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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
中等部1年前期編
91/377

3-17

2023/04/20 加筆修正しました。

「急にセトが走り出して、それを私たちも追いかけたのよ。そしたら森に入っちゃうでしょ。だから慌てて連れ戻そうとして森に入って。セトがコウを見失ったって言って、私たちもおろおろしてる間にグリフォンに囲まれたのよ」


ロゼから事情の説明を受けたロキは小さく息を吐いた。なるほど、とも思う。

ロキはコウの今までの自分に対する反応を思い返した。



卵から孵ったばかりのコウはまず、セトを見てそれはそれは嬉しそうにいきなりセトの頬を嘗め始めた。犬かと皆からツッコミを受けながらセトはコウを諫めつつ腕に抱き直す。卵から直接ドラゴンの幼生が生まれたことで騒然となった教室内をハインドフットが収めるまでに少々の時間を要した。


シドのポテンシャルを見たハインドフットがシドに孵すように頼んでいた卵からは鋼竜系の中で最も魔力が高いと言われるゴールドドラゴンの幼生が生まれたりとひと悶着あったものの、概ね皆自分たちの魔物と友好な関係を築きつつある時期、最後の方にコウは生まれたのだ。


コウは実に人懐っこく、人刃としての雰囲気を本格的に纏い始めたため怯えて近付かない魔物も多い中、ロキにひっついてきた。

それが少し嬉しくてロキも結構構い倒していた。ヘルに嫉妬されたコウがひっくり返されてくすぐられるくらいには。


コウがセトよりもロキに懐いて見える原因がよくわからなかったセトからはかなり詰め寄られたものの、ロキ自身にも特にコウに対し特別な何かをしていたわけでもなく、シドに尋ねてみたもののはぐらかされるばかり。竜種は総じてプライドの高い生き物なのでシドは一切口を挟まないと言った。



今現在。

シドにロキが目を向ければシドは目をそらした。その反応だけで十分だ。ロキはロゼたちに告げる。


「多分、コウはループを認知していると思う。理由は、ドゥーと似たり寄ったりだろうね。将来恐ろしく強い鋼竜に成長するんだろうね、コウは」

「ループの術の外側にはみ出したってことね……」

「もしかしてロキに懐きまくってた理由もそこか?」

「俺の公開処刑ルートを体験済みってところだろうさ」

「ああそのワード禁句にしようよ? な? いい案だと思わないか?」

「レオンに賛成」


ロキの告げた不穏なワードにレオンが反応した。ロキはクスリと笑った。ふと驚いたような表情になり、森の奥の方を見やる。


「ああ、早めに行ってあげないといけないね」

「どういう状態だ?」

「男3人、コウが交戦中。獲物はナイフとショートソード、と、」


ロキが探知の結果を告げ、ふ、と息を詰めてロゼとナタリアを見る。


「何?」

「銃だ」

「はあ!?」


ロゼはつい声を上げた。

ロゼはこの世界では今まで一度も銃なんて見たことがない。ロキは経験だけはあるのだが、それはあくまでも死徒列強であるシグマが持っている二丁のマグナムの話である。

彼は現代からの転移者だから知識があるのは問題ない。


しかし、この男たちは?


「ジュウって何だ?」

「近、中、遠距離によって形状は変わるけれど、そうね。なんて言えばいいのかな」

「火薬の爆発力で弾を高速で撃ち出す武器機構だ。シグマしか持っていないと思っていたが、違うらしいな」


セトの問いにソルとロキが答える。ロキは小さく息を吐いた。

早急に片付けねばならない。弾の形状が分からない以上鋼竜といえど幼生に過ぎないコウでは最悪体内に弾が残ってしまうだろう。


「何より鋼竜の進化経路はどれほど上等な金属を食ったかに起因する。鉛のようなもの撃ち込まれたら進化経路が狂うぞ」


シドを使ってやろうと心に決めたロキは虚空から刀を取り出す。


「刀?」

「ハルバードは森では振りにくくて敵わないからね。下手をすればグリフォンも傷付けてしまうし。皆が追いついたら俺とシドで(タンク)をやる。俺たちだけで終わるかもしれないけれど、ナタリアは敵の捕縛、ロゼは1人変に片手が手ぶらのやつが気になるからそいつを警戒、レオンは最悪の事態に備えてくれ」

