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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
初等部編
74/376

3-幕間Ⅱ

2023/03/29 加筆修正しました。

「お待ちください、フォンブラウ公爵閣下!」

「フハハハハ! ここではいそうですかと止まるとでも? ロキがここに大人しく留まっていることの意味を分からぬほど俺は愚かではないつもりだ!」


アーノルドと会話が噛み合わない。衛兵たちはそれに焦りを覚えていた。アーノルドはリガルディア国内では数少ない肉体言語以外の解決法を持っている人物のはずなのだが、子供が絡んでいてそれどころではなくなっているらしい。


「あーあー、アーノルドもスクルドもいきり立ってるなー」

「父上もおいそれと出てきていい御身ではないかと思いますが?」

「あらやだウチのカルってばツッコミになってる」


ここには国王ジークフリートの姿もあった。カルが帰宅してもそわそわしていたのでどうしたのかと尋ねれば、精霊の動きがおかしいと、カルはそれだけを告げた。およそ精霊に愛されているロキに何かあったと見て間違いないだろうと判断したジークフリートは、おそらく確実に暴走するであろうスクルドを止めるために赴いていたのだが。


「まあ、アーノルドもだがスクルドは何とかなりそうだな。()()()()()みたいだし」


ジークフリートの言葉にカルは小さく頷いた。カルの横ではまるで物見遊山決め込んだ状態で、露店で買ったらしい鳥の串焼きを摘まんでいるロゼの姿があった。カルが現場に行くと聞いてロゼもついてきたのだが、この場にロギアの姿はない。流石に公爵が1人(アーノルド)国王(ジークフリート)が席を外しているのでロギアは王宮に残ったらしい。

ロゼの横には護衛の騎士らしき2人組が見える。


「なんかあるとは思ってたけど、こういうことだったのね」

「なんだ、ロゼは分かってたのか」

「まあね」


ロゼはレオンの訓練に付き合っていた時のロキの台詞を思い返していた。


『それにしても、今日本当は予定あったんじゃないの?』

『別に今日でなくともいい程度のことだからな』


あの言葉の意味はつまり、今日はレオンと一緒に居た方がいいと判断していたからあの訓練に付き合ったのではないか。


スクルドが全てわかっていたというのなら余計に、だ。

ただし、スクルドの予知については、一つずつの場面を見るのではなく、最終的なその結末を知るだけであると言われている。具体的な過程が分からないのは、不安ではないのだろうか。いや、きっと不安だっただろう。ロキと情報を共有することで、少しでもその不安を取り除こうとしているのなら、それはそれで一つありではなかろうか。


「……ロキならあり得るな」

「ついでにロキ君一緒に攫ってるっつーことで国外の人間の可能性が濃厚だな」

「あら、戦争でもするんですか、陛下」

「んー、教会のやつって案外本部からの派遣多いからなぁ。ちょいと排除進めるの強引過ぎたかね」


前世からの年齢を考えると、ロゼと現在のジークフリートではジークフリートが僅かに年上程度であり、そのこともあって王宮以外ではロゼに対してはため口でも構わないといっていた。それはあまりにも気安過ぎるので、ロゼが敬語を使いながらも冗談でも言い合う幼馴染的な言葉のキャッチボールのリズムを持っている2人である。


「いやですねえ、教会。ロキの家、一番最初に内部に入り込まれないように、使用人に改宗を勧めて受け入れなかった者はクビにしたって話ですけど」

「そんなことまで……いや、仕方ないか……」

「まあ、そんくらいしないとロキ君攫われてたかもな。まー、中身が転生者だってんならあんまり心配いらなかったかもだけどなぁ」


ジークフリートの言葉とは裏腹に、カルとロゼはふと最近見た夢が脳裏をかすめた。


「……ロゼ、一応確認だが、ロキが万が一教会の手に落ちた場合どうなると思う?」

「既に教会を悪者扱いしてる殿下も大概ですね。……まあ、私の夢では魔力回路暴走(オーバーヒート)を起こして大陸全土を焼き尽くしてましたけど」

「うん、やっぱりあれはそうだよな。やっぱり教会にも外国にも渡せない」


夢といいつつこれまでのループの記憶であろうそれを見るということは、ロゼやカルに多大な負荷をかけているはずだが、2人は特に苦とは思わない。つまりそれは回避したほうがいいことであるということであると考えている。


