3-15
2023/04/20 加筆修正しました。
「――ここが、浮島」
浮島。
この世界において存在した空中大陸の破片と伝わる島の総称。大陸だったころの名残か、大まかに移動範囲が決まっており、また、かつては大陸だったと伝わるだけあって、古い廃墟のような施設が残っている島も多い。
リガルディア王立学園の所有する浮島は4つ存在する。
王族が持っている島は14あり、その内の4つを学園に下賜したのが最初だと伝わる。4つの浮島は闘技場のある“闘技島”、神殿跡の在る“舞島”が2つ、人工的な施設は何もない“平島”と呼び分けられ、魔物の訓練にもよく使われていた。
4つの浮島には転移用の魔法陣が用意されており、学園からしか移動できないようにしてある。魔術などで個人的に飛べるものは除かれてしまうが、そんな魔術はそもそも魔力の消費が大きいため、そうそう使う者がいない前提である。
ロキたちは通行許可証代わりに魔法陣を発動させるための魔力が込められたクリスタルを持たされ、平島に来ていた。小さな森が先に広がっているが、その森には近付かないようにと門番代わりに置かれた衛兵が口を酸っぱくして言い含めてきた。
「ホントになんにもないな」
「でも広いですね!」
「そうだね」
レオンとエリスの言葉にロキは返した。ロキはここには初めて来たけれど、空気が薄いので結構な標高にあると思われる。
今回一緒に連れてきた魔物たちは、カルも含め全員が孵した魔物の卵から生まれた魔物たちである。ロキはフェンリル、ヘル、スレイプニルと3体とも連れてきた。致し方が無いのだが、ヘルが相変わらずロキから離れず引っ付いている。ドゥンケルハイトとヴェントもなぜか対抗するようについてきたのだが。
「うげぇ……やっぱ無理……」
シドは浮島とあまり相性が良くないらしく、着いて早々に座り込んでしまった。土属性の中でも上位に当たる大地属性に分類される精霊なのに大地から引き離されてはこうなるだろうという話だ。特にロキがきっちり“アウルム”という真名で契約していないために起きることだった。ロキはそれを少々憂えるような目をしたのだが、すかさずシドが叫んだ。
「んな顔するなら俺と本契約しろや!」
「――」
「ロキいいいい! 眼ェ逸らすなああああ!」
元気に叫ぶがすぐシドは芝生に沈んだ。もう限界らしい。
「ハク……島から離れんなよ……」
「ぴぃ」
ハク――シドが孵した鳥型の魔物の雛の名である――は、小さく鳴いて飛び立った。
「皆も行っておいでよ」
ロキがソルたちに視線を向けて声を掛ける。ソルはそうするわ、と返して魔物から手を放した。
「ほら行っておいで」
「あまり遠くに行くなよ」
「落ちちゃだめよ」
それぞれ手を放すとおもいおもいに島の土を蹴って走り出す魔物たち。ソルのアンフィスバエナはアンフィと名付けられた。ソルはちゃんとアンフィスバエナの頭のどちらがどちらかを理解しているのが実に不思議なことである。ロキはヘルたちを放し、シドの横に腰を下ろす。
「なんだ、そこに座ってしまうのか」
「仕方ないさ。シドがこうなっているのは半分ほどは俺が悪いんだから」
「分かってるなら契約してくれぇ……」
フォンブラウにやってきてすぐに金目の半精霊であることを明かしたシドを、仮契約止まりにしているのはロキの我儘である。
とっとと本契約しろとシドは金属精霊アウルムとして言っているだけだ。シド的にはロキのためを思って言っている節があるため、余計強く言うのだが、ロキは曖昧な態度のまま本契約をしたがらなかった。加えてロキが強くなるほどシドは必要なくなる。必要が無いとロキに完全に断られてしまう前に契約しなければ本当に切られてしまう。
――俺だって、お前を繋ぎ止めたくて。
皆が行ってしまった後、残されたロキとシドは顔を見合わせた。
「……お前、きちんと契約しないと簡単に俺たちを切るからな」
「それを警戒してのことかい?」