「「「「了解」」」」


指示を出し終えたロキは刀を鞘から抜き放ち、シドはその右手をランス状に形状変化させる。


「すぐに殿下たちも追いつくだろう。今は卵とコウの確保を優先する」


そう言って走り出す。

森の中だというのに一瞬でロキはロゼたち側から見えなくなってしまう。


ロキが闇属性魔術である【探知(サーチ)】を使いながら進む。ナタリアも同じ属性を持っているので問題はない。むしろより専門なので彼女の方が魔術の範囲も広いことだろう。

刀を肩に担ぐ形で地を蹴り、飛行に移る。こういう時ロキ神の権能は便利だと独りごちながらロキはグリフォンたちの騒ぎの中心へと突っ込んでいった。


ガンガンガン、と銃の発砲音がすれば緊張もする。

幸い、もっと大きな音を間近で聞いてきた前世のせいでそこまで驚かないのだが。それでも、先ほどから連続で銃声がしているのだ。気持ちが逸る。


少し開けたところへ踏み込んでそのままおそらく指示を出しているであろうショートソードと銃を構えた男に迫る。


「凍り付く準備はよろしいかな」


ロキは笑みを浮かべて男をそのまま勢いに任せ、後ろの木に叩き付けた。そのまま男の手足が凍り付く。


「ぐっ……!」

「「兄者!!」」


残りの2人が声を上げる。近くにグリフォンの卵を入れた麻袋が転がっている。なるほどこれをコウは止めたかったのだなと察したロキはそのまま相手の頭を叩き潰す気で殴り飛ばす。


