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Imitation/L∞P  作者: ヴィラノ・エンヴィオ
初等部編
67/377

2-30

2022/12/20 編集に伴い話数を変更しました。

ルナとロキが、訓練場で戦っていた。


パァンッ、


拳同士で打ち合う音が反響する。それを静かにソルとセトが眺めていた。

ソルに顔には思い切り殴られた痕があり、現在を氷水で冷やしているところである。ルナに何も相談しなかった結果がこれだ。相談などしている暇がなかったのは事実であり、だからこそソルは甘んじてルナの拳を受けたのだが。


「まさか、ルナも転生者だったとはね」

「まあ、そうじゃなきゃあんだけ暴れたりはしないだろうな」


ルナとロキはお互い授業で教えられる程度の格闘術を用いて、それぞれ受け身を取ったり殴りかかったりとひたすら打ち合いを続けている。ロキはこういう時けして倒れないようにと全力で気を張っているのをソルは知っていた。


「ルナの言葉にも驚いたけどね」


ソルは苦笑した。


ルナは、転生者だった。

両親どころか領丸ごと死徒の鎮圧のために差し出したと言えば、リガルディアではまずこう考える。


――全滅。


ルナは両親も生まれるかもしれなかった弟も奪われた形になる。何より、その決断を単独で下したのは双子の姉のソルであり、ソルはルナにロキの決断の副産物的なものであることを一切伝えなかった。


ルナの前世は、ロゼによって当てられた。

名は、鈴木美代。ロゼの前世、鈴木佳代の妹だったのだ。ルナとしての意識の方が強く、ショックによる前世の記憶の覚醒ということで、浮草病の発病は今のところない。


ルナは佳代よりも後から死んでいたらしい。ソルたちの知らなかった『イミドラ』や『イミラブ』の続編の話を彼女がしだした時にはソルたちは眩暈すら覚えた。

デスカルの言っていた通り少しずつ世界線が異なる舞台で描かれていたことも確認でき、その中には人命を懸けた大イベントをすべて回避できるような素晴らしく平和で幸せな世界線があった。


――そんな世界線あったなら、もっと早く知りたかった。


一大決心した後のソルとしてはそういうところだが、ロキの方は魔力が暴走、全身に風の魔術で裂傷を作りまくって倒れた。ロキがソルとルナから両親どころか生まれてくるはずだった弟さえ奪ったのだと理解していたのだから、そんな幸福な道があるならば選びたかったはずだ。今ルナと打ち合いしているのはルナの八つ当たりによるものだ。


ロキの精神的なダメージも相当なものだったことが伺える。

いつも着ている白いシャツが掠ったように破れ、じわじわと血がにじんで全身真っ赤に染まった。同じクラスにいたカルやレオン、レイン、ルナの驚きようは想像に難くない。それでもルナがロキに挑んでいるというのは、ロキとしては随分と精神的に楽になることだろう。


「あ、ロキ本気で今投げたわね」

「本当だ」


びたん、と音がしてルナが床に投げ飛ばされていた。ルナはぽかんと驚いたように口を開けていたが、すぐに状況を理解したのか、ロキに蹴りを入れようとして防がれ、そのまま滑らかな動作で起き上がりつつ攻撃を続行する。


12歳がやるようなことでないのは確かだが、教員たちで止められるほど甘くもない。もう仕方がないと皆が理解していた。

ルナだって、どんなに八つ当たりしたところでどうしようもないことを知っている。

じきに八つ当たりが終わり、ルナはぐすぐすと泣きながらソルの許へ戻って来た。


「お帰り、ルナ」

「ソルぅぅぅぅ……」


ロキも一発顔に食らったらしく内出血しているのが見えた。端正に整っているが故に余計痛々しい。

ロキの裂傷はカルの治癒魔術では治すことができず、呪いみたいなものであることが判明した。ほとんどの傷を隠しているため全身包帯やガーゼで覆われてしまっていて余計痛々しいのだが、ロキ的にはとっとと外してしまいたいくらいであるという。


傷痕が何だというのかと。

なまじ肌が白いため余計生傷が痛々しく映るだけだと、そう言って笑うのだが、まあ、見ている方からは精神的にくるものがある。最終的にはオリヴァーの「噛みつかれたいか」に負けて大人しくぐるぐるに巻かれているのだった。


「ルナ、落ち着いた?」

「うん……」


やはり今まで築いてきた姉妹の絆というものはあるらしく、ルナはソルの横でまだ少しぐずっていた。


「……もう、終わっちゃったことは仕方がないもの」


ルナがぽつりと零した。

そもそも、子供である彼らに一体何ができると考えているのかという話であって、ロキとソルは偶然にもその影響力持ち合わせていただけであって、本来ならばもっと被害は広がる可能性の方が高かったのである。


「……それで、いいのか」

「……むしろ、セーリス領の人たちだったら、純血の人間はそう居ないから。バルフォットがやられなくてよかったっていうべき」


ソルは生前の戦闘力をある程度カスタムされただけで戦場に出て来るゾンビの事をちゃんと理解していた。純血の、というのは魔物として純血という意味で、人型に近い種族のものでも、ヒューマンと混じると色んな意味でステータスが下がる。混血は基本スペックが低いものと考えると分かりやすい。純血に近付くほどスペックは上がる。その分その種族の長所と短所が露骨に出て来るが。


