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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
初等部編
69/377

2-32

キャラクター整理をするので亀さんになるまでもう少し


2022/12/20 編集に伴い話数を変更しました。

2人の少年が王都フォンブラウ邸を訪れた。


平民が貴族街を歩くのは実に目立つ。2人の服装は平民の服装だった。簡素なシャツとスラックス、革製のナイフホルダーと小さなウエストポーチを身に着けた、冒険者風のいでたちなので、貴族のきらきらしい服に比べると逆に浮いている。


オレンジ、黒、おそらく属性は火や光と闇なのだろうと安易に特定が可能な髪の色はあまり平民にはいないので、服装さえ除けば貴族街にいてもおかしくない姿ではあるのだが。


白亜の壁と黒鉄の柵の前に立つハルバードを持った紅と金の甲冑を纏った騎士が2人を見て、門の前でハルバードを交差させる。


「止まれ」

「何者です?」


片割れの言葉に黒い髪の少年が答えた。


「自分はアッシュ、こちらはヴォルフガングと申します。この度ネイヴァス傭兵団の一員として要請が掛かりまして、セーリス家の御令嬢たちの従者を務めよとの指令を受けてここへ来ました」


黒髪の少年――アッシュの言葉を受けて、少し悩んだ後、口を開く。


「……旦那様は今はいらっしゃらない」


どうするか、と門番の騎士たちは少し言葉を交わし、家令を呼ぶことに決めた。

現在は正室がいる。通常指示は彼女に仰ぐのだが、何せ今はちょっと彼女には用事がある。

ズガアン、とすさまじい音と共に煙が上がり、氷柱が突き立った。


「奥様……」

「あちゃぁ……」

「うわー!?」

「おー、奥様ド派手にやってらっしゃいますね」


騎士たちは頭を抱え、来訪者2人は突き立った氷柱を見上げる。

ヴォルフガングからすれば恐ろしいまでの出力で一気に立てられた氷に驚いたのだし、一方でアッシュは全く驚いてなどいなかった。


中に2人を入れていいものか。判断はじきにやってきたガルーと、それに伴われてきたシドによって下された。門の奥からシドが歩いてきたのを見てヴォルフは声を上げる。


「アウルム!?」

「よーうオーディン。俺の体感時間では1万年ぶりなんだがそこんとこどうよ」

「ボク的には500年くらいなんだけどそれはどうでもいいわ! フォンブラウにいるの早くない!?」


オーディン、その名で呼ばれる存在は現在2名存在している。

片方は5000年ほど前の人物であり、ここに居るはずもない。しかしもう片方のオーディンは、外国の皇子として有名なのでこれもまた無いと考えるべきである。

つまり。


「……シド、彼ら、いや、この方々は、」

「そっちの黒いのが白ロキ、手前のチビが赤オーディンだ。まあ正確に言うなら――上位に昇った存在。なあ、ビアンカルヴ、レイリヒト」


ビアンカルヴ、レイリヒト。

どちらも上位の存在の名だが、この世界には伝わっていない。

本人たちが伝える気が無かったこともあるが、一番の理由としては、彼らがあまりこの世界に関わりたくないと考えていたことが挙がるだろう。


門番の騎士2人はハルバードを下げた。ガルーがアッシュとヴォルフガングに声を掛ける。


「ようこそ、と言いたいのですが、奥様達は御覧の通り手合わせ中でございます。応接間でお茶でもどうぞ」

「ボクが関わると皆扱い雑になるよね?」

「気のせいでございます、ヴォルフガング様」

「絶対気のせいじゃないと思うんだけど!?」

「よくわかりましたねヴォルフ! ガルーは元々()()()ですから俺から貴方弄りの術をインプットしちゃってるんですよ!」

「何それ笑えないその手は何!?」


門の前で漫才を始めた2人をシドが引きずって応接間へと向かった。



ヴォルフガングが屋敷内部に入ったと同時にその姿に掛かっていた魔術が解け、その耳は狼のそれに変わり、少々大きめのふさっとした尻尾が生えた。牙も犬歯がだいぶ大きくなっている。


