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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年前期編
97/377

3-23

2023/05/28 改稿しました。

「ちょっと聞いてもいいか」

『あ、うん』


ロキの言葉にアルバと呼ばれた精霊は面食らったような顔をした後、居住まいを正した。ロキの態度はアルバが予想していたものよりも大分柔和だったらしい。


「君はこの剣竜の面倒を見ていた、だから本来行動を共にしているはずのアッシュのところに居なかった。この認識で合ってるかい」

『うん……というか、アッシュとうとうロキさんと合流したんだね』


ロキが目を細める。アルバは今までにも何度かあったような口ぶりであるから、ループを認識、理解しているのは事実なのだろう。人工精霊と精霊の違いというものも大切な事な気がして、ロキは頭の隅に留めておく。


「ヴォルフガングも一緒にいるよ」

『――えええええ!!??』


ロキは事実を述べただけだが、意外だったのだろう、アルバの反応は大げさだった。


『ちょ、獣人への差別も酷い時期のはずでしょ!? 違う?』

「あー、アルバよォ、」

『な、何、アウルム様?』


少し言いにくそうにシドが口を開く。


「それ、だいぶ前のループ周回。今は宰相を国王陛下たちが尻に敷いてるから問題ねえんだわ」

『……もっと先に連絡寄越せえええええ!!』


報連相の徹底を求める人工精霊を見て笑ってしまったロキだった。


「ま、今ははぐれ死徒(ゾンビ)にやられたセーリス男爵領の令嬢たちの護衛役に収まってるぞ」

『え、それなら早めに戻った方がいいかな?』

「特にルナの方に張り付いてくれている。君にも改めて頼みたい」

『ロキさん優しすぎて怖いんだけど!!』

「踏まれるのがお好みかな?」

『ごめんなさいナンデモゴザイマセン』


アルバがひいい、とか細い悲鳴を上げている間に、ロキはだいぶ身体の修復が終わったらしい剣竜の頭を撫でていた。ロキは魔物に好かれやすい体質のようで、それはドラゴンであろうとも例に漏れないらしい。


頭をすり寄せてくるまでになった剣竜の魔力の流れを改めて診てやる。流れがおかしい所も、爆発しそうなところも無い。ただ、シドが指摘していた、翼の無い部分は魔力が直接漏れているようだった。幼げな反応をしていたこの剣竜は、実際のところどれくらい生きているのだろう。


「ゼロ、こいつは飛べそう?」

「ああ。持ち上げて叩き落せば飛ぶだろう」

『ふぁっ!?』


人間味のある反応だなと思いながらロキは剣竜から手を離す。剣竜は少しばかり名残惜しそうに「グル……」と喉を鳴らした。


「この様子だと、剣竜は地上を歩くことに特化しちまった鋼竜の最終進化だな。人間にぶち切られた後に続く感じかね。俺もここまででかくなったやつは初めて見るんだが」

「元々地竜系は飛ぶのが苦手なやつも多いと聞く。滑空なら何とかなるだろう。この森に竜種がいるのは拙い」

「下手すれば討伐対象だ。地竜が岩石を好んで食うなんてこと、ほとんど知られてねえし、こんな森の中じゃこいつの飯だって賄えやしねえ」


ゼロの口調がムゲンやシドと似通って来たなと思いつつロキはゼロを見る。顔にうっすらと鱗が浮かんでいるのは恐らく、また興奮しつつある証拠なのだろう。今の状況といつかのループを重ねているような言動が、見られることがある、そんなゼロを、ロキは見ていた。


これは拙いな、とロキはゼロへ向けている視線を鋭くする。


「……何思い出しているのか知らんけど」

「――」


本当は知っているのだろうが、ロキにはわからないので、放置だ。


「もうお前の家族が奪われることはないだろ」

「!」


ゼロが目を見開く。彼の母はきっともう死なない。


唇を微かに戦慄かせ、ゼロはロキに手を伸ばす。掴んだのは袖の端だったけれども、ゼロの目に浮かんだ涙にロキは思う。


――地雷踏んだ。しかも思いっきり踏み抜いた。んでもって根っこが深かった。


「……家族だけ? 大切な人は? 主と仰ぐ人は? 頭領は、その親友は、皆、」


そこで言葉に詰まってゼロは俯いた。

ロキは思い返す。


ゼロがこんな態度をとったのは確か、ロキが公開処刑になったルートを夢という形で見てしまった時だったはず。となれば、この状況は恐らくそれを彷彿とさせる何かがあった。その結果守れなかったものをゼロが口走ってしまった可能性は高い。