そして、ゾンビ化すると基本スペックが上がる。『イミドラ』のデータを基にするとおよそ1,3倍ほど。上がらないステータスを探した方が早い。基本は移動速度、所謂敏捷ステータスが変わらないもしくは下がる。だが筋力や耐久は上がる。捕まったらもう逃げられないと諦めるしかない。元の種族が何かにもよるが、混血個体は純血個体なら気にしなくてもいいゾンビ化を受けてしまう場合がある。吸血鬼や人刃は実はゾンビ化は基本しないのだが、混血でもヒューマンの要素が強すぎるとゾンビ化する。その場合、混血している種族の特徴を持ったゾンビになる場合がある。


『イミドラ』だと、ガントルヴァ帝国が舞台とはいえ、元々リガルディア王国と兄妹国である以上、ヒューマン以外の種族の血を取り込んでいる人々が住んでいる。その為、ガントルヴァ帝国で主人公ハンジが相手取るゾンビはこの混血タイプのゾンビが一番多くなる。下手に竜混じりや人刃交じりがいるととんでもない耐久値のゾンビの出来上がりである。


少々話はずれたが、バルフォット騎士爵領はゲーム上では何故か完全に本来斬り捨てられてしまう。

そのことをロキたちは前世の知識から知っているだけで、理屈は分かっていない。


バルフォットはあくまでも騎士爵で、男爵の方が優先されるのは目に見えているし、何より、セーリス男爵領は、城壁に囲まれており、城壁の中の街には城壁が無かった。

原因となる“賢者”は、とうの昔に消え失せ、セーリス男爵がその後継として管理を任されて落ち着いていたのだ。


「“賢者の遺産”がある以上セーリス男爵領が簡単に捨てられることは無いからな」

「バルフォット騎士爵領だったらもっと簡単に切り捨てられて街ごと全部公爵たちの魔法で潰されてた可能性すらあるわ。哨兵が帰って来なかったってことはたぶん、道中にかなりの量の死徒(ゾンビ)が転がってたはずだもの」


ロキとソルの言葉にセトは俯くしかなかった。

本来ならばセトの父、バルフォット騎士爵の領地が死徒の被害を受けるはずだったのだとルナが口走ったことが原因だが、ロキやソルからすればそういう事情があるのだから寧ろセーリスが狙われてよかったというべきだ。

セーリス男爵領の方が人口も多かったが、死徒血統の混じっているものが多く、あわよくば列強に攫われている分の民は無事である可能性が残っているのだ。


「ゾンビ系ってなんでか女子供先に狙うから……流石に母様は無理かもだけど……」

「父様は生きてる可能性がある。だから、ロードたちに掛け合ってみなくちゃ、でしょ」


それができるようになるのはこれからどれくらい先なのか。

まだソルたちには分からない。


ロキはタオルで汗を拭いて、腰を下ろした。

これからどうなるのだろうと不安を抱くような年でもないけれど、ロキの中に渦巻いている疑問は尽きない。


そも。

何故、バルフォット領よりも帝国から遠いはずのセーリス領へと死徒が入ったのか。

この点に尽きるのだが、可能性としてロキが考えているのは2つである。


まず、単なる偶然。

この場合は、何故それこそ入りやすかったであろうバルフォットへ向かわなかったのかという話になる。ついでに言うとこの2つの領地はフォンブラウ領に隣接している。フォンブラウ領の大半を占めている大陸イミットの本山であるバウグゼン山とその周辺の森林地帯は死徒側からしても向かいやすかったはずである。よってこの線は考えにくいとロキは思う。


次、追手がいた。

これは『イミドラ』をプレイしなければ意味が分からないところである。

『イミドラ』の序盤に、主人公はいわゆる究極の選択系の選択肢を選ぶことになるのだが、この選択肢によって主人公の出身の村が壊滅するか否かが分かれる。


『イミドラ』の主人公がもしも、バルフォットではなくセーリス側へ逃げるように誘導していたとしたら。


ロキは、ない話でもないと思う。

これだけ転生者がいるのである。帝国の辺鄙な村に転生者がいたっておかしくはない。


「ロキ、どう思う?」

「……やはり、ガントルヴァにも転生者がいるとみるべきだろう。……そして恐らく」

「……勲ね」

「ああ」


ソルとロキはおそらくイミドラの主人公またはそれに近しい人物に転生しているであろう、涼たちとともに死んだことが予想される“もう1人の男子”の名を挙げた。


「その、イサオってやつが?」

「アイツはリガルディアのことは何も知らない。もしも、『イミドラ』の主人公になってた場合は、アイツは友達を自分の魔法で頑張って助けるか、これ以上の被害を出さないためにひたすら追いかけて死徒をぶっ殺すかの2択を選ぶことになる」

「……普通家族取るよな?」

「だから死徒がセーリス領に辿り着いてんだろう」


ただの村人なら国の事なんか気にしないだろう。死徒が出た、自分には倒せるだけの力があった、ならとりあえず追いかける。

けれどももしそれと同時に、皆を救う力があったとしたら?


皆を救いたいと願うだろう、死徒を追いかけたりしないだろう、そしてそれはつまり周りへの被害が甚大になるが自分の家族や家族同然の人々を喪わなくて済むということになる。


「……たとえそうだったとしても、でも」

「その内リガルディアに来るさ。高等部に上がったら騎士科に所属して基礎を叩き込まれて戦闘に出るからな」

「……ただの平民を、か」

「国も汚えことするぜ」


話し込んでいたってどうしようもない。

帰ろうか、とソルが言えば3人は立ち上がった。


この後、ロキの予想よりもずっと早く、中等部からこの『イミドラ』の主人公ハンジには会うことになるのだが、まだこの時はそんなこと、誰にも分かっていないのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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