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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
幼少期編
7/353

1-7

2021/05/30 加筆修正しました。大幅に内容が変わっております。また、改稿前の文章とはほぼ繋がっておりません。


2022/04/12 完全改稿しました。内容とストーリーは変わっておりませんが、大人サイドの話に変えております。よろしくお願いします。

その異変は、メルヴァーチ領に差し掛かる関所の手前、森の中に入ったところで起きた。突然、沢山の視線に晒された。子供たちは気配に驚き、スカジでさえ震え始めて。


直後、馬車に衝撃が走り、既にアーノルドが出て行っていることに不安を覚えたフレイがスカジと身を寄せ合った。ヨヨヨ、と耳慣れない何かの鳴き声が聞こえたのを皮切りに、怒号が飛び交い、金属を交わらせる音、魔術の詠唱が聞こえてくる。馬車を止めない御者たちのおかげか、それらの音は遠くなっていった。けれども視線が追ってくる。ガサガサと音がしている茂みを見て、森の中を追って来ている、とロキは思った。


「何が起こってるの」


フレイはスクルドを見上げた。フレイの言葉は尤もだった。不安にならないわけがない。魔物に襲われている、とサシャが短く答えると、フレイはぎゅっとスカジの手を握り締める。スカジも流石に馬車の速度にただ事ではないことが分かっているのか、先程までの不機嫌さはなくなっている。


「……よりにもよって、こっちを追ってくるなんて」


スクルドがらしくなく舌打ちをした。サシャは自分の腕の中で震えている主人の子供を抱き締め直す。


ブラッドサイス・スパイダーは、子供たちの乗った馬車を追ってきた。アーノルドがある程度の魔物は引き付けてくれたようだったが、大物に限ってこっちを見ている。ロキが狙われている、とスクルドは思った。


「サシャ、これ多分ロキちゃんが狙われているわ」

「予知ですか?」

「いいえ。でも、これが教会の関係者なら、納得できると思わない?」


それは確かに納得です、とサシャが言う。ロキは銀髪で、色白だ。瞳の色が、単純な赤ではなく濃桃色で、神子と呼ばれる存在の中でも特に強力な個体の特徴を持っている。何より、まだ幼いが故に、狙われやすいのだ。


神子を狙うのは、教会関係者が最も疑わしい。スクルドの予知は今回は無かったが、状況証拠やら推測で簡単に行きつけるのだから、教会を疑うのは致し方ないだろう。


窓からちらと赤く爛々と輝く4つの瞳。何かを探している気がして、スクルドは窓にかかっているカーテンを閉めた。


「アンドルフ、もう速度は上がらないかしら」


スクルドは御者席のアンドルフに声を掛ける。未整備の道を信じられないくらいの爆速で駆け抜けているアンドルフは、苦笑を浮かべた。


「申し訳ございません奥様、これ以上は、いくら若と若奥様の子でも、耐えられますまい!」


酔っていないのは恐怖が勝っているからにすぎない。ブラッドサイス・スパイダーの身体は正直馬車と変わらないかそれより大きいかくらいのサイズ感があって、どうせこのままでは追い付かれる。お尻が痛いと泣けるならまだ良い方なのだが、下手をすると馬車自体が壊れかねなかった。


「分かったわ。サシャ、あとお願い」

「奥様、御武運を」


スクルドが虚空からレイピアを取り出す。ちらと子供たちを振り返る。状況説明を求めていたロキに追加の説明はしなかった。


髪を靡かせて、スクルドは馬車を飛び出す。ロキが伸ばした手には、気が付かなかった。



アーノルドは、比較的狭い森の中であるのに湧き出るフォレストウルフに舌打ちを零した。フォレストウルフは本来走ることが得意なウルフ系の魔物が、森という狭い道を走ることに特化した姿である。騎士が乗った馬が何頭か噛みつかれて荒れ狂っている。フォンブラウ公爵家で使っている馬はどれもこれも魔物を恐れないよう調教され育てられたものであるため、噛み付かれる前に蹴り飛ばしているものも多くみられた。


「アーノルド様! 馬車を追って行った奴が結構いました!」

「くそ! 術者が探知に引っかからん!」


アーノルドがその戦棍を振るえばその度に魔物が吹き飛び、木々が揺れる。森の中、しかも他家の領地の中でアーノルドが魔術をぶっ放すわけにもいかず、ちまちまと近接武器で薙ぎ払っている現状。