ジークフリート自身、子供たちのことが気になったのでジークフリートよりも下の世代がループを繰り返しているのかとちょっとした調査をしてみたのだが、魔力量の多い者が必ずしもカルと同じ症状を抱えているわけではないのはロゼの例を見ても明らかだった。ロゼの魔力量は平均的な貴族の子供と大差ない。魔力が多い以外に何らかの基準がありそうだった。


かつかつかつ、とヒールが石畳を叩く音がして、カルとロゼは顔を上げた。そこには、持ち直されたメイスとレイピアをそれぞれ手に持ったフォンブラウ夫妻が歩き出した姿があった。


「ま、相手さんにはドンマイと言う他ないな」


ジークフリートは少しばかり楽しげな様子で呟く。

それもそうだろうな、とロゼは思った。


何と言っても、この2名が揃って今までに倒せなかったものなど存在しないという。

ロキがチート級に強い?

この血統なら致し方あるまい。


アーノルドとスクルドが静かに屋敷の扉の前に立つ。

アーノルドはメイスを構え、近くに展開されている魔法陣(コード)の解析と解除を行い、それが終わるのとほぼ同時に、スクルドのレイピアが振るわれた。


イミットの使う刀ほどの切れ味が無いはずのそれは、しかしいともたやすく魔術的な封の施されているはずの屋敷の扉を切り落とし、スクルドとアーノルドは悠々と中に入って行った。


直後、ジークフリートは衛兵たちに指示を飛ばす。


「お前たち、この距離だとアーノルドに巻き込まれるぞ。離れよ!」

「え、100メートルくらい離れてますが……」

「つべこべ言わず下がれ、アーノルド閣下は土を蒸発させるって逸話の持ち主だぞ?」


衛兵の中でも老齢な兵士たちは若手を引っ張って下がってゆく。火属性に耐性を持つロゼは、静かに離れていった者たちを守るべく魔力障壁用の巨大で緻密な魔法陣(コード)を刻み始めた。ロゼの魔力では発動するに足らなくても、ここには莫大な魔力の持ち主たちがいるので問題ない。


がたがたと屋敷内部で音がしている気がしたが、魔法陣(コード)が組み上がったのを確認したジークフリートが直接魔力を流し込み、その加護持ちとしての魔力総量の高さを生かして魔力障壁を立ち上げた。


直後。


爆音と共に屋敷の大半が吹き飛び、その後を紅蓮の炎が嘗めていった。爆風と衝撃で屋敷の一部を構成していたであろう石材が吹き飛んでくる。アーノルドの魔術は爆発を伴うことは少ない。今はそれだけ怒っているということであろう。何が彼の怒りを買ったのか。


爆発させたということはその分彼らの中で周りへの被害に関する事柄が丸っとすっぽ抜けていることを示している。こうして人間くらい簡単に押しつぶせそうな花崗岩の石材がぶっ飛んでくるぐらいの威力で魔術をぶっ放しているのだから。


「ロキ、だな……」

「ロキ、ね……」


恐らくこの状況を生み出した直接の原因であろう幼馴染の名を呟き、カルとロゼは嘆息した。ここにソルがいたら爆笑していたろうな、と思いつつも、親が怒ったということは負傷していそうだと一応ポーションの準備を頼んでおく。今度は極寒の冷気に襲われ、そそり立った氷の柱に2人はさらに溜息を吐いた。


「親馬鹿って言っていいのかな?」

「溺愛の間違いでは?」

「はっはっは、カル、ロゼ嬢、あいつらまだ魔法使わないだけの理性残ってるからな?」



時は少々遡る。

ロキとレオンは自分たちの周りの、魔術の効かぬよう魔法陣(コード)で防護してある壁の解析を行っていた。逃げ出すにしても情報は欲しい。


レオンとロキを攫う理由というのは、いくつか理由があるだろう。

まず、それが国内勢力の場合、レオンという魔力総量が低い公爵家の者を狙うというのは実に手っ取り早いもので、あわよくば押しに弱いクローディ家を脅すことも可能であろう。クローディ公爵家がここ数年の間に当主が交代したものだから、揺さぶられていてもおかしくない。


