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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
初等部編
71/376

閑話 シドのお使い

話の内容変えました。お楽しみください。


2023/03/28 加筆修正しました。

「父上、お米が食べたいです」


久しぶりの休日にロキからそんな無理難題を投げつけられたアーノルドの表情。母上に見せたら爆笑必至だったろうとロキは語る。



「……というわけで、お使いに出されたってわけ」

「……大変ですね?」

「だろぉ?」


お使いに出されたのはシドだった。今は、王都を出るための手続きの間、ぼんやりと噴水広場のベンチに腰掛けていたら、金髪をふわふわとカールさせた、見覚えのある少女を見かけたので声を掛けたのだ。


「というか、お米あるんですね」

「まあな。ソキサニス公爵領までお使いだ」

「ソキサニス領にあるんですか??」

「そうなんだよ。栽培はされてないけどな」


米についての話ができるだけで、恐らく転生者であることがばれるので、こんな話題に乗ってきたということは中身の人間は幼かったのだろうなとシドはあたりをつけた。彼女の名は、エリス・イルディ。男爵令嬢である。


「でも、大変ですね。……親御さんのことは、お悔やみ申し上げます」

「……はは。しゃーねーよ」


フェイブラム商会。支店は少なく規模は小さいながらも人気のあった商会。基本的に宝飾品系をメインにしてはいたものの、食料品の中でも嗜好品に分類される物を販売していた。王都ではかなり人気のある商会だったのだが、本拠地がセーリス領にあり、ゾンビ騒動で実家への立ち入りが禁止され、家族も行方知れずだ。


「こうなるなんて誰にも分らなかったんだからさ」

「……でもこのままだと、あまりよくないんじゃありませんか」

「お、何? 心配してくれんの? ありがとう!」

「もう、茶化さないでください!」


別の商会に買収される可能性が無いわけではない、というより、確実に買収されるだろう。どっちに転んだとしても、シドには関係ないことだけは変わらないので、シドは何も言わない。エリスが心配をしてくれるのはありがたい事ではあるが、目下シドが考えるべきは自分が直接後を継げない商会の事ではないので。


「ま、ウチを買収するなら、ワーナー商会か、セーウネス商会だろうさ。どっちでもいいよ、俺はしばらくフォンブラウの使用人だ」

「……」


エリスが何か言いたそうな表情をしているのを見て、シドは思う。


(この子もソルちゃんと同じか……)


手続きが終わった、とギルドの職員がやってきてシドに告げる。シドはベンチから立ち上がり、エリスに手を振って別れる。


「あの!」

「ん?」


エリスが最後に、シドにこう言った。


「ロキ様がだめなら、私が何とかしますから!」

「……おう、そんときゃ頼むわ」


シド・フェイブラムの運命というものがあるとするなら、不憫の一言であろうから。エリスはその場を立ち去る。情報共有のできる人が必ずいるという確信を得て、転生者エリス・イルディは邸宅へと戻っていった。



ギルド支店間の移動は転移陣で行われる。シドは半精霊であるため、転移陣を作動させるだけの魔力はふんだんに持っている。


「お前1人か!?」

「まっさかー! ちゃんとお付きはいるんで、大丈夫っスよ。ギルマスマジで心配性なんスね~」

「当たり前だわ! 最近半精霊狙った騒動多いんだから、気をつけろよ!」

「あース」


リガルディア王都ギルド本部ギルドマスターのダイクは、シドの状態を最も正確に言い当てた男だ。恐らくループにも気が付いてはいるのだろう。契約している精霊が上位者だったためにいろいろな厄災から逃れている強運の持ち主だ。


基本的にギルドマスターと言えばリガルディア王都ではダイクの事を指す。冒険者ギルドと商業ギルドの2種類に分かれているギルド関係だが、元はと言えば様々な商人たちと冒険者、簡単に言えば物売り関係のグループと、荒事と納品用の狩りをメインとするグループとが大まかにまとめられたものが今の商業ギルドと冒険者ギルドだ。品物の取引に関することなら商業ギルド、素材の買取や自分たち用の消耗品のやり取りだけなら冒険者ギルドで手続きを済ませる。商業ギルドは多くの商会や店舗の代表が顔を突き合わせて役員を振ったりしているが、冒険者ギルドは基本ギルドマスターの指示が一番強権。文字通りギルドの長であるため、ギルマスと呼ばれるのは基本冒険者ギルドのトップということになる。


王都ギルドの転移陣は基本的に地下にある。一定以上のランクのギルド印章を持っていなければ立ち入ることのできない部屋にあるため、案外存在を知っていても使えないという人間が多かったりする。


シドは事情を察したダイクの指示で、ギルド印章のランクが低くても通してもらえるようになっている。商人の子供だと特に、ギルド印章的な意味合いではランクが上がりにくいのだ。冒険者は実力に見合ったランクにすぐ上がったりもするが、商人は信用と一定の取引がある事実があって初めてギルド印章が効力を発揮するので、親が急に身罷った商家の跡取りなどはギルド印章さえ持っていないこともある。


シドの場合、実力があることをダイクが見抜いているからいいようなものなのだが、今回のボディガードはなかなかに強いので、それほどシド自身も心配はしていなかったりする。


「んじゃ、頼むぜ、キル」

『はーい』

「うぉあっ!?」


シドは黄緑の髪の少年を呼ぶ。少年はシドの影からぬっと現れ、ダイクの度肝を抜いた。


「上位者じゃねーか!」

「そうっスよ。なんで、心配はいらないんス、マジで」


最も説得力があるのはコレに尽きると思われる。ダイクは諦めたように息を吐いて、シドと少年を転移陣のある部屋に連れて行く。

キルと呼ばれた上位者は、裸足で、小さな棘の付いた触手のような尾を3本引きずって歩いていた。ダイクは、足元に敷かれた石が冷たくないかと声を掛け、優しいね、と返されて少し困り顔だ。


