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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
初等部編
73/377

3-幕間Ⅰ

ギャグの予定でした。ギャグになってない←


2023/03/28 加筆修正しました。

中等部への入学を目前としたロキたちは、まだ少々初等部へと入り浸っている節があった。

理由は言わずもがな訓練のためである。そしてそれはロキのためではなく、公爵家出身としては特に魔力総量の低いレオンのため。カルをはじめとする同世代の王家と公爵家の子弟のみという異色の集団と化していた。


「こう、か?」

「いや、そこはそうじゃなくて」

「むむむむむ」


属性が同じということでカルが何とか教えている状態だが、ロキとロゼはそんな2人を見ながら小さな声で会話を交わしていた。


「……レオンって、魔術に拘り過ぎじゃない?」

「……どうなんだろうね」



魔術に拘るその姿勢を咎める者はいないけれども、ロゼの目には、レオンは魔術に向いていないと映っているのだろう。ロキにはまた少し異なるものが映っているようで、レオンの魔術の訓練を遠巻きに眺めていた。



「ロキ・フォンブラウ。頼みがある」

「おや」


レオンがロキに声を掛けたのは、図書室。ほとんど人が足を運ぶこともない、奥の方でひっそりと本を読んでいたロキをわざわざ探し出して声を掛けてきたのだから、よほどのことだろう、とロキがレオンに向き直って話を聞く態勢を作ると、レオンは勢い良く頭を下げた。


「魔術を教えてほしい」


レオン・クローディのロキ・フォンブラウに対する態度はお世辞にも友好的であるとは言い難い部分があった。とはいえ、明確に貶したり変な理由を付けて叱責したとかでもないものだから、その辺りは普通の反応では、くらいにしかロキも考えていなかったこともあり、いまいち周りがロキとレオンが仲悪いと噂している煙の出所をロキは見つけることができていなかった。転生者としての記憶があるロキには、それがどれだけ遠い事のように感じても、自分が体験している扱われ方のひとつであり、そこに疑問を抱くのは難しいものなのだ。


「虫のいい話であるのは分かっている。けれど、お願いだ! 俺には時間が無いんだ、お前の力を借りたい!」


ロキが何も言わないのが不安になったのか、レオンが必死に頭を下げたままロキに頼み込む。その様子が何となく面白くて、けれどそろそろ止めてやらないときっとレオンが恥をかくので、ロキは小さく答えた。


「いいよ。クラス委員押し付けたことも気になってたし」

「ありがとう。……いつ倒れるかわからない奴は雑用には向かないだろ。あと、もう卒業だけども」


それもそうだ、と笑ったロキは、その日からレオンの魔術の訓練に付き合っている。



レオンはロキの魔力総量がバカみたいに高いことで突っ掛かっている節があったものの、それに伴う晶獄病の発症によって苦しんでいるロキを見てか突っ掛かることはなくなっていた。そもそも完全に嫌うことができるほど距離も遠くなく、積極的にロキが関わらなかっただけ。今は指導役に選ばれ、毎日のように訓練に付き合っている。


魔術には術式があり、その術式の組み方はそれぞれだ。様々な体系があると言っていい。ポピュラーな“祝詞型”は呪文を唱えるタイプ。“魔法陣(コード)型”は魔法陣(コード)を書くことで、魔術師封じの一種である【サイレント】などに影響を受けず、音を媒介にせずに魔術を行使する。他にも“儀式型”の、黒魔術や降霊術に見られる祭壇や呪具を利用する大規模なタイプなども存在する。魔術の術体系というものが存在することはロキも知っていたが、まさかこんなにパターンがあったなんてと驚いたのは記憶に新しい。


ロキは敢えて消費魔力の多い型の魔術術式を多く使う。わざと術式の一部を消すことで消費魔力量のごり押しで術を発動させるという荒っぽい技だ。しかしそうでなければいまだに不安定な内部の“誰か”を圧し潰す可能性があることが主な原因であり、これがどうにか解決されない事にはロキは全力で魔術を放つことはできない。ロキの魔力回路は閉鎖型、所謂魔力を体外に排出するよりも体内でぐるぐる回すことに特化している回路であり、魔力が外に出ないなら内側の誰かが居られるスペースなんてものは限られてくる。体内の魔力を一気にに放出できる転身だけが最後の逃げ道となってしまっていることは否めなかった。


カルは貴族の平均から比べると馬鹿みたいに魔力が高く、けれどロキには遠く及ばない。ロキはまだ全力ではないと言われた時のカルの呆然とした表情たるや。


カルは学園に所属している生徒の中でも突出しているが、ロキのせいであまり目立たないのである。そのロキ当人はほとんど息をするように魔術と魔法を使いながら生活しており、そうしなければならない理由も一緒に抱えている。


理由を知らない者はただ「すごいなあ」で済むことだが、事情を知っている者からすれば「なんでまたそんな面倒なことを」と言われても仕方がなかった。


「それにしても、今日本当は予定あったんじゃないの?」

「別に今日でなくともいい程度のことだからね」


ロゼはロキに今日あったはずの予定を思い出して問うが、ロキの回答はあっさりしたものだった。


はあ、はあ、と。

レオンの荒い息遣いが聞こえてくる。レオンはカルに見てもらいながら魔術を撃っていた。


ロキはおもむろに立ち上がるとレオンとカルの許へと向かった。

ロゼもその後を追う。


「そこまで。今日はもう終わりにしよう」

「な、まだ俺はやれるッ」

「レオン、無理をするべきではないよ。これ以上やれば第1回路に多大な負荷がかかっちゃうよ」

「ッ……!」


ロキは精霊を見ることができるようになった。それはつまり彼がマナを視認できるようになったということであり、元々のロキのポテンシャルをもってすれば、細かい回路の不調まで見ることができるという状態である。これで自分自身がそれを抱えていたなどというバカらしいところにロキは笑ってしまった。