「くそっ、キマイラ!」

「グルアアアアアッ!!」


やはり、とロキは思う。

1人だけ片手を武装をしていない男は武器がないのではなく魔物使いだったらしい。

しかしそれは同時にここにどうやって彼らが入って来たかもわかる原因になった。


獅子をベースに、ヤギの頭、蛇の頭が付いた尾を見て、ロキは問答無用で刀に魔力を通して斬り捨てた。舞うように刀を振りかざす彼の姿は美しい。

すぐに追いついたシドがそのランス状の手でキマイラの頭を砕いて血に染まった。


「平気か」

「問題ねえ」

「命を案外簡単に奪うんだな」

「何言ってる。このキマイラはマジモンのキマイラじゃねえ。人工的に作られた奴だぞ」


なんでそんなことまでわかるんだよ畜生、と男は歯ぎしりする。気絶したわけではなかったらしい銃持ちの男が身体を起こす。

そこに駆け込んできたナタリアがパン、と大きく手を叩く。


「【捕縛(プリズン)】」


音に反応して振り向いた3人の男はがっちりと何かにその身を縛られて動けなくなる。


「なんだっ!?」

「闇魔術か!」


銃持ちの男が小さく何か呟き始めたのが見えた時、がさりと音がしてゼロが飛び込んでくる。


「【アイシクル】――なッ!?」


魔術を行使しようとした男は魔術が発動しないことに驚きの表情を隠せない。ゼロがいるのだから当然であるというようにロキは男に歩み寄った。


「わざわざ結界が張られている浮島に来たということは、それだけの覚悟もあったのだろうな?」


では、しばらく眠っていろ。


ロキは男たちの体温を一気に下げて意識を奪った。


「……ロキ様って簡単に人殺しかねないわね?」

「ん? 問題ないよね?」

「そりゃグリフォン狙ったら終身刑ものだけど」


追い付いてきたロゼが呆れたように息を吐いた。レオンは頭を抱える。

更にその後追いついてきたカルたちは先に教員への連絡を済ませたらしく、男たちを見て息を吐く。


これで状況終了となればいいがとロキは静かに耳を澄ます。周りのグリフォンの声が――遠い。


「……やっぱりか」

「まだ何かあるのか!?」


息を切らしてへたり込んだコウを抱え上げたセトがロキに問う。ロキは小さく頷いた。


「その片手武器無しの男は魔物使いらしい。おそらくだが、グリフォンを持っている」

「……他国の出身と考えた方がよさそうだな」

「グリフォンも生け捕りが望ましいが、ゼロ、いけるか」

「ああ」


ゼロが再びグリフォンへ姿を転じて去っていく。ルナやエリスはあらためてみるイミットという種族の力に目を丸くしていた。


「イミットってすごいですね」

「……2人が転生者だから通じる話ではあるけれどね」

「そうなんですか?」

「イミットというのは元々英語の“Imitate”からもじってつけられたものだ。おそらく命名者は日本人だろう」

「現代の人間が転生してきても結構時間飛んでるみたいだしね」


シグマやカガチの生年月日を聞いて驚愕していたのが記憶に新しいロゼの言葉も受けて英単語の意味を思い浮かべた2人ははあ、すごいなあ、と小さく呟いた。


「いみていと、というのか?」

「前世の世界で使われていた公用語で、模倣する、といった意味があるんだ。イミテーションと言えば分かるとはと思うけれど、要は偽物、模造品。イミットは今でこそ竜化族なんて言われているけど、最も転身の効果が高いのが元々の姿であるドラゴン系統であるだけで、通常は魔物に化けて狩りをする程度、家族単位で住んでいて現在ほど本来の人口は増えるようにはできてない」


ロキが説明すればその情報で理解したのかカルは口をつぐんだ。この場にいる誰よりもこの国の歴史に詳しい王族である。これだけの情報でもすぐにイミットという種族の情報を思い浮かべ直して納得したのだろう。


セトの抱えているコウはロキと目が合うとびくりと震えた。

セト、貸してくれ、と小さく言葉を紡いだロキはセトからコウを受け取るとぽい、と宙に放って浮かべた。


「きゅぅ……」

「ふーん? 俺の怒りを感じ取るとはなかなかのものだけれど、その様子だと俺が怒った理由も分かっているよね」


断定形で掛けられた言葉にコウは元々丸っこい身体をさらに丸くする。


「……下手したら死ぬところだったんだよ。君は俺の魔物ではないからこんな言葉を掛けるのはおかしな話だけれど、生まれてすぐの魔物が人間に敵うわけがないでしょ。まして鋼竜はある程度成長しないと飛行もできず魔法も使えないほど魔力量が低いんだよ。それは今まで恐らく何百年と生きてきた君の方がよく理解しているはずだろ。――そうまでしてここでセトに何か手に入れられるのか。それはお前の命と天秤にかけるほどのことかい? 人間如きの血に薄められた人刃にこうして注意喚起説教などされてドラゴンとしてどうなのさ、ええ? こら、丸くなるな。大砲の玉にするよ?」


ロキは相当心配したらしい。まだ生後1か月前後の幼竜に淡々と言い聞かせながらつついてくるくると宙に浮かべたコウを回転させているロキを見ていると微笑ましくなるが、本人はいたって真面目である。


「……もろセトを反映した魔物だな?」

「ロキが異常なだけで殿下たちもものすごく性能のいい魔物を孵しているとハインドフット先生が仰っておられましたよ」


カルに返したレインの言葉。ロゼたちはくるくる回されているコウを見て笑みを浮かべた。

可愛らしいのがいけない。


じきに戻ってきたゼロが連れてきた白いグリフォンはミスリルのリングをつけられていた。

時を同じくしてやって来た教員たちに卵と男たち、グリフォンを引き渡し、ヘルたちと合流したロキたちは学園へと戻ったのだった。なお、立ち入り禁止の森に入ったので、一応反省文を書かされた。


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