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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
初等部編
68/376

2-31

2022/12/20 編集に伴い話数を変更しました。

2023/03/25 加筆修正しました。

「ロキ様、それ……」

「……ああ、」


ロキの髪留めを指摘したルナに、ロキは小さく頷いた。

これを機に、と思いロキが18人の死徒列強全員と直接、または間接的に接触したことからことは始まる。


セーリス家の一件の後、ロキはその重要な決断を個人で行ったことでデスカルから鉄拳制裁を食らった。

国のためになるとはいってもたった1人で、貴族令息とはいえたかが12歳が、行っていい決断ではなかったと、もっと大人と相談すべきだったとデスカルは言ったのである。


デスカルの心配は一点に集約される。

それは、ロキの精神的な負担の大きさだった。


ロキはいわゆる豪胆なタイプであるものの、前世の経験をロキの人格に統合している今、精神年齢は多少高かろうが結局のところ12歳の子供でしかない。直接見ることだけはなかったが、本来ならば夜ならきっと死徒列強はロキに現実を見せるために連れに来たはずだとデスカルは考えていた。戦場となったセーリス領の現実を、子供の頭に、視界に、叩き込むために。


そうでなくとも、ロキはドルバロムからある程度の状況を叩き込まれているはずなのである。ドルバロムと契約している以上、ドルバロムの自分の支配する空間の状況をある程度把握する特性の影響を受けていると考えてよかったからだ。しかもその辺をいろいろ考えてくれるならばよいが、ドルバロムがいくら人間とかかわりのある竜人といえども所詮は竜人。人間のことをそこまで考えられるわけがなかった。


ロキの精神的負担が大きく滅入っていたのはこれに起因している。

初日の夜はまず風魔術による自傷付きでぶっ倒れ、翌日もベッドから起き上がって来ず、翌々日は起きてはいたものの真っ青。そんな状態だったのだ。

スクルドには即刻ばれて泣きつかれていたのだが。


ドルバロムは上位の存在であるため、スクルドの予知ではドルバロムとの契約によって受ける効果を予知できないのである。だからこそデスカルが警戒していたのだが、それをロキ自身が不意にしては話にならなかった。


「ロキも無茶するね」

「一種の義務感ってやつだ……まあ、母上にもデスカルにもこっぴどく叱られたよ」


ソルにはもう叱ってくれる存在もいない。しかし、アーノルド自身の提案によってソルとルナはフォンブラウ公爵家という後見人を得ることになった。

これからしばらくは一緒に屋敷で暮らしていくことになるだろう。


「……ロキがどんどん遠くなるわ、ってソルがぼやいてたよ」

「……そこは気にしても仕方がない」


初等部卒業。

記念すべき日ではあるが、ロキたちがそれを素直に喜ぶことなどありはしない。

盛大に行われる式だが、カルは教師陣の用意した無難な原稿を投げ捨てて、貴族としての自覚をもって勉学に励めという旨の言葉を言っただけで終わった。


貴族子弟が大半の初等部。セーリス男爵領の悲劇を知らない子供はおらず、かといって彼らがちゃんと状況を理解していたわけでもなかった。

心無い言葉はソルやルナよりもロキを傷つけ、クラスメイト達がロキを庇うような状況までできていた。力を持たない貴族は人の上には立てない。でもそれは現場に行ける人たちの話でしょう?


誰よりも加護の力を恐れ、貴族という在り方に縋っているのはロキなんじゃないか、と、オリヴァーは思うのだ。


ロキが今回こうして無事に卒業までこぎつけたのは実に奇跡的ともいえる落ち込み方だっただけに、オリヴァーは安堵の息を吐いた。


死徒についての知識を子供たちに叩き込むのは中等部と高等部でのことだ。まさか貴族連中の大半が死徒血統だなんて彼らの誰が考えるだろうか。今回のことを受け、ロキたちがもともと自分たちの死徒血統について知っていたことから、中等部と高等部ではリガルディアの建国史から更にもう少し遡って教えることが決定した。


「ロキ」


青い髪が風になびく。座っているロキの背に声を掛けたのはレインだった。

ロキは振り返った。


「レイン?」

「皆で遊びに行こうという話になっているよ。お前も来い。気分転換に行こう」


レインもまた、良くも悪くも人刃である。

人刃というのは、元来己が武器となる特性からか、案外自分含め味方の切り捨てに躊躇がない。

ロキは特にその特性が強く出るはずだが、やはりまだ日本人(前世)の感覚が抜けないのだ。あの時簡単にさくっとその場で決断してしまえたのも人刃の性格によるところが大きい。この国の公爵家はドラクル大公とクローディ公爵を除いて基盤となるのは人刃血統であり、ドラクル大公とクローディ公爵家、リガルディア王家はドラゴン系の血統だ。