庭を通るルートをガルーが選んだのはわざとであろう。

ヴォルフとアッシュはふと立ち止まる。


そこでは、紅炎を纏ったフレイと蒼炎を纏ったロキが激しくバスタードソードとハルバードをぶつけあっていた。

その周りを氷を周囲に浮かべたスカジが2本の槍を持って周回し、ハンマーを担いで帯電状態にあるトールが兄姉を捕らえようと視線を忙しなく動かしている。

プルトスは魔術で作り上げた水の玉でスカジを狙っていた。


コレーだけはその輪に入っておらず、指導するところを見るために一歩引いているらしいアンドルフとアンリエッタの横に立っている。


「どうしました、ヴォルフ」

「……すごいね、ロキ」


旧知の仲の者を呼ぶように――ヴォルフガングは呟いて、目を伏せた。


「……ま、今は俺たちが()()会った時よりも厄介になってる気がしますがね」

「ああ、中の子だろ? あれロキっていうかシギュンって言うか、そっちのルートだよねたぶん」

「でしょうね」


ということは、もう彼女はいないんだね。

2人は一つの結論を導き出し、自分たちが止まっていることに気付いて立ち止まってくれているシドとガルーの後を追う。


「面倒な形になってますね」

「うん。でもあれはあれで、()()()()()が動けばいい話でしょ?」


回答はもう出てるじゃないか。

ヴォルフガングの言葉に小さくアッシュが息を吐いた。


「そんなに簡単に行くなら世界は危機になぞ見舞われてませんよ」

「でも、ここまで来たらロキは絶対に回答に辿り着くだろ。“ループの記憶なんていらない”って宣言してちゃんと最適解を掴み続ける男だぞ?」

「それなのに最適解と彼自身の破滅が隣り合ってるのは何の皮肉でしょうね」

「もう、その破滅ルート潰すためにわざわざ今まで植物状態にしてた身体に戻ったんだろ! もうちょっと前向きになってよ!?」


シドとガルーに追い付いて拳骨を貰った2人は苦笑を浮かべる。


「これだから()()()()()()()は信用ねーんだよ」

「えっ、仮にも5000年前の平穏をもたらした英雄2人に対する台詞がそれですか」

「お前らの前世の話なんぞ知ったこっちゃねーわ」


今回はまた事情が違うからな、とシドが言う。


「もうお前らの頃みたいに神霊の力借りれるほど神霊は近くないし、だからと言って女将たちが迂闊に手を貸せばここは崩壊する。だからロキは回りくどい最適解で世界を救い続けてるんだぜ?」

「まあ、ロキ様ならば“帝国庇って死んでた俺乙wwwwww”とか言いそうですな」

「ガルー、お前分かってますね。ロキってそういうやつですもんね」


流石家令、などと言葉を交わしながら彼らは応接間へと向かった。

その姿を実はコレーが追っていて、会話も丸聞こえしてたとかそんなことは知らないのである。ガルーやシドがそれを狙っていたかどうかは、分からないが。



応接間にソルはいた。ルナと共にソファでゆったりと緑茶を飲んでいる。

ゼロがロキではなくこちらについているのだが、理由は緑茶を一番淹れるのが上手いからである。本人は茶は点てさせてくれと言ったのだがまあ、一式買うのも大変なので今はまだこれで済んでいるようで。