「ッたりめえだろ! テメエがどんだけ上位者泣かせだと思ってんだよ!」
「知らんよ」
「~~ッ! だろうな畜生!」
シドがロキの脚をぱしぱしと力無く叩く。ロキはシドの頭を撫でる。
少し視線を上げるとぐるりと平島の周りを幼竜が飛んでいるのが見えた。
ゼロが孵したアンクであろう。
アンクの名に“暗駒”なんて漢字を当ててきたゼロを殴り飛ばして“駒”の字を“駆”に変えさせたロキは中二心溢れると言われても仕方がないが批判はされないだろう。竜に馬って名付けるな。
「……俺が本契約すれば」
「おん?」
「……」
ロキは何か考えながら言葉を紡ごうとしていた。シドはロキの言葉を待つ。
契約の話自体は数年前から出ているし、それをなあなあにしてきたのはロキなので、シドが納得できるような言い訳を考えているのかもしれないし、ただ単に自分の意思を表明しようとしているだけかもしれない。
シドがロキに契約を迫らないのは、ただただロキの自由意思を尊重しているからだ。シドは半精霊だが、精霊部分の元になったのは金属精霊メタリカという種族であり、“アウルム”の名が示す通り、金の精霊である。
メタリカという種族自体はオルガントでは珍しくもなんともない身体が鉱物でできた種族なのだが、その性質故に下位世界ではよく呼び出し対象となっている。
その性質というのが、元素再構築という恐ろしくエネルギーの要る性質なので、メタリカ族は何かを生成させないならコスパの悪い種族なのだ。しかし、元素再構築という性質によって得られる恩恵は、人間なら誰もが――とまでは行かないが――欲する、金属や鉱石の生成という形で現れる。
アヴリオスでメタリカ族が金属精霊と呼ばれる所以もそこにあり、シドは半精霊だが金を生成することができる。しかも、元素再構築を使えるだけのエネルギー量と元素の準備さえできれば、無限に、だ。その力についての説明もロキにはした。にも拘らず、ロキは本契約を結ぼうとはしなかった。
人刃族というのはそもそもキラキラと光るものを好む種族である。宝石質の瞳を持つ同族への好感が同じように光るものに対する好感に繋がっているというのが通説なのだが、ロキは転生者故かあまり光るものへの興味が強くない。本人が何か感じていても隠すのが上手いということもあり、表に出ていないだけかもしれないが。
シドはかつてアウルムという名でメタリカ族として活動していた。その特異な性質故に転生と記憶の継承という稀有な状況になってはいるが、上位者としての振る舞いも身に付いている。シドの有用性はロキよりもシドの方がよく分かっているくらいだが、それでもロキは頑なにシドの本契約を受け入れようとしなかった。
ドルバロムやヴェント、ドゥンケルハイトも不意打ちのような形でロキと契約を結んだので、そこを警戒している節もある。ロキはロキ自身に対する敬愛とか親愛とかの情に若干疎い部分があるので、精霊や上位者が『かまってあげたい』と思っていることには気が付いていなさそうなのだ。
(……俺は、俺の所為でこいつからの信頼を勝ち得ないのかと思っていたけれど)
シドは内心焦っていた。ロキが実力を付けていけば、シドの力は必要とされない。そう、シドは戦闘能力でいえば中級程度の者で、そもそも大器晩成型が多い人刃の補助要員としては優れるが、他の補助要員を連れていたら別に必要ない。シドがロキの前に姿を表すことができたのは比較的早かったものの、当時のロキはマナの流れも視認できず、仮契約でいろいろとどうにでもなる状態だった。なのであまり焦っていなかったのだが、いざマナが視認できるようになった途端に横に控えていたドゥンケルハイトにいろいろと持って行かれたし、風の最上級精霊のヴェントも契約を結んでしまった。
ヴェントがいるので土のシドが居ても問題はないのだが、シドはロキの属性から考えるといろいろとこのままだと使い勝手が悪いので、シドは自分の売り込みから始めないといけないかもしれないと思い始めている。
