうロキには諦める道しかなかったのだ。放置していたら侍従好みに着飾られた。致し方なし。


「ああ、また令嬢が来た……」

「お疲れ様、ロキ」

「大丈夫、躍らなければ大丈夫……」


ロキは話しかけてきた令嬢の対応のためにカルたちから少し離れた。

ロキでもあんなに疲れるものなんだなあ、とセトが他人事のように零す。セトにカルが言葉をかけた。


「お前の婚約いつだ?」

「来月です」

「なら後期開始には間に合うな。その時は躍るんだろう?」

「まだマナーまともにやれてませんよ、俺」

「不安ならばロキか俺に声を掛けろ。練習に付き合おう」

「ありがとうございます」


セトは騎士爵子息なのだが、まあ父親は騎士団長ということもあってそれなりの高給取りである。金には困っていない、が。

彼は、良くも悪くも実直で、武人だ。躍るのはあまり好まないのである。


挨拶しに来た令嬢がいなくなったのでロキが戻って来た。


「疲れた」

「だろうな。俺はもうロゼとの婚約が確定したからいいが、お前はな」

「誰かいい令嬢捕まえとけよ?」

「ぬぬぬ」


カルとセトから言われてはどうしようもない。

カルの婚約者に関しては、候補はロゼ以外残らなかったらしい。ロッティ公爵家の娘こそ退けたかっただろうに、ロギアとアーノルドの暗躍を止められなかったらしい他の貴族家にはドンマイと他人事として掛ける言葉しか見つからない。

王女との婚約の話がフォンブラウ家には出ているものの、トールが2つ違いロキは3つ違い、フレイとプルトスでは7つも年が離れてしまうので、おそらく降嫁することになってもトールであろうというのがロキの見解である。7つくらいの年の差なら別に、とも思わなくはないのだが、年齢が近いほどいいのは確かだろう。


「そもそもロキは祖なのだから分家する可能性も高い。公爵だから最低限伯爵以上が望ましいだろうな」

「誰かめぼしい令嬢はいないのかよ」

「お前ら婚約者や候補の令嬢がいるからってこっちを見下ろすんじゃない」


セトもほぼ確定の婚約者候補がいる。カルは大人の間では確定した婚約者候補がいる。ロキにはまだいない。ロキは加護があるので大人が娘たちを止めているだけだとロキは思っているが、女子側からの噂はロゼやヴァルノスが止めているのか全く入ってこなくて不安である。


ロキも、好ましく思っている令嬢が、いることにはいるのだ。

けれども、その令嬢の立場を考えると、ロキが声を掛けるのはよろしくない。


「……いるにはいるが、面倒事しか呼ばない。まだ保留だ」

「今ので大体5人にまで絞れたのだが、赤毛の令嬢かな、蜜柑色の髪の令嬢かな、茶髪の令嬢かな、金髪の令嬢かな、ピンクパールの髪の令嬢かな」

「完全にばれてる」


カルの予想にロキは驚愕の表情を見せる。

久方ぶりのロキのツッコミにカルは肩を揺らして笑った。


面白かったら是非評価をお願いします。

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