以前ロゼの母親も晶獄病だったと診断されていたが、大人になってからの発症だったこともあり、無事峠は越えたとのことだ。


第1回路は魔力を直接生産している器官になる。

そこに不調をきたすということは非常に厄介なことだが、最悪命にかかわることもある。特に公爵家にはそれが顕著であった。知っている者はあまりいないが。


「ロキが言うと無駄に説得力があって嫌ね」

「同感だ」


ロゼの言葉にカルが小さく肯定を返す。レオンが酷く汗をかいていたために体温が下がったらしく、顔色が悪くなってきたところで流石に止めろとカルが口を出し、訓練は切り上げられた。レオンを温めてやるためにロキが火の魔術を息をするように行使するのを、レオンが恨みがましく見ていたのは御愛嬌。ロキとレオン、ロゼとカルに別れて帰るための馬車へと向かった。



レオンの顔には焦燥が浮かんでいた。

何があった、なぜこうなった。


現在、どこなのかよくわからない場所にいる。どこかの地下室であることは確実なのだが、どんな施設が他に存在するのかなど正確に把握している者もそもいないだろう。


しかも、同じ馬車で帰っていたロキも巻き込まれた。

馬車を襲撃され、訓練で疲労していたレオンは抵抗どころではなかった。貴族街だからと油断していたことは認めよう。あまり目立たないように護衛も最低限しかつけていなかったし、レオンは内心ロキに謝った。

すぐに昏倒させられたために分からないことだらけではあるものの、どうやらレオンたちを襲った者たちはレオンを狙っていたと見える。レオンは魔力総量が低いため狙われる可能性を考えていなかったわけではない。


レオンの横で猿轡をかまされ後ろ手に縛られて転がっているロキはまだ気を失っているらしくぐったりと動かないままである。

こんな時、土属性や風属性の魔術が使えればと思ってしまうのは不謹慎だろうか。レオンは抵抗したためにできてしまったらしいロキの頭部の出血に胸を痛めた。


余談だが、ロキが傷付くということは相当な回数武器で殴打されたことが予想される。ロキは、レオンは知る由もないが、状態異常に対して高い耐性を誇っていることと、ロキの魔力による守りはそれだけ堅牢であるという事実がこの現状を作り出していた。


ただし、この時の彼らを襲撃したのが単純な依頼による人攫いの類であり、確かにレオンを狙ったのであるがロキがいたためにうまく事が運ばず、ロキの意識を刈り取るために何度も殴打したことで寧ろ慌てふためいていることなど知るべくもなかった。


公爵家の子供についていたということは恐らくそれと同等か近しい立場にあるということになる、というのが相手の認識であった。

そしてそれはあながち間違いではない。


「ロキ……」


レオンは忌々しげに自分の身動きの取れない身体を眺める。

光属性と言っても皆が皆回復魔術を使えるわけではない。ごく少数ではあるが、攻撃に特化し、回復魔術適性の無い光属性の子供は存在する。


レオンはそれだっただけだ。

目の前で本来強いはずの者が傷付き、その傷を癒す手段がないことがどれほど苛立たしいことか。


ちなみにレオンは知らぬことだが、ロキは回復魔術が使える。後に後輩含め自他ともに認める解説が「チート先輩」で済むリガルディア史上最強の魔導騎士となるロキだが、そんな未来の話はこの際脇に置く。


「……ぅ」

「ロキ!」


猿轡をかまされているのはロキの方だけである。魔術を詠唱付きで行使しようとして止められたのだろう。

ロキはしばらく視線を彷徨わせていたが、一気にレオンに焦点を結ぶと、その目の色を鮮やかな青緑に変じた。


ロキがかなりの興奮状態にあることを表すのだが、ロキ自身は全く気付いてはいない。

フォンブラウ家の人間というのは激昂しているとアレキサンドライトみたいな目になるのだろうかとレオンは思ってしまう。


目を石に例えるのは人刃の風習である。ロキの目の変色はじきにおさまり、ロキは小さく息を吐くと、猿轡を()()()()()。切れ端を吐き出し、いきなりのことに驚いているレオンを見て柔らかく微笑んだ。


「何を驚いてるの。俺は変化属性を持っているんだよ?」


ああ、歯を変化させたのか、と思い至り、よくもまあそんな危なっかしいことしたものだと呆れて言葉が出なくなった。

けれどこれでロキは魔術が使える。

早く家に帰らないと。


レオンの思考は重大なことを見落としていた。

今、襲撃からどれくらいの時間が経っていて。

親が、どうしているのかということを。



夜、である。

月明かりに照らされて、青い髪を翻した女がレイピアを手に、今か今かと突撃の構えを取って待機している。

その横には燃えるような赤い髪と()()()の男が杖を構えて立っていた。


「スクルド、珍しく外れたな」

「これは外れてほしくなかったのだけれど。でもいいのよ、ロキちゃんは無事みたいだし、ね? アーノルド」


絶賛怒りの渦中にある、ロキの両親であった。

衛兵たちではこの2人を止めきれない。クローディ公爵はロキもレオンも巻き込む可能性がある魔法しか使えない。結果この2人が突撃すると言ってきかなくなったのである。


「さて、うちの子たちを返してもらおうか」


なおこれは、レオンとロキが目を覚まして5分後のことである。


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