「……俺が、お前と本契約すれば、もっとお前も動きやすいんだろうね」
「おいロキ、それ分かってンなら……いや、俺の事よりお前の将来のために今動くんだぞ?」
シドは自分の願いより優先するべきことを告げておく。シドはシド自身のためにも、俺は有用だから使ってくれ、とロキに自分を売り込むべきではあるが、それはシドの都合であって、ロキにとっては実様なものを集める作業の一環でしかない。それをシドは分かっているし、その中で選んでもらうために何か行動していかなければ。
だって、上位者は気に入った相手に強制的に契約を結ばせることも出来るのだ。それをしないのは、自分を気に入った上で、選んでほしいからで。
「あとなぁ、誰かさんのために契約したって精霊は真っ当に力は使えねぇ。お前が望まなきゃ意味がない」
「難しいことを言うね」
ロキはくすっと笑った。シドは小さく息を吐く。ロキは既にいろいろと手段を持っているので、シドに使用人として以上の働きを求めてくることはないのだ。それは少し寂しい。
「……なぁロキ」
「ん?」
「……前に、別の機会に話すって言ったこと、覚えてるか」
「ああ」
いつの間にか寝入ってしまったヘルをそっと横にずらして、ロキはシドの方に向き直った。シドは、これだけは絶対にロキに伝えなければならないことだと理解している。ナタリアによる発言で引き出された話題でもあったので、忘れろと言っても難しかろう。
「ナタリア嬢が言おうとして、情報過多でお前がシャットアウトした話題だね」
「ドンピシャで分かってくれるご主人様には脱帽ですわ」
「褒めても何も出ないよ」
褒章が欲しいわけじゃないんで、とシドは付け足して、ロキの目を改めて見つめた。ロキの濃桃色の瞳はよくラズベリルに例えられたり、アレキサンドライトと言われたりするが、日光の元で深く赤を湛える瞳に吸い込まれそうで、シドは息を呑んだ。真っ直ぐに見つめ返してくるロキの瞳に、既視感があったからだ。
「……ロキ、お前は、ループの中で、記憶の継承をちゃんとしていた時期がある」
漸く告げた言葉は、以前も似たようなことを告げたことの確認にしかならず、俺焦ってんだなと思いながら、シドは言葉を続けた。
「んで、その継承が途切れた原因が、俺だ」
「確証があるのか?」
「ある。予想はしてた。んで今回記録の整理をして確定した」
「……何があったんだい?」
ロキは大事なことは覚えていないことが多い、とシドは思う。本当に覚えていないことほど、誰かが忘れてくれと願ったようなことで、だからきっとロキは、カルやレオン、レインが時折告げるようなループの記憶のフラッシュバックこそあれど、シドを見てもシドの事を糾弾しなかった。
「……俺は、転生するたびにその記憶を記録という形で引き継ぐ。しかも前世一回分じゃなく、その時のパラレルワールド全部の、だ」
「生まれも育ちも若干違うものから全然違うものまで幅広く、だったっけ?」
「そうだ」
シドの稀有な性質というのは、転生の記憶を、全ての世界線から引き継ぐというものである。この性質を持っていたために、デスカルたちがアヴリオスのループに確証が持てたというのも、皮肉な話ではあるだろうが。
「んで、今世の俺たちは平民生まれであるってのが基盤にある。俺はフェイブラム商会の息子として生まれたけど、中には生後間もない俺がどっかに拉致られてそのままスラム育ちですってなった世界線があるんだよ」
「ふーん」
「で、その時の俺は暗殺者だったわけ」
「おう」
世界線と一応言っているが、正しい表現なのかの確証はシドにはない。いつもと感覚がちょっと違うので何かあるとは思っているが、今は混乱するだけなのでシドが感じているだけの違和感は今は置いておく。
「んで、暗殺者として俺が殺さなきゃいけなかったのが、ロキ、お前だったわけだ」
「ふむ」
「でも暗殺には失敗したんだ。んでもってその時のロキは、俺が使用人にならなかった世界線を知らないロキだった」