「ついたぞ」

「んじゃ、行ってきまーす」

「おう、行ってら」


転移陣に踏み込むとすぐに転移陣が光り始める。本来は何時間もかけて準備をせねばならないはずの転移陣を、単独で動かせるあたり、シドは外見こそ人間だが、人間ではないのが分かってしまう。半精霊なんてそんなものなのかもしれないが。



ソキサニス領は比較的温暖な土地である。フォンブラウ領にいたシドからするとかなり寒い土地のように感じるが、メルヴァーチなんて冬は大半の関が完全に凍てついて閉ざされるのだ。ソキサニスはまだまだ序の口である。


ギルド間の移動では転移先のギルドにも話を通していることが多い。ダイクが話を通してくれていたらしく、シドを出迎えたのはこちらのギルドの支店長だった。厳つい爺さんが立っている。


「お前さんが、フォンブラウからのお使いの使用人か」

「はい」

「ギルド印章見せな」

「はいよ」


指示に従ってギルド印章を見せる。シドは黒鉄級の印章を持っている。支店長は小さく頷いて、ニッと笑った。


「何買うかは知らねえが、ちょっとくらい楽しんで行けよ」

「あざす」


シドは領地間の移動の手続きを行った後、キルを伴って、街に出た。恐らくだが、米ならば酒に使われているだろうという予想が立ったためだ。なんだかんだでループの記憶を頼りながら行くのだから、少々複雑な気持ちになったシドは悪くないだろう。


『あてがあるの?』

「んにゃ、確証はねーんだけどさ、ソキサニスって確か米焼酎があったんだよ。なら酒造に米が回されてる可能性が高いなと思ってよ」

『おこめって色々使えるんだね』

「まあな」


どこかの人生では料理人を目指したこともある身である。自分が決めた主のために自分の全力を向けたいと思っただけだ。それがたとえ、和食に興味がある、とかいう、完全に前世の親友の記憶を知識と割り切った物言いでの言葉であったとしてもだ。


ソキサニスで有名な酒造の老舗は2軒ある。それぞれの家について街で軽く聞いてみたら、片方が米で片方が芋を使っていることまでわかった。持たされた金貨の枚数を数えて、料理用に使えそうな酒があったら買おうと心に決める。フォンブラウの人間は酒豪が多いので、多少アルコールが残っても問題はない。アーノルドに酒蒸しとか作ったら喜びそうだと考えつつ、じゃあ貝も買っていこうかなと。


考え事をしていたらいつの間にか目的地の米焼酎の老舗の前に着いていた。


「いらっしゃいませ」

「どーもっス」


店頭には青年くらいの女が立っていた。若いから娘かもしれないなと思いつつ返答する。


「どっかの使用人さんですか?」

「あー、そうなんですよ。別の領地の貴族の」

「あー、そうなんですね。どんなお酒をお探しですか?」

「飲む用に1本、あと料理用に1本」

「おすすめでいい?」

「味見できるならしたいんですけど」

「いいですよー」


とんとんと話が進んでくれてありがたい。ちょっとずつ味見をしてアーノルド用に辛口のものを選び、料理用に自分が好むものに近いものを選んだ。自分がそんなに尖った味覚をしているとは思っていないので一応これでよかろうと。そも、今までここまで酒に拘った周回も無かったようなので丁度良いと思ったのだ。


「そういや」

「はい」


店を出る前にふと思い出したようにシドは女に問う。


「これって、どこの米で作ってるんですか?」

「“謡の民”の里ですよ。仕入れはセーウネスですけど」

「……そうなんですね。ありがとうございます」


セーウネス商会が噛んでいるならば話は早い。セーウネス商会は多分どこの街にでも支店がある。ロキにセーウネス商会の息子と仲良くなってもらわなければならないが。


『次どーする?』

「セーウネスに米を買いに行く。つかメインはそっちだわ」

『あ、そっか』

「ついでに荷物持ってもらいたいから軍服の方で来い」

『わかった!』


半精霊であるとはいえ筋力があるわけではないことと、精霊特有のアイテムボックスが使えない事情を鑑みて、アーノルドが一応アイテムポーチを持たせてくれてはいるのだが、キルに持たせた方が絶対安全なので、シドはキルに持たせることを選んだ。


数分後、キルがかっちりとした黒字に赤と金で装飾のされた法衣のような服装で現れ、シドはそんなキルに荷物を預ける。


「よし、行くぞ」

「はーい」


セーウネス商会の支店は大体貴族街に近い所にあるので、そちらへと向かう。どこで見ても大きな建物ばかりなのだが、この土地は古くからある建物だったようで、あまり大きくない古めかしい洋館のような雰囲気を纏っていた。



米の購入自体は案外すんなりといったのだが、半精霊であったためかかなり引き込みにあった。シドはそれをすべて一蹴したうえで米を購入してきたが、帰ったらロキに叱られるだろうなあ、とシドがぼやいたのをキルが不思議そうに眺めた。


「何で叱られるの?」

「そりゃ、危ない目に遭う可能性が高い方法で断っちまったもんよお」

「そうなの?」

「そ」


忠誠心という金では買えないものを持った半精霊など、狙われるに決まっている。

シドはこの一件について以外は事細かに報告を挙げたが、ロキからの追及に遭い、やっぱり叱られてしまったのだった。


キャラを纏める時間をください

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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