とはいえロキはこの線は実に薄いと考えている。

理由は2つ。

まず、クローディ家は明かしていないが、レオンには双子の妹が存在している。ロゼが教えてくれなかったらロキだって知らなかった事実なので、相当うまく隠されていると考えて間違いないだろう。兄が居なくてもスペアの妹がいるので、貴族的にはあまり問題がない。悲しむことはあるだろうが、レオンがいなくなっただけでクローディ公爵家への影響力を持つことはできない。


次に、国内の人間ならば、銀髪の人間のことを知っている。それこそ一般平民であろうと皆知っていることである。教会が人気の高かった王妹殿下を強制的に連れて行ったこと、そのまま監禁状態にある事を知っている平民たちも多い。

つまり、銀髪を隠していなかったロキが一緒に巻き込まれている時点でおかしいのである。


よって、ロキはこの時点で相手は雇われてレオンを狙い、ロキは一緒に居たので巻き込まれた程度の認識をしておけばおおよそ事実であろうと判断した。外国の勢力のちょっかいもしくはよほど阿呆になった貴族でも居たか。


「ロキ、すまない……俺、治癒使えなくて」

「気にすることではないよ。それよりも、君に傷はないの」

「ああ、多少痛みはあるが問題はない」


ロキはひとまず胸をなでおろす。ロキは回復魔術、治癒魔術の類に多少覚えはあるが、魔力の流れを遮断するこの部屋の加工は、ロキが魔術を使うのを阻害していた。

とりあえず逃げ出さねばと考えるのが普通であろうが、その点ロキは冷静だ。まずは身体を自由にして痛みがあるというレオンの治癒が先。


「ロキ、ロープを切ろう」

「そうだね。ひとまずこちらに背を向けて。切ってやるから」

「ああ」


レオンは、多少神経質ではあるが、ピンチを迎えてまでロキを敵視する意識が働くような男ではない。というか、どちらかというと同じクラスで過ごした彼にとっては、ロキは“間違っても敵に回したくない存在”である。


レオンはロキに背を向ける形になるように体を転がす。足を縛られているため上手く動けないので場所が多少ずれたのは許してほしいものである。


「レオン、どちらにせよ今は助けが来るのを待つしかなさそうだ。外からしか開きそうにない」

「そうか」


ぱつん、と小さな音と共にレオンを縛っていたロープはあっさりと切れた。レオンは自由になった手首をさする。少々きつめに縛られていたため鬱血しかけていた。

そのまま少し慣らして足のロープを解く。


しかし外からしか開けられそうにない、とロキが告げたことにレオンは驚いてしまった。そこらへんちゃんと言えるやつだったんだなと。割とプライド高いとか思っていたと呟けば、あれ、俺ってそんなに高飛車に見える? とロキから疑問が返ってきた。