感情が混じらないように、端的な事実だけを述べようとシドは努める。感情を乗せたら、当時の自分にブチギレをかます自信がある。ロキに事実を知らせるだけなので、感情を抑えて。
「ロキは、俺がそれなりの腕の暗殺者だと理解したうえで、自分の所に来いと俺をスカウトしてくれたんだよ。俺が、俺のままだったら結構喜びそうなこととかも、いっぱい言ってくれた」
でも暗殺者として育ったシドは、記憶の蓋を開けられなかった。転生者の金子奏斗としても覚醒せず、ロキを主とした世界線も覚えておらず。
――シド、お前はすごい奴だ、その力を俺の許で揮ってくれよ。
――ハ、お貴族様にしちゃ随分とラフな物言いじゃねーか。
――今全力で口説こうとしてるからな。
――だが、断る。お前は、俺の向こうに誰を見てる? お前の言葉は、俺に向けてのものじゃねえ、薄っぺらいんだよ。
驚いたように固まったあの時のロキの表情が今もまだ瞼の裏に焼き付いて離れない。
――シド、俺は。
――あーもういいです、聞きたくねえ。俺が語ったわけでもねえ俺の事情を言い当ててきやがって、俺と初対面装ってるけど違うだろ、お前転生者か回帰者かどっちかじゃねえ? そんなにお前の知ってる俺は有用でしたか良かったでちゅねえ?
――っ。
自分がどんな顔をしていたのかは覚えていない。でもロキが息を呑んだから、きっと傷付いた顔をしていたのだとは思う。
――そんなに熱烈に口説くなら、せめて俺の向こう側の誰かさんを見透かされないようにしな。グッバイ、ロキ・フォンブラウ公爵令息。
「――そしてお前の暗殺に失敗した俺はお前の目の前で自害、だ。ループの記憶を基にロキは台詞を構築していたんだと思うぜ。んで俺はそれを蹴っていなくなっちまった、と」
「……となると、シドを確実に自分の使用人にすることの方が、ループを覚えているより確実だとロキ・フォンブラウは判断したんだな」
「だろうなぁ」
この回を最後にロキがループを覚えている旨の発言をすることが無くなったので間違いない。ロキ・フォンブラウはこの時を最後にループの記憶を持ち越さなくなった。その代わりシドもどんな状況からでもロキについていくようになったのでロキの作戦は成功したと言える。
「すごいなお前」
「ロキの思い切りが良すぎるわ」
ループ中のロキは何が何でも俺を手元に欲しがってくれるのに、今のロキときたら。
シドが言外に不満をぶつけると、ロキは苦笑した。
「だってお前はもう俺のになるって言ってくれたじゃないか」
実家はもうない。奉公に来ていた子供だけ生き残って、フェイブラム商会はフォンブラウが営む商会の一部に組み込まれ、何とか立て直しを図っている。シドに今できるのは、ロキに仕えることだけだ。
「あ゛~~~~~~~~~……」
シドは今過去の自分が蒔いた種でちょっと足を取られているらしい。シドが契約を強制しない間は、ロキは本契約をする気がなかったのだ。そりゃ本契約に移行しないはずである。
「ロキ! そういうところだけ思い出してるのズルいぞ!!」
「今朝見た時はなんの夢だこれとか思ってたけどこういう事だったんだね。いやあ、いいものが見れた」
「できれば早急に忘れて!?」
暗殺者ルートと仮に呼ぼう、この世界線を統合されたシドはそりゃもう後悔しまくったのだ。平民のシドを大事にしようとしてくれたロキになんてことを、と思ったのだ。相手は公爵令息で、平民生まれのシドからしたら雲の上もいい所で。だから、謝りたかった。何も覚えていなかったから、お前の誘いを断ってしまった、と。そして誘ってくれてありがとう、と。
なのに、ロキは次に会った時にはもう何も覚えていなかった。ただ、前世の高村涼という人格だけ引っ提げて、シドに本当の初めましてを言ってきた。あの時の絶望感と言ったらなかった。
――ロキ、いや、涼、俺、お前に謝んなきゃなんないことがあるんだよ。
――何のことだ? お前が俺をトラックの前に押し込んで即死させたことはもう謝ってもらったぞ?
