2-26 夢の話
2022/12/20 編集に伴って話数を変更しました。
精霊たちは、愛おしい子供を眺めていた。
それは、銀髪の子供だ。
とても美しく、清らかな魔力を持ち、世界を楽しむ癖のある子供だ。
その子供のことを精霊たちは皆大切に思っていた。なのに、その子供はあっという間に大きくなった。
人間はもともと成長が早いとはいえ、急かされるように生き急いで、どんどん手の届かないところへ行ってしまった。
精霊たちは珍しく子供を追いかけた。子供を守ろうと必死になっていた。
その中で、子供は自分の都合のいいように精霊を扱うことがあった。
それを精霊たちは咎めようとは思わなかった。
なのに、勝手に子供はそれを悔いて、力の及ばなかった己を責め立てた。
繊細な子供だったのだと大人たちは気付かなかった。
精霊よりよっぽど気付けたはずの者たちは、子供から目をそらしてばかりだった。
子供は死の間際、精霊たちに誓った。
「私はもう二度とあなた方の力を無理に使いたくなどない」
だから、これで最後です。
精霊たちの声は、子供に届かなくなった。
♢
水色の髪の少女と、黒い髪の少年がいた。蒼空は高く、澄んだ空気が世界を満たす。薄氷の如き帳の降りる世界が、そこには広がっている。水の満たされた池を眺めている。
「ああ、ここに居たのかぁ、スピカ?」
「……ルイか」
少しの間帳を眺めていると、くだらない場所だ、と、黒い髪の少年が呟いた。
水色の髪の少女はそうかなあ、と小さく笑った。
「こんな、魔力のある限り自分を削りすり減らすような結界なら俺は張らない」
「そうだねえ」
そんなこと言って、スピカ、この子に共感してるくせに。
ルイはそんな野暮なことは言わない。
「でも、すごいねえ。破壊神が出入りしても壊れないんだ、ここ」
「……目的を、見つけたらしい。ゴールが決まってりゃ、このタイプの結界は長持ちする」
「そうなんだ」
「……いっつも変なもん創って世界の一部末端ぶっ壊してるお前からすりゃそりゃあなんともねえでしょうよ」
お前の方がよっぽど破壊神らしいわとスピカは呟く。ぽこ、と軽い拳骨が飛んできた。
「……番人の竜が来た」
「じゃあもう戻らなきゃ」
「ここのマナを補充しないと」
「僕がやっとくから先に戻ってて。まだ万全じゃないだろ?」
「……ああ、頼んだ」
スピカは水から上がって姿を消す。ルイは小さく息を吐いた。
「まったく。いつも僕がふざけてるからってバカなわけじゃないし、仕事ができないわけでもないんだよ」
この世界のマナは作りやすくていいねえ、とルイは小さく笑みを浮かべ、ざり、と砂を踏みしめる音に振り返る。
「……何者だ、お前」
そこには黒い髪、黄色と赤の瞳のオッドアイの青年がいた。
「うん、ここのマナの補充をしてあげてるんだよ?」
ルイは事実を口にするが、そんなのは神の御業だ。案の定青年は信じなかった。けれど、攻撃を仕掛けてくるわけでもない。ルイを警戒しながら青年はそっと、スピカがたたずんでいた水の流れの中に入っていった。
奥に見える井戸らしきものの中を見て、あからさまに安堵の表情を浮かべる。
「大丈夫だって、別に僕はネロキスクの可能性を害しに来たわけじゃないんだし」
その呟きは風に溶けて消える。
「さて。もう精霊を拒む必要はないでしょ、ネロキスク? 皆待ってるよ」
この後何かここに居た御方がやっております。




