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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年前期編
92/377

3-18

2023/04/21 修正しました。

ハインドフットにグリフォンの密猟者の話が伝わってはや1週間。ロキたちは反省文の提出以外、特にこれといったお咎めを受けることなく学園内で過ごしていた。いや、正しくはロキが涼しい顔して両親に手紙を出していたことであまり噂が立たなかったというのが一番大きいだろう。


なんだかんだで公爵家の人間である。どうしても必要な時以外はロキは親を頼る機会が無いのでかなり張り切ったらしい両親によって情報が必要最低限のところ以外へ伝わる前に握り潰されたのか、グリフォンの密猟者の件はほとんど知る者が少ない状態である。基本的に外交を担っている王妃が非公式に感謝の言葉をスクルドに送ったらしい。ロキはヴェントから聞いた。


グリフォンやヒポグリフは軍馬としてかなり優秀であることも手伝ってグリフォンの卵を盗っていく密猟者は後を絶たない。人間が育てたところでグリフォンが生まれる確率は格段に減ってしまうのでそう意味があるかと問われれば微妙なところだが、親がグリフォンでなければグリフォンは生まれない。わずかにでも可能性が残るならやってみるのが人間の性だろうか。


この日のロキはハインドフットから呼び出しを受けていた。

なんでも、セトとシドを連れてきてほしいとのことで、おそらくシドやセトに本題があるのだなと悟ったロキは快く引き受けて3人でハインドフットがいるであろう魔物舎に向かっている。


「しかし、不思議なもんだな」

「何、初めてなの?」

「ああ。ロキが思ってる以上にループしてるやつが多いみたいでなあ。俺にゃわからん」


シドの言葉にロキはそうか、と小さく返すにとどめる。つまり沢山の人間がこれから先、ロキの前に、ループを経験している者として姿を現す可能性が高いということであろう。ループを知っている者が多ければ多いほど変えようと足掻く者が増え、どう転ぶか分からなくなっていくものなのだ。


「お前の場合お前自身を信じまくってるから何の心配も憂いもなく、憂いがあってもだったら次になんとかできるだろう程度であっさり目を瞑っちまう。お前潔すぎねえ?」

「人刃の性なら笑うが?」

「どっちかって言うとお前ネロキスクに近いわ。考え方がものすごく女将に似てる」


ネロキスクというのは以前デスカルが“黒”と呼んでいたロキの事らしい。上位者寄りの考え方って怖いねえ、というシドだが、それならお前も同類だろうという言葉をセトは呑み込んだ。まったくどう足掻いても遠い存在だなと思いつつ目の前を行く2人を追う。


認識されていたかは別として、初等部からの付き合いというほど付き合いが短いわけではないし、そうだったとしても幼馴染とロキが言うほどに親しくなっていたらしいことには驚愕の一言であるものの、セトの中ではやはり公爵家と騎士爵家という肩書が重くのしかかっている。シドもロキも、カルもそうだがこう、寛容な姿勢は好ましいが上に立つ者としてどうなのだ。


一般の生徒達と違い多少の横暴が許されるようになっているロキの姿を見て眉根を顰める生徒が一部いるものの、概ね他の生徒達との関係は良好である。自由奔放に振舞っているように見えるのか、はたまた加護に振り回されて可哀想という感情を隠した結果なのかは詮索していない。


ロキは時折、人を小馬鹿にした態度を取ることがある。どうやら無意識下でしていることであるらしく、恐らく気が付いたロキが修正をしたりしているのか、フォローしているのか、話を逸らしているのか、これといって大きな騒動になったことは無い。


とはいえ、ロキが表情を取り繕うのは相手にわかりやすく自分の感情を伝える為でしかないため、嫌そうな表情を作っているときはどちらかというと仲が良い者たちと接していると認識しているということに他ならないだろう。


ロキの表情については正直、読める子供が増えてきたので大人たちはあまり心配していなかったりするのだが、子供たちにも浸透している派閥争いにも掛かってくるのがなんとも言えないところだ。上手く反応を返せない子供だったら、それこそ嘲笑の対象になりかねない。ロキは逆にそれを逆手にとって、自分の表情を上手く読めない敵対派閥の者を蹴落とす姿が見られたことがある。子供のうちからそういうことに能力を発揮しないでほしいものである。


レインがてこずった令息をあっさりと跳ね除けて見せたものだから、元よりフォンブラウに寄っていた家の子供たちからはよい傘になりそうだと判断されたのは想像に難くない。


ロキは上手く権能と寄り添っているのだろう。ロキ神の権能の大半は魔術と銀の舌に集約される。演技力は恐らくもともとロキ・フォンブラウ――つまるところ今このロキ神の加護を受けている少年が持っていた才能であろう。銀の舌と合わされば怖いものなしであるのは想像に難くなかった。


セトの方がよっぽど神の加護に振り回されている。ロキの方が加護の度合いは強いのかもしれないが、などとセトは考えて、やめた。魔力が少ない自分にはどうすることも出来ない。才能に優劣があるのと同じ。セトよりもロキの方が才能があった。加護持ちである以上セトだって弱くなどないのだが、如何せん周りに加護持ちが多すぎた。同じ嫌われ者の神なのにどうして、と思わなくは無い、というか寧ろよく思っている。


セトは夏休みがすぐそこまで迫った空模様を見る。見事なまでの蒼天であった。


そして辿り着いた魔物舎の前で、ハインドフットの小柄な体躯が見えた。ロキとシドが立ち止まり、セトも立ち止まる。コウたちがすぐに顔をのぞかせるのが何ともいえない気分にさせた。