――え……覚えて、無いのか?
――何のこと?
――俺がお前を暗殺しようとしたこと……。
――え? 俺の考察正しいの? この世界ループ説ガチのやつ?
色んな意味であそこまで絶望したのはあの時が初めてだった。その後、ロキが学生時代にループを思い出すことは一切なかった。一部を夢として断片的に見るだけだった。
だからシドは、ロキを守らねばならないと自分に使命を科した。
「……本契約してなきゃ、お前の許に飛んで来ることも出来ないじゃねえか」
ぽろ、と零れた本音。
そうか、そうだ。
シドはやっと理解した。
「……は、はは……そ、か」
「シド……?」
心配そうにロキが覗き込んでくる。
(俺は、ロキを守りたかったんだ)
本当は全ての悪意から。
それはできないからせめて、ロキを一人にしなくて済むように、半精霊の身でもできることを探して。
魔力が足りなくて指先から炭化していくロキを見たことがある。シドを救わんとして、苦手な魔力放出でシドに魔力を分け与えて、反動で身体が動かなくなって、動けなくなって、下手をしたら魔力枯渇で命を削って。
――シド……いき……ろ……
ラズベリルが笑う。
「――ロキ」
どさ、と地面にロキの身体が倒れる。銀髪が芝の上に散った。日光を反射するロキの瞳が、宝石のように煌めく。
「“ロキ・フォンブラウ”、アウルム・ゴルディカ・オーロと契約、しろ。……どうか、俺をずっと傍に」
俺を傍に置け。金が似合わないとか何とか色々と自己卑下と好み談義を交えて言いくるめられ続けてきた金色の金属精霊は、ここに来て初めて、上位者としての権限を発動した。
ばち、と火花が散って、ロキが「うッ」と小さく呻く。
「……まさか上位者に押し倒されて強制契約を結ばされるとは思ってなかったよ」
「……お前相手には、これが最適解だってやっと理解できたんでなァ」
急に押し倒して悪かったな、とシドがロキに手を貸して起こすと、ロキは苦笑しつつも胸に手を当てて、魔力の流れを確認し始めた。
「……結構魔力持って行くものなんだな」
「そりゃ初回だしな」
請われるまで待っているなんて馬鹿な話だった、とシドは結論付ける。まあ、そんなものだと思う事にする。
「本契約したし、これで俺もフルスペック発揮できるな!」
「具体的に何ができるんだ?」
「えーと、まず希少霊金属の生成と精錬、んで貴金属の生成と精錬かな」
「貴金属って言うと、お前の名前が金を表すから金を生成できそうなことは理解できるんだけど、具体的に規則性ってあるの?」
「あるぞ。早い話が金の生成量が一番多い、もしくは効率がいいやつ、だ」
ロキに分かりやすく説明をするためにシドは周期表の話をした。
『話しやすいように日本語で言うけど、元素とか原子とかの話になるんだが、そもそも原子自体は何で出来てるって習った?』
『陽子、中性子、電子だね』
『だよな。んで陽子と中性子がいくつあるかってのでその原子の重さが決まる的な話もあったと思う。その重さ順に並べて、且つ、似た性質を持っているものを揃えて見やすく表にしたものが周期表だ』
『おう』
『メタリカってのは、この周期表の金属元素を主成分とした肉体を持っているものだと思ってくれればいい』
『意外と種類は少ない?』
『そういう事だ』
本当はメタリカと呼ばれる者の中には金属のみではない身体の持ち主たちもいるのだが、今は置いておく。
『で、この周期表でいう、該当する元素番号が一番安定して生成できるもの。でそこより元素番号が小さくなれば特に無理なく生成できて、元素番号が大きくなっていくとそれだけ無理をすることになる。黒髪のメタリカは生産向きの適性してるから、多少大きな元素番号の元素生成させてもへばらないぜ』