「……もともと俺とお前は敵対していたと聞いている。どうにか頑張って今までのループの中でお前が積み上げてきた少しずつ変化をもたらし結果として今こうしてそれが実を結んでいると考えていいだろう。ならばまた頑張ればいい」


無責任な言葉ではあるのだろう。

ロキだって変えたいものはたくさんある。

デスカルからもたらされたとある言葉が――ロキ自身が自分の形容にこれ以上ないというほどしっくり来てしまった言葉は、ロキの胸を抉っていた。


――まるでNPC。


ゲームキャラと変わらないと言われたロキは、それでも進まねばならない。シドは全面的にロキを信用している。ロキはその時の最適解に向かって突き進んでいくとシドは言う。


だから、ロキは思うのだ。

一瞬浮かんだ言葉を、信じてゼロに言ってみようと。


「……お前が俺とお前の関係を変えたんだ。それはお前が望んだことなんだろう。ならば、己の望むもののために解を選び取って進むしかない」


その結末としてもっともよかったのが公開処刑って、どんだけ自虐を溜め込んだらそうなるのだろうと自問自答で導き出せない答えもあるのだが。


「……ん」

「ならよし」


その話題は終わりだとロキは言外に伝え、小さく笑んだ。後ろの方で、


「全然よくねえけどこれ言ったら雰囲気壊すよなあ……」

『二度とロキの公開処刑ルートを踏まないようにする、頑張るね』

「そうしてくれや。俺も今回はどうにもNPC側みてーだからな」


なんて会話があっていたからだ。


アクションを起こしてもロキとシドには何も変えられないのだろう。そうロキは結論付ける。


この国のためにと貴族として教育されてきた常識と、前世日本人の感性を以て、客観的に物事を見る力は多少なりともある方だとロキ自身は考えているから。


(――自惚れる気はないが、危ういか。シドは追従するのみと考えて行動したほうがいいかもしれない)


ロキの胸の内では、嫌な予測が立っていた。


もしも、もしもの話である。

万々が一、シドが何も問題ないのだろうとロキを妄信した場合。

恐らくストッパーはいない。

ゼロに最悪の場合俺を止めろ、とは少々言いづらい。

ならばストッパーを誰かもっと別のものに頼む必要があるだろう、と。


ストッパーのいない状態のロキがどう動くのかロキ自身よくわからないこの状況で、そんな危険な賭けには出たくない。

気付いた時にはもうロキ自身止まれなくなっている気がするのだ。


(これだけ泣かれてるのにそんなルートは御免だ)


ロキは気付かない。この思考が、本来ならば現時点で行われるには情報が不足していること、それを当然のようにつなげて考えているのは明らかに何らかの思考のパターンまたは条件が揃っていて、経験があってこそ成り立つものであること。


ループについて詳しく誰かと語ったわけでもないのにここまで思考が飛ぶことに、本来のロキが気が付かないはずはないのに、おかしいとは思わない。ロキは自分の思考を口には出さないので、周りもロキが何を考えているのか分からない。考えている素振りを見せることも少ないので、誰も気付かない。


『ぱぱ!』

『愛しい子!』

「フォンブラウ!」


ハインドフットを連れたドゥーとヴェンが姿を現し、この思考は切り上げとなった。


「遅くなって悪いなぁ」

「いえ、御足労頂き感謝します」

「フォンブラウ、悩みは相談するんだぞぉ?」

「ありがとうございます、そこまでのものではないので気になさらないでください」


やたら口調が丁寧に遜っているロキを見てハインドフットが苦笑する。

視線を走らせ、見上げるほどの剣竜に目を見開き、ハインドフットは手早く診察した後、一度学園に運ぼう、ということになった。


「俺が運びます」

「転移魔法陣(コード)は?」

「記憶しています。問題ありません」


ロキは剣竜に告げる。


「これから俺たちが生活しているところへお前を運ぶ。ここからではお前は飛べない。少し独特の浮遊感があるが、平気か」

『はーい』

「いい子だ」


剣竜の返事にロキは早速魔法陣(コード)を刻み始める。

ハインドフットは感嘆の息を吐く。


「魔法陣を本格的に習うのは中等部3年なんだがなぁ」


ロキはハインドフット、ゼロ、シド、アルバ、ドゥー、ヴェンを含め一気に【転移(テレポート)】で学園へ移動した。

ちなみに、本来の授業時間を大幅に過ぎていたのは言うまでもない。



ロキたちがいなくなった空間に、ふわりと降り立った黒髪で片目を隠した黒目の少年が呟いた。


「お前自身が思うことの積み重ねもまた、この世界を変えるということをまだお前は知らんのか、ロキ。――もうお前の次の進化はいつ始まってもおかしくないぞ」


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