「――それで、貴方達が私達に付くということね?」

「はい」

「ええ」


ソルはオレンジの髪に若草色の瞳の少年と黒い髪に夏空の如き青い瞳の少年とを見比べる。ルナはまだ、ソルの指示に従わねばならない。


「はっきり言わせていただきます。今の私達には必要ありません」

「えっ、」

「そうでしょうね」


ヴォルフガング、アッシュと名乗ったそれぞれの少年にソルが告げれば、アッシュの方はすべて理解していると言わんばかりの表情をソルへ向けた。ソルは目を細める。


「ならばどうしていらしたの? 遠かったでしょう?」

「距離だけでは否定しきれない事があるんですよ」


アッシュはぽんとヴォルフの頭に手を置く。


「ループ」

「――」


アッシュの呟いた言葉にソルが目を見開いた。


「――貴方、関係者なの」

「俺たち、ですね。最初の数回はロキと行動しましたよ。その後は見守る側に立てと言われてそれ以来この身体はずっと長いこと植物状態で放置してました」


それはつまり上位に上がったもののループでそれを取り消しにできていたということかとソルは考え、ふと近付いてくる気配に顔を上げた。

止められたのであろうが物理的に全身赤く染めたミスリルの鎧をまとった重装騎士を引きずって来たらしいロキがドアを開けた。


「……ロキ様」

「コレーが、シドと似た気配を感じたと言ったからね」


ああ、この家には芽吹きと死の女神の名を賜った少女がいたなと、そんなことをアッシュは考えた。


「どういうこと、ロキ。知り合い?」

「いや、全く知らん。だが、この時期に来たことから考えてわかることはある」


ロキは騎士を振り払ってつかつかとアッシュとヴォルフに歩み寄った。


「熱烈なもんだな。ビアンカルヴ、レイリヒト」

「……アウルム、教えましたか?」

「いーや?」


ビアンカルヴ、レイリヒト、と小さく呟いたルナがガタンと立ち上がる。


「どうしたの、ルナ」

「ループ、てまさか。待ってこの世界って何度繰り返してるの」

「さあ、少なくとも500回以上は繰り返してますよ?」


アッシュの答えにルナは周囲を見渡す。ロキがガルーに目配せすると、ガルーは近くにいたメイドたちを下がらせ、自分も姿を消した。


「どうしたの?」

「……お姉ちゃんたちが死んだ後に発売された『イミラブ』の続編。ビアンカルヴとレイリヒトの名前は精霊の所にあるの」

「この子も転生者……?」

「ショックで覚醒してしまったんでしょう」


ロキは2人の言葉を聞き咎めることはなかったが、微かに反応したのは2人にも分かった。


「……詳細は後に聞くとして。ソルとルナに付く気なら少し問題がある」

「あら、私の意見は聞かないつもり?」

「この2人を動かせるのはデスカルかネロキスクのみらしい。ネロキスクが俺の名だったのなら、彼らを動かしたのはデスカルということになる。本当に不要なことをする人ではないよ」

「……分かったわ」


自分たちに拒否権が無いことを理解したソルはソファに深く座り直した。付くなら付くで、ソルとしてはルナに付いていてほしい、というのが本音であろう。ルナは攻撃手段が少なすぎる。少なくとも魔術戦では足止めができない。

ルナの魔力特性は攻撃としてはクローディのレオンに近く、レーザー砲じみているのだ。攻撃魔術が全くこれっぽっちも使えない訳ではないが、効率は悪い。しかも適性武器は弓。近接武器は無いに等しい。


「問題というのは?」

「今まで見て来ているのならわかっているだろうが、ソルとルナは基本的に離れて行動している。付くならルナ側だ」

「ああ、うん、そこは大丈夫。ソル様はめっちゃ強くなるから心配してない」

「私に監視が付いたも同然!」

「私とロキほど大っぴらじゃないからいいじゃない」

「俺がいつ皆の前で宣言した?」

「態度よ態度」


ゼロが緑茶をロキの分も持って来た。ゼロとアッシュの目が合い、ゼロが首を傾げた。アッシュはふっとロキの方に視線を向ける。


「……ロキ、ゼロに殺されるなよ」

「ソレのヤンデレ化ならもう始まってる」

「手遅れでしたか」


アッシュの言葉にロキがふと口元を綻ばせた。


「ループしても記憶はない。だが経験は重なっていく、か。君らに初めて会った気がしないのもそのせいかな?」

「かもしれませんね。えっと、今更ですけど、人狼族のヴォルフガングです」

「アッシュです。あ、俺はごくごく普通の一般ヒューマンなので死徒の血はこれっぽっちも入ってませんよ残念ですが」

「知ってるだろうが、78代フォンブラウ公爵家当主アーノルドが第四子ロキ・フォンブラウだ」


78代。長いですねえと笑いながら、会話が終わったことを知らせるベルをロキが鳴らしたことによって、あらためて紅茶の準備を整えたガルーとリウムベルが入って来るのに時間はそう掛からなかった。


これで一応2章は終了です。

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