スクルドと子供たちを乗せた馬車を追った魔物の方にブラッドサイスが行ってしまったことも分かっていた。自分に目もくれなかったのを見て、やはり術者が居るだろうなと思ったのは、本来ブラッドサイス・スパイダー自体が希少な魔物であることや、目の色、そして近くの動いているものを狙う習性をアーノルドが知っていたからである。


十中八九命令を受けて動いている個体でなければ、護衛より先に馬車を狙うことはあり得ない。獄炎騎士たちがフォレストウルフに混じって攻撃を仕掛けてきている別の魔物に気が付いた。


「魔法が飛んできてるぞ!」

「えっ、ブラッドサイスってさっきあっちに行ったんじゃ――」


森の中、比較的道幅の広い所で騎兵が戦っている。馬を降りているアーノルドたちは、騎兵たちがこれ以上囲まれないようにと周りに散会しているが、ちまちま飛んで来る赤い一閃がうっとおしい。アーノルドは思った。


――もしかして、ブラッドサイスは1匹ではない?


嫌な汗が伝う。早く状況を変えなければ、早く子供たちの所へ行ってやらねば。

頭の中で警鐘が鳴る。


「――お前たち、責任は私が取ろう。魔術の使用を許可する!!」

「「「御意!」」」


赤い鎧が今一度、橙の光を帯びた。アーノルドの赤いコートも、光を纏う。

身体強化の術式には複数種類が存在するが、彼らが使ったのはいずれも筋力強化であった。

フォレストウルフが散会し始め、騎兵が動けるようになる。アーノルドはまた飛んできた赤い刃の持ち主の位置をはっきりと特定した。


「逃がさん」

「あ、アーノルド様!」

「誰かついて行け!」


アーノルドは付いてこようとする騎士たちすら振り払って、森の中に入り込んでいく。


(こいつらの狙いは一体何なんだ)


妻と子供たちを狙ったことは許せないが、魔物から好かれているはずのロキが居る一行に攻撃を仕掛けてきた理由が分からず、アーノルドは考える。魔物使いが噛んでいたとしてもこんなことになることはほとんどないのだ。その辺の魔物使いよりも、ロキの方がより魔物に好かれている。


(……文字通り、タガが外れた、のか)


何の、とは言わない。ただ漠然と、アーノルドはそう思った。

そして、大蜘蛛と対峙した。


「……ブラッドサイス」


ヨヨヨ、と目の前の赤い2つ目の蜘蛛が声を上げる。ブラッドサイス・スパイダーが赤い前脚を持ち上げて軽く袈裟懸けに振るうと、近辺にあった木から丈の高い草から袈裟懸けに切れてアーノルドに向けて降ってきた。アーノルドはそれをすべてメイスの一振りで打ち払うと、ブラッドサイス・スパイダーに殴りかかる。


ブラッドサイス・スパイダーがアーノルドのメイスを受け止め、はじき返す。体勢が崩れたところに赤い刃が飛んできて、アーノルドは水魔術を使って水の刃を放った。赤い刃が打ち消され、直後ブラッドサイス・スパイダーの前脚がアーノルドを突き上げる。


「ッ!」


すれすれのところで避けたアーノルドの左頬が裂けて、血が溢れ出す。まともな傷を貰ったのは久方ぶりで、アーノルドは舌打ちした。


「閣下!」

「いたぞ!」

「風魔術いきます!」

「氷いきます!」


追いついてきた獄炎騎士たちが風や氷の魔術でブラッドサイス・スパイダーの足を攻撃していく。アーノルドばかり見ていたらしいブラッドサイス・スパイダーの脚が凍り付いていった。


「くたばれ!」


数名の騎士の魔術が炸裂し、ブラッドサイス・スパイダーの脚が斬り落とされ、球体状の胴が地に落ち、鈍い音を響かせる。騎士としてはあるまじき口調だった壮年の騎士を、アーノルドは注意しなかった。


「お前たち、まだいけるか」

「はい!」

「お供いたします」


数名の騎士が答えてくれる。他は魔力の使い過ぎや負傷で動けなかった。休んでおくよう言いつけて、アーノルドはスクルドと子供たちを乗せた馬車が行った方角に走り出した。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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