「ハインドフット先生、お待たせして申し訳ございません」

「おぅ、フォンブラウ、バルフォット、フェイブラム。急に呼び出してすまんなぁ」


いつも通りのハインドフットの間延びした語尾に3人は小さく笑みを浮かべて傍へ寄った。


「それで、用事とは?」

「それがなぁ。ちょっとついて来てくれ」


ハインドフットは魔物舎の中へ足を踏み入れ、その一角に準備された大きな柵へ寄った。


「急にこいつが来てなあ」


平島での一件の後、しばらくの間平島への立ち入りがひっそりと禁じられていたのだが、ロキたちくらいしか積極的に入りに行こうとするメンツはいなかったらしく、誰にも知られぬまま立ち入り禁止が解けたとは今門番役をやっている騎士の話である。衛兵だけでは危ういと判断されたのか、門番には騎士が配置されたのだ。


ハインドフットが示した柵の中には黒いグリフォンがいた。立派な体躯の黒いグリフォンは、先日ゼロが変じてみせた姿よりも二回りは大きいだろうか。その傍に卵があるのを見て、ロキは理解した。


「セトに卵を託す気で来たのですか」

「たぶんそうだろうなぁ。コウがやたら喜んでたからそういうことだと思うんだ」


ハインドフットの言葉にセトが驚いたように目を見開いた。

おそらく雌なのだろうと思われる黒いグリフォンはもうしばらく身体を休めたら飛び立てるとハインドフットが解説をつける。


「俺が呼ばれた原因は何っスか?」

「ああ、コンゴウとハクをやたら見ていたからなぁ、もしかしたらフェイブラムに用事があるのかと思ってなぁ」


なるほどと言ってシドはグリフォンに近付いた。そのまま何か話し始めたのでロキは卵を見る。黒地に緑のラインが走った柄の卵に、ロキは触れることなくセトを見やる。


セトの髪は不思議なことに両脇が黒いのに中央は緑である。それをそうしなければならない気がしたという親の言葉でソフトモヒカンスタイルにしている彼は、それなりに似合っているので申し分ないのだが、最初ソフトモヒカンを見たときロキは割と本気で表情を取り繕うのに苦労した覚えがある。


初等部の内は少々伸ばしていた髪も中等部に上がってバッサリ切ってしまったらしい。彼が魔術を頼りっきりにする気がないことの表れであり、元々もう少ししたら髪を伸ばしている意味もなくなるので魔力量が少なかったセトは未練なく切ってしまったのだ。


ロキの髪は伸ばされる一方で、毛先がもう太腿に余裕をもって到達するほどに伸びている。ロキは、前世の知識から、髪の毛って一定期間伸びると抜けるんじゃなかったっけなあなどとのんきに考えていた。

ところがどっこい、まだ伸び続けている。そのうち地面に髪を引きずれるようになるのではなかろうか。そうなる前に髪を切りたい。切実に。女ではないのだから別にいいだろう!


ロキが全く関係ないことに思考を飛ばしている間に話が終わったのかシドが立ち上がった。


「なんと?」

「セトが前に孵した卵、コウのアレな。元々グリフォンの卵だったみたいだな。でもセトに必要なのはおそらく足だ」

「……ああ、なるほど」


シドが言った言葉だけで自分の従者の能力を正確に把握しているロキはグリフォンの目的が分かったらしい。セトは首を傾げる。


「え、と? つまり?」

「俺は中身が上位者だってのもあって、卵はそのまま親と同じ種族で生まれる。ただ能力値が高くなるだけ。俺にこの卵を孵してグリフォンを孵化させ、お前に育てさせろと言ってる」

「は!?」


セトは驚愕の表情を浮かべる。それを見たロキが少しばかり馬鹿にしたように笑ったのは致し方なかろう。


「セト、お前の家の家紋はなんだ」

「は? 黒いグリフォンだが……――!」


ロキの指摘でセトは目を見開いた。

家紋に色がついているのは今更のことなのだが、皆家紋として持っている紋章が魔物たちなのはリガルディアらしいともロキは思う。


ちなみにリガルディア王家は白いククルカン、フォンブラウ公爵家は黒いスレイプニル、ロッティ公爵家は青いベヘモス、ゴルフェイン公爵家は赤いアンフィスバエナ、ソキサニス公爵家は緑のリヴァイアサン、クローディ公爵家は金色のフェニックスとなっている。


これは侯爵以下も持っており、メルヴァーチ侯爵家は白いフェンリル、カイゼル伯爵家は青いラドン、ケイオス男爵家は黒いデュラハン、セーリス男爵家は黄色いアルミラージ、イルディ男爵家は黒いケットシー、そしてバルフォット騎士爵家は黒いグリフォンといった具合だ。


ちなみに、何故このバルフォット家は相続権のない騎士爵であるにもかかわらず家紋があるのかという点についてだが――こればっかりは彼らバルフォット家の生い立ちに問題があるとしか言いようがないためそれを知らせる気はロキにはない。


「ま、そういうこった。お前のためにわざわざガキ託すって言ってくれてんだ。精一杯一緒に居て面倒見てやれ」

「……ああ」


バルフォットが、公爵家をもしのぐ人刃の濃い血を継いでいることをちゃんとした意味でセトが知るのはまだ先のことになるだろうなと思いながら、ロキはハインドフットに向き直った。

ハインドフットは小さく頷き、セトにグリフォンの世話もするように言った後、息を吐いた。


「次の魔物はグリフォンだなぁ」

「次の行き先決まったな」

「そうだな」


グリフォンが棲んでいる森など、平島を除けば近くには一ヶ所しかない。

そこへ行くのであろうことが分かったロキたちは笑みを零し、用事は終わりだと告げられて解散した。


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