どうやったって人間の感覚からは多少ずれてしまうので、日本人の感覚のままでいるとこうして齟齬を生む。

強い力を持つが故に、人間では考えの及ばないところに普通の考え方がある。


ルナやソルだって公爵家ではないが貴族である以上何らかの死徒血統が入っているとみていいだろう。エングライアの縁戚にあると判明はしたものの、遡れば人刃と結婚している世代だっているかもしれない。日本人だった感覚を持っているといっても彼女らもやはり()()()()()、越えてしまったものはもう振り返らないタチであるらしい。


ロキもそろそろ、落ち込んでいるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。


「はぁ、確かに気にしすぎても何も変わらないね」

「そうだよ。行こう、ロキ」

「分かったよ」


レインと一緒に近くまで来ていたルナに目配せして、レインに突撃をかます。3人で一緒にカルたちの許へと向かった。



「あら、やっと来たのね」


黒い髪をツインテールにまとめ上げたゴスロリとロキたちならば称したであろう服に身を包んだ少女が口を開く。


本来白亜に彩られたその建物は宮殿であろう。日光が差せば金色に。月光が差せば白銀に染まるここを、死徒列強は“光騎宮殿”と呼ぶ。

もとは、とある帝国の光属性を扱う騎士が持っていた宮殿だ。


「毎回形が違うな」


口を開いたのは2メートルはあろうかという巨漢である。

巨漢の上にハイヒールを履くなと言いたくなるのは転生者の性であろうか、ラックゼートはつい言いたくなってしまう。


というか前より悪化してないか。前ピンヒールじゃなかったよね。


「これで直接来れるのは皆揃ったね」


少女が言う。その手にはぬいぐるみが握られていて可愛らしいが、この少女こそが死徒列強最強、第1席『人形師』ロード・カルマである。


単純な破壊力で見るならば先ほどようやく本人が到着した第5席『狂皇』グレイスタリタスとなるだろうが、なにぶん彼は破壊及び軍事行動以外に関しては政治ぐらいしか取り柄が無く、まさしく破壊の権化である。


ロードの場合は人質であるとかそう言った駆け引きを含んでいるのである。ちなみにグレイスタリタスはそんなまどろっこしいことするくらいなら皆殺しだ、派なのでその辺が効くかどうかは怪しい。


彼らが集まったのは純粋に、協力してやりたい子供がいる、という思いからである。


「とりあえずこれからの行動方針だけ。ロキへの協力。今回は上位が絡んで来てるから特に」

「ネイヴァスが来ているのは確認した」


ロードの言葉にラックゼートが告げる。セトナが口を開いた。


「クーヴレンティとロルディアにはなるべく巣から動いて欲しくないわね」

「同感ね。あいつら動くと碌なことにならないんだから」


第11席『魔導王』リリアーデが同意を示すと、第10席『人刃』クラウンが言う。


「今回はやたらとイミット連中が動いている。特にクラッフォンの倅」

「それにシドだっけか。あれカナト様だったのな。初めて気付いたわ」


軽い口調で返すのは、黒い髪に青い瞳と緑の瞳の男――第14席『竜化族(イミット)』ドウラ・ドラクル。皆で情報を持ち寄ってこれからの方針を決めていく。


「――じゃあ、グレイスは中等部に向かうのね」

「……そうなるな……」

「大丈夫です、陛下、じゃない、閣下の面倒は私がみてますので」

「エングライアが途中でお店をいくつかやってるから、お金が足りなくなったら何か売りに行くといいわ」

「はい」


それぞれのこれからの方針は大まかに決定し、動くなと言われてしまった碧髪の青年と金髪の少女はぶぅ、と小さく膨れていた。


「皆いいなぁ」

「貴女が男性を襲わなければいいんじゃない?」

「むっ、私人間食べないよ!」

「いやお前らどっちも犯罪者じゃね」

「カガちんのばかー!」


彼らもまた人間と同じように対人関係なるものを築いている。


「で、ペリドス、どうするの?」

「……私は今まで通り、国許で大人しくしておこうかな。……我らが女将が来ているのだから、何も心配はいるまい?」

「そ。なら、決まりね。セトナ、ラックゼート、あんたたち1桁なんだからきっちり守ってやってよね」

「分かってますよリリアーデ様」

「転生者仲間というのもある。ああそう言えば、案外ソウルイーターにも興味がありそうだったな。カガチ、シグマ、お前たちもまた遊びに来てみろ。アーノルドの小言を流す気力があるならな」

「「行く」」


ノリだけは一丁前のままだなとラックゼートは笑い、ロードに一礼してその場を去って行った。1人、また1人と消えていく。

この宮殿に住んでいるのはそもロードなのだから、当然ではあるが。


「……皆仲良くなれるといいなぁ」


ロードの呟きは、誰も居なくなった夜の白銀の宮殿の空気に溶けて消えた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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