『お前じゃん』
『そうだよ俺だよ』
シドは黒髪である。親は実は両親ともに茶髪だった。土属性の親から金属属性の子供が生まれたようなものだ。まったく無関係の属性でもないので母が不貞を疑われなくてよかったとは、シドも思っているが。
『そもメタリカってモノ自体が、原料を圧縮しまくって元素から作り直す身体してんだ。俺の腹ン中ブラックホールもかくやな圧力してるぜ』
『あー、惑星ができるときに大体含有元素って決まっちゃうんだったよな』
『そ。あ、ちなみに魔力でそこごり押ししてんのがリガルディアの錬金術な』
『あ、ヴァルノスがやってるのってメタリカに通じるものなのか』
『メタリカは光合成じゃなく核融合で動いてますってな』
『こっわ。ミノ〇スキー粒子は無いんで放射能漏れだけ注意してもろて』
『漏れてたらもうお前ら汚染されてるわ』
軽口を叩きながら説明を終えたシドに、ロキは真面目な顔で言った。
「とりあえずメタリカやべえ」
「とてもお貴族様の口から出た感想とは思えねえ語彙力の低さよ」
顔を見合わせて、声をあげて笑う。この距離感でいい、とロキが思っているのが伝わってきたので、シドもこれ以上何か言うのは止めた。
「あ、そういや銀河を探してるんだよね?」
「ああ、とはいっても帝国に居るから、ギルドに出入りしてる冒険者に話を聞くぐらいしかできないけどな」
「早く見つかるといいな、お前の相棒」
「まあな」
自分と対になる“黒銀”の名を持つ上位者の幼馴染を思い浮かべて、シドは静かに息を吐いた。エリスかナタリアが漏らしたのかもしれない。ちゃんと口止めをしておかなければ、今の“黒銀”は平民ではないので。
さてと、とロキとシドは立ち上がる。
「……これでようやく俺はお前の盾になれるわ」
「銀河まで連れて来たら流石にキレるぞ俺は」
「アイツはどっちかって言うと遊撃向きだし、契約は簡易で済ますんじゃね。大体アイツ髪青だしお前と相性いいぞ」
「……あいつ髪変わるんだな」
「生産能力高くねえからな!」
シドはけらけらと笑い、伸びをする。ロキがシドに【移動速度上昇】と【軽量化】の魔術を掛けた。
「お」
「早速働いてもらおうかな、アウルム」
「相手魔物だろ?」
「まあな。……何で森に入っちゃったんだか」
ロキの呟きに、シドは意識の外に投げ出していた同行者たちの気配を探る。森の入り口付近まで移動しているではないか。近付くなと言われていたのに、どうして。
「どしたんだろ」
「今までにはなかったのか?」
「こんなことは、って、あー……」
シドは思い当たる事件を思い出した。
「ロキ、この先の森が何で立ち入り禁止か知ってるか?」
「いや」
「……グリフォンの巣があるんだ。だから他の魔物が近付くとそのままグリフォンにならない可能性が高くなる」
「……なるほど?」
「で、確かこの時期にグリフォンの密猟事件があったはずだ」
転移魔法陣は学園からしか繋がっていない。つまり。
「密猟者は空を飛べる魔物を連れている、もしくは飛べる上級魔術師」
「おう」
「皆が危ないな。行くぞ」
「おう」
2人は走り出して、ロキは直ぐに遅れたシドの方を見る。
「なんだ、お前の身体って【スロウ】状態なのか?」
「メタリカは『スロースターター』持ちだしな」
「緊急時最悪だな」
「水掛けりゃ爆発するやつと酸掛けねえと溶けねえ奴の群れだからな」
人間としてはかなり速い速度で2人は森へと向かった。
元の内容よりだいぶ話の中身を整理していたはずなのですが、説明も多くなってしまいました。読みやすくなるよう心がけていきます。
面白いと思ったら是非評価をお願いします。