さあ、ロキのロープを解こう、としたところで足音が2つ聞こえてきた。明らかにレオンの知る相手のものではなく、女のヒールとブーツのヒールの音とすぐに知れた。


扉の前で立ち止まった2人は直後ぎゃしゃんがしゃんと金属を同じく金属で斬り捨てたようなすさまじい音を響かせ、扉を勢いよく開けて入って来た。

地下室のように感じていたがどうやらここは物置か何かだったらしい。2人は青と赤の色彩を持っていた。すぐに誰かなど分かった。なぜなら、


「ロキちゃん!」

「ロキ!」


ロキの名を呼ぶ、彼の両親の姿であったから。


レオンはロキがこちらを向いていた意味を知った。スクルドとアーノルドがすぐにロキを確認するためだったのである。

レオンは慌てて早くロキのロープを解こうと手を掛ける。アーノルドとスクルドが近寄ってくる方が早かったが。


「ロキちゃん! 大じょ…………」


安堵の表情を浮かべていた2人の表情は急激に強張った。

レオンはロキの手のロープを解く。次は足だ。


「……申し訳ありません父上、母上。御心配を、お掛けしました」


レオンは気付いた。ああそういやこいつ頭怪我してたわ、と。

先ほどよりロキの呼吸が上がっているように感じるのだが、ともかくここを早く抜け出さねば。


「……ロキ、我々はもう少し仕事が残っている。外でジーク陛下がお待ちだ。行きなさい」

「はい……」


ロキの返答まで待っていた青い髪の女を誰か褒めてあげてくれ。

彼女はロキが返事をしたその瞬間に奥へと走り出した。アーノルドも後を追い、爆音が響く。建物が揺れた。


紅い色彩が建物を覆い尽くさんとし、その後。

氷の柱が突き立った。


「……戻るぞ、ロキ」

「ああ」


さっきまでの苦しそうな表情はどこへやらだが、抵抗が強く白い肌であったが故にレオンよりも幾分か目立つ手首と足首の鬱血痕は痛々しい。


ロキに肩を貸そうと手を伸ばしたレオンの手を取り、ロキとレオンは一瞬後――


「……え?」

「お帰り、ロキ。何やらかしてんのよ」


ロゼとカル、ジークフリートのお出迎えを受けていた。


「……は?」

「いや、これは想定外」


これ、といいつつ頭から流れていた血の跡を示すロキ。レオンの理解は追いつかない。


「随分手荒なことしてくれたなぁ」

「ちょっと抵抗の力加減を間違えてしまったよ。1人ノしてしまったせいでレオンにまで手刀を食らわせてしまって申し訳なかったなぁ」

「あ、俺が殴られた理由それ?」


ちなみに当時は背中を向け合っていたのでイマイチ状況がよくわかっていなかったレオンである。


「……ってそうじゃない。待てロキ、まさかお前転移使えて」

「無論使える」

「その傷は」

「治した」

「そもそも自分のロープを切ることは」

「出来たぞ」


レオンの怒り、極まれり。


「こ、のっ、じゃあなんで最初っからやらなかったんだよっ!?」

「そんなの母上たちのあの反応が楽しいからに決まっているだろ!」

「うわもう国中巻き込むレベルのドSになってってるわね?」

「本当は俺が縛られている姿を見て母上が激昂するはずだったんだが、出血していたせいで父上が先にお怒りだ!」

「こらこら落ち着け銀髪脳筋」


人の感情弄ぶんじゃありません、とジークフリートは柔らかな口調で言う。どうせ“ロキ”の名を持つ以上そんなことはどれだけ言ったところで意味がない。これは彼らの性みたいなものであろう。


「ま、これで奴さんらも壊滅だな。救い無し」

「いえ、救いならあります、陛下」


ジークフリートの言葉にロキが言う。


「ヴェンとドゥーには、シドたちには何も伝えるなと言っておきましたし、我が両親はクラッフォンの子を連れておりません」

「あー……そういや半精霊とイミットがいたっけか。なるほど確かにその2人がいたら余計事があっさりと……」

「はい、敵の全滅で終わります。しかし死なせても情報が取れないでしょう。どうせ切られる尻尾でも使いようはあるかと。父上とソキサニス公爵が上手くやってくださるでしょうし」


イミット居なくてよかったわ、とその実態を知る者のみぞ呟く。ジークフリートはロキが相手の後ろ側のものにまで思考を巡らせていることに少し驚きつつ肝心な部分をできる上層部にぶん投げたことに苦笑を漏らした。


ちなみに、ロキの転移についてだが、自分単独ならば問題なく転移できても、他の人間を抱えてという条件が付くと一気に難易度が上がるため、連れ去られる前に転移すればよかったのにというレオンの言葉を叶えるのはロキをもってしても難しいのが現状であった。

そのことをロキは一切伝えなかったため中等部入学、クラスが離れたことも相まって公爵家の子供たちもみな集合する入学パーティの際、盛大にロキに跳び蹴りを食らわせるレオンの姿があったとか